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正準量子化の処方:何を入れて何が出てくるか

2026年10月17日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第2章 Poisson 括弧から交換子へ:正準量子化の処方と順序の曖昧さ
目次
  1. 古典の側に用意するもの
  2. 処方
  3. 基準と比べて何が与えられ、何が作られるか
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第2部 第2章 §2.2.1 ★★★ 正準量子化という構成の出発点の要請そのもの。基準と比べて「何が与えられ、何が作られるか」を表にする

前の章(第2部第1章)では、Heisenberg が観測できる量の配列だけで理論を作ろうとした動機を見た。この章では、その配列(演算子)が満たすべき代数を、古典力学からどう持ち込むかを書く。第2部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)の中で、この章は最初の2つ、すなわち「何を公理に置くか」と「基本の対象は何か」を受け持つ。

正準量子化が出発点に置くものは2つある。1つは古典の Hamilton 系、すなわち相空間の正準座標 (qi,pi)(q_i,p_i) と Hamiltonian H(q,p)H(q,p) である。もう1つは、Poisson 括弧を交換子に置き換える規則

{A,B}  ⟶  1iℏ[A^, B^](2.2.1)\{A,B\}\;\longrightarrow\;\frac{1}{\mathrm{i}\hbar}\left[\hat A,\,\hat B\right]\tag{2.2.1}

である。第1部の基準(第1部第2章)は、ヒルベルト空間と Hamiltonian の演算子を最初から与えていた。正準量子化では、ヒルベルト空間は出発点に無い。交換関係を満たす演算子の組を作り、その表現として後からヒルベルト空間が得られる。この順序の違いが、第2部の構成を第1部の基準と比べるときの要点になる。

結論を先に書く。規則 (2.2.1) は、qq と pp の2次以下の多項式に対しては矛盾なく働き、古典の Hamilton 方程式と同じ形の運動方程式が得られる。qq と pp を掛け合わせた3次以上の項では、積の順序を決めないと演算子が定まらず、順序の違いは ℏ\hbar のべきの補正として現れる。この補正は、位置で変わる有効質量や曲線座標を扱うときに観測量の差になる。さらに、すべての関数について規則 (2.2.1) を厳密に守る量子化は存在しない(Groenewold–van Hove の定理)。そのため正準量子化は「デカルト座標で書き、2次までは規則どおりに、それより上は順序を選んで」使う処方として理解するのがよい。

同じ話題を解析力学の側から書いた章が 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第1章にある。そちらは Dirac の議論の細部、[q^, p^]=iℏ\left[\hat q,\,\hat p\right]=\mathrm{i}\hbar を満たす演算子が非有界であること、Ehrenfest の定理まで書いている。この章では導出が重なる所を短くし、構成を比べるのに要る所、すなわち処方に何を入れて何が出てくるか、順序の選び方が観測量を変える例、座標の選び方が答えを変える例に頁を使う。

古典の側に用意するもの

自由度 ff の古典系を Hamilton 形式で書く。相空間の点は正準座標 (q1,…,qf,p1,…,pf)(q_1,\dots,q_f,p_1,\dots,p_f) で表し、2つの物理量 A(q,p)A(q,p)、B(q,p)B(q,p) の Poisson 括弧を

{A,B}=∑i=1f(∂A∂qi∂B∂pi−∂A∂pi∂B∂qi)(2.2.2)\{A,B\}=\sum_{i=1}^f\Bigl(\frac{\partial A}{\partial q_i}\frac{\partial B}{\partial p_i}-\frac{\partial A}{\partial p_i}\frac{\partial B}{\partial q_i}\Bigr)\tag{2.2.2}

で定める(記法は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第11章と同じで、{qi,pj}=δij\{q_i,p_j\}=\delta_{ij})。物理量の時間変化は dAdt={A,H}+∂A∂t\frac{\mathrm{d} A}{\mathrm{d} t}=\{A,H\}+\frac{\partial A}{\partial t} で与えられ、A=qiA=q_i、pip_i とおけば Hamilton 方程式に戻る。Poisson 括弧は双線型・反対称で、Leibniz 則 {A,BC}={A,B}C+B{A,C}\{A,BC\}=\{A,B\}C+B\{A,C\} と Jacobi 恒等式{A,{B,C}}+{B,{C,A}}+{C,{A,B}}=0\{A,\{B,C\}\}+\{B,\{C,A\}\}+\{C,\{A,B\}\}=0 を満たす。正準量子化はこの代数構造を演算子の上に写すことを目標にする。

