tecktom.com

熱平衡を状態として書く

2026年10月17日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第4章 熱平衡と量子統計
目次
  1. なぜ1本の状態ベクトルでは書けないか
  2. 熱浴の部分トレースから へ
  3. 全体が純粋状態でもよい:正準典型性
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第4部 第4章 §4.4.1 ★★★ 熱平衡の状態は、熱浴と合わせた全体のエネルギーが決まった状態から熱浴を部分トレースで捨てたもので、熱浴が大きい極限で e−βH^/Z\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z になる。全体の状態をエネルギー殻の中のほとんどどの純粋状態に取っても同じ結果になる

第4部第1章(第4部第1章)では、状態ベクトルでは書けない状態の例として、不完全な情報・もつれた系の一部分と並べて熱平衡を挙げ、5 GHz の量子ビットの熱平衡で励起の確率を計算した。この章はその熱平衡を密度演算子の構成の中で正面から扱う。部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)の中で、この章は「共通例題」と「得意な問題」を受け持つ。熱平衡は密度行列の構成が最も自然に書ける問題で、基準(第1部の状態ベクトル)の側では、熱浴まで含めた全体の純粋状態か、熱場二重状態のような補助の系を持ち出さないと同じものを書くことができない。

この章の出発点は要請 (D1)〜(D5)(第4部第1章)で、新しい公理は足さない。代わりに「熱平衡の状態はどれか」を、大きな系の一部分としての導出(第4.4.1節)と、エントロピーと自由エネルギーの変分原理(第4.4.2節)の2通りで決める。共通例題①の調和振動子では、エネルギー表示で分配関数 Z=1/(2sinh⁡(βℏω/2))Z=1/(2\sinh(\beta\hbar\omega/2)) と ⟨n⟩=1/(eβℏω−1)\langle n \rangle =1/(\mathrm{e}^{\beta\hbar\omega}-1) を出し(第4.4.3節)、位置表示では Mehler 核を虚時間で読んで熱平衡の密度行列を Gauss 核として書く(第4.4.4節)。後者は第4部第2章(第4部第2章)が残した問題、混合した Gauss 波束の固有値が等比数列 (1−q)qn(1-q)q^n になることの証明になる。高温と低温の極限で古典の統計力学と零点振動がどう現れるかを見て(第4.4.5節)、橋の節では同じ熱平衡を経路積分・位相空間・第二量子化・代数の言葉で並べる(第4.4.6節)。

この章では温度を TT、逆温度を β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T) と書き、時間の長さに TT を使わない。von Neumann エントロピー S(ρ^)=−Tr⁡(ρ^ln⁡ρ^)S(\hat\rho)=-\operatorname{Tr}(\hat\rho\ln\hat\rho) は無次元(nat)で、熱力学のエントロピーは S熱=kBS(ρ^β)S_{\text{熱}}= k_{\mathrm B} S(\hat\rho_\beta) と添字を付けて書き分ける。

なぜ1本の状態ベクトルでは書けないか

温度 TT の熱浴に長く触れていた系 A を考える。A の物理量の統計は時間によらないので、A の状態 ρ^A\hat\rho_{\mathrm A} は von Neumann 方程式 iℏ dρ^A/dt=[H^, ρ^A]\mathrm{i}\hbar\,\mathrm{d}\hat\rho_{\mathrm A}/\mathrm{d} t=\left[\hat H,\,\hat\rho_{\mathrm A}\right] の定常解でなければならない。定常であるためには [H^, ρ^A]=0\left[\hat H,\,\hat\rho_{\mathrm A}\right]=0 で、H^\hat H の固有値に縮退が無ければ ρ^A\hat\rho_{\mathrm A} は H^\hat H の固有状態 ∣n⟩| n \rangle で対角になり、

ρ^A=∑npn∣n⟩⟨n∣(4.4.1)\hat\rho_{\mathrm A}=\sum_np_n| n \rangle \langle n |\tag{4.4.1}

の形に限られる。純粋状態 ∣ψ⟩⟨ψ∣| \psi \rangle \langle \psi | でこの形になるのは ∣ψ⟩| \psi \rangle がどれか1つの固有状態のときだけで、そのとき A のエネルギーはゆらがない。一方、熱浴とエネルギーをやり取りしている系のエネルギーはゆらいでいるので、複数の pnp_n が正でなければならず、(4.4.1) は混合状態になる。基準(第1部第2章)の公理 Q1 で状態を1本のベクトルに限ると、熱平衡の A そのものには状態を割り当てることができない。

