近似の数理 第12章 §12.4 ★★★ バンドの底の放物線近似は第9章の均質化そのもの。1次元の最低バンドでは有効質量が調和平均で厳密に書ける
基底状態変換で均質化の問題になる
半導体の不純物準位や、ゆっくり変わる外場の中の電子を、有効質量 m∗ の自由粒子として扱う近似を考える。これが第9章の均質化と同じ構造であることは、1次元の最低バンドの底で最もはっきり見える。
H=−d2/dx2+V(x)(ℏ2/(2m)=1、周期 1)の最低バンドの下端 ε0 に属する周期解 u0 は、最低の固有関数なので符号を変えず、正にとれる。任意の関数を ψ=u0φ と書くと、−u0′′+Vu0=ε0u0 を使って
(H−ε0)(u0φ)=−u0′′φ−2u0′φ′−u0φ′′+(V−ε0)u0φ=−u01(u02φ′)′(12.12)
を得る(基底状態変換)。ポテンシャルが消え、代わりに係数 ρ:=u02 の発散形の作用素 Lφ=−ρ−1(ρφ′)′ が現れた。L は重み ρdx の L2 で自己共役で、H−ε0 とユニタリ同値である。これは第9章の振動する係数の問題 −(ρ(x)φ′)′ と同じ形をしている(近似の数理 第9章)。
定理 12.5(最低バンドの底の有効質量 ★★★)
1次元で、単位胞の上の平均を ⟨f⟩=∫01fdx と書く。最低バンドは k=0 の近くで
ε1(k)=ε0+2m∗ℏ2k2+O(k4),m∗m=⟨u02⟩⟨u0−2⟩1(12.13)
を満たす。とくに Cauchy–Schwarz の不等式 1=⟨u0⋅u0−1⟩2≤⟨u02⟩⟨u0−2⟩ から m∗≥m で、等号は V が定数のときに限る。
証明の骨格
H の k のファイバーは、変換 (12.12) の後では φ=eikxw(w は周期的)に対する L の固有値問題になる。最低固有値 λ(k) をk の2次まで求める。w=1+ikχ+O(k2)(χ は周期的で平均 0)と置いて k の1次を比べると、第9章のセル問題と同じ(ρ(1+χ′))′=0 を得る。よって ρ(1+χ′)=C(定数)で、⟨χ′⟩=0 から C=⟨ρ−1⟩−1 である。固有値は Rayleigh 商 λ(k)=⟨ρ∣(eikxw)′∣2⟩/⟨ρ∣w∣2⟩ を w について最小にしたものなので、2次まで
λ(k)=k2⟨ρ⟩⟨ρ(1+χ′)2⟩+O(k3)=k2⟨ρ⟩C2⟨ρ−1⟩=⟨ρ⟩⟨ρ−1⟩k2
となる(k の奇数次は V が実で λ(−k)=λ(k) なので消える)。ℏ2/(2m)=1 の単位では自由粒子が k2 なので (12.13) を得る。
分母の ⟨ρ−1⟩−1 は第9章の1次元均質化の調和平均で、1/⟨ρ⟩ は重みの平均による規格化である。有効質量は「u02 を係数とする媒質の均質化係数」であり、算術平均と調和平均の違いがそのまま質量の増え方になる。d 次元でも同じで、最低バンドの底の逆有効質量テンソルは係数 u02I の均質化テンソルを⟨u02⟩ で割ったものになる。均質化の係数が Bloch 固有値の k=0 での Hesse 行列に等しいことはC. Conca and M. Vanninathan (1997), SIAM J. Appl. Math. 57, 1639 が示した。第9章の Voigt の上界(均質化係数は算術平均以下)を当てるとm(m∗−1)≤I、すなわち最低バンドの底はどの向きにも自由電子より重い。
包絡線の方程式:2スケール展開
m∗ が分かったとして、ゆっくり変わる外のポテンシャル U(ηx)(η=a/ℓ≪1、ℓ は外場が変わる長さ)がある問題Hη=H+U(ηx) を考える。第9章と同じく、速い変数 y=x(格子の尺度)と遅い変数 X=ηx を分け、
ψ(x)=unk0(x)eik0xF(ηx)+ηψ1+⋯
