量子力学の様々な構成方法 第1部 第1章 §1.1.5 ★★★ どの構成とどの構成の同値性が、どの道具で、どの部で示されるかを1枚の図と表にまとめる
地図の読み方
図 1.1.3 は、この巻で扱う構成を箱に、構成どうしの同値性を示す対応を矢印にしたものである。中央の基準(状態ベクトルと演算子)からは、ほかの全部の構成へ矢印が出ている。この巻では、各部の中で必ず「基準からその構成へ」と「その構成から基準へ」の両向きの対応を示す。両向きの対応がそろうと、その構成で計算した予言が基準の予言と一致し、基準を経由して任意の2つの構成の予言が一致することになる。矢印の横には、その対応の要になる式か道具を書いた。

図 1.1.3 同値性の地図。実線の箱が主流の構成、破線の箱が第7〜10部の構成。両向きの矢印はその部で両向きの対応を示すもの、片向きの矢印は合流(ある構成の結果が別の構成の対象になること)を表す。
図の上半分の横の線は、基準と行列力学・経路積分を結ぶ。行列力学への対応は、描像の変換 A^H(t)=U^†A^U^(1.1.4節)と、交換関係を満たす表現が有限自由度では本質的に1つしかないという Stone–von Neumann の定理(第2部第6章)からなる。経路積分への対応は、遷移振幅 ⟨xf∣e−iH^t/ℏ∣xi⟩ の時間を細かく分け、各時刻に位置の完全系 ∫dx∣x⟩⟨x∣=1 を挿入することで得られ(第3部第2章)、逆向きには短い時間の伝播関数から Schrödinger 方程式を導く(第3部第5章)。
図の下半分では、基準から密度行列と第二量子化へ線が出る。純粋状態は ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ で密度行列に入り、逆に任意の ρ^ は大きな系の純粋状態の部分トレースとして書ける(浄化。第4部第2章)。第二量子化は、N 粒子の(反)対称化した状態を粒子数ごとに並べた直和として基準から作る(第6部第2章)。密度行列は Wigner 変換で位相空間の関数 W(x,p) に移り(第5部第2章)、行列力学の交換子は Moyal 括弧に移り、ℏ→0 で Poisson 括弧に戻る(第5部第3章)。経路積分の時間を虚数 t→−iτ に回すと、熱平衡の密度行列 e−βH^ と分配関数 Z=Tre−βH^ が出る(第3部第6章)。
破線の箱は、主流でない4つの構成で、それぞれ上の構成のどれかと対応でつながる。波動関数を密度と位相に分けると流体の方程式になり、ℏ→0 で Hamilton–Jacobi 方程式に戻る(第7部)。Nelson の拡散過程を使うと、虚時間の経路積分は Wiener 測度での期待値として書ける(Feynman–Kac の公式。第7部第6章)。密度行列の熱平衡は、無限自由度では代数の上の KMS 状態として定義し直し、GNS 構成で代数からヒルベルト空間を作り直す(第8部)。射影の束の上の確率は、ヒルベルト空間が3次元以上なら必ず Tr(ρ^P^) の形になる(Gleason の定理。第9部第2章)。幾何学的量子化は相空間から前量子化と偏極でヒルベルト空間を作り、同じ相空間から積を変形する位相空間の構成と並べて比べる(第10部)。
橋の表
地図の矢印を、証明する置き場ごとに表にすると表 1.1.4 になる。この表は各部の「橋」の節(各章の最後から2番目の節)への索引として使い、第11部第1章で各部の結果を書き込んだ形に置き直す。
表 1.1.4 同値性の橋と、証明する置き場| 橋 | 要になる道具 | 置き場 |
| 基準 ↔ 行列力学 | 描像の変換・行列要素 Amn=⟨m∣A^∣n⟩ | 第2部第6章 |
| 行列力学の一意性 | Stone–von Neumann の定理(Weyl 形式) | 第2部第6章。無限自由度で崩れることは第8部第3章 |
| 基準 ↔ 経路積分 | 完全系の挿入・Trotter の積公式・Gauss 積分 | 第3部第2章(基準→経路積分)・第3部第5章(逆向き) |
| 経路積分 ↔ 統計力学 | t→−iτ・周期境界 x(0)=x(βℏ) | 第3部第6章・第4部第4章 |
| 基準 ↔ 密度行列 | 部分トレース・Schmidt 分解・浄化 | 第4部第2章 |
| 経路積分 × 密度行列 | Feynman–Vernon の影響汎関数 | 第4部第6章 |
| 密度行列 ↔ 位相空間 | Wigner 変換・Weyl 対応 | 第5部第2章 |
| 行列力学 ↔ 位相空間 ↔ 古典 | ⋆積の ℏ 展開 | 第5部第3章 |
| 第二量子化 ↔ 位相空間 | Glauber–Sudarshan の P・Husimi の Q・Wigner の W | 第5部第6章 |
| 基準 ↔ 第二量子化 | 1体演算子 ∑ij⟨i∣h^∣j⟩a^i†a^j | 第6部第2章 |
| 行列力学 → 第二量子化 | 場の基準振動を調和振動子として量子化 | 第6部第1章 |
| 第二量子化 ↔ 経路積分 | コヒーレント状態・Grassmann 数 | 第6部第6章 |
| 波動関数 ↔ 流体 | Madelung 変換 ψ=ρeiS/ℏ・量子ポテンシャル | 第7部第1章 |
| 流体 ↔ 解析力学 | ℏ→0 で Hamilton–Jacobi 方程式 | 第7部第2章 |
