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乱流のクロージャー問題

2026年10月9日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第9章 均質化と「閉じない」近似
目次
  1. Reynolds 平均と Reynolds 応力
  2. 第6章・第8章との違い:なぜ乱流では閉じないのか
  3. 閉じ方の例:渦粘性モデル
  4. Kolmogorov の理論:次元解析と一つの厳密な結果
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第9章 §9.5 ★★★ 平均をとった方程式が閉じない構造と、閉じ方(モデル)が極限定理でない理由

Reynolds 平均と Reynolds 応力

非圧縮 Navier–Stokes(NS)方程式

∂ui∂t+∂(uiuj)∂xj=−1ρ∂p∂xi+νΔui,∂uj∂xj=0(9.25)\frac{\partial u_i}{\partial t}+\frac{\partial (u_iu_j)}{\partial x_j}=-\frac1\rho\frac{\partial p}{\partial x_i}+\nu\Delta u_i,\qquad\frac{\partial u_j}{\partial x_j}=0\tag{9.25}

を考える(添字の繰り返しは和、∇⋅u=0\nabla\cdot\bm{u}=0 を使って移流項を発散形に書いた)。乱流では u\bm{u} が時間・空間に激しく揺らぐので、知りたいのは個々の解でなく平均流である。平均 ⟨⋅⟩\langle \cdot \rangle(集団平均、あるいは十分長い時間平均)をとり、ui=Ui+ui′u_i=U_i+u_i'、⟨ui′⟩=0\langle u_i' \rangle =0 と分ける。これをReynolds 分解という。

例題 9.5 Reynolds 応力の出現と階層 ★★★

オリジナル[標準的な題材を自作]

  1. (9.25) の平均をとり、平均流 UiU_i の方程式を導け。平均は微分と交換し、線型であるとする。
  2. 揺らぎ ui′u_i' の方程式を書き、それを使って Rij=⟨ui′uj′⟩R_{ij}=\langle u_i'u_j' \rangle の方程式の右辺に 3 次の相関 ⟨ui′uj′uk′⟩\langle u_i'u_j'u_k' \rangle が現れることを示せ(他の項は書き下さなくてよい)。
解答

(1) 線型な項はそのまま平均に移る:⟨∂tui⟩=∂tUi\langle \partial_tu_i \rangle =\partial_tU_i、⟨∂ip⟩=∂iP\langle \partial_ip \rangle =\partial_iP、⟨Δui⟩=ΔUi\langle \Delta u_i \rangle =\Delta U_i。非線型項は

⟨uiuj⟩=⟨(Ui+ui′)(Uj+uj′)⟩=UiUj+Ui⟨uj′⟩+Uj⟨ui′⟩+⟨ui′uj′⟩=UiUj+⟨ui′uj′⟩.\langle u_iu_j \rangle =\langle (U_i+u_i')(U_j+u_j') \rangle =U_iU_j+U_i\langle u_j' \rangle +U_j\langle u_i' \rangle +\langle u_i'u_j' \rangle =U_iU_j+\langle u_i'u_j' \rangle .

∂jUj=0\partial_jU_j=0 を使って移流項を戻すと

∂Ui∂t+Uj∂Ui∂xj=−1ρ∂P∂xi+νΔUi−∂Rij∂xj,Rij=⟨ui′uj′⟩.(9.26)\frac{\partial U_i}{\partial t}+U_j\frac{\partial U_i}{\partial x_j}=-\frac1\rho\frac{\partial P}{\partial x_i}+\nu\Delta U_i-\frac{\partial R_{ij}}{\partial x_j},\qquad R_{ij}=\langle u_i'u_j' \rangle .\tag{9.26}

平均流の方程式に、未知の 2 次の相関 RijR_{ij}(−ρRij-\rho R_{ij} を Reynolds 応力という)が現れる。未知数は Ui,PU_i,P の 4 個に対し、RijR_{ij} の 6 成分が増えて、方程式は閉じない。

(2) (9.25) から (9.26) を引くと

∂ui′∂t+Uj∂ui′∂xj+uj′∂Ui∂xj+∂∂xj(ui′uj′−Rij)=−1ρ∂p′∂xi+νΔui′.\frac{\partial u_i'}{\partial t}+U_j\frac{\partial u_i'}{\partial x_j}+u_j'\frac{\partial U_i}{\partial x_j}+\frac{\partial }{\partial x_j}\bigl(u_i'u_j'-R_{ij}\bigr)=-\frac1\rho\frac{\partial p'}{\partial x_i}+\nu\Delta u_i' .

