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状態ベクトルの公理で書けない3つの場面

2026年10月17日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第1章 なぜ状態ベクトルでは足りないか
目次
  1. 量子ビットの純粋状態は Bloch 球面の点
  2. 場面1:準備の情報が不完全なとき
  3. 場面2:もつれた系の一部分を見るとき
  4. 場面3:熱平衡にあるとき
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第4部 第1章 §4.1.1 ★★★ 準備の不完全な情報・もつれた系の一部分・熱平衡の3つは、どれも1本の ∣ψ⟩| \psi \rangle では書けない。量子ビットなら「⟨σ⟩\langle\bm{\sigma}\rangle の長さが1にならない」ことで判定できる

第4部は、量子力学を密度演算子(密度行列)ρ^\hat\rho から組み立てる。部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は最初の2つを受け持つ。つまり、何を公理に置くかを決め、その公理が扱う基本の対象 ρ^\hat\rho の性質をそろえる。

基準とした第1部の公理(第1部第2章)では、系の状態はヒルベルト空間の単位ベクトル ∣ψ⟩| \psi \rangle で、物理量の期待値は ⟨ψ∣A^∣ψ⟩\langle \psi | \hat A | \psi \rangle で与えられる。この公理は、系が孤立していて、しかも準備した人がその状態を完全に知っている場合を書いている。実験室の量子系はたいていこの2つの条件のどちらかを満たさない。原子の集団は1個ずつ少しずつ違う条件に置かれ、量子ビットは周りの電磁場ともつれ、超伝導回路は有限の温度にある。この章では、こうした場面を状態ベクトルの公理のままで書こうとすると何が起きるかを具体的に確かめ、期待値がどの場面でも同じ形 Tr⁡(ρ^A^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat A) にまとまることから、状態を ρ^\hat\rho に取り替えた公理を立てる。

章の流れは次のとおりである。第4.1.1節で3つの場面を並べ、どれも1つの状態ベクトルでは書けないことを量子ビットで示す。第4.1.2節で期待値を Tr⁡(ρ^A^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat A) の形にまとめ、密度演算子を定義する。第4.1.3節でこの部の要請を5つに整理する。第4.1.4節では共通例題②の2準位系を密度行列で解き、1個1個の原子は純粋なのに集団としては混合状態になる例を数値で見る。第4.1.5節は部分系の状態を部分トレースで作る。第4.1.6節が橋の節で、この章の要請が基準の公理をどう含むかを式で並べ、同値の証明を次の章(第4部第2章)へ渡す。

量子ビットの純粋状態は Bloch 球面の点

判定に使う式を先に用意する。2準位系(量子ビット、スピン 12\tfrac12)の状態空間は2次元で、基底を σz\sigma_z の固有状態 ∣↑⟩| \uparrow \rangle(固有値 +1+1)と ∣↓⟩| \downarrow \rangle(固有値 −1-1)に取る。2準位原子では励起状態 ∣e⟩| e \rangle を ∣↑⟩| \uparrow \rangle、基底状態 ∣g⟩| g \rangle を ∣↓⟩| \downarrow \rangle に当てる(記法の正本と光の巻の流儀)。σx\sigma_x の固有状態を ∣±⟩=(∣↑⟩±∣↓⟩)/2| \pm \rangle =(| \uparrow \rangle \pm| \downarrow \rangle )/\sqrt2 と書く。

全体の位相を除くと、どの単位ベクトルも

∣ψ⟩=cos⁡θ2∣↑⟩+eiϕsin⁡θ2∣↓⟩(0≤θ≤π, 0≤ϕ<2π)(4.1.1)| \psi \rangle =\cos\frac\theta2| \uparrow \rangle +\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi}\sin\frac\theta2| \downarrow \rangle \qquad(0\le\theta\le\pi,\ 0\le\phi<2\pi)\tag{4.1.1}

と書ける。この状態での Pauli 行列の期待値を計算すると

(⟨σx⟩,⟨σy⟩,⟨σz⟩)=(sin⁡θcos⁡ϕ, sin⁡θsin⁡ϕ, cos⁡θ)(4.1.2)\big(\langle \sigma_x \rangle ,\langle \sigma_y \rangle ,\langle \sigma_z \rangle \big)=(\sin\theta\cos\phi,\ \sin\theta\sin\phi,\ \cos\theta)\tag{4.1.2}