ここで正準座標は、ただの正準座標でなくデカルト座標にとる。直交座標系での粒子の位置 x,y,zx,y,z とそれに共役な運動量 px,py,pzp_x,p_y,p_z、あるいは回路の電荷と磁束のように、相空間が R2f\mathbb{R}^{2f} 全体で、座標の範囲に制限も周期性も無いものを使う。この条件が要る理由は 2.2.5 節で示す。

処方

定義 2.2.1(正準量子化の処方)

デカルト座標の正準変数 (qi,pi)(q_i,p_i) を持つ古典系に対し、次の手順で量子論を作る。

  1. (C1) 正準変数を自己共役な演算子 q^i\hat q_i、p^i\hat p_i に置き換える。
  2. (C2) それらに正準交換関係

[q^i, p^j]=iℏ δij,[q^i, q^j]=[p^i, p^j]=0(2.2.3)\left[\hat q_i,\,\hat p_j\right]=\mathrm{i}\hbar\,\delta_{ij},\qquad \left[\hat q_i,\,\hat q_j\right]=\left[\hat p_i,\,\hat p_j\right]=0\tag{2.2.3}

を課す。これは {qi,pj}=δij\{q_i,p_j\}=\delta_{ij} に規則 (2.2.1) を当てたものである。3. (C3) 一般の物理量 A(q,p)A(q,p) には、qq と pp の積の順序を決めて演算子 A^=Q(A)\hat A=\mathcal Q(A) を対応させる。とくに Hamiltonian の演算子を H^=Q(H)\hat H=\mathcal Q(H) とする。実の AA には自己共役な A^\hat A を対応させる。4. (C4) 物理量の時間発展を dA^dt=[A^, H^]/(iℏ)\frac{\mathrm{d} \hat A}{\mathrm{d} t}=\left[\hat A,\,\hat H\right]/(\mathrm{i}\hbar) とする。状態の空間は、(2.2.3) を満たす演算子の既約な表現の空間とする。

(C3) の写像 Q\mathcal Q を量子化の写像と呼ぶ。(C4) の運動方程式が古典の dAdt={A,H}\frac{\mathrm{d} A}{\mathrm{d} t}=\{A,H\} とどう対応するかは第2部第3章で、表現が本質的に1つしかないこと(Stone–von Neumann の定理)は 第2部第6章で扱う。ここでは (C1)〜(C3) の中身、とくに (C3) の「順序を決めて」の部分を調べる。

Hamiltonian が H=∑ipi2/(2m)+V(q)H=\sum_i p_i^2/(2m)+V(q) の形なら、(C3) に曖昧さは無い。pi2p_i^2 も V(q)V(q) も、互いに交換しない qq と pp の積を含まないからである。1粒子の量子力学の教科書に出てくる系の多くはこの形なので、普段は (C3) の曖昧さを意識しない。qq と pp が同じ項に掛かっている場合に、曖昧さが現れる。磁場中の荷電粒子の (p−qeA(r))2(\bm{p}-q_{\mathrm e}\bm{A}(\bm{r}))^2、位置で変わる質量の p2/m(q)p^2/m(q)、曲線座標の運動エネルギーがその例である。

基準と比べて何が与えられ、何が作られるか

第1部の基準と正準量子化を、与えるものと作るものの対で並べると表 2.2.1 のようになる。

表 2.2.1 基準(第1部)と正準量子化(第2部)の出発点の比較
基準(状態ベクトルと演算子)正準量子化
最初に与えるものヒルベルト空間 H\mathcal{H}、自己共役な H^\hat H、観測量古典の相空間と H(q,p)H(q,p)、規則 (2.2.1)
ヒルベルト空間公理として置く(2.2.3) の表現として作る
H^\hat H公理として置くH(q,p)H(q,p) に順序を決めて作る
古典との関係公理の外(後から古典極限を調べる)公理の中(古典系が入力)
古典に対応物の無い系そのまま書ける(スピン・量子ビット)入力の古典系が無いので、そのままでは書けない

表の最後の行は、正準量子化の限界の1つを示している。スピン 12\tfrac12 には古典の正準変数の組が無いので、(C1) から始められない。第2部ではスピンを角運動量の交換関係 [L^x, L^y]=iℏL^z\left[\hat L_x,\,\hat L_y\right]=\mathrm{i}\hbar\hat L_z の表現として扱い(第2部第4章)、球面を相空間とみる幾何学的な見方は 第10部第5章に送る。

処方全体の流れを図 2.2.1 にまとめる。

図

図 2.2.1 正準量子化の処方。入力は古典の Hamilton 系で、ヒルベルト空間は交換関係の表現として後から得られる。順序の選択は (C3) の矢印に入る。

