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共通例題②:2準位系を密度行列で解く

2026年10月17日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第4部 第1章 なぜ状態ベクトルでは足りないか
目次
  1. Bloch ベクトル
  2. von Neumann 方程式は Bloch ベクトルの回転
  3. 離調のばらついた集団:1個1個は純粋、集団は混合
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第4部 第1章 §4.1.4 ★★★ 量子ビットの密度行列は Bloch ベクトル r\bm{r} で ρ^=12(1+r⋅σ)\hat\rho=\tfrac12(\mathbf 1+\bm{r}\cdot\bm{\sigma}) と書け、∣r∣≤1\lvert \bm{r}\rvert \le1。von Neumann 方程式は r\bm{r} の回転になり、Rabi 振動が出る。離調のばらついた集団では ∣rˉ∣\lvert \bar{\bm{r}}\rvert が縮む

Bloch ベクトル

2×22\times2 のエルミート行列は 1,σx,σy,σz\mathbf 1,\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z の実係数の線型結合で書ける。トレース1の条件で 1\mathbf 1 の係数は 12\tfrac12 に決まるので、

ρ^=12(1+r⋅σ),r=Tr⁡(ρ^ σ)=(⟨σx⟩,⟨σy⟩,⟨σz⟩)(4.1.8)\hat\rho=\frac12\big(\mathbf 1+\bm{r}\cdot\bm{\sigma}\big),\qquad \bm{r}=\operatorname{Tr}(\hat\rho\,\bm{\sigma})=\big(\langle \sigma_x \rangle ,\langle \sigma_y \rangle ,\langle \sigma_z \rangle \big)\tag{4.1.8}

と書ける(Tr⁡σj=0\operatorname{Tr}\sigma_j=0、Tr⁡(σjσk)=2δjk\operatorname{Tr}(\sigma_j\sigma_k)=2\delta_{jk} を使えば r\bm{r} の成分が期待値になることが分かる)。r\bm{r} を Bloch ベクトルと呼ぶ。ρ^\hat\rho の固有値は r⋅σ\bm{r}\cdot\bm{\sigma} の固有値 ±∣r∣\pm\lvert \bm{r}\rvert から 12(1±∣r∣)\tfrac12(1\pm\lvert \bm{r}\rvert ) で、半正定値の条件は ∣r∣≤1\lvert \bm{r}\rvert \le1 になる。純粋度は

Tr⁡ρ^2=1+∣r∣22(4.1.9)\operatorname{Tr}\hat\rho^2=\frac{1+\lvert \bm{r}\rvert ^2}{2}\tag{4.1.9}

である。量子ビットの状態の集合は単位球(Bloch 球)の中身全体で、表面 ∣r∣=1\lvert \bm{r}\rvert =1 が純粋状態、内部が混合状態、中心 r=0\bm{r}=0 が最も混ざった状態 121\tfrac12\mathbf 1 に当たる(図 4.1.1)。第4.1.1節で使った判定「期待値のベクトルの長さが1か」は、(4.1.9) と命題 4.1.2 から、純粋状態かどうかの判定そのものである。

図

図 4.1.1 Bloch 球の ry=0r_y=0 の断面。表面の点が純粋状態、内部の点が混合状態。例題 4.1.2 の状態 r=(12,0,12)\bm{r}=(\tfrac12,0,\tfrac12) は、∣↑⟩| \uparrow \rangle と ∣+⟩| + \rangle を結ぶ線分(破線)の中点にある。混合は Bloch ベクトルの平均になる。

確率的な混合 pρ^1+(1−p)ρ^2p\hat\rho_1+(1-p)\hat\rho_2 は (4.1.8) が r\bm{r} について1次なので、Bloch ベクトルの平均 pr1+(1−p)r2p\bm{r}_1+(1-p)\bm{r}_2 になる。2つの点を結ぶ線分が球の中を通ることは、状態の集合が凸であることを図の上で表している。

von Neumann 方程式は Bloch ベクトルの回転

共通例題②のハミルトニアンは、回転座標で回転波近似をした後の

H^=−ℏΔ2σz−ℏΩ2σx=ℏ2 h⋅σ,h=(−Ω,0,−Δ)(4.1.10)\hat H=-\frac{\hbar\Delta}{2}\sigma_z-\frac{\hbar\Omega}{2}\sigma_x=\frac\hbar2\,\bm{h}\cdot\bm{\sigma},\qquad \bm{h}=(-\Omega,0,-\Delta)\tag{4.1.10}

