量子力学の様々な構成方法 第4部 第4章 §4.4.4 ★★★ e−βH^ は時間発展の演算子を虚時間 t=−iβℏ で読んだもので、調和振動子では Mehler 核から熱平衡の密度行列が Gauss 核として出る。逆に第4部第2章の混合した Gauss 波束はどれも、ある調和振動子の熱平衡そのものである
e−βH^ は虚時間の時間発展
時間発展の演算子 U^(t)=e−iH^t/ℏ に t=−iβℏ を入れると U^(−iβℏ)=e−βH^ になる。したがって熱平衡の密度行列の位置表示は、伝播関数 K(xf,t;xi,0)=⟨xf∣U^(t)∣xi⟩ を虚時間で読んだものである:
⟨x∣e−βH^∣x′⟩=K(x,−iβℏ;x′,0).(4.4.18)
共通例題①の伝播関数は Mehler 核で、正答表の形
K(xf,t;xi,0)=2πiℏsinωtmωexp{2ℏsinωtimω[(xf2+xi2)cosωt−2xfxi]}
を経路積分の Gauss 積分で出すのは第3部第3章(第3部第3章)である。ここでは結果だけを使う。t=−iβℏ で sinωt=−isinh(βℏω)、cosωt=cosh(βℏω) なので、iℏsinωt=ℏsinh(βℏω)、i/sinωt=−1/sinh(βℏω) となり、
⟨x∣e−βH^∣x′⟩=2πℏsinhumωexp{−2ℏsinhumω[(x2+x′2)coshu−2xx′]},u=βℏω(4.4.19)
を得る。平方根の分岐は、虚時間の側で核が正になるもの(e−βH^ は正の演算子)を取る。(4.4.19) は、熱平衡の密度行列をエネルギー固有関数の和 ∑ne−βEnφn(x)φn(x′)(φn は Hermite 関数)として計算した値と一致する。この一致は Mehler の公式そのもので、verify_ch4-04.py で80項の和と照らし合わせた。
対角要素を積分すると分配関数が出る。x=x′ で指数は −(mω/ℏ)x2(coshu−1)/sinhu=−(mω/ℏ)tanh(u/2)x2 で、
Z=∫⟨x∣e−βH^∣x⟩dx=2πℏsinhumωmωtanh(u/2)πℏ=2sinhutanh(u/2)1=2sinh(u/2)1
(sinhutanh(u/2)=2sinh2(u/2))。エネルギー表示の (4.4.13) と同じ答えが、固有値を一度も使わずに出た。位置の分散は同じ Gauss 分布の分散で
⟨x^2⟩β=2mωtanh(βℏω/2)ℏ=2mωℏcoth2βℏω(4.4.20)
である。運動量も同様に ⟨p^2⟩β=2mℏωcoth(βℏω/2) で、⟨p^2⟩/(2m)+mω2⟨x^2⟩/2 は (4.4.15) の U に一致する。
重心と差で書いた熱平衡の核
第4部第2章と同じ重心 X=(x+x′)/2 と差 ξ=x−x′ で (4.4.19) を書き直す。x2+x′2=2X2+ξ2/2、xx′=X2−ξ2/4 を代入すると
(x2+x′2)coshu−2xx′=2X2(coshu−1)+2ξ2(coshu+1)
で、(coshu−1)/sinhu=tanh(u/2)、(coshu+1)/sinhu=coth(u/2) から
ρ^β(x,x′)=Z1⟨x∣e−βH^∣x′⟩∝exp(−ℏmωtanh2uX2−4ℏmωcoth2uξ2)(4.4.21)
となる。重心の方向の幅は ⟨x^2⟩β で決まり、差の方向の幅(位置の離れた2点の間のコヒーレンスがどこまで続くか)は ⟨p^2⟩β で決まる。
混合した Gauss 波束は熱平衡である
第4部第2章の混合した Gauss 波束は
ρ(x,x′)=2πσ021exp(−2σ02X2−2ℏ2Δp2ξ2),μ=2σ0Δpℏ≤1
だった(μ は純粋度。第4部第2章)。(4.4.21) と同じ形をしているので、係数を合わせれば熱平衡の密度行列になる。
定理 4.4.5(混合した Gauss 波束と熱平衡)
μ<1 とし、粒子の質量 m と
Ω=mσ0Δp,tanh2β′ℏΩ=μ(4.4.22)
で振動数 Ω と逆温度 β′ を決める。このとき第4部第2章の ρ(x,x′) は、H^Ω=p^2/(2m)+mΩ2x^2/2 の逆温度 β′ の熱平衡状態に等しい。とくに固有値は