例題 2.2.1 角運動量の交換関係を処方から出す ★★

オリジナル3次元の粒子の角運動量 Lx=q2p3−q3p2L_x=q_2p_3-q_3p_2、Ly=q3p1−q1p3L_y=q_3p_1-q_1p_3、Lz=q1p2−q2p1L_z=q_1p_2-q_2p_1 を考える(q1,q2,q3q_1,q_2,q_3 はデカルト座標)。

  1. (1) Poisson 括弧 {Lx,Ly}\{L_x,L_y\} を計算せよ。
  2. (2) (C3) で LxL_x を演算子にするとき、順序の曖昧さが無いことを示せ。
  3. (3) 正準交換関係 (2.2.3) だけを使って [L^x, L^y]\left[\hat L_x,\,\hat L_y\right] を計算し、規則 (2.2.1) と一致することを確かめよ。
解答

(1) Poisson 括弧の双線型性から {Lx,Ly}={q2p3,q3p1}−{q2p3,q1p3}−{q3p2,q3p1}+{q3p2,q1p3}\{L_x,L_y\}=\{q_2p_3,q_3p_1\}-\{q_2p_3,q_1p_3\}-\{q_3p_2,q_3p_1\}+\{q_3p_2,q_1p_3\} である。第2項と第3項は、片方が持つ座標の共役運動量をもう片方が持たないので0になる。第1項では p3p_3 と q3q_3 の組だけが寄与し、{q2p3,q3p1}=q2p1{p3,q3}=−q2p1\{q_2p_3,q_3p_1\}=q_2p_1\{p_3,q_3\}=-q_2p_1 となる。第4項は同様に {q3p2,q1p3}=q1p2{q3,p3}=q1p2\{q_3p_2,q_1p_3\}=q_1p_2\{q_3,p_3\}=q_1p_2 となる。よって

{Lx,Ly}=q1p2−q2p1=Lz.\{L_x,L_y\}=q_1p_2-q_2p_1=L_z .

(2) Lx=q2p3−q3p2L_x=q_2p_3-q_3p_2 の各項は、異なる成分の qq と pp の積である。(2.2.3) より [q^2, p^3]=0\left[\hat q_2,\,\hat p_3\right]=0 なのでq^2p^3=p^3q^2\hat q_2\hat p_3=\hat p_3\hat q_2 で、どちらの順に並べても同じ演算子になる。q3p2q_3p_2 も同じである。したがって L^x=q^2p^3−q^3p^2\hat L_x=\hat q_2\hat p_3-\hat q_3\hat p_2 は一通りに決まり、各項が交換する自己共役演算子の積なので自己共役でもある。

(3) 交換子の Leibniz 則 [A^, B^C^]=[A^, B^]C^+B^[A^, C^]\left[\hat A,\,\hat B\hat C\right]=\left[\hat A,\,\hat B\right]\hat C+\hat B\left[\hat A,\,\hat C\right] を使う。(1) と同じく4項に分けると、0にならないのは

[q^2p^3, q^3p^1]=q^2[p^3, q^3]p^1=−iℏ q^2p^1,[q^3p^2, q^1p^3]=q^1[q^3, p^3]p^2=iℏ q^1p^2\left[\hat q_2\hat p_3,\,\hat q_3\hat p_1\right]=\hat q_2\left[\hat p_3,\,\hat q_3\right]\hat p_1=-\mathrm{i}\hbar\,\hat q_2\hat p_1,\qquad \left[\hat q_3\hat p_2,\,\hat q_1\hat p_3\right]=\hat q_1\left[\hat q_3,\,\hat p_3\right]\hat p_2=\mathrm{i}\hbar\,\hat q_1\hat p_2

の2つである(ほかの因子は互いに交換するので外へ出した)。よって

[L^x, L^y]=−iℏ q^2p^1+iℏ q^1p^2=iℏ L^z,\left[\hat L_x,\,\hat L_y\right]=-\mathrm{i}\hbar\,\hat q_2\hat p_1+\mathrm{i}\hbar\,\hat q_1\hat p_2=\mathrm{i}\hbar\,\hat L_z ,

すなわち [L^x, L^y]/(iℏ)=L^z=Q({Lx,Ly})\left[\hat L_x,\,\hat L_y\right]/(\mathrm{i}\hbar)=\hat L_z=\mathcal Q(\{L_x,L_y\}) で、規則 (2.2.1) が厳密に成り立つ。角運動量は qq と pp の2次式なので、2.2.3 節で述べる「2次以下なら規則が厳密に成り立つ」の例になっている。

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