近似の数理 第12章 §12.3 ★★ 反対の極限。各 k の問題では正則摂動だが、ゾーン境界の縮退点だけは縮退摂動が要り、そこでギャップ 2∣VG∣ が開く
各 k では正則摂動
tight-binding と逆の端では、ポテンシャルが弱い。V→λV とし、λ→0 を考える。V を Fourier 級数 V(r)=∑GVGeiG⋅r に展開すると、ファイバー H(k) は平面波 eiG⋅r の基底で
[H(k)]GG′=2mℏ2∣k+G∣2δGG′+λVG−G′(12.9)
という行列になる(固体の教科書の中心方程式)。λV は有界な摂動で、H(k) はコンパクトなレゾルベントを持つので、第7章で扱った正則摂動の範囲に入る。λ=0 の固有値 2mℏ2∣k+G∣2 が単純なら、加藤の解析的摂動論によって固有値は λ の解析関数で、
ε(k)=2mℏ2∣k+G∣2+λV0+λ2G′=G∑2mℏ2(∣k+G∣2−∣k+G′∣2)∣VG′−G∣2+O(λ3)(12.10)
と展開できる。展開は各 k で収束するが、k について一様ではない。分母は ∣k+G∣=∣k+G′∣ となる面(Bragg 面、ゾーン境界)で 0 になり、そこに近づくほど収束半径が縮む。第7章の言葉では、「各点では正則摂動だが、一様には正則でない」という状況で、非一様性はゾーン境界の近くに集まる。
縮退点:2×2 の問題
ゾーン境界の上では2つの平面波 k+G と k+G′ のエネルギーが等しい。この2つの張る空間へ射影すると、その空間の中の H は
(ε0λVG′−GλVG−G′ε0)+λV0
で、固有値の差は 2λ∣VG−G′∣ である。残りの平面波との結合によるずれは O(λ2) にとどまる(縮退摂動論)。したがって、λ が小さい極限で、Bragg 面の上のギャップは
εg=2λ∣VG−G′∣+O(λ2)(12.11)
である。この2×2 の手続きは「縮退した2つの平面波の空間への射影(A 型)」と「λ→0(B 型)」の組であり、その正当化は有限次元の縮退摂動論の範囲で完結する。
次元による違い:ギャップは閉じうる
1次元では、λ が小さければ VG=0 の各 G に対応するギャップが開き、一般にはギャップが無限個ある(すべて閉じるのは V が定数のときだけ、というのが 12.1 節の Borg の定理である)。2次元以上では事情が違う。Bragg 面の上でギャップが開いても、別の向きの k でエネルギーの高いバンドが下りてきて重なるので、全体としてのスペクトルのギャップはエネルギーが高い所で閉じる。滑らかな周期ポテンシャルを持つ d≥2 の Schrödinger 作用素では、スペクトルのギャップは有限個しかない(Bethe–Sommerfeld 予想。L. Parnovski (2008), Ann. Henri Poincaré 9, 457 が任意の格子について証明した)。金属と絶縁体の区別が「Fermi 準位がギャップの中にあるか」で決まることを考えると、高いエネルギーで必ずバンドが重なることは、多くの元素が金属になることの数学的な背景の1つである。
例題 12.3 余弦ポテンシャルの第1ギャップ ★★
オリジナルMathieu 方程式 −y′′+2qcos(2x)y=Ey(周期 π、Brillouin 域は −1<k≤1)で、q が小さいときの第1ギャップを考える。
- V=2qcos2x の Fourier 係数 V±2 を求め、(12.11) から k=1 のギャップの1次の値を求めよ。
- ゾーン境界 k=1 のギャップの端の2つの状態は、q→0 で cosx と sinx になる。2次の補正がギャップの幅に寄与しないことを示せ。
- 数値の対角化では q=0.5 でギャップは 0.99611 である。(1)(2) と合わせて、3次の項の大きさを見積もれ。
解答
(1) 2qcos2x=qe2ix+qe−2ix なので V±2=q。ゾーン境界 k=1 では平面波 eix と e−ix(G=0 と G=−2)が縮退していて、ギャップは1次で 2∣V2∣=2q である。
(2) cosx に 2qcos2x を掛けると q(cos3x+cosx)、sinx に掛けると q(sin3x−sinx) である。第2項は1次のずれ ±q を与え、第1項は cos3x または sin3x(非摂動のエネルギー 9)との結合 q を与える。2次のずれは両者とも q2/(1−9)=−q2/8 で等しく、ギャップの幅(2つの端の差)には残らない。したがってギャップは 2q+O(q3) である。
(3) 2q=1 に対して数値は 0.99611 なので、3次の項は −0.0039 で、−cq3 と置けば c≈0.031 である。これは Mathieu 方程式の展開 a1−b1=2q−q3/32+⋯(1/32=0.031)と合う(検算スクリプト)。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの λ∣VG∣/Ezb→0(周期ポテンシャルの Fourier 係数がゾーン境界の運動エネルギーより小さい) | 証明 証明済み(各 k で解析的摂動。一様性はゾーン境界の近くで破れ、そこは2×2 の縮退摂動で扱う。前提は V が有界) | 行き先 近似の数理 第7章
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com