量子力学の様々な構成方法 第4部 第1章 §4.1.3 ★★★ 第4部の公理:状態=密度演算子・確率=Tr(ρ^P^a)・時間発展=U^ρ^U^†(von Neumann 方程式)・測定後=P^aρ^P^a・合成系=テンソル積と部分トレース
5つの要請
第4.1.2節で、期待値と確率が ρ^ だけで書けることを見た。第4部では、これを出発点の要請として最初に置く。基準の公理(第1部第2章)の各項目を ρ^ で書き直すと次のようになる。
定義 4.1.3(密度演算子による構成の要請 ★★★)
- (D1) 状態:系の状態は、ヒルベルト空間 H 上の密度演算子 ρ^(定義 4.1.1)で表す。
- (D2) 測定の確率:物理量 A^=∑aaP^a を測って値 a を得る確率は Pr(a)=Tr(ρ^P^a)。したがって期待値は Tr(ρ^A^)。
- (D3) 時間発展:孤立した系では ρ^(t)=U^(t)ρ^(0)U^(t)†、U^(t)=e−iH^t/ℏ(H^ が時刻によらないとき)。
- (D4) 測定後の状態:値 a を得た後の状態は P^aρ^P^a/Tr(ρ^P^a)(Lüders の規則)。結果を読まずに平均すると ∑aP^aρ^P^a。
- (D5) 合成系:系 A と B を合わせた系の状態は HA⊗HB 上の密度演算子 ρ^AB。A だけを見るときの状態は部分トレース ρ^A=TrBρ^AB(第4.1.5節)。
(D1)〜(D5) はどれも、アンサンブル {pi,∣ψi⟩} の各成分に基準の公理を当てて平均したものと一致するように選んである。(D2) は (4.1.5) そのものである。(D3) は各 ∣ψi⟩ を U^∣ψi⟩ に送れば∑ipiU^∣ψi⟩⟨ψi∣U^†=U^ρ^U^† となることから従う。(D4) で結果を読まない場合は、値 a が確率 Tr(ρ^P^a) で出て、その後の状態が P^aρ^P^a/Tr(ρ^P^a) になるアンサンブルを平均したものである。
von Neumann 方程式
(D3) を時間で微分すると、dtdU^=−ℏiH^U^、dtdU^†=ℏiU^†H^ から
iℏdtdρ^=H^ρ^−ρ^H^=[H^,ρ^](4.1.7)
を得る。これを von Neumann 方程式と呼ぶ。H^ が時刻による場合も、各 ∣ψi(t)⟩ が Schrödinger 方程式に従うことから同じ式が出る。Tr[H^,ρ^]=0 なので Trρ^ は保たれ、Trρ^2 も dtdTrρ^2=iℏ2Tr(ρ^[H^,ρ^])=0 で保たれる。孤立した系の時間発展では、純粋状態は純粋状態のまま、混合状態は同じ純粋度の混合状態のままである。純粋度は、(D4) の測定をした場合か、系が環境と相互作用して (D5) の部分トレースを取る場合にだけ変わる。後者は第4部第5章(第4部第5章)で Lindblad 方程式として扱う。
符号に注意しておく。Heisenberg 描像の演算子は iℏdtdA^H=[A^H,H^] に従う(第2部第3章)。(4.1.7) は交換子の順序が逆である。ρ^ は Schrödinger 描像の状態で、物理量ではないので、Heisenberg の運動方程式に従う理由はない。両者が同じ期待値を与えることは第4.1.6節で確かめる。
状態の集合は凸集合で、純粋状態はその端点
2つの密度演算子 ρ^1,ρ^2 と 0≤p≤1 に対して、pρ^1+(1−p)ρ^2 もまた (4.1.6) を満たす。これは「確率 p で ρ^1 を、確率 1−p で ρ^2 を準備する」という操作に当たる。状態ベクトルでは p∣ψ1⟩+1−p∣ψ2⟩ のような重ね合わせは作れても、確率的に混ぜる操作を状態の中で書けなかった。(D1) の状態の集合は、確率的な混合で閉じている(凸集合である)。
命題 4.1.4(純粋状態は混ぜて作れない)
∣ψ⟩⟨ψ∣=pρ^1+(1−p)ρ^2(0<p<1)なら ρ^1=ρ^2=∣ψ⟩⟨ψ∣ である。つまり純粋状態は状態の集合の端点である。
証明
∣ψ⟩ に直交する任意の ∣χ⟩ で挟むと 0=p⟨χ∣ρ^1∣χ⟩+(1−p)⟨χ∣ρ^2∣χ⟩。両項は非負なので ⟨χ∣ρ^j∣χ⟩=0。半正定値の演算子で ⟨χ∣ρ^j∣χ⟩=0 なら ρ^j1/2∣χ⟩=0、したがって ρ^j∣χ⟩=0 である。ρ^j は ∣ψ⟩ の直交補空間を 0 に送るエルミート演算子なので ρ^j=cj∣ψ⟩⟨ψ∣ の形で、トレース1から cj=1。
混合状態は端点ではないので、2つ以上の異なる状態の混合として書ける。書き方が1通りでないことが、第4部第3章の主題につながる。
例題 4.1.3 結果を読まない測定は純粋状態を混合状態にする ★★★
オリジナル量子ビットを ∣+⟩ に準備し、σz を測る。P^↑=∣↑⟩⟨↑∣、P^↓=∣↓⟩⟨↓∣ とする。
- (1) 結果が +1 である確率と、そのときの測定後の状態を (D2)・(D4) で求めよ。
- (2) 結果を読まずに平均した測定後の状態を求め、純粋度が 1 から 21 に下がることを確かめよ。
- (3) 測定の前後で ⟨σx⟩ はどう変わるか。状態ベクトルの公理だけでは (2) の状態が書けないことと合わせて述べよ。
解答
(1) ρ^=∣+⟩⟨+∣=21(1111)。Pr(+1)=Tr(ρ^P^↑)=⟨↑∣ρ^∣↑⟩=21。P^↑ρ^P^↑=21∣↑⟩⟨↑∣ なので、測定後の状態は ∣↑⟩⟨↑∣。−1 も確率 21 で、その後は ∣↓⟩⟨↓∣。
(2) P^↑ρ^P^↑+P^↓ρ^P^↓=21(1000)+21(0001)=211。Trρ^2 は測定前が 1、測定後が Tr(411)=21。非対角成分(∣↑⟩ と ∣↓⟩ の位相の関係)が 0 になり、対角成分だけが残った。
(3) 測定前は Tr(ρ^σx)=1、測定後は Tr(21σx)=0。σz の測定は σx の値を壊す。測定装置の結果を読まない人にとって、測定後の系は ∣↑⟩ か ∣↓⟩ のどちらかが半々で入ったアンサンブルで、例題 4.1.1 (2) と同じ理由でどの状態ベクトルでも書けない。結果を読まない測定は、場面1に並ぶ4つ目の場面である。
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