と置く。k0 はバンド n の非退化な極値(ここでは k0=0 の底)である。η の0次・1次の釣り合いは unk0 が単位胞の固有関数であることと、セル問題(上の χ)を与え、2次の可解条件として包絡線 F の方程式
[−2ℏ2∇X⋅(m∗−1∇X)+U(X)]F=μF,E=εn(k0)+η2μ+o(η2)(12.14)
を得る(長さを X で測ったので運動エネルギーに η2 が付く)。これが有効質量近似で、水素原子型の不純物準位の計算はこの式の U に遮蔽された Coulomb ポテンシャルを入れたものである。時間に依存する形(t を η−2 倍の長い時間で測る)では、Bloch 関数に集中した初期値の解が「速く振動する Bloch 関数×ゆっくり変わる均質化された Schrödinger 方程式の解」で近似されることが証明されている(G. Allaire and A. Piatnitski (2005), Commun. Math. Phys. 258, 1)。前提はバンドの極値が単純(縮退していない)で、極値が非退化(Hesse 行列が正則)であることである。Si の価電子帯の上端のように縮退した端では、縮退したバンドを全部同時に残す多バンドの包絡線方程式が要る。
例題 12.4 弱い余弦ポテンシャルの有効質量を2通りで ★★★
オリジナルH=−d2/dx2+2vcos(Gx)(ℏ2/(2m)=1、v は小さい)の最低バンドの底の有効質量を、v の2次まで求める。
- 1次の摂動で u0=1+ccos(Gx) と置き、c を求めよ。定理 12.5 の公式から m/m∗ を v の2次まで求めよ。
- (12.10) の2次の摂動で、k の小さい所の ε1(k) を展開し、k2 の係数を求めて (1) と比べよ。
- Mathieu の場合(v=q、G=2)に当てはめ、q=0.5 の値を数値の m/m∗=0.8872 と比べよ。
解答
(1) −u0′′=cG2cosGx、2vcosGx⋅1=2vcosGx で、cosGx の係数の釣り合い cG2+2v=0 から c=−2v/G2。⟨u02⟩=1+c2/2、⟨u0−2⟩=⟨1−2ccosGx+3c2cos2Gx⟩+O(c3)=1+3c2/2 なので積は 1+2c2+O(c3)、
m∗m=1−2c2=1−G48v2+O(v3).
(2) 状態 eikx は ei(k±G)x と行列要素 v で結合するので
ε1(k)=k2−v2[(k+G)2−k21+(k−G)2−k21]=k2−G22v2⋅1−4k2/G21=−G22v2+k2(1−G48v2)+O(k4).
k2 の係数は (1) と一致する。(1) は基底状態の形(u0 の凹凸)から、(2) は上のバンドとの混ざり(k⋅p 摂動)から同じ量を出しており、均質化の公式は k⋅p 摂動の和を1つの平均に畳んだものになっている。
(3) 8v2/G4=8q2/16=q2/2 なので m/m∗≈1−q2/2=0.875。数値の 0.8872 との差 0.012 は q4 の程度の高次の項である(q4=0.0625 の約 0.2 倍)。数値の値は、平面波基底で求めた u0 から ⟨u02⟩⟨u0−2⟩ を計算しても、ε1(k) の曲率を数値微分しても、6桁まで同じになる(検算スクリプト)。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの η=a/ℓ→0(外のポテンシャルの変わる長さ ℓ が格子定数 a より十分長い) | 証明 条件付き(バンドの極値が単純で非退化。時間に依存する形は Allaire–Piatnitski 2005。Coulomb の特異点を持つ不純物ポテンシャルでの前提は要確認) | 行き先 近似の数理 第9章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com