となる。たとえば ⟨σz⟩=cos⁡2(θ/2)−sin⁡2(θ/2)=cos⁡θ\langle \sigma_z \rangle =\cos^2(\theta/2)-\sin^2(\theta/2)=\cos\theta、⟨σx⟩=2Re⁡(cos⁡θ2 eiϕsin⁡θ2)=sin⁡θcos⁡ϕ\langle \sigma_x \rangle =2\operatorname{Re}\big(\cos\tfrac\theta2\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi}\sin\tfrac\theta2\big)=\sin\theta\cos\phi である。右辺は長さ1のベクトルなので、どの純粋状態でも ⟨σx⟩2+⟨σy⟩2+⟨σz⟩2=1\langle \sigma_x \rangle ^2+\langle \sigma_y \rangle ^2+\langle \sigma_z \rangle ^2=1 が成り立つ。量子ビットの純粋状態は、単位球面(Bloch 球面)の点と1対1に対応している。逆に、3つの期待値の2乗和が1より小さい統計を示す量子ビットは、どの ∣ψ⟩| \psi \rangle でも書けない。以下の3つの場面では、どれもこの判定で純粋状態でないことが分かる。

場面1:準備の情報が不完全なとき

ある装置が、確率 12\tfrac12 で ∣↑⟩| \uparrow \rangle を、確率 12\tfrac12 で ∣↓⟩| \downarrow \rangle を作って送り出すとする。どちらを作ったかは記録されていない。受け取った側が σz\sigma_z を測れば、+1+1 と −1-1 が半々に出る。σx\sigma_x を測ると、∣↑⟩| \uparrow \rangle でも ∣↓⟩| \downarrow \rangle でも ±1\pm1 が半々に出るので、合わせても半々である。σy\sigma_y も同じである。したがって3つの期待値はすべて 00 になり、2乗和は 00 である。これは (4.1.2) のどの点でもない。

ここで「本当はどちらか一方の状態にある」と考えても、期待値の計算には役に立たない。受け取った側に使えるのは確率 pip_i と状態 ∣ψi⟩| \psi_i \rangle の組(アンサンブル){pi,∣ψi⟩}\{p_i,| \psi_i \rangle \} だけで、すべての予言はこの組から出さなければならない。古典の統計力学で、相空間の1点の代わりに確率密度 ρ(q,p)\rho(q,p) を状態として扱った(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第1章)のと同じ事情である。

場面2:もつれた系の一部分を見るとき

2つの量子ビット A, B が

∣Φ+⟩=12(∣↑⟩A∣↑⟩B+∣↓⟩A∣↓⟩B)(4.1.3)| \Phi^+ \rangle =\frac{1}{\sqrt2}\big(| \uparrow \rangle _{\mathrm A}| \uparrow \rangle _{\mathrm B}+| \downarrow \rangle _{\mathrm A}| \downarrow \rangle _{\mathrm B}\big)\tag{4.1.3}

にあるとする。全体は1本の状態ベクトルで書けている。ところが A だけを測る人にとって、A の状態を書く状態ベクトルは無い。A の物理量 A^\hat A の期待値は ⟨Φ+∣A^⊗1∣Φ+⟩\langle \Phi^+ | \hat A\otimes\mathbf 1 | \Phi^+ \rangle で、A^=σz\hat A=\sigma_z なら 12(1)+12(−1)=0\tfrac12(1)+\tfrac12(-1)=0、A^=σx\hat A=\sigma_x なら σx⊗1\sigma_x\otimes\mathbf 1 が ∣↑⟩∣↑⟩| \uparrow \rangle | \uparrow \rangle を ∣↓⟩∣↑⟩| \downarrow \rangle | \uparrow \rangle に、∣↓⟩∣↓⟩| \downarrow \rangle | \downarrow \rangle を ∣↑⟩∣↓⟩| \uparrow \rangle | \downarrow \rangle に送り、どちらも ∣Φ+⟩| \Phi^+ \rangle と直交するので 00 である。σy\sigma_y も同じ理由で 00 である。3つとも 00 なので、場面1と同じく (4.1.2) のどの点でもない。A に状態ベクトルを当てられないのは「情報が足りない」からではない。全体の状態は完全に分かっている。部分だけを取り出す操作そのものが、状態ベクトルの外へ出る。

