量子力学の様々な構成方法 第2部 第2章 §2.2.3 ★★★ (C3) が一通りに決まらないことの中身。エルミート性で決まる所と、ℏ2 の自由が残る所を分ける
古典では qp=pq なので、q2p と qpq と pq2 は同じ関数である。量子では q^2p^、q^p^q^、p^q^2 は異なる演算子で、そのどれを選ぶか(またはどういう重みで平均するか)を決めないと、(C3) の演算子は定まらない。これを順序の曖昧さと呼ぶ。
代表的な順序
定義 2.2.2(順序の規則)
単項式 qmpn に対する代表的な対応を次のように呼ぶ。
- 標準の順序:q^mp^n(q^ をすべて左に置く)。逆に p^ をすべて左に置くものを反標準の順序と呼ぶ。
- Weyl の順序:ei(aq+bp)↦ei(aq^+bp^) が成り立つように線型に拡張したもの。単項式では
QW[qmpn]=2m1k=0∑m(km)q^kp^nq^m−k(2.2.8)
になる(H. Weyl (1927), Z. Phys. 46, 1)。この写像は第5部の Weyl 対応 QW(第5部第2章)と同じもので、記号もそれに揃える。
QBJ[qmpn]=m+11k=0∑mq^kp^nq^m−k(2.2.9)
(M. Born and P. Jordan (1925), Z. Phys. 34, 858)。
Weyl の順序は、aq+bp の任意のべき (aq+bp)N を (aq^+bp^)N に写す。(aq^+bp^)N を展開すると q^ と p^ のあらゆる並びが等しい重みで現れるので、Weyl の順序は「すべての並び方の平均」と言い換えられる。(2.2.8) はその平均を q^kp^nq^m−k の形にまとめ直したものである。標準の順序は m,n≥1 で自己共役でない((q^p^)†=p^q^=q^p^)ので、実の物理量の量子化としては使えない。Weyl と Born–Jordan はどちらも自己共役である。
エルミート性で決まる所と、決まらない所
順序の違いを比べるには、すべての演算子を q^ が左、p^ が右に並んだ形(正規形)に直すのが早い。直すには p^q^=q^p^−iℏ を繰り返し使う。たとえば
q^p^q^=q^2p^−iℏq^,p^q^2=q^2p^−2iℏq^,p^2q^2=q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2(2.2.10)
である(3つめは p^2q^2=p^(q^2p^−2iℏq^) をもう一度並べ替えて得る)。
命題 2.2.3(★★★)
- (i) q2p を q^2p^、q^p^q^、p^q^2 の重み1の線型結合で量子化するとき、自己共役であることを要求すると演算子はq^2p^−iℏq^ にただ1つに決まる。
- (ii) q2p2 を同じように q^,q^,p^,p^ の並びの線型結合で量子化するとき、自己共役な演算子は
q^2p^2−2iℏq^p^+yℏ2(y は任意の実数)(2.2.11)
の1パラメータの族になる。
証明
(i) 重みを α,β,γ(α+β+γ=1)として αq^2p^+βq^p^q^+γp^q^2 をとると、(2.2.10) から正規形は q^2p^−iℏ(β+2γ)q^ になる。共役をとると (q^2p^)†=p^q^2、(q^p^q^)†=q^p^q^ なので、共役は γq^2p^+βq^p^q^+αp^q^2 で、正規形は q^2p^−iℏ(β+2α)q^。両者が等しい条件は α=γ で、このとき β+2γ=α+β+γ=1 だから、演算子は重みによらず q^2p^−iℏq^ になる。
(ii) どの並びも正規形に直すと q^2p^2+xiℏq^p^+yℏ2(x,y は実数)の形になる。これを A^ とおき、(2.2.10) と(q^p^)†=p^q^=q^p^−iℏ を使って共役を正規形に直すと
A^†=p^2q^2−xiℏp^q^+yℏ2=q^2p^2−(4+x)iℏq^p^+(−2−x+y)ℏ2.
A^†=A^ の q^p^ の係数から x=−(4+x)、すなわち x=−2。定数項は y=−2−x+y となり、x=−2 のとき恒等的に成り立つので y は決まらない。
(ii) の自由度は ℏ2 に比例する数(c 数)で、Weyl の順序は y=−21、Born–Jordan の順序は y=−32 を選ぶ(例題 2.2.3)。q2p2 だけを量子化するなら、この差は全体のエネルギーの原点をずらすだけで観測にかからない。しかし q2p2 の係数が位置の関数になると、c 数だった差が位置の関数になり、ポテンシャルの差として観測にかかる。これを次の節で具体的に示す。
要点
規則 (2.2.1) は、A、B がともに q、p の2次以下の多項式なら、Weyl の順序で厳密に成り立つ([QW[A],QW[B]]/(iℏ)=QW[{A,B}])。2次以下の多項式の集まりは Poisson 括弧で閉じていて、その中では ℏ の補正が出ない。3次以上の多項式を含めると、どの順序を選んでも規則はどこかで ℏ2 の補正を受ける(2.2.5 節の Groenewold–van Hove の定理)。
例題 2.2.3 3つの順序を正規形で比べる ★★★
オリジナル
- (1) Weyl の順序 (2.2.8) と Born–Jordan の順序 (2.2.9) で q2p を量子化し、正規形に直して比べよ。
- (2) 同じく q2p2 を量子化し、(2.2.11) の y の値を求めよ。
- (3) 標準の順序 q^2p^2 が自己共役でないことを、(2) の族と比べて説明せよ。
解答
(1) (2.2.8) で m=2、n=1 とすると QW[q2p]=41(p^q^2+2q^p^q^+q^2p^)。(2.2.10) を代入して 41(4q^2p^−2iℏq^−2iℏq^)=q^2p^−iℏq^。Born–Jordan では QBJ[q2p]=31(p^q^2+q^p^q^+q^2p^)=31(3q^2p^−3iℏq^)=q^2p^−iℏq^。両者は一致し、命題 2.2.3 (i) のとおりである。
(2) Weyl では QW[q2p2]=41(p^2q^2+2q^p^2q^+q^2p^2)。中央の項はq^p^2q^=q^(q^p^2−2iℏp^)=q^2p^2−2iℏq^p^(p^2q^=q^p^2−2iℏp^ を使った)。(2.2.10) の3つめと合わせて
QW[q2p2]=41[(q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2)+2(q^2p^2−2iℏq^p^)+q^2p^2]=q^2p^2−2iℏq^p^−21ℏ2,
すなわち y=−21。Born–Jordan ではQBJ[q2p2]=31(p^2q^2+q^p^2q^+q^2p^2)=31(3q^2p^2−6iℏq^p^−2ℏ2) で y=−32。2つの順序の差は QW[q2p2]−QBJ[q2p2]=ℏ2/6 である。
(3) q^2p^2 は正規形で x=0、y=0 に当たる。命題 2.2.3 (ii) の自己共役の条件は x=−2 なので、x=0 の標準の順序は自己共役でない。実際、共役は p^2q^2=q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2=q^2p^2 である。
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