量子力学の様々な構成方法 第2部 第3章 §2.3.2 ★★★ 時間発展が交換関係を保つ写像(正準変換の量子版)であること、保存量と対称性の対応、Bohr の振動数条件を (E2) だけから導く
交換関係の保存
(E2) に従う2つの物理量の交換子を時間で微分すると、Leibniz 則と Jacobi 恒等式[A^,[B^,C^]]+[B^,[C^,A^]]+[C^,[A^,B^]]=0 から
dtd[A^,B^]=iℏ1([[A^,H^],B^]+[A^,[B^,H^]])=iℏ1[[A^,B^],H^](2.3.4)
となる。つまり交換子 [A^,B^] もまた (E2) に従う。A^=q^i、B^=p^j とおくと右辺は [iℏδij,H^]=0 なので、同時刻の交換関係 [q^i(t),p^j(t)]=iℏδij はすべての時刻で保たれる。
古典でも同じ計算で、Poisson 括弧の Jacobi 恒等式から dtd{A,B}={{A,B},H} が出て、{qi(t),pj(t)}=δij が保たれる。これは時間発展の流れが正準変換であることの言い換えである(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第12章)。量子の時間発展 A^↦A^(t) は、和と積と交換子を保つ代数の写像(自己同型)で、正準変換の量子版になっている。
H^ が時刻によらないとき、(E2) を形式的に解くと Lie 級数
A^(t)=n=0∑∞n!1(iℏt)nn 個[⋯[[A^,H^],H^]⋯,H^](2.3.5)
が得られる。古典の A(t)=∑nn!tn{⋯{A,H}⋯,H}(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第11章)と同じ形である。級数を足し上げたものは eiH^t/ℏA^e−iH^t/ℏ と書けるが、この指数関数がユニタリ演算子として意味を持つには H^ の自己共役性が要る。その議論と、時間発展がユニタリ演算子で実現されることの証明は 第2部第6章で行う。
エネルギーの保存と Bohr の振動数条件
A^=H^ とおくと [H^,H^]=0 なので dtdH^=0 である。エネルギーの保存は (E2) の形では1行で済む。Born と Jordan は (E1) の形から出発したので、上の定理 2.3.4 に当たる議論を経て、エネルギーの表が時間によらないこととBohr の振動数条件を導いた(同論文)。
振動数条件は次のように出る。H^ の固有状態の基底 {∣n⟩}(H^∣n⟩=En∣n⟩)を取り、物理量の行列要素 Anm(t)=⟨n∣A^(t)∣m⟩ に(E2) を当てると
dtdAnm=iℏ1(AnmEm−EnAnm)=iωnmAnm,Anm(t)=Anm(0)eiωnmt,ωnm=ℏEn−Em(2.3.6)
となる。これは 第2部第1章で Heisenberg が要請として置いた遷移の表の時間依存 xnm(t)=xnmeiωnmt そのものである。第1章では、表の各要素が Bohr の振動数で振動することを観測から要請した。この章の (E2) の側から見ると、それは H^ を対角にする基底で運動方程式を書いた結果になる。
保存量と対称性
時刻を陽に含まない物理量 G^ が保存する条件は、(E2) から [G^,H^]=0 である。古典の {G,H}=0 と同じく、この条件は「G^ で生成される変換で H^ が変わらない」とも読める。実際、G^ の生成する無限小変換 δA^=ϵ[A^,G^]/(iℏ)(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第9章)を H^ に当てると δH^=ϵ[H^,G^]/(iℏ)=−ϵdtdG^ となるので、G^ の保存と、G^ による変換で H^ が不変であることは同値である。これが量子の Noether の定理の行列力学での形である。さらに、G^1、G^2 が保存すれば、式 (2.3.4) から [G^1,G^2]/(iℏ) も保存する。古典の Poisson の定理(保存量の Poisson 括弧は保存量)の量子版である。
量子に特有なのは、保存量が互いに交換しないときに準位が縮退するという帰結である。
命題 2.3.5(交換しない保存量は縮退を強いる)
H^ のスペクトルが離散的で、保存量 G^1、G^2 が [G^1,G^2]=0 を満たすなら、H^ には縮退した準位がある。
証明
すべての準位が縮退していないと仮定する。G^1 は保存するので、式 (2.3.6) の (G1)nm(t)=(G1)nmeiωnmt が時間によらない。縮退が無ければ n=m で ωnm=0 だから (G1)nm=0、すなわち G^1 はエネルギーの基底で対角である。G^2 も同じく対角で、対角行列どうしは交換するので [G^1,G^2]=0 となり、仮定に反する。
古典では、互いの Poisson 括弧が0でない保存量が多くあると、軌道が閉じる(Kepler 問題や等方調和振動子)。量子では同じ状況が準位の縮退として現れる。次の例題で、2次元の等方調和振動子の縮退度 N+1(前の章の総合問題で極座標から数えたもの)がこの命題の具体例であることを見る。
例題 2.3.2 等方調和振動子の保存量と縮退 ★★★
オリジナル平面の等方調和振動子 H^=2mp^x2+p^y2+2mω2(x^2+y^2) に、次の3つの物理量を考える。
L^=x^p^y−y^p^x,K^=2mp^x2−p^y2+2mω2(x^2−y^2),M^=mp^xp^y+mω2x^y^.
