量子力学の様々な構成方法 第4部 第4章 §4.4.5 ★★ βℏω→0 で調和振動子の熱平衡は古典の等分配に近づき、最初の補正は Wigner–Kirkwood の ℏ2 の項になる。βℏω→∞ では零点振動だけが残り、エントロピーと熱容量が 0 に近づく
高温:等分配と量子補正
x=βℏω→0 で coth(x/2)≈2/x なので、(4.4.20) は ⟨x^2⟩→kBT/(mω2)、(4.4.15) は U→kBT で、古典の等分配(位置と運動量のそれぞれに kBT/2)になる。自由エネルギーを x で展開すると
βF=ln(2sinh2x)=lnx+24x2−2880x4+⋯(4.4.24)
で、第1項 lnx=ln(βℏω) は古典の分配関数 Zcl=∫e−βHdxdp/(2πℏ)=1/(βℏω) から出る値である。第2項は F への補正 kBTx2/24=βℏ2ω2/24 で、一般のポテンシャルでの Wigner–Kirkwood の補正 (βℏ2/24m)⟨V′′⟩cl に V′′=mω2 を入れたものと一致する(Wigner(1932)、Phys. Rev. 40、749。一般の形の導出は解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第5部第1章)。位置の分散も
⟨x^2⟩β=mω2kBT⋅2xcoth2x=mω2kBT(1+12x2−720x4+⋯)(4.4.25)
と、古典の値に ℏ2 の補正が掛かる(図 4.4.2)。
この展開が収束する範囲は、ln(2sinh(x/2)/x) の特異点で決まる。sinh(x/2) の 0 以外の零点のうち原点に最も近いのは x=±2πi なので、収束半径は 2π で、展開は βℏω<2π、つまり kBT>ℏω/(2π) で収束する。2π/(βℏ) は虚時間の周期 βℏ に対応する最初の角振動数(第3部第6章(第3部第6章)の Matsubara 角振動数)で、収束の境目は「振動子の ω が最初の Matsubara 角振動数に等しくなる温度」として読むことができる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの βℏω→0(熱エネルギーが量子の間隔に比べて大きい) | 証明 条件付き(調和振動子では βℏω<2π で展開が収束することをこの節で示した。一般のポテンシャルでの Wigner–Kirkwood 展開が漸近展開として成り立つ条件は要確認) | 行き先 近似の数理 第7章

図 4.4.2 調和振動子の熱平衡の位置の分散 (4.4.20) を零点振動の値 ℏ/(2mω) で割ったもの(青の点線=厳密)。黒の実線は古典の等分配、赤の実線は (4.4.25) の x2/12 の補正までの近似。kBT≳0.5ℏω では補正までの近似が厳密な値とほぼ重なり、それより低温では零点振動の床 1 から離れて発散する。
低温:零点振動と第三法則
x→∞ では nˉ≈e−x、⟨x^2⟩→ℏ/(2mω)、U→ℏω/2 で、熱平衡は基底状態に近づく。古典の値 kBT/(mω2) は 0 に向かうが、量子の分散は零点振動の値で止まる。エントロピーは (4.4.16) から S≈nˉ(1−lnnˉ)≈(1+x)e−x→0、熱容量は (4.4.17) から C/kB≈x2e−x→0 で、どちらも励起の確率 e−x に比例して指数関数的に消える。熱容量が低温で 0 になることは、固体の比熱の Einstein 模型(各原子を同じ振動数の振動子とみなす)で古典の Dulong–Petit の法則が破れる理由と同じ式である。古典の調和振動子の熱容量はどの温度でも kB で、低温での消え方は量子の準位が離散的であることだけから出る。
例題 4.4.5 古典の等分配が1%の精度で使える温度 ★★
オリジナル
- (1) 調和振動子の ⟨x^2⟩β が古典の値 kBT/(mω2) より 1% だけ大きくなる x=βℏω を、(4.4.25) の第2項までの近似と厳密な式の両方で求めよ。
- (2) x=5 のとき C/kB、S(ρ^β)、nˉ を求め、C/kB を低温の近似 x2e−x と比べよ。
解答
(1) 近似では x2/12=0.01 から x=0.12=0.3464。厳密には (x/2)coth(x/2)=1.01 を数値で解いて x=0.3468 で、kBT=2.88ℏω である。2つの差は x4/720 の項(x=0.35 で 2×10−5)の分しかない。熱エネルギーが量子の間隔の約3倍あれば、位置のゆらぎは 1% の精度で古典の等分配で計算することができる。
(2) C/kB=(2.5)2/sinh2(2.5)=6.25/36.6=0.171、近似 x2e−x=25×0.00674=0.168 で、相対誤差 2%。nˉ=1/(e5−1)=0.00678、S=(nˉ+1)ln(nˉ+1)−nˉlnnˉ=0.0407。励起の確率が 0.7% 程度になると、エントロピーは 0.04 まで下がる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com