| 流体 ↔ 確率過程 | Nelson の前向きと後ろ向きの拡散(ν=ℏ/(2m)) | 第7部第5章 |
| 確率過程 ↔ 経路積分 | Feynman–Kac の公式 | 第7部第6章・第3部第6章 |
| 基準 ↔ 代数 | GNS 構成 | 第8部第2章 |
| 代数 ↔ 行列力学・第二量子化 | CCR・CAR 代数の非同値な表現 | 第8部第3章 |
| 代数 ↔ 密度行列・統計 | KMS 条件 | 第8部第4章 |
| 再構成 ↔ 密度行列 | Gleason の定理(3次元以上) | 第9部第2章 |
| 再構成 ↔ 基準 | 一般確率論の操作的な公理 | 第9部第5章 |
| 正準量子化 ↔ 幾何学的量子化 | Groenewold–van Hove の定理・前量子化 | 第10部第1章・第10部第3章 |
| 幾何学的量子化 ↔ 表示の選択 | 偏極(実偏極=位置表示、正則偏極=Bargmann–Fock 表示) | 第10部第4章 |
| 幾何学的量子化 ↔ WKB | 整数条件と Bohr–Sommerfeld 条件 | 第10部第5章 |
| 幾何学的量子化 ↔ 位相空間 | 同じシンプレクティック形式から変形量子化 | 第10部第6章 |
地図のいくつかの矢印には ℏ→0 の極限(経路積分の停留位相・流体の Hamilton–Jacobi 方程式・Moyal 括弧の Poisson 括弧への極限)が含まれる。これらは同値性でなく古典力学への近似であり、各部でその近似の裏付けを示す。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの ℏ/S→0(作用が ℏ に比べて大きい) | 証明 条件付き(ポテンシャルが滑らかで転回点が孤立。WKB と Moyal → Liouville の側。経路の空間の停留位相〔Van Vleck〕は2階以上の導関数が有界な V と短い時間で証明済み=第3部第1・4章) | 行き先 近似の数理 第7章
基準から経路積分へ:自由粒子の伝播関数
地図の矢印のうち、基準から経路積分への対応の出発点を、共通例題③で1度だけ計算しておく。自由粒子の遷移振幅 K(xf,t;xi,0)=⟨xf∣e−iH^t/ℏ∣xi⟩ に運動量の完全系 ∫dp∣p⟩⟨p∣=1(⟨x∣p⟩=eipx/ℏ/2πℏ)を挿入すると、H^=p^2/(2m) は ∣p⟩ に数 p2/(2m) として作用するので
K(xf,t;xi,0)=∫−∞∞2πℏdpexp[ℏip(xf−xi)−2mℏip2t]=2πiℏtmexp2ℏtim(xf−xi)2(1.1.8)
となる。最後の等号は、Gauss 積分の公式 ∫dpe−ap2+bp=π/aeb2/(4a) を a=it/(2mℏ)、b=i(xf−xi)/ℏ に当てはめたものである。a は純虚数なので、t に負の小さな虚部を足して Rea>0 とし、積分してから虚部を 0 に戻す。i の枝は eiπ/4 をとる。式 (1.1.8) の指数の中の m(xf−xi)2/(2t) は、xi から xf まで時間 t で等速に進む古典軌道の作用である。この一致が経路積分の出発点になり、第3部第2章で一般のポテンシャルに広げる。
例題 1.1.5 伝播関数の合成則 ★★★
オリジナル式 (1.1.8) の自由粒子の伝播関数 K(xf,t;xi,0) について考える。
- (1) K が自由粒子の Schrödinger 方程式 iℏ∂tK=−2mℏ2∂xf2K を満たすことを示せ。
- (2) 合成則 ∫dyK(xf,t2;y,0)K(y,t1;xi,0)=K(xf,t1+t2;xi,0) を Gauss 積分で示せ。
- (3) (2) を基準の言葉で言い直せ。また、これが経路積分の「時間分割」とどう関係するかを述べよ。
解答
(1) u=xf−xi とおき、K=Ct−1/2eimu2/(2ℏt)(C は定数)と書く。∂tK=K(−2t1−2ℏt2imu2)、∂uK=Kℏtimu、∂u2K=K(ℏtim−ℏ2t2m2u2) なので
iℏ∂tK=K(−2tiℏ+2t2mu2),−2mℏ2∂u2K=K(−2tiℏ+2t2mu2)
で、両辺は一致する。
(2) 2つの指数を足すと 2ℏim[t2(xf−y)2+t1(y−xi)2] で、y について2次である。y2 の係数は −a、a=−2ℏim(t11+t21)、y の係数は b=−ℏim(t2xf+t1xi) である。Gauss 積分の公式で y を積分し、4ab2 と y を含まない項を足して整理すると、指数は2ℏ(t1+t2)im(xf−xi)2 になる。前の係数は 2πiℏt1t2maπ=2πiℏ(t1+t2)m となり、K(xf,t1+t2;xi,0) に一致する。
(3) 基準の言葉では、(2) は e−iH^t2/ℏe−iH^t1/ℏ=e−iH^(t1+t2)/ℏ の両辺の ⟨xf∣⋅∣xi⟩ をとり、間に位置の完全系 ∫dy∣y⟩⟨y∣=1 を挿入したものである。時間 t を N 個に分けてこの挿入を N−1 回くり返すと、中間の位置 y1,…,yN−1 にわたる多重積分が得られ、N→∞ の極限が経路積分になる(第3部第2章)。自由粒子では各段の積分が Gauss 積分なので、何回分けても同じ K に戻る。
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