量子力学の様々な構成方法 第1部 第1章 §1.1.4 ★★ Schrödinger・Heisenberg・相互作用の描像は、1つの構成の中で時間依存をどこに置くかの選択で、構成の選択とは独立
描像とは何か
「Heisenberg の行列力学」と「Heisenberg 描像」、「Schrödinger の波動力学」と「Schrödinger 描像」は名前が似ているので、構成と描像は混同されやすい。描像は、基準の構成の中で、時間発展の演算子 U^(t)=e−iH^t/ℏ を状態の側に置くか、物理量の側に置くかの選び方である。期待値は
⟨ψ(t)∣A^∣ψ(t)⟩=⟨ψ∣U^(t)†A^U^(t)∣ψ⟩(1.1.4)
と2通りに書け、左辺の読み方が Schrödinger 描像(状態 ∣ψ(t)⟩=U^(t)∣ψ⟩ が動き、物理量は止まっている)、右辺の読み方が Heisenberg 描像(状態 ∣ψ⟩ は止まり、物理量 A^H(t)=U^†A^U^ が動く)である。H^=H^0+V^ と分けて、H^0 による時間発展だけを物理量に移し、残りを状態に残すのが相互作用描像である。どの描像でも式 (1.1.4) の値は同じなので、描像の選び方は予言を変えない。
これに対し構成は、そもそも何を出発点の対象に置くか(ベクトルか、行列か、作用か、分布か)の選択である。したがって構成と描像は表の2つの軸として独立に選べる。たとえば密度行列の構成にも Schrödinger 描像(ρ^(t) が動く)と Heisenberg 描像(物理量が動く)があり、経路積分にも、状態の伝播を書く書き方と、演算子の時間順序積の期待値を書く書き方がある。行列力学は歴史的に Heisenberg 描像で書かれたが、行列力学の構成で Schrödinger 描像を使うこともできる(状態を ∣n⟩ の基底での成分の列ベクトルとして動かせばよい)。
表 1.1.3 構成と描像の2つの軸。行が構成、列が描像で、どの組み合わせも使える| 構成 | Schrödinger 描像 | Heisenberg 描像 | 相互作用描像 |
| 状態ベクトル | ∣ψ(t)⟩=U^∣ψ⟩ | A^H(t)=U^†A^U^ | H^0 の分だけ物理量へ |
| 行列力学 | 成分の列 cn(t) を動かす | 行列 Amn(t)=Amnei(Em−En)t/ℏ | 摂動論の標準形 |
| 密度行列 | ρ^(t)=U^ρ^U^† | Tr(ρ^A^H(t)) | Lindblad 方程式の導出に使う |
| 位相空間 | W(x,p,t) を Moyal 方程式で動かす | 物理量の Weyl 記号を動かす | 回転座標系の W |
| 経路積分 | 伝播関数 K で振幅を運ぶ | 時間順序積の期待値 | 摂動展開(Feynman 図) |
共通例題②を2つの描像で解く
共通例題②の Rabi 振動を、Schrödinger 描像と Heisenberg 描像の両方で解き、同じ答えが出ることを確かめる。H^=−2ℏΔσz−2ℏΩσx を、単位ベクトル n=(Ω,0,Δ)/Ω′ を使って H^=−2ℏΩ′n⋅σ と書く。(n⋅σ)2=1 なので指数関数の展開が cos と sin にまとまり、
U^(t)=eiΩ′tn⋅σ/2=cos2Ω′t+isin2Ω′tn⋅σ(1.1.5)
となる。以下 c=cos(Ω′t/2)、s=sin(Ω′t/2) と書く。
Schrödinger 描像では、状態 U^(t)∣g⟩ の ∣e⟩ 成分を求める。⟨e∣σx∣g⟩=1、⟨e∣σz∣g⟩=0、⟨e∣g⟩=0 なので⟨e∣U^(t)∣g⟩=isnx で、
Pe(t)=∣⟨e∣U^(t)∣g⟩∣2=nx2s2=(Ω′Ω)2sin22Ω′t(1.1.6)
を得る。
Heisenberg 描像では、∣e⟩ への射影 ∣e⟩⟨e∣=(1+σz)/2 を動かす。σz,H(t)=U^†σzU^ を計算するには、[σz,n⋅σ]=nx[σz,σx]=2inxσy と、Pauli 行列の恒等式 (n⋅σ)σz(n⋅σ)=2nzn⋅σ−σz を使う。
σz,H(t)=(c−isn⋅σ)σz(c+isn⋅σ)=c2σz+ics[σz,n⋅σ]+s2(2nzn⋅σ−σz)
で、c2−s2=cosΩ′t、2cs=sinΩ′t を使って整理すると
σz,H(t)=cos(Ω′t)σz−sin(Ω′t)nxσy+2s2nz(nxσx+nzσz)(1.1.7)
となる。止まっている状態 ∣g⟩ では ⟨σx⟩=⟨σy⟩=0、⟨σz⟩=−1 なので
⟨g∣σz,H(t)∣g⟩=−cosΩ′t−2s2nz2=−(1−2s2)−2s2nz2=−1+2s2nx2
(nx2+nz2=1 を使った)。したがって Pe(t)=⟨g∣(1+σz,H(t))/2∣g⟩=nx2s2 で、式 (1.1.6) と一致する。
2つの計算は、同じ U^ を状態に掛けるか、物理量の両側から挟むかの違いだけである。Schrödinger 描像は1つの確率を出すのに短く、Heisenberg 描像は σz,H(t) という演算子を1度求めれば、どの初めの状態についても期待値が出せる。Heisenberg 描像の式 (1.1.7) は、Bloch ベクトル r=⟨σ⟩ が軸 n のまわりを角速度 Ω′ で回る運動を、演算子の言葉で書いたものになっている。

図 1.1.2 共通例題②の Rabi 振動 Pe(t)=(Ω/Ω′)2sin2(Ω′t/2)(厳密解なので点線)。共鳴 Δ=0 では完全に反転し、Δ=Ω では振幅が 1/2 に下がり、周期が 1/2 倍に短くなる。2つの描像のどちらで計算してもこの曲線になる。
例題 1.1.4 離調のある Rabi 振動 ★★
オリジナル共通例題②で Ω/2π=1MHz、Δ=Ω とする。
- (1) Ω′ を Ω で表し、Pe(t) の最大値を求めよ。
- (2) ∣g⟩ から出発して Pe が初めて最大になる時刻を求めよ。
- (3) 相互作用描像を H^0=−2ℏΔσz で作ると、∣e⟩ 成分の振幅は Schrödinger 描像の振幅と位相因子だけ違うことを示し、Pe(t) が同じになることを確かめよ。
解答
(1) Ω′=Ω2+Ω2=2Ω で、最大値は (Ω/Ω′)2=1/2。
(2) sin2(Ω′t/2)=1 となる最初の時刻は Ω′t/2=π/2、すなわち t=π/Ω′=π/(2×2π×106s−1)=1/(22)μs≈0.354μs。
(3) 相互作用描像の状態は ∣ψI(t)⟩=U^0(t)†∣ψ(t)⟩、U^0(t)=eiΔtσz/2 である。U^0† は σz の関数なので ∣e⟩ と ∣g⟩ を混ぜず、⟨e∣U^0(t)†=e−iΔt/2⟨e∣ となる。したがって ⟨e∣ψI(t)⟩=e−iΔt/2⟨e∣ψ(t)⟩ で、絶対値の2乗は変わらず、Pe(t) は式 (1.1.6) と同じになる。相互作用描像は、H^0 で決まる速い位相の回転を状態から取り除いた描像であり、確率には影響しない。
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