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Galerkin 打ち切りの教訓:Lorenz 方程式

2026年10月9日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第9章 均質化と「閉じない」近似
目次
  1. Rayleigh–Bénard 対流から3変数へ
  2. 打ち切った系のカオスは元の系の縮図か
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

近似の数理 第9章 §9.6 ★★ A 型の射影を非線型・長時間に使うと、誤差を制御する定理がなくなる

Rayleigh–Bénard 対流から3変数へ

下から加熱された流体層(Rayleigh–Bénard 対流)を、2次元・Boussinesq 近似・上下の境界で自由すべり、という最も単純な設定で考える。流れ関数 ψ(x,z,t)\psi(x,z,t) と、線型な温度分布からのずれ θ(x,z,t)\theta(x,z,t) を未知数とし、層の厚さを HH とする。Saltzman は ψ,θ\psi,\theta を 2 重 Fourier 級数に展開し、有限個のモードで打ち切った常微分方程式系を数値的に調べた。Lorenz(1963年)はそのうち最も少ない 3 つのモード

ψ∝X(t)sin⁡πaxHsin⁡πzH,θ∝Y(t)cos⁡πaxHsin⁡πzH−Z(t)sin⁡2πzH(9.29)\psi\propto X(t)\sin\frac{\pi ax}{H}\sin\frac{\pi z}{H},\qquad \theta\propto Y(t)\cos\frac{\pi ax}{H}\sin\frac{\pi z}{H}-Z(t)\sin\frac{2\pi z}{H}\tag{9.29}

だけを残し、方程式をこれらのモードの上に射影した。これは第4章の Galerkin 法そのもの(A 型の射影)である。

射影で何が捨てられたかを具体的に見る。非線型項は Jacobi 行列式 J(ψ,θ)=ψxθz−ψzθxJ(\psi,\theta)=\psi_x\theta_z-\psi_z\theta_x の形で現れる。k=πa/Hk=\pi a/H、m=π/Hm=\pi/H と書くと、直接計算により(検算スクリプト)

J(sin⁡kxsin⁡mz, cos⁡kxsin⁡mz)=km2sin⁡2mz,J(sin⁡kxsin⁡mz, sin⁡2mz)=kmcos⁡kx (sin⁡3mz−sin⁡mz).\begin{aligned}J\bigl(\sin kx\sin mz,\ \cos kx\sin mz\bigr)&=\frac{km}{2}\sin 2mz,\\ J\bigl(\sin kx\sin mz,\ \sin 2mz\bigr)&=km\cos kx\,\bigl(\sin 3mz-\sin mz\bigr).\end{aligned}

1つ目は ZZ のモードそのものなので残る。2つ目のうち cos⁡kxsin⁡mz\cos kx\sin mz は YY のモードとして残るが、cos⁡kxsin⁡3mz\cos kx\sin3mz は 3 つのモードの外にあり、捨てられる。渦度の方程式の非線型項 J(ψ,∇2ψ)J(\psi,\nabla^2\psi) は、単一モードでは ∇2ψ∝ψ\nabla^2\psi\propto\psi なので 00 になる。こうして得られるのが Lorenz 方程式

X˙=σ(Y−X),Y˙=X(r−Z)−Y,Z˙=XY−bZ(9.30)\dot X=\sigma(Y-X),\qquad\dot Y=X(r-Z)-Y,\qquad\dot Z=XY-bZ\tag{9.30}

である。時間は熱拡散の時間で無次元化してあり、σ=ν/κ\sigma=\nu/\kappa は Prandtl 数、r=Ra/Racr=\mathrm{Ra}/\mathrm{Ra}_c は臨界値で割った Rayleigh 数、b=4/(1+a2)b=4/(1+a^2) である。自由すべり境界での臨界 Rayleigh 数は Rac(a)=π4(1+a2)3/a2\mathrm{Ra}_c(a)=\pi^4(1+a^2)^3/a^2 で、a2=1/2a^2=1/2 で最小値 27π4/4≈657.527\pi^4/4\approx657.5 をとる。このとき b=8/3b=8/3 となる。Lorenz が使った値 σ=10\sigma=10、b=8/3b=8/3、r=28r=28 はここから来ている(検算スクリプト)。

例題 9.7 Lorenz 方程式の固定点と対流の発生 ★★

オリジナル[標準的な題材を自作]

  1. (9.30) の固定点をすべて求めよ。
  2. 原点の線型安定性を調べ、r=1r=1 で安定性が変わることを示せ。これは物理的に何に対応するか。
  3. σ=10\sigma=10、b=8/3b=8/3、r=28r=28 での非自明な固定点の座標を数値で書け。
解答

(1) X˙=0\dot X=0 から Y=XY=X。Z˙=0\dot Z=0 から Z=X2/bZ=X^2/b。Y˙=0\dot Y=0 に代入して X(r−1−X2/b)=0X(r-1-X^2/b)=0。よって原点 (0,0,0)(0,0,0) と、r>1r>1 のときに限り C±=(±b(r−1), ±b(r−1), r−1)C_\pm=\bigl(\pm\sqrt{b(r-1)},\ \pm\sqrt{b(r-1)},\ r-1\bigr)(複号同順)。