これに uk′u_k' を掛け、添字 i,ki,k を入れ替えた式と足して平均すると、RikR_{ik} の時間発展の式になる。左辺の ∂j(ui′uj′)\partial_j(u_i'u_j') の項からは ⟨uk′∂j(ui′uj′)⟩+⟨ui′∂j(uk′uj′)⟩=∂j⟨ui′uj′uk′⟩\langle u_k'\partial_j(u_i'u_j') \rangle +\langle u_i'\partial_j(u_k'u_j') \rangle =\partial_j\langle u_i'u_j'u_k' \rangle(∂juj′=0\partial_ju_j'=0 を使った)が出る。したがって RikR_{ik} の方程式には 3 次の相関 ⟨ui′uj′uk′⟩\langle u_i'u_j'u_k' \rangle が現れ、3 次の相関の方程式には 4 次が現れる、という無限の階層になる。

この構造は、第6章の BBGKY 階層(kk 体の縮約密度行列の方程式に k+1k+1 体が現れる)、第8章の Boltzmann 方程式のモーメント階層(nn 次のモーメントの方程式に n+1n+1 次が現れる)と同じである。非線型(2次)の項を平均すると、必ず一つ上の相関が現れる。階層は厳密だが、それを有限で打ち切るには「上の相関を下の相関で表す」関係、すなわちクロージャー(閉包)が要る。

第6章・第8章との違い:なぜ乱流では閉じないのか

第6章の平均場極限では、粒子数 N→∞N\to\infty で相関が消え(カオスの伝播)、2 体密度が 1 体密度の積に分解した。第8章の流体力学極限では、Knudsen 数(平均自由行程 ℓ\ell と流れの代表長 LL の比)Kn→0\mathrm{Kn}\to0 で、衝突が分布を局所 Maxwell 分布に急速に緩和させ、高次のモーメントが密度・流速・温度の 5 つの場で決まった。Chapman–Enskog 展開の次の次数から出てくる粘性係数も、ℓ/L\ell/L の冪展開の係数として計算できた。

乱流で同じことを試みると、分子の役割を「渦」が、平均自由行程の役割を渦の大きさが担うことになる。Prandtl の混合距離の考え方はまさにこの類推で、渦が運動量を混合する距離 ℓm\ell_m を平均自由行程に見立て、渦粘性 νt=ℓm2∣∂U/∂y∣\nu_t=\ell_m^2\lvert \partial U/\partial y\rvert を分子粘性と同じ形で書く。しかし類推は次の点で破綻する。

  • スケール分離がない。 乱流のエネルギーを担う最大の渦の大きさは、平均流が変化する長さ LL と同程度である。Knudsen 数に相当する比 ℓm/L\ell_m/L は小さくない。
  • 緩和先の分布が分からない。 気体の分子は衝突で Maxwell 分布という既知の平衡に急速に緩和するが、乱流の揺らぎが平均流の時間尺度に比べて速く緩和する先の「平衡分布」は知られていない。
  • 大きい Reynolds 数は助けにならない。 1/Re1/\mathrm{Re} は小さいパラメータだが、Re→∞\mathrm{Re}\to\infty で揺らぎは消えず、むしろあらゆるスケールに広がる。極限は特異的で、極限の対象(Euler 方程式の弱解の統計)について閉じた方程式は得られていない。

