運動方程式の要請:正準方程式に帽子を付ける
AI 生成・木下が未勉強
量子力学の様々な構成方法 第2部 第3章 §2.3.1 ★★★ 行列力学の時間発展の出発点の要請。交換子の形と正準方程式の形が同値であることを証明する
前の章(第2部第2章)では、正準量子化の処方 (C1)〜(C4) を定め、そのうち (C1)〜(C3)、すなわち演算子と交換関係と順序の選び方を調べた。この章は残りの (C4)、物理量の演算子の時間発展の要請
を受け持つ。第2部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)の中では、出発点の要請の後半と、共通例題のうち時間発展を問うもの(③自由粒子の広がり・②2準位系の Rabi 振動・①調和振動子の行列要素の時間変化)を受け持つ。
行列力学では、状態は動かず、物理量の演算子(Heisenberg の表)が時間とともに動く。この章で書く は、第1部の基準の言葉ではHeisenberg 描像の演算子 に当たる(第1部第2章)。ただし行列力学の側には最初に状態ベクトルも時間発展のユニタリ演算子も無いので、この章では運動方程式そのものを出発点に置き、そこから何が導けるかを順に調べる。
結論を先に書く。第一に、位置と運動量の演算子が従う方程式は、Hamiltonian の順序をどう選んでも、古典の正準方程式に帽子を付けた形、 に厳密に書ける(2.3.1 節)。第二に、この時間発展は交換関係を保ち、Hamiltonian と交換する量を保存させる。これは古典の時間発展が正準変換で、Poisson 括弧が0の量が保存することの量子版である(2.3.2 節)。第三に、Hamiltonian が と の2次以下なら、演算子の方程式は古典と同じ係数の線形方程式になり、古典の解の初期値を演算子に置き換えたものが厳密な解になる(2.3.3・2.3.4 節)。第四に、3次以上のポテンシャルでは、演算子の方程式は古典と同じ形のままでも、期待値の方程式が閉じない。古典との違いは のべきの項として、また準位の離散性による振幅の崩れと復活として現れる(2.3.5 節)。
同じ方程式を「解析力学の量子版」として書いた章が 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第3章にある。そちらは Schrödinger 方程式からHeisenberg 方程式を導き、Ehrenfest の定理とビリアル定理まで扱っている。この章では向きを逆にし、運動方程式を要請として置いたときに何が導けるか、とくに行列力学の内部だけでスペクトルと時間発展がどう決まるかに頁を使う。
要請の2つの形
自由度 の系を考え、正準変数の演算子 、 が正準交換関係 、 を満たすとする。Hamiltonian の演算子 は 、 の多項式で、積の順序は前の章のどれかの規則で決めてあるとする。時間発展の要請は、歴史的には2つの形で書かれた。
定義 2.3.1(時間発展の要請の2つの形)
- (E1) 正準方程式の形:正準変数の演算子が
に従う。右辺の偏微分は、下の定義 2.3.2 の形式的な微分である。2. (E2) 交換子の形:時刻を陽に含まないすべての物理量 (、 の多項式)が
に従う。
(E1) は Born と Jordan が 1925 年の論文(M. Born and P. Jordan, Z. Phys. 34, 858 (1925))で、古典の正準方程式をそのまま行列の方程式として要請した形である。(E2) は基準(第1部)の Heisenberg 描像の式と同じ形で、前の章の処方の (C4) はこちらを採った。古典の側でも「正準変数が Hamilton 方程式に従う」と「すべての物理量が に従う」は同じことを言っている。量子の側でも同じことが成り立つのを、次の補題を道具にして示す。
演算子の多項式の形式的な微分
定義 2.3.2(形式的な微分)
、 を並べた積(語) に対し、 を「語の中の を1つ取り除いた語」を、取り除く位置のすべてについて足したものと定める。
も同じように定め、多項式には線型に広げる。
たとえば なら、 は1番目と4番目にあるので である。 は2番目と3番目にあり、どちらを取り除いても が残るので である。演算子が可換なら、この定義は普通の偏微分に一致する。
証明
両辺とも について線型なので、語 について示せばよい。交換子は積について Leibniz 則 を満たすので、これを 回使うと
となる。 は のとき で、それ以外では0である。 は数なので語の外に出せ、残りは を1つ取り除いた語になる。これが第1式である。第2式は から同じように出る。
古典では 、 である。補題 2.3.3 は、この2つの式が規則 のもとで、積の順序をどう選んでも厳密に保たれることを言っている。
2つの形の同値
定理 2.3.4((E1) と (E2) の同値)
正準交換関係のもとで、正準変数が (E1) に従うことと、すべての多項式 が (E2) に従うことは同値である。
証明
(E2) (E1):(E2) を に当て、補題 2.3.3 を使うと となる。 も同じである。
(E1) (E2):時間微分 と、 の2つの写像を比べる。どちらも線型で、積について Leibniz 則 を満たす( は積の微分の規則、 は交換子の Leibniz 則による。演算子の積の順序は保ったまま微分する)。(E1) と補題から、2つの写像は生成元 、 の上で一致する。Leibniz 則を満たす線型写像は生成元の上の値で多項式全体の上の値が決まるので、 がすべての多項式で成り立つ。
正準方程式は順序によらず厳密に成り立つ
正準変数そのものの運動方程式は、 の積の順序をどう選んでも、古典の Hamilton 方程式に帽子を付けた形 (2.3.1) に厳密に書ける。順序の選び方は、形式的な微分 の中の積の並び方にだけ入る。量子と古典の違いが現れるのは、正準変数の方程式ではなく、その積で作った物理量(、 など)の方程式と、期待値の方程式である(2.3.5・2.3.6 節)。
例題 2.3.1 位置で変わる質量の正準方程式 ★★
オリジナル前の章の例題で使った質量の関数 を、BenDaniel–Duke の順序で量子化した
を考える(、 は正の定数)。
- (1) 補題 2.3.3 を使って、 と の Heisenberg 方程式を書け。
- (2) 古典の の Hamilton 方程式と比べ、(1) の右辺がそれぞれ古典の右辺の Weyl の順序の量子化に一致することを示せ。
解答
(1) である。第1項の形式的な微分は 、第2項は本文の例のとおり、 である。したがって
(2) 古典の方程式は 、 である。 を使うと 、 なので、 の Weyl の順序 は に等しい。同じく 、 なので、 の Weyl の順序は である。よって (1) の右辺は、古典の右辺 と をWeyl の順序で量子化したものにちょうど一致する。 そのものは Weyl の順序ではない(前の章で、差は の定数だった)が、定数は交換子に入らないので運動方程式は同じになる。
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