(2) 原点での Jacobi 行列は(−σσ0r−1000−b)\begin{pmatrix}-\sigma&\sigma&0\\ r&-1&0\\0&0&-b\end{pmatrix}。ZZ 方向は固有値 −b<0-b<0。(X,Y)(X,Y) のブロックはトレース −(σ+1)<0-(\sigma+1)<0、行列式 σ(1−r)\sigma(1-r)。r<1r<1 なら行列式が正で、2つの固有値はともに実部負となり原点は安定。r>1r>1 なら行列式が負で、正と負の固有値をもつ鞍点となり不安定。原点は「流れがなく熱伝導だけで熱を運ぶ状態」、C±C_\pm は「時計回り・反時計回りの定常な対流ロール」である。r=1r=1、すなわち Ra=Rac\mathrm{Ra}=\mathrm{Ra}_c で熱伝導状態が不安定になり対流が始まる。これは元の PDE の線型安定性解析の結果と一致する。臨界点の近くの振る舞いは、3 モードの打ち切りが正しく再現する部分である。

(3) b(r−1)=83⋅27=72b(r-1)=\frac83\cdot27=72 なので C±=(±62, ±62, 27)≈(±8.485, ±8.485, 27)C_\pm=(\pm6\sqrt2,\ \pm6\sqrt2,\ 27)\approx(\pm8.485,\ \pm8.485,\ 27)。この 2 点は r>rH=σ(σ+b+3)/(σ−b−1)≈24.74r>r_H=\sigma(\sigma+b+3)/(\sigma-b-1)\approx24.74 で不安定になり(Hopf 分岐)、r=28r=28 では軌道はどの固定点にも落ち着かない(検算スクリプト)。

図

図 9.2 Lorenz 方程式(σ=10\sigma=10、b=8/3b=8/3、r=28r=28)の軌道の (X,Z)(X,Z) 面への射影(5≤t≤305\le t\le30)。軌道は二つの不安定な固定点 C±C_\pm の周りを不規則に行き来する。

打ち切った系のカオスは元の系の縮図か

r=28r=28 の Lorenz 方程式は、決定論的なのに非周期的で、初期値の微小な差が指数的に拡大する(最大 Lyapunov 指数はおよそ 0.90.9。検算スクリプト)。軌道は図 9.2 のような奇妙なアトラクタに乗る。このアトラクタが本当に存在する(数値誤差の産物でない)ことは、Tucker による計算機援用証明で確かめられた。Lorenz 方程式は「決定論的な系がカオスを示しうる」ことの模範例として、数学的にも物理的にも大きな意味をもつ。

しかし、このカオスが元の対流の PDE の振る舞いを忠実に縮めたものだという保証はない。r=28r=28 は Ra\mathrm{Ra} が臨界値の 28 倍の状態で、実際の対流はそこでは 3 次元的な構造をもち、2 次元・3 モードの記述とは対応しない。捨てたモード cos⁡kxsin⁡3mz\cos kx\sin3mz は、臨界点の近くでは振幅が小さく無視できるが、臨界から遠い所では小さい理由がない。より多くのモードを残した打ち切り系では、同じパラメータでの振る舞いが変わりうる。

この状況を、第4章の線型問題の Galerkin 法と比べる。線型の楕円型問題では、部分空間 VhV_h 上の Galerkin 近似 uhu_h について

∥u−uh∥H1≤Λλinf⁡v∈Vh∥u−v∥H1(9.31)\lVert u-u_h\rVert _{ H^1}\le\frac{\Lambda}{\lambda}\inf_{v\in V_h}\lVert u-v\rVert _{ H^1}\tag{9.31}

(Céa の補題)が成り立った。誤差は「真の解を部分空間でどれだけよく近似できるか」で抑えられ、解が滑らかなら少ないモードで十分である。時間発展の非線型問題では、打ち切りの誤差 e(t)e(t)(真の解の低次モードと打ち切り系の解の差)は、捨てたモードからの寄与を δ\delta、ベクトル場の Lipschitz 定数を LL とすると、Grönwall の不等式により

∥e(t)∥≤∥e(0)∥eLt+δL(eLt−1)(9.32)\lVert e(t)\rVert \le\lVert e(0)\rVert \mathrm{e}^{Lt}+\frac{\delta}{L}\bigl(\mathrm{e}^{Lt}-1\bigr)\tag{9.32}

としか抑えられない(検算スクリプト)。有限時間 tt なら δ→0\delta\to0 で誤差は 00 に行くが、評価は時間について指数的に悪化する。カオス系では eLt\mathrm{e}^{Lt} の増大は評価の甘さでなく実際に起きることで(Lyapunov 指数がその速さ)、個々の軌道を長時間追うことは原理的にできない。長時間で問えるのは統計(不変測度、時間平均)だけだが、「打ち切り系の統計が元の系の統計に近い」ことを保証する一般的な定理はない。

例外的に、散逸の強い系では正の結果がある。2次元 NS 方程式では、有限個の Fourier モードの長時間の振る舞いが全体の長時間の振る舞いを決めること(決定モード、Foias–Prodi)が証明されている。また一部の散逸的な PDE では、有限次元の不変多様体(慣性多様体)の上に長時間の力学が乗ることが示されている。これらは「打ち切りが正当化できるための構造」が何であるかを示しているが、3次元の対流や乱流には適用できない。

木下の勉強ステータス

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