つまり乱流の平均方程式には、極限をとれば閉じるような小さいパラメータも、閉じさせる構造(周期性、局所平衡)もない。これが乱流のクロージャー問題が C 型である理由である。

閉じ方の例:渦粘性モデル

工学で標準的に使われる閉じ方は、Boussinesq の渦粘性仮説

−Rij=νt(∂Ui∂xj+∂Uj∂xi)−23k δij,k=12⟨ui′ui′⟩(9.27)-R_{ij}=\nu_t\Bigl(\frac{\partial U_i}{\partial x_j}+\frac{\partial U_j}{\partial x_i}\Bigr)-\frac23k\,\delta_{ij},\qquad k=\tfrac12\langle u_i'u_i' \rangle\tag{9.27}

である(δij\delta_{ij} の項は両辺のトレースを合わせるため。左辺のトレースは −2k-2k、右辺第1項のトレースは 2νt∇⋅U=02\nu_t\nabla\cdot\bm{U}=0)。これは「Reynolds 応力は分子粘性の応力と同じ形をしている」という仮定であり、未知の 6 成分を 1 つのスカラー νt\nu_t に押し込む。νt\nu_t をどう決めるかでモデルが分かれる。

  • 混合距離モデル:νt=ℓm2∣∂U/∂y∣\nu_t=\ell_m^2\lvert \partial U/\partial y\rvert で、ℓm\ell_m は壁からの距離に比例するなどと経験的に与える。
  • kk–ε\varepsilon モデル:νt=Cμk2/ε\nu_t=C_\mu k^2/\varepsilon(ε\varepsilon はエネルギー散逸率。次元は [k]=L2T−2[k]=\mathrm{L^2T^{-2}}、[ε]=L2T−3[\varepsilon ]=\mathrm{L^2T^{-3}} で、k2/εk^2/\varepsilon は確かに動粘性の次元 L2T−1\mathrm{L^2T^{-1}} をもつ)。kk と ε\varepsilon には輸送方程式を立てるが、その中の未知の相関項もまたモデル化される。標準的な定数 Cμ=0.09C_\mu=0.09、Cε1=1.44C_{\varepsilon 1}=1.44、Cε2=1.92C_{\varepsilon 2}=1.92 は、一様せん断流・減衰乱流・壁近くの対数領域などの実験に合わせて決められたものである。

どの段階にも、ある極限で正しくなることを示す定理はない。正当化の代わりにあるのは、特定の流れ(平板境界層、管内流)での実験との一致と、「RijR_{ij} は半正定値でなければならない」(実現可能性)のような満たすべき条件である。渦粘性モデルは、平均流の勾配が強く回転を伴う流れなどで系統的に誤ることが知られている。

Kolmogorov の理論:次元解析と一つの厳密な結果

閉じない中で、乱流の統計について言える数少ない普遍的な結果が Kolmogorov(1941年)の理論である。

仮定。 十分大きな Reynolds 数で、大きな渦からエネルギーが注入され、小さな渦で粘性により散逸する。単位質量あたりのエネルギー散逸率 ε\varepsilon は、ν→0\nu\to0 でも有限の値に残る(異常散逸)。エネルギーを注入する尺度 LL と散逸する尺度 η\eta の間の慣性領域 η≪r≪L\eta\ll r\ll L では、揺らぎの統計は局所的に一様・等方的で、ε\varepsilon と尺度 rr だけで決まり、ν\nu にも LL にもよらない。

例題 9.6 Kolmogorov スペクトルの次元解析 ★★

オリジナル[標準的な題材を自作]

  1. エネルギースペクトル E(k)E(k)(∫0∞E(k) dk=k乱流\int_0^\infty E(k)\,\mathrm{d} k=k_{\text{乱流}}、波数あたりの運動エネルギー)が慣性領域で ε\varepsilon と波数 kk だけで決まるとして、E(k)=CKεαkβE(k)=C_K\varepsilon ^{\alpha}k^{\beta} の指数を求めよ。
  2. 散逸が起きる尺度 η\eta が ν\nu と ε\varepsilon だけで決まるとして、η\eta を求めよ。
  3. 速度差の pp 次の構造関数 Sp(r)=⟨(δu∥(r))p⟩S_p(r)=\langle (\delta u_\parallel(r))^p \rangle について、同じ仮定から Sp∝(εr)p/3S_p\propto(\varepsilon r)^{p/3} を導け。
解答

