定理 5.9(満たされない殻は無い ★★)
γ=∑i=1N∣φi⟩⟨φi∣ が EHF の(射影の中での)最小解で、Fγφi=εiφi とする。ψ が占有空間に直交する Fγ の正規化された固有関数で固有値が e なら、すべての i について
e−εi ≥ Jφiψ−Kφiψ > 0.
とくに占有軌道は Fγ の下から N 個の固有関数であり、最後の占有軌道と最初の非占有軌道の間に縮退は無い。
証明の骨格
占有軌道 φi を ψ に入れ替えた γ′=γ−∣φi⟩⟨φi∣+∣ψ⟩⟨ψ∣ は、ψ が占有空間に直交するので階数 N の射影であり、Slater 行列式に対応する。展開 (5.8) と (5.10) から
EHF(γ′)−EHF(γ)=Tr[Fγ(∣ψ⟩⟨ψ∣−∣φi⟩⟨φi∣)]+Q=(e−εi)−(Jφiψ−Kφiψ).
γ が最小なのでこれは ≥0。Jφiψ>Kφiψ が真に成り立つことは、補題 5.7 の不等式で等号が成り立つ条件を調べると、φi と ψ が直交することと両立しないことから分かる(細部は省く)。Fγ の非占有スペクトルが連続スペクトルを含む場合は、固有関数の代わりに近似固有関数の列を使って同じ議論をすると、隙間が真に正という結論は弱まり e≥εN が得られる。
例題 5.7 交換項があると殻は満たされる ★★
オリジナル例題 5.6 と同じ C2(基底 e1,e2、粒子数1、h=diag(0,δ))で、交換項を入れた汎関数
E(γ)=Tr[hγ]+21i,j=1∑2Wij(γiiγjj−∣γij∣2),W=(UVVU)
を考える。Wij はサイト i とサイト j の電荷の間の反発で、0<δ<U、V≥0 とする。この汎関数の Fock 行列は (Fγ)ii=hii+∑kWikγkk−Wiiγii、(Fγ)ij=hij−Wijγij(i=j)である。数値は U=2, δ=21, V=1 とする。
- 射影 γ=∣u⟩⟨u∣ の上では E(γ)=⟨u,hu⟩ となることを示し、射影の中での最小解が γ1=∣e1⟩⟨e1∣ であることを確かめよ。
- Fγ1 を求め、占有軌道 e1 の軌道エネルギー ε と非占有軌道 e2 の固有値 e を求めよ。
- e1 と e2 の間の J,K を求めて定理 5.9 の不等式を確かめ、e1 を e2 に入れ替えたときのエネルギー変化が (e−ε)−(J−K) に等しいことを確かめよ。
- 例題 5.6 の模型で縮退が起きたことと比べ、違いを F の対角成分で説明せよ。
解答
(1) γij=uiuj なので ∣γij∣2=∣ui∣2∣uj∣2=γiiγjj が i=j も含めて成り立ち、直接項と交換項が項ごとに打ち消し合う。よって E(γ)=⟨u,hu⟩=δ∣u2∣2≥0 で、等号は u=e1(位相を除く)のときに限る。電子が1個なら自分自身との反発は残らないという、水素原子で見た自己相互作用の相殺と同じことである。
(2) γ1 では γ11=1、他の成分は 0。
(Fγ1)11=0+U⋅1−U⋅1=0,(Fγ1)22=δ+V⋅1−0=23,(Fγ1)12=0−V⋅0=0.
したがって Fγ1=diag(0,23)、ε=0、e=23 で、占有軌道は F の下の固有ベクトルになっている。
(3) J はサイト1の単位電荷とサイト2の単位電荷の反発なので J=W12=V=1。K の被積分関数にあたる重なりの密度 e1e2 はどのサイトでも 0 なので K=0。不等式は e−ε=23≥J−K=1>0 で成り立つ。入れ替えた γ2=∣e2⟩⟨e2∣ のエネルギーは (1) より δ=21 で、変化は 21−0=21=(e−ε)−(J−K) に一致する。
(4) 例題 5.6 の模型で p=1 とすると F11=U=2 で、占有軌道のエネルギーに電子が自分自身と反発する分 U が入り、空の軌道 δ=21 より上に来た。そのため反復は空の軌道へ跳び、最小は分数占有の縮退点になった。交換項があると F11 の U は −W11γ11 で消え、占有軌道は自分を感じない。一方、空の軌道 e2 の F22 には占有電子からの反発 V が入る。占有軌道と空の軌道の間の隙間のうち J−K の分はこの非対称から生じており、それが定理 5.9 の下界の中身である。(検算スクリプト)