である(Δ\Delta は離調、Ω\Omega は Rabi 角周波数。光の巻 光学と量子エレクトロニクス 第18章 で導いた形をそのまま使う)。(4.1.8) を (4.1.7) に入れる。Pauli 行列の交換関係 [σj, σk]=2i∑lϵjklσl\left[\sigma_j,\,\sigma_k\right]=2\mathrm{i}\sum_l\epsilon_{jkl}\sigma_l から[h⋅σ, r⋅σ]=2i(h×r)⋅σ\left[\bm{h}\cdot\bm{\sigma},\,\bm{r}\cdot\bm{\sigma}\right]=2\mathrm{i}(\bm{h}\times\bm{r})\cdot\bm{\sigma} なので、

12drdt⋅σ=dρ^dt=−iℏ⋅ℏ2⋅12⋅2i(h×r)⋅σ=12(h×r)⋅σ.\frac12\frac{\mathrm{d} \bm{r}}{\mathrm{d} t}\cdot\bm{\sigma}=\frac{\mathrm{d} \hat\rho}{\mathrm{d} t}=-\frac{\mathrm{i}}{\hbar}\cdot\frac\hbar2\cdot\frac12\cdot2\mathrm{i}(\bm{h}\times\bm{r})\cdot\bm{\sigma}=\frac12(\bm{h}\times\bm{r})\cdot\bm{\sigma} .

係数を比べて

drdt=h×r(4.1.11)\frac{\mathrm{d} \bm{r}}{\mathrm{d} t}=\bm{h}\times\bm{r}\tag{4.1.11}

を得る。これは r\bm{r} が軸 h/∣h∣\bm{h}/\lvert \bm{h}\rvert のまわりに角速度 ∣h∣=Ω2+Δ2=Ω′\lvert \bm{h}\rvert =\sqrt{\Omega^2+\Delta^2}=\Omega' で回る式で、∣r∣\lvert \bm{r}\rvert は変わらない。純粋度が保たれるという前節の結果の、量子ビットでの姿である。

初めに基底状態 ∣g⟩| g \rangle、つまり r(0)=(0,0,−1)\bm{r}(0)=(0,0,-1) にあるとする。軸の単位ベクトルを n=h/Ω′\bm{n}=\bm{h}/\Omega' とし、角度 Ω′t\Omega't の回転を Rodrigues の公式で書くと

r(t)=r(0)cos⁡Ω′t+(n×r(0))sin⁡Ω′t+n (n⋅r(0))(1−cos⁡Ω′t).(4.1.12)\bm{r}(t)=\bm{r}(0)\cos\Omega't+(\bm{n}\times\bm{r}(0))\sin\Omega't+\bm{n}\,(\bm{n}\cdot\bm{r}(0))(1-\cos\Omega't).\tag{4.1.12}

zz 成分は nz=−Δ/Ω′n_z=-\Delta/\Omega'、n⋅r(0)=Δ/Ω′\bm{n}\cdot\bm{r}(0)=\Delta/\Omega'、(n×r(0))z=0(\bm{n}\times\bm{r}(0))_z=0 からrz(t)=−cos⁡Ω′t−Δ2Ω′2(1−cos⁡Ω′t)r_z(t)=-\cos\Omega't-\frac{\Delta^2}{\Omega'^2}(1-\cos\Omega't)。励起状態にある確率は Pe=⟨e∣ρ^∣e⟩=12(1+rz)P_e=\langle e | \hat\rho | e \rangle =\tfrac12(1+r_z) なので