λn=(1−q)qn,q=e−β′ℏΩ=1+μ1−μ(4.4.23)
で、固有関数は長さ ℏ/(mΩ)=ℏσ0/Δp の Hermite 関数である。μ=1 は β′→∞(基底状態)にあたる。
証明
(4.4.21) で ω→Ω、u→u′=β′ℏΩ とした核の指数の係数を、ρ(x,x′) の指数の係数と比べる。X2 の係数が一致する条件は(mΩ/ℏ)tanh(u′/2)=1/(2σ02)、ξ2 の係数が一致する条件は (mΩ/4ℏ)coth(u′/2)=Δp2/(2ℏ2) である。2式を掛けると m2Ω2/(4ℏ2)=Δp2/(4ℏ2σ02) で Ω=Δp/(mσ0)、これを1式目に戻すと tanh(u′/2)=ℏ/(2mΩσ02)=ℏ/(2σ0Δp)=μ。μ<1 なので u′=2artanhμ は正の有限の値に決まる。逆に (4.4.22) を満たせば2つの係数はどちらも一致する。指数が一致した2つの核は定数倍しか違わず、どちらもトレース(対角要素の積分)が1なので、その定数は1である。固有値は命題 4.4.4 (a) から (1−q)qn、q=e−u′ で、tanh(u′/2)=(1−e−u′)/(1+e−u′)=(1−q)/(1+q)=μ を q について解くと (4.4.23) になる。固有関数は H^Ω の固有関数で、長さの尺度は ℏ/(mΩ) である。
この定理で、第4部第2章の混合した Gauss 波束の固有値の式(固有値 (1−q)qn、q=(1−μ)/(1+μ))が証明された。第4部第2章は同じ式を格子の上の対角化で確かめていた。H^Ω は粒子に実際にかかっているハミルトニアンではない(第4部第2章の波束は自由粒子である)。Ω と β′ は、与えられた ρ^ をある振動子の熱平衡と読むための補助の量である。どんな正定値の密度演算子も K^=−lnρ^ と置けば e−K^/Tre−K^ と書け、この K^ をモジュラー・ハミルトニアンと呼ぶ。定理 4.4.5 は、混合した Gauss 波束のモジュラー・ハミルトニアンが β′H^Ω に定数を足したもの、つまり調和振動子になることを言っている。第4部第2章の浄化で、補助の粒子とのもつれ方が「熱平衡の調和振動子のような」形になった理由もこれで、浄化 Ψ(x,y)=ψ(x)χ(y)eigxy/ℏ の Schmidt 係数の2乗は (4.4.23) である。同じ密度行列を自由粒子のハミルトニアンで発展させると、ρ^(t)=U^ρ^U^† の固有値は変わらず、モジュラー・ハミルトニアンだけが U^K^U^† に動く。
例題 4.4.4 1 μK の 87Rb の波束をどの振動子の熱平衡と読むか ★★
オリジナル第4部第2章の例題(第4部第2章)の 87Rb 原子(質量 m=1.443×10−25kg)の混合した波束、σ0=1μm、Δp2=(ℏ/2σ0)2+mkBT(T=1μK)を考える。定理 4.4.5 の Ω/2π、β′ℏΩ、T′=ℏΩ/(kBβ′ℏΩ)、q、nˉ、S(ρ^) を求めよ。
解答
Δp=(5.27×10−29)2+(1.41×10−27)2kgms−1=1.41×10−27kgms−1、μ=ℏ/(2σ0Δp)=0.0373(第4部第2章と同じ)。Ω=Δp/(mσ0)=9.79×103s−1、Ω/2π=1.56kHz。β′ℏΩ=2artanh(0.0373)=0.0747 で、ℏΩ/kB=74.8nK を 0.0747 で割ると T′=1.00μK である。q=(1−μ)/(1+μ)=0.928、nˉ=q/(1−q)=(1−μ)/(2μ)=12.9、(4.4.16) から S(ρ^)=3.59。
補助の温度 T′ が実際の温度 T とほぼ一致するのは偶然でない。μ≪1 では Δp2≈mkBT で、H^Ω の高温の熱平衡では等分配から⟨p^2⟩≈mkBT′ なので、T′≈T になる。幅 1μm に閉じ込めた 1μK の原子は、1.56 kHz の調和トラップの中の 1μK の熱平衡と同じ密度行列を持つ。エントロピー 3.59 は、e3.59≈36 個ほどの振動子の準位にまたがって混ざっていることを表す。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com