残る問題は重み pnp_n の決め方である。定常性だけでは pnp_n は決まらない。

熱浴の部分トレースから e−βH^\mathrm{e}^{-\beta\hat H} へ

A と熱浴 B を合わせた全体が孤立していて、全体のエネルギーが幅の狭い区間 [E,E+δE][E,E+\delta E] にあるとする。A と B の相互作用は、エネルギーのやり取りを許すが、エネルギーの値には寄与しないほど弱いとし、全体のハミルトニアンの固有状態を ∣n⟩A∣k⟩B| n \rangle _{\mathrm A}| k \rangle _{\mathrm B}、エネルギーを En+EkBE_n+E^{\mathrm B}_k で近似する。エネルギー殻の中の状態について何も知らないとき、全体の状態として殻の上の一様な混合(ミクロカノニカル状態)

ρ^mc=1W(E)∑E≤En+EkB≤E+δE∣n⟩⟨n∣⊗∣k⟩⟨k∣(4.4.2)\hat\rho_{\mathrm{mc}}=\frac{1}{W(E)}\sum_{E\le E_n+E^{\mathrm B}_k\le E+\delta E}| n \rangle \langle n |\otimes| k \rangle \langle k |\tag{4.4.2}

を置く。W(E)W(E) は殻の中の状態数である。B について部分トレース(第4部第1章 の (D5))を取ると、∣n⟩| n \rangle ごとに B の状態の数を数えることになり、

ρ^A=Tr⁡Bρ^mc=∑nWB(E−En)W(E)∣n⟩⟨n∣(4.4.3)\hat\rho_{\mathrm A}=\operatorname{Tr}_{\mathrm B}\hat\rho_{\mathrm{mc}}=\sum_n\frac{W_{\mathrm B}(E-E_n)}{W(E)}| n \rangle \langle n |\tag{4.4.3}

を得る。WB(E′)W_{\mathrm B}(E') は熱浴だけのエネルギーが [E′,E′+δE][E',E'+\delta E] にある状態の数である。この式は近似を含まない(弱い結合でエネルギーが足し算になることだけを使った)。

熱浴が大きいと WBW_{\mathrm B} はエネルギーについて指数関数的に増えるので、対数を A のエネルギーで展開する:

ln⁡WB(E−En)=ln⁡WB(E)−βEn+O(En2E ),β≔∂ln⁡WB(E′)∂E′∣E′=E.(4.4.4)\ln W_{\mathrm B}(E-E_n)=\ln W_{\mathrm B}(E)-\beta E_n+\mathcal{O}\Big(\frac{E_n^2}{E\,}\Big),\qquad \beta\coloneqq\frac{\partial \ln W_{\mathrm B}(E')}{\partial E'}\Big|_{E'=E}.\tag{4.4.4}

2次の項が小さいのは、ln⁡WB\ln W_{\mathrm B} が熱浴の大きさに比例し、その2階微分が熱浴の大きさに反比例するためである。1次までで打ち切ると

ρ^β=e−βH^Z,Z=Tr⁡e−βH^=∑ne−βEn(4.4.5)\hat\rho_\beta=\frac{\mathrm{e}^{-\beta\hat H}}{Z},\qquad Z=\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\beta\hat H}=\sum_n\mathrm{e}^{-\beta E_n}\tag{4.4.5}

になる。β\beta は熱浴の状態数の対数の傾きで、これが逆温度 1/(kBT)1/( k_{\mathrm B} T) の定義である。

定義 4.4.1(熱平衡状態(Gibbs 状態))

ハミルトニアン H^\hat H と逆温度 β>0\beta>0 について Tr⁡e−βH^<∞\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\beta\hat H}<\infty のとき、(4.4.5) の ρ^β\hat\rho_\beta を熱平衡状態(Gibbs 状態、カノニカル状態)と呼ぶ。ZZ を分配関数と呼ぶ。

条件 Tr⁡e−βH^<∞\operatorname{Tr}\mathrm{e}^{-\beta\hat H}<\infty は飾りでない。共通例題③の自由粒子 H^=p^2/(2m)\hat H=\hat p^2/(2m) を無限に長い直線の上で考えると、⟨x∣e−βH^∣x⟩\langle x | \mathrm{e}^{-\beta\hat H} | x \rangle は xx によらない正の数で、その xx についての積分は発散する。直線の上の自由粒子には規格化できる熱平衡状態が無く、箱の長さ LL を入れて初めて Z=L/λTZ=L/\lambda_T(λT=h/2πmkBT\lambda_T=h/\sqrt{2\pi m k_{\mathrm B} T})が有限になる。第4部第2章の混合した Gauss 波束は自由粒子の熱平衡ではなく、第4.4.4節で見るように、別の調和振動子の熱平衡と同じ形をしている。