Pe(t)=12(1−Δ2Ω′2)(1−cos⁡Ω′t)=(ΩΩ′)2sin⁡2Ω′t2(4.1.13)P_e(t)=\frac12\Big(1-\frac{\Delta^2}{\Omega'^2}\Big)(1-\cos\Omega't)=\Big(\frac{\Omega}{\Omega'}\Big)^2\sin^2\frac{\Omega't}{2}\tag{4.1.13}

となる。共通例題②の正答で、光の巻と同じ形である。行列力学では Pauli 行列の Heisenberg 方程式から同じ式が出る(第2部第3章)。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの Ω/ω0→0\Omega/\omega_0\to0、∣Δ∣/ω0→0\lvert \Delta\rvert /\omega_0\to0(ω0\omega_0 は遷移の角周波数) | 証明 条件付き(時間 1/Ω1/\Omega の桁で誤差 O(Ω/ω0)\mathcal{O}(\Omega/\omega_0)。周期係数の常微分方程式の平均化の定理。強結合では Bloch–Siegert のずれ) | 行き先 近似の数理 第7章

離調のばらついた集団:1個1個は純粋、集団は混合

ここで場面1が実験でどう現れるかを見る。原子の気体やドープした結晶中のイオンでは、Doppler 効果や局所的な環境の違いで、原子ごとに離調 Δ\Delta が少しずつ違う(不均一な広がり)。1個の原子は (4.1.11) に従って純粋なまま回るが、どの原子がどの Δ\Delta を持つかは分からない。集団全体の測定(吸収の強さ・蛍光)には、Δ\Delta の分布 g(Δ)g(\Delta) で平均した

rˉ(t)=∫rΔ(t) g(Δ) dΔ,Pˉe(t)=1+rˉz(t)2=∫(ΩΩ′)2sin⁡2Ω′t2 g(Δ) dΔ\bar{\bm{r}}(t)=\int\bm{r}_\Delta(t)\,g(\Delta)\,\mathrm{d}\Delta,\qquad \bar P_e(t)=\frac{1+\bar r_z(t)}{2}=\int\Big(\frac{\Omega}{\Omega'}\Big)^2\sin^2\frac{\Omega't}{2}\,g(\Delta)\,\mathrm{d}\Delta

が現れる。rˉ\bar{\bm{r}} は平均なので一般に長さが1より小さく、集団の状態は混合状態になる。図 4.1.2 は、gg を標準偏差 Ω\Omega の Gauss 分布にとって数値積分した結果である。Δ=0\Delta=0 の1原子の PeP_e は 00 と 11 の間を振れ続けるが、集団の Pˉe\bar P_e は振幅が減っていく。∣rˉ∣\lvert \bar{\bm{r}}\rvert は1から下がり、Ωt≈8.6\Omega t\approx8.6 では 0.080.08 程度まで下がる。Ω′=Ω2+Δ2\Omega'=\sqrt{\Omega^2+\Delta^2} は Δ=0\Delta=0 の近くで Δ\Delta にほとんどよらないので、Δ\Delta の小さい原子はそろって回り続け、その後 ∣rˉ∣\lvert \bar{\bm{r}}\rvert はまた大きくなる。

図

図 4.1.2 離調 Δ\Delta が標準偏差 Ω\Omega の Gauss 分布に従う原子の集団を ∣g⟩| g \rangle から駆動したときの、励起確率の集団平均 Pˉe\bar P_e(実線)と Bloch ベクトルの平均の長さ ∣rˉ∣\lvert \bar{\bm{r}}\rvert(破線)。点線は Δ=0\Delta=0 の1原子の Pe=sin⁡2(Ωt/2)P_e=\sin^2(\Omega t/2)。どの原子も純粋状態のまま回っているが、集団の状態は ∣rˉ∣<1\lvert \bar{\bm{r}}\rvert <1 の混合状態になる。どの曲線も近似を使っていない(回転波近似の後のハミルトニアン (4.1.10) での厳密な計算)。