場面3:熱平衡にあるとき

温度 TT の熱浴と接して平衡に達した系では、エネルギー固有状態 ∣n⟩| n \rangle が Boltzmann の重み e−βEn/Z\mathrm{e}^{-\beta E_n}/Z(β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T))で現れる。これは場面1のアンサンブルの一種だが、重みが温度で決まり、どの固有状態が出たかを個々に知る手段は普通は無い。共通例題①(調和振動子)の熱平衡の Z=1/(2sinh⁡(βℏω/2))Z=1/(2\sinh(\beta\hbar\omega/2)) や ⟨n⟩=1/(eβℏω−1)\langle n \rangle =1/(\mathrm{e}^{\beta\hbar\omega}-1) は、このアンサンブルの平均である。この場面は第4部第4章(第4部第4章)で詳しく扱い、ここでは場面1と同じ形の平均になることだけを使う。

例題 4.1.1 3つの期待値をすべて 0 にする純粋状態は無い ★★

オリジナル

  1. (1) (4.1.1) の状態で ⟨σy⟩\langle \sigma_y \rangle を計算し、(4.1.2) の第2成分を確かめよ。
  2. (2) ⟨σx⟩=⟨σy⟩=⟨σz⟩=0\langle \sigma_x \rangle =\langle \sigma_y \rangle =\langle \sigma_z \rangle =0 を満たす単位ベクトル ∣ψ⟩| \psi \rangle が存在しないことを示せ。
  3. (3) 場面1の装置が、∣↑⟩| \uparrow \rangle と ∣↓⟩| \downarrow \rangle の代わりに ∣+⟩| + \rangle と ∣−⟩| - \rangle を半々で送り出すとき、3つの期待値を求めよ。
解答

(1) σy∣↑⟩=i∣↓⟩\sigma_y| \uparrow \rangle =\mathrm{i}| \downarrow \rangle、σy∣↓⟩=−i∣↑⟩\sigma_y| \downarrow \rangle =-\mathrm{i}| \uparrow \rangle なので、c=cos⁡θ2c=\cos\tfrac\theta2、s=sin⁡θ2s=\sin\tfrac\theta2 と書くと

σy∣ψ⟩=−is eiϕ∣↑⟩+ic∣↓⟩,⟨σy⟩=c(−is eiϕ)+s e−iϕ(ic)=ics (e−iϕ−eiϕ)=2cssin⁡ϕ=sin⁡θsin⁡ϕ.\begin{aligned}\sigma_y| \psi \rangle &=-\mathrm{i} s\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi}| \uparrow \rangle +\mathrm{i} c| \downarrow \rangle ,\\ \langle \sigma_y \rangle &=c(-\mathrm{i} s\,\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi})+s\,\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\phi}(\mathrm{i} c)=\mathrm{i} cs\,(\mathrm{e}^{-\mathrm{i}\phi}-\mathrm{e}^{\mathrm{i}\phi})=2cs\sin\phi=\sin\theta\sin\phi .\end{aligned}

(2) 任意の単位ベクトルは全体の位相を除いて (4.1.1) の形に書け、全体の位相は期待値を変えない。すると (4.1.2) から ⟨σx⟩2+⟨σy⟩2+⟨σz⟩2=sin⁡2θ(cos⁡2ϕ+sin⁡2ϕ)+cos⁡2θ=1\langle \sigma_x \rangle ^2+\langle \sigma_y \rangle ^2+\langle \sigma_z \rangle ^2=\sin^2\theta(\cos^2\phi+\sin^2\phi)+\cos^2\theta=1 で、3つが同時に 00 になることはない。

(3) ∣+⟩| + \rangle では ⟨σx⟩=1\langle \sigma_x \rangle =1、∣−⟩| - \rangle では −1-1 で、平均は 00。σz\sigma_z と σy\sigma_y はどちらの状態でも期待値 00 なので平均も 00。3つとも 00 で、場面1と同じ統計になる。{∣↑⟩,∣↓⟩}\{| \uparrow \rangle ,| \downarrow \rangle \} を混ぜても {∣+⟩,∣−⟩}\{| + \rangle ,| - \rangle \} を混ぜても、少なくとも Pauli 行列の測定では区別がつかない。これがどの測定でも区別できないことは第4.1.2節で示す。

木下の勉強ステータス

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