- (1) 消滅演算子 a^x=(mωx^+ip^x)/2mℏω(a^y も同様。[a^x,a^x†]=1)で3つを書き直し、どれも H^ と交換することを示せ。
- (2) J^1=M^/(2ℏω)、J^2=L^/(2ℏ)、J^3=K^/(2ℏω) が角運動量と同じ交換関係 [J^1,J^2]=iJ^3(と巡回)を満たすことを示せ。
- (3) N^=a^x†a^x+a^y†a^y として J^12+J^22+J^32=2N^(2N^+1) を使い、E=ℏω(N+1) の準位の縮退度が N+1 であることを説明せよ。
解答
(1) x^=ℏ/(2mω)(a^x+a^x†)、p^x=imℏω/2(a^x†−a^x) を入れる。x と y の演算子は交換するので、積の順序に注意が要るのは同じ方向どうしだけである。計算すると
H^=ℏω(N^+1),K^=ℏω(a^x†a^x−a^y†a^y),M^=ℏω(a^x†a^y+a^y†a^x),L^=−iℏ(a^x†a^y−a^y†a^x)
となる(たとえば M^ では、(mωx^−ip^x)(mωy^+ip^y)+(mωy^−ip^y)(mωx^+ip^x) の虚部がx^p^y と p^yx^ の差になって消え、実部 2m2ω2x^y^+2p^xp^y が残る)。a^x†a^y は y の量子を1つ x へ移すだけで量子の総数 N^ を変えないので、[a^x†a^y,N^]=0 である([a^x†a^y,a^x†a^x]=−a^x†a^y、[a^x†a^y,a^y†a^y]=a^x†a^y の和)。したがって3つとも H^ と交換し、保存する。
(2) [a^x†a^y,a^y†a^x]=a^x†a^x−a^y†a^y を使うと、J^1=21(a^x†a^y+a^y†a^x)、J^2=2i1(a^x†a^y−a^y†a^x)、J^3=21(a^x†a^x−a^y†a^y) についてA^=a^x†a^y と置いて [J^1,J^2]=4i1[A^+A^†,A^−A^†]=−2i1[A^,A^†]=2i⋅2J^3=iJ^3 が出る。残りの2つも同様で、元の量で書けば [K^,M^]=2iℏω2L^、[M^,L^]=2iℏK^、[L^,K^]=2iℏM^ である。3つは保存量なのに互いに交換しないので、命題 2.3.5 により縮退がある。
(3) J^k は N^ と交換するので、N を固定した固有空間(E=ℏω(N+1)、次元 N+1)の中で角運動量の交換関係を満たす演算子として働く。その空間で J^2=2N(2N+1) だから、角運動量の大きさは j=N/2 で、その表現の次元は 2j+1=N+1 である(角運動量の交換関係だけで表現の次元が 2j+1 に決まることは 第2部第4章で示す)。縮退度 N+1 は、前の章の総合問題で極座標の (nr,ℓ) を数えた値、デカルト座標の (nx,ny) を数えた値と一致する。古典では、同じ3つの保存量のためにすべての軌道が楕円として閉じる。
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