量子力学の様々な構成方法 第2部 第2章 §2.2.4 ★★ 順序の差が ℏ2 のポテンシャルとして現れ、エネルギー準位を動かす具体例
古典の Hamiltonian と、エルミートな順序の族
組成の異なる半導体を接合した構造では、伝導帯の電子を有効質量 m(q) の粒子とみなし、m が場所によって変わる模型を使う。古典の Hamiltonian は
H=2m(q)p2+V(q)=21f(q)p2+V(q),f(q):=m(q)1(2.2.12)
である。f(q)p2 は q と p が同じ項に掛かっているので、(C3) の順序の選択が要る。von Roos は、自己共役な候補を
H^αβγ=41(mαp^mβp^mγ+mγp^mβp^mα)+V,α+β+γ=−1(2.2.13)
の族にまとめた(O. von Roos (1983), Phys. Rev. B 27, 7547)。ここで mα は m(q^)α の略で、2つめの項は1つめの項のエルミート共役である。指数の和が −1 なので、古典の極限ではどれも p2/(2m) に戻る。α=γ=0、β=−1 の
H^BD=21p^f(q^)p^+V(2.2.14)
は BenDaniel と Duke が使った形で(D. J. BenDaniel and C. B. Duke (1966), Phys. Rev. 152, 683)、確率の流れ j=Re[ψ∗f(q)p^ψ] が連続の式を満たし、質量が飛ぶ界面では ψ と fdqdψ を連続につなぐことになる。
族の違いはポテンシャルの差になる
族 (2.2.13) を H^BD と比べる。g を q の関数として、[g(q^),p^]=iℏg′(q^)、すなわち p^g=gp^−iℏg′ と gp^=p^g+iℏg′ を使う(′ は q での微分)。A^:=mαp^mβp^mγ の右端の mγ を左へ、左端の mα を右へ動かすと
A^=mαp^mβ(mγp^−iℏ(mγ)′)=(p^mα+iℏ(mα)′)mβ+γp^−iℏmαp^mβ(mγ)′.
α+β+γ=−1 より最初の項は p^m−1p^=p^fp^ で、
A^=p^fp^+B^,B^:=iℏgp^−iℏmαp^k,g:=(mα)′mβ+γ,k:=mβ(mγ)′
と書ける。(2.2.13) の括弧の中は A^+A^†=2p^fp^+B^+B^† である。B^+B^† を計算すると、
iℏ(gp^−p^g)−iℏ(mαp^k−kp^mα)=iℏ⋅iℏg′=−ℏ2g′,=−iℏ(−iℏmαk′+iℏk(mα)′)=−ℏ2mαk′+ℏ2k(mα)′
となって、微分演算子 p^ がすべて消え、位置の関数だけが残る。したがって
H^αβγ=H^BD+Uαγ(q^),Uαγ=−4ℏ2[g′+mαk′−k(mα)′]=4ℏ2[(α+γ)f′′+2αγff′2](2.2.15)
を得る。最後の形は g、k を f=1/m で書き直して整理したもので、verify_ch2-02.py で記号計算により確かめた。順序の違いは ℏ2 に比例するポテンシャル Uαγ の違いになり、m が一定(f′=f′′=0)なら消える。2.2.3 節で c 数だった q2p2 の自由度が、係数が位置の関数になったことでポテンシャルになったのである。
Weyl の順序との関係も同じ方法で出る。QW[f(q)p2]=41(fp^2+2p^fp^+p^2f)((2.2.8) を q の関数へ拡げたもの)に、fp^2+p^2f=2p^fp^−ℏ2f′′(位置表示で ψ に当てて展開すれば確かめられる)を使うと
QW[21f(q)p2]=21p^fp^−8ℏ2f′′(2.2.16)
となる。これは (2.2.15) で α+γ=−21、αγ=0 とした場合、たとえば (α,β,γ)=(0,−21,−21) と同じ演算子である。もう1つよく使われる α=γ=−21、β=0 の順序(Zhu–Kroemer の形。Q.-G. Zhu and H. Kroemer (1983), Phys. Rev. B 27, 3519)ではU=−4ℏ2f′′+8ℏ2f′2/f である。
質量がなめらかに 0.067me から 0.092me へ変わる段差 m(q)=mA+(mB−mA)(1+tanh(q/a))/2(a=1nm)について、Weyl と Zhu–Kroemer の U を図 2.2.2 に描いた(mA、mB は模型の値で、特定の材料の値ではない)。どちらも段差の両側で正負の山と谷を作り、大きさは Weyl で約 15meV、Zhu–Kroemer で約 30meV である。量子井戸の準位の間隔も数十 meV の程度なので、順序の選択は準位を目に見えて動かしうる。どの順序が実際の半導体を正しく表すかは、包絡関数の近似をどう導くかに依存する問題で、量子化の処方 (C1)〜(C4) からは決まらない。

図 2.2.2 質量の段差 m(q)=mA+(mB−mA)(1+tanh(q/a))/2(mA=0.067me、mB=0.092me、a=1nm)での、BenDaniel–Duke の形 (2.2.14) からのずれ Uαγ (2.2.15)。実線が Weyl の順序、破線が Zhu–Kroemer の順序。BenDaniel–Duke の形は横軸に重なる。
例題 2.2.4 順序の差が定数になる質量と、ならない順序 ★★
オリジナルf(q)=1/m(q)=(1+q2/a2)/m0(m0、a は正の定数)とする。
- (1) Weyl の順序と BenDaniel–Duke の形の差 U を求めよ。
- (2) m0=0.067me、a=5nm のとき (1) の大きさを meV で求めよ(ℏ2/(2me)=3.81eVA˚2)。
- (3) 2つの順序で同じ V の準位を求めたとき、準位の間隔(遷移のエネルギー)は変わるか。Zhu–Kroemer の順序ではどうか。
解答
(1) f′′=2/(m0a2) は定数なので、(2.2.16) から
UW=−8ℏ2f′′=−4m0a2ℏ2
で、位置によらない定数になる。
(2) 4m0a2ℏ2=21⋅2meℏ2⋅m0me⋅a21=21×3.81eVA˚2×0.0671×(50A˚)21=1.14×10−2eV、すなわち約 11.4meV。Weyl の順序の準位は BenDaniel–Duke の形の準位より、すべて 11.4meV だけ低い。
(3) 差が定数なので、2つの順序で Hamiltonian は定数だけ違い、固有関数は同じで、すべての準位が同じだけずれる。遷移のエネルギー(準位の差)は変わらない。Zhu–Kroemer の順序では UZK=−4ℏ2f′′+8ℏ2f′2/f で、第2項はf′2/f=m0(1+q2/a2)4q2/a4 と位置に依存する。したがって準位ごとにずれ方が違い、遷移のエネルギーも変わる。この場合の Zhu–Kroemer のように差が位置の関数になると、順序の選択が分光の測定値に表れる。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの a0/L→0(格子定数 a0 が包絡関数の変化の長さ L に比べて小さい) | 証明 要確認(質量が位置で変わる場合の包絡関数の方程式の導出の前提を原論文で確かめていない) | 行き先 近似の数理 第12章
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