量子力学の様々な構成方法 第2部 第2章 §2.2.2 ★★ 規則 (2.2.1) の係数 1/(iℏ) が、括弧の代数とエルミート性と並進から決まることを示す
規則 (2.2.1) は天下りに見えるが、Dirac は 1925 年に、括弧の代数の性質を演算子の上でも保つと決めれば「交換子の定数倍」以外に選択肢が無いことを示した(P. A. M. Dirac (1925), Proc. R. Soc. Lond. A 109, 642)。ここでは議論の骨格を書き、細部は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第1章に送る。
量子の括弧に課す条件
演算子 u^、v^ に対して「量子の括弧」{u^,v^}q があり、Poisson 括弧と同じく双線型・反対称で、積に対する Leibniz 則を満たすと仮定する。ただし演算子は交換しないので、Leibniz 則は因子の順序を保って
{u^,v^1v^2}q={u^,v^1}qv^2+v^1{u^,v^2}q,{u^1u^2,v^}q={u^1,v^}qu^2+u^1{u^2,v^}q(2.2.4)
と書く。{u^1u^2,v^1v^2}q を、先に左の積を展開してから右を展開する順と、先に右を展開する順の2通りで計算する。左を先にすると
{u^1,v^1}qv^2u^2+v^1{u^1,v^2}qu^2+u^1{u^2,v^1}qv^2+u^1v^1{u^2,v^2}q,
右を先にすると
{u^1,v^1}qu^2v^2+u^1{u^2,v^1}qv^2+v^1{u^1,v^2}qu^2+v^1u^1{u^2,v^2}q
を得る。両者は等しくなければならないので、引き算して
{u^1,v^1}q[u^2,v^2]=[u^1,v^1]{u^2,v^2}q(2.2.5)
となる。(u^1,v^1) と (u^2,v^2) は互いに無関係に選べるので、この式が成り立つには、ある定数 k があって
{u^,v^}q=k[u^,v^](2.2.6)
でなければならない(k はすべての演算子と交換する数)。交換子は双線型・反対称で、順序つきの Leibniz 則と Jacobi 恒等式を満たすので、(2.2.6) は課した条件をすべて満たしている。
定数 k を決める
k を決める条件は2つある。1つめはエルミート性である。実の古典量 A、B の Poisson 括弧は実なので、量子でも{A^,B^}q が自己共役であってほしい。一方、自己共役な A^、B^ の交換子は[A^,B^]†=B^A^−A^B^=−[A^,B^] で反エルミートである。反エルミートな演算子に掛けてエルミートにする数は純虚数なので、実数 ℏ を使って k=1/(iℏ) と書ける。
2つめは並進である。古典力学では {q,p}=1 から、p を生成子とする無限小変換 δq=ϵ{q,p}=ϵ が座標の平行移動になる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第9章)。量子では [q^,p^]=iℏ のもとで
eiap^/ℏq^e−iap^/ℏ=q^+ℏia[p^,q^]=q^+a(2.2.7)
となる([p^,q^] が数なので、Baker–Campbell–Hausdorff の展開は1次で終わる)。位置表示では e−iap^/ℏψ(x)=ψ(x−a) で、波動関数が +a だけ平行移動する。ℏ の値そのものは実験で決まる量で、SI では h=6.62607015×10−34Js が定義値なのでℏ=h/(2π)=1.054571817…×10−34Js である。
有限次元の行列では実現できない
(2.2.3) の両辺のトレースをとると、有限次元の行列なら左辺は Tr(q^p^)−Tr(p^q^)=0、右辺は iℏ に次元を掛けたものになり矛盾する。したがって q^、p^ は無限次元の空間に作用し、少なくとも一方は非有界になる(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第1章)。Heisenberg の配列(第2部第1章)が無限の行列だったのはこのためである。
例題 2.2.2 [q^2,p^2] と規則の整合 ★★
オリジナル1自由度で考える。
- (1) 正準交換関係だけを使って [q^2,p^2] を q^p^ と p^q^ で表せ。
- (2) 古典の {q2,p2} を計算せよ。
- (3) 規則 (2.2.1) が成り立つには、古典の qp にどの演算子を対応させればよいか。そのとき両辺がともに自己共役であることを確かめよ。
解答
(1) Leibniz 則を2回使う。[q^2,p^]=q^[q^,p^]+[q^,p^]q^=2iℏq^ なので
[q^2,p^2]=[q^2,p^]p^+p^[q^2,p^]=2iℏ(q^p^+p^q^).
(2) {q2,p2}=∂q∂q2∂p∂p2=2q⋅2p=4qp。
(3) (1) を iℏ で割ると [q^2,p^2]/(iℏ)=2(q^p^+p^q^) である。これが Q(4qp)=4Q(qp) に等しいためには
Q(qp)=21(q^p^+p^q^)
と選べばよい。q^2、p^2 は自己共役なので、(1) の左辺を iℏ で割ったものは自己共役である(交換子は反エルミート、1/i でエルミートになる)。右辺の 21(q^p^+p^q^) も、(q^p^)†=p^q^ なので自己共役である。もし Q(qp)=q^p^ と選ぶと、q^p^=21(q^p^+p^q^)+2iℏ なので右辺が 4q^p^ になり、左辺と 2iℏ だけずれる。この例では、規則と自己共役性の両方が同じ順序(対称化)を指定している。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com