この減り方は、各原子の時間発展がユニタリのままで起きている。系と環境の相互作用で個々の原子の純粋度が下がる緩和(第4部第5章の T1T_1・T2T_2)とは別物で、NMR の分野では、不均一な広がりを含めた横成分の減衰時間を T2∗T_2^* と書いて T2T_2 と区別する。不均一な広がりによる減衰は、途中で r\bm{r} を xx 軸まわりに π\pi 回すと各原子の位相のずれが逆向きにたどられて戻る(スピンエコー。Hahn (1950), Phys. Rev. 80, 580)。純粋度の下がった本物の緩和は戻らない。この違いは状態ベクトル1本の公理では書き分けられず、集団の ρ^\hat\rho と各原子の ρ^\hat\rho を両方持つ密度行列の言葉で初めて書ける。

例題 4.1.4 離調 ±Ω\pm\Omega の2つの原子を半々に混ぜる ★★★

オリジナル離調が Δ=+Ω\Delta=+\Omega の原子と Δ=−Ω\Delta=-\Omega の原子が同数ある集団を、どちらも ∣g⟩| g \rangle から (4.1.10) で駆動する。Ω′=2 Ω\Omega'=\sqrt2\,\Omega である。

  1. (1) (4.1.12) を使って、それぞれの原子の r±(t)\bm{r}_\pm(t) を求め、∣r±∣=1\lvert \bm{r}_\pm\rvert =1 を確かめよ。
  2. (2) 集団の Bloch ベクトル rˉ=12(r++r−)\bar{\bm{r}}=\tfrac12(\bm{r}_++\bm{r}_-) と純粋度を求めよ。
  3. (3) t=π/Ω′t=\pi/\Omega' での各原子の状態と、集団の状態を求めよ。PeP_e の測定でこの2つを区別できるか。
解答

(1) Δ=±Ω\Delta=\pm\Omega で n±=(−1,0,∓1)/2\bm{n}_\pm=(-1,0,\mp1)/\sqrt2。r(0)=(0,0,−1)\bm{r}(0)=(0,0,-1) に対して n±⋅r(0)=±1/2\bm{n}_\pm\cdot\bm{r}(0)=\pm1/\sqrt2、n±×r(0)=(0,−1,0)/2\bm{n}_\pm\times\bm{r}(0)=(0,-1,0)/\sqrt2(両方同じ)。c=cos⁡Ω′tc=\cos\Omega't、s=sin⁡Ω′ts=\sin\Omega't と書くと (4.1.12) から

r±(t)=(∓1−c2, −s2, −1+c2).\bm{r}_\pm(t)=\Big(\mp\frac{1-c}{2},\ -\frac{s}{\sqrt2},\ -\frac{1+c}{2}\Big).

長さの2乗は (1−c)2+(1+c)24+s22=1+c22+s22=1\frac{(1-c)^2+(1+c)^2}{4}+\frac{s^2}{2}=\frac{1+c^2}{2}+\frac{s^2}{2}=1 で、各原子は純粋状態のままである。

(2) xx 成分が打ち消し合って rˉ=(0, −s/2, −(1+c)/2)\bar{\bm{r}}=\big(0,\ -s/\sqrt2,\ -(1+c)/2\big)。(4.1.9) から純粋度は 12(1+s22+(1+c)24)\tfrac12\big(1+\tfrac{s^2}{2}+\tfrac{(1+c)^2}{4}\big) で、c=1c=1(t=0t=0)のときだけ1になる。

(3) Ω′t=π\Omega't=\pi で c=−1c=-1、s=0s=0。各原子は r±=(∓1,0,0)\bm{r}_\pm=(\mp1,0,0) で、Δ=+Ω\Delta=+\Omega の原子は ∣−⟩| - \rangle、Δ=−Ω\Delta=-\Omega の原子は ∣+⟩| + \rangle にある。集団は rˉ=0\bar{\bm{r}}=0、つまり ρ^=121\hat\rho=\tfrac12\mathbf 1(純粋度 12\tfrac12)。Pe=12(1+rz)P_e=\tfrac12(1+r_z) は各原子でも集団でも 12\tfrac12 で、PeP_e だけでは区別できない。個々の原子の状態の違いは rxr_x の符号にだけ現れ、平均で消えている。

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