全体が純粋状態でもよい:正準典型性

(4.4.2) は全体についても「何も知らない」ことを混合で表した。全体を1本の純粋状態 ∣Ψ⟩| \Psi \rangle にしても、A の状態はほとんど変わらない。Popescu, Short, Winter(2006)、Nature Physics 2、754 と Goldstein, Lebowitz, Tumulka, Zangh\ì(2006)、Phys. Rev. Lett. 96、050403 は、エネルギー殻の中から ∣Ψ⟩| \Psi \rangle を一様(Haar 測度)に選ぶと、ほとんどすべての ∣Ψ⟩| \Psi \rangle について Tr⁡B∣Ψ⟩⟨Ψ∣\operatorname{Tr}_{\mathrm B}| \Psi \rangle \langle \Psi | が (4.4.3) に近く、その差が「A の次元÷B の実効的な次元」の平方根程度に抑えられることを示した。証明と評価の形は相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部第3章にある。

この結果は構成の比較の言葉で読むと、基準の側から熱平衡を書く方法になっている。全体は基準どおり1本の状態ベクトルで、その一部分 A を見ると熱平衡の密度演算子になる。熱平衡の混合は「全体の状態を知らない」ことだけから来るのでなく、「A だけを見る」ことからも出てくる。前者は第4部第1章の不完全な情報、後者は部分系であり、熱平衡ではどちらの理由からも同じ ρ^β\hat\rho_\beta が得られる。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの En/E→0E_n/E\to0 と dA/dBeff→0d_{\mathrm A}/d_{\mathrm B}^{\mathrm{eff}}\to0(系が熱浴に比べて小さい) | 証明 条件付き(結合が弱くエネルギーが足し算になること。純粋状態の版は Popescu–Short–Winter 2006 の定理で、殻の中の状態を Haar 測度で選ぶことが前提) | 行き先 近似の数理 第13章

例題 4.4.1 2準位の熱浴で e−βH^\mathrm{e}^{-\beta\hat H} の誤差を数える ★★

オリジナル同じ間隔 ε\varepsilon の2準位系を N 個並べた熱浴 B と、同じ2準位系1個の A を弱く結合させる。全体の励起の数が MM に決まったミクロカノニカル状態 (4.4.2) を置く。

  1. (1) (4.4.3) を使って、A が励起している確率 PeP_e を厳密に求めよ。
  2. (2) 熱浴の β\beta を (4.4.4) の微分の代わりに Stirling の公式で求め、Gibbs 状態の PeP_e と比べよ。N=100N=100、M=20M=20 の数値を出せ。
解答

(1) A が励起していれば B の励起は M−1M-1 個、基底にいれば MM 個である。B の状態数は (NM−1)\binom{N}{M-1} と (NM)\binom NM なので

Pe=(NM−1)(NM−1)+(NM)=(NM−1)(N+1M)=MN+1.P_e=\frac{\binom{N}{M-1}}{\binom{N}{M-1}+\binom NM}=\frac{\binom{N}{M-1}}{\binom{N+1}{M}}=\frac{M}{N+1}.

2行目の等号は Pascal の三角形の関係 (NM−1)+(NM)=(N+1M)\binom{N}{M-1}+\binom NM=\binom{N+1}{M} と、(NM−1)/(N+1M)=M/(N+1)\binom{N}{M-1}/\binom{N+1}{M}=M/(N+1) による。

(2) 熱浴のエネルギーは MεM\varepsilon で、Stirling の公式から ln⁡(NM)≈Nhb(M/N)\ln\binom NM\approx N h_{\mathrm b}(M/N)、hbh_{\mathrm b} は二値エントロピーである。E′=MεE'=M\varepsilon で微分すると βε=ln⁡((N−M)/M)\beta\varepsilon =\ln((N-M)/M) で、Gibbs 状態の励起確率は

PeGibbs=e−βε1+e−βε=M/(N−M)1+M/(N−M)=MN.P_e^{\mathrm{Gibbs}}=\frac{\mathrm{e}^{-\beta\varepsilon }}{1+\mathrm{e}^{-\beta\varepsilon }}=\frac{M/(N-M)}{1+M/(N-M)}=\frac MN.

N=100N=100、M=20M=20 では厳密な値 20/101=0.1980220/101=0.19802 と Gibbs の値 0.20.2 の差は 0.2/101≈0.0020.2/101\approx0.002 で、差は熱浴の大きさ NN に反比例して小さくなる。微分を差分 βε=ln⁡(NM)−ln⁡(NM−1)\beta\varepsilon =\ln\binom NM-\ln\binom{N}{M-1} に替えると e−βε=M/(N−M+1)\mathrm{e}^{-\beta\varepsilon }=M/(N-M+1) で、Gibbs の形が厳密な M/(N+1)M/(N+1) を再現する。(4.4.4) の打ち切りの誤差は、状態数の対数を微分で置き換えたことだけから来ている。

木下の勉強ステータス

木下はまだこの記事を勉強していません。

AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com

← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