(1) 次元は [E]=[速度2]/[k]=L3T−2[E]=[\text{速度}^2]/[k]=\mathrm{L^3T^{-2}}、[ε]=L2T−3[\varepsilon ]=\mathrm{L^2T^{-3}}、[k]=L−1[k]=\mathrm{L^{-1}}。L3T−2=L2α−βT−3α\mathrm{L^3T^{-2}}=\mathrm{L^{2\alpha-\beta}T^{-3\alpha}} から −2=−3α-2=-3\alpha、3=2α−β3=2\alpha-\beta。よって α=2/3\alpha=2/3、β=−5/3\beta=-5/3:

E(k)=CK ε2/3k−5/3.E(k)=C_K\,\varepsilon ^{2/3}k^{-5/3}.

(検算スクリプト。CKC_K は無次元の定数で、実験ではおよそ 1.51.5。)

(2) η=νaεb\eta=\nu^a\varepsilon ^b とおくと、L=L2a+2bT−a−3b\mathrm L=\mathrm{L^{2a+2b}T^{-a-3b}}。2a+2b=12a+2b=1、a+3b=0a+3b=0 から a=3/4a=3/4、b=−1/4b=-1/4:η=(ν3/ε)1/4\eta=(\nu^3/\varepsilon )^{1/4}。ε∼U3/L\varepsilon \sim U^3/L(大きな渦がその回転時間 L/UL/U でエネルギー U2U^2 を手放す)とおくと L/η∼Re3/4L/\eta\sim\mathrm{Re}^{3/4} となり、Reynolds 数とともに慣性領域が広がる。

(3) δu\delta u の次元は LT−1\mathrm{LT^{-1}}、εr\varepsilon r の次元は L3T−3\mathrm{L^3T^{-3}} なので、ε\varepsilon と rr から作れる速度は (εr)1/3(\varepsilon r)^{1/3} だけである。よって Sp=Cp(εr)p/3S_p=C_p(\varepsilon r)^{p/3}。p=2p=2 の S2∝r2/3S_2\propto r^{2/3} を Fourier 変換すると E(k)∝k−5/3E(k)\propto k^{-5/3} となり、(1) と整合する。

この結果は NS 方程式から導かれたものではなく、仮定と次元解析から出ている。そして実験では、pp が大きいと構造関数の指数が p/3p/3 からずれる(間欠性。強い散逸が空間的に偏在するため、ε\varepsilon の揺らぎが統計に影響する)ことが知られている。すなわち仮定の一部(ε\varepsilon の平均値だけで統計が決まる)は厳密には成り立たない。

例外が p=3p=3 である。一様・等方・定常な乱流で、上の異常散逸を仮定すると、NS 方程式から導かれる 2 点相関の厳密な関係(Kármán–Howarth の方程式)を使って

S3(r)=⟨(δu∥(r))3⟩=−45 ε r(η≪r≪L)(9.28)S_3(r)=\langle (\delta u_\parallel(r))^3 \rangle =-\frac45\,\varepsilon \,r\qquad(\eta\ll r\ll L)\tag{9.28}

が導ける(Kolmogorov の 4/5 則)。係数 −4/5-4/5 まで含めて決まるのは、この式が次元解析でなく方程式そのものからの帰結だからである。ただし前提の「異常散逸」(ν→0\nu\to0 で ε\varepsilon が 00 にならないこと)自体は実験事実であって、NS 方程式から証明されたものではない。4/5 則は、C 型に満ちた乱流理論の中で「仮定を明示すれば厳密に言える」数少ない地点であり、モデルの検証の基準として使われる。

木下の勉強ステータス

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