量子力学の様々な構成方法 第4部 第1章 §4.1.2 ★★★ アンサンブルの期待値は Tr(ρ^A^)、ρ^=∑ipi∣ψi⟩⟨ψi∣ と書ける。予言に要るのは ρ^ だけで、アンサンブルの細部は要らない
アンサンブルの期待値
アンサンブル {pi,∣ψi⟩}(pi≥0、∑ipi=1、各 ∣ψi⟩ は単位ベクトルで、互いに直交している必要はない)で物理量 A^ を測る。状態 ∣ψi⟩ が選ばれる確率が pi で、選ばれた後の期待値が基準の公理により ⟨ψi∣A^∣ψi⟩ なので、全体の期待値は
⟨A^⟩=i∑pi⟨ψi∣A^∣ψi⟩
である。正規直交基底 {∣k⟩} を1組取り、⟨ψ∣A^∣ψ⟩=∑k⟨ψ∣A^∣k⟩⟨k∣ψ⟩=∑k⟨k∣(∣ψ⟩⟨ψ∣)A^∣k⟩=Tr(∣ψ⟩⟨ψ∣A^) と書き直すと、
⟨A^⟩=Tr(ρ^A^),ρ^:=i∑pi∣ψi⟩⟨ψi∣(4.1.4)
を得る。測定値の確率も同じ形になる。A^ のスペクトル分解を A^=∑aaP^a(P^a は固有値 a の固有空間への射影)とすると、状態 ∣ψi⟩ で a が出る確率は Born の規則により ⟨ψi∣P^a∣ψi⟩ なので、
Pr(a)=i∑pi⟨ψi∣P^a∣ψi⟩=Tr(ρ^P^a).(4.1.5)
(4.1.4) と (4.1.5) の右辺には pi と ∣ψi⟩ が ρ^ の形でしか入っていない。したがって、同じ ρ^ を与える2つのアンサンブルは、どんな物理量のどんな測定でも同じ統計を示す。例題 4.1.1 (3) の2つのアンサンブルは
21∣↑⟩⟨↑∣+21∣↓⟩⟨↓∣=211=21∣+⟩⟨+∣+21∣−⟩⟨−∣
と同じ ρ^ を与えるので、Pauli 行列に限らずどの測定でも区別できない。同じ ρ^ を与えるアンサンブルがどれだけあるか、それを区別する方法が本当に無いかは、第4部第3章(第4部第3章)の主題である。この章では、ρ^ が予言に必要な情報をすべて含み、それ以上の情報(どのアンサンブルから作ったか)は予言に使われないことを出発点に取る。
密度演算子の3つの性質
(4.1.4) の ρ^ は次の3つを満たす。
定義 4.1.1(密度演算子)
ヒルベルト空間 H 上の演算子 ρ^ が
ρ^†=ρ^,⟨ϕ∣ρ^∣ϕ⟩≥0 (すべての ∣ϕ⟩),Trρ^=1(4.1.6)
(エルミート・半正定値・トレース1)を満たすとき、密度演算子と呼ぶ。基底を決めて行列で書いたものを密度行列と呼ぶ。
3つの性質の確かめ方は短い。各 ∣ψi⟩⟨ψi∣ はエルミートで、実係数 pi の和もエルミートである。⟨ϕ∣ρ^∣ϕ⟩=∑ipi∣⟨ϕ∣ψi⟩∣2≥0。Tr∣ψi⟩⟨ψi∣=⟨ψi∣ψi⟩=1 なので Trρ^=∑ipi=1。この3つは、(4.1.5) の Pr(a) が実数で、非負で、和が1になるための条件と対応している。
逆に、(4.1.6) を満たす ρ^ はどれもアンサンブルから作れる。有限次元なら ρ^ はエルミートなので固有値分解 ρ^=∑kλk∣k⟩⟨k∣ ができ、半正定値から λk≥0、トレース1から ∑kλk=1 である。そこで {λk,∣k⟩} をアンサンブルとみなせばよい。
純粋状態と混合状態
ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ と1本の状態ベクトルで書けるものを純粋状態、そうでないものを混合状態と呼ぶ。両者を区別する量が純粋度 Trρ^2 である。
命題 4.1.2(純粋度による判定)
d 次元の密度演算子について 1/d≤Trρ^2≤1 で、Trρ^2=1 と ρ^ が純粋状態であることは同値である。最小値 1/d をとるのは ρ^=1/d だけである。
証明
固有値を λk とすると Trρ^2=∑kλk2。0≤λk≤1 なので λk2≤λk、和を取って Trρ^2≤∑kλk=1。等号は各 k で λk2=λk、つまり λk∈{0,1} のときに限る。和が1なので固有値1がちょうど1つで、ρ^=∣k⟩⟨k∣ になる。逆に ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ なら ρ^2=∣ψ⟩⟨ψ∣ψ⟩⟨ψ∣=ρ^ で Trρ^2=1。下限は Cauchy–Schwarz の不等式 1=(∑kλk)2≤d∑kλk2 から出て、等号はすべての λk が等しいときに限る。
純粋状態の ρ^=∣ψ⟩⟨ψ∣ は、∣ψ⟩ に全体の位相 eiα を掛けても変わらない。基準の公理では「状態は単位ベクトルだが、位相だけ違うものは同じ状態とみなす」という但し書きが要ったが、密度演算子ではこの但し書きが要らない。状態ベクトルの書き方に含まれていた余分な自由度を、ρ^ は最初から持っていない。
例題 4.1.2 ∣↑⟩ と ∣+⟩ を半々に混ぜる ★★
オリジナル装置が確率 21 で ∣↑⟩ を、確率 21 で ∣+⟩ を送り出す。
- (1) 密度行列を {∣↑⟩,∣↓⟩} の基底で書け。
- (2) ⟨σx⟩ を、アンサンブルの平均 ∑ipi⟨ψi∣σx∣ψi⟩ と Tr(ρ^σx) の両方で計算して一致を確かめよ。⟨σy⟩、⟨σz⟩ も求めよ。
- (3) 固有値と純粋度を求め、この状態が混合状態であることを確かめよ。
解答
(1) ∣↑⟩⟨↑∣=(1000)、∣+⟩⟨+∣=21(1111) なので
ρ^=21(1000)+41(1111)=41(3111).
(2) ⟨↑∣σx∣↑⟩=0、⟨+∣σx∣+⟩=1 なので平均は 21⋅0+21⋅1=21。一方 ρ^σx=41(1131) で、Tr(ρ^σx)=41(1+1)=21。一致する。同様に Tr(ρ^σz)=41(3−1)=21、Tr(ρ^σy)=0(ρ^ の非対角成分が実数なので)。期待値のベクトルは (21,0,21) で、長さは 1/2<1 である。
(3) 固有値は λ2−λ+detρ^=0、detρ^=161(3−1)=81 から λ=21(1±21)≈0.854, 0.146。純粋度は λ+2+λ−2=41(2+2⋅21)=43<1 で、命題 4.1.2 により混合状態である。固有値の一方が 0 でないことからも、1本の状態ベクトルでは書けないことが分かる。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com