量子力学の様々な構成方法 第2部 第3章 §2.3.6 ★★★ 行列力学の運動方程式が同値性の地図のどの橋に当たるかを式で並べる。基準の Heisenberg 描像、古典の Hamilton 方程式、Moyal 方程式、Liouville 方程式
この章で置いた運動方程式 (E2) は、巻の同値性の地図(第1部第1章)で4つの方向につながる(図 2.3.3)。
基準へ:Heisenberg 描像
基準(第1部)では状態ベクトルが Schrödinger 方程式 iℏdtd∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩ に従い、その解を時間発展のユニタリ演算子U^(t)(iℏU^˙=H^U^、U^(0)=1)で ∣ψ(t)⟩=U^(t)∣ψ⟩ と書く。A^(t):=U^†A^U^ と置くと
dtdA^(t)=U^˙†A^U^+U^†A^U^˙=iℏ1(−U^†H^A^U^+U^†A^H^U^)=iℏ1[A^(t),H^]
(H^ は U^ と交換するので U^†H^=H^U^†)で、(E2) が出る。期待値は
⟨ψ(t)∣A^∣ψ(t)⟩=⟨ψ∣A^(t)∣ψ⟩(2.3.19)
で一致する(第1部第2章で両向きを示した)。向きを逆にして、(E2) に従う演算子の族から U^ を作り直し、行列力学と基準が同じ理論であることを示す議論(Stone の定理と Stone–von Neumann の定理)は 第2部第6章に置く。学部の授業で Schrödinger 方程式から導く dtd⟨A^⟩=⟨[A^,H^]⟩/(iℏ)+⟨∂tA^⟩ は、(E2) の期待値を取ったものである。
解析力学へ:Hamilton 方程式と Poisson 括弧
この章の結果を古典と並べると表 2.3.1 のようになる。左の列は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第1部第11章・第1部第12章の結果、右の列はこの章の結果で、規則 {⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ) で行ごとに移り合う。
表 2.3.1 古典の Hamilton 形式と行列力学の運動方程式の対応 | 古典(Poisson 括弧) | 行列力学(交換子) |
| 正準変数の方程式 | q˙=∂H/∂p, p˙=−∂H/∂q | q^˙=∂H^/∂p^, p^˙=−∂H^/∂q^(形式的な微分、順序によらず厳密) |
| 物理量の方程式 | A˙={A,H} | A^˙=[A^,H^]/(iℏ) |
| 括弧の保存 | {q(t),p(t)}=1(正準変換) | [q^(t),p^(t)]=iℏ(代数の自己同型) |
| 保存量 | {G,H}=0 | [G^,H^]=0 |
| 保存量の括弧 | Poisson の定理 | [G^1,G^2]/(iℏ) も保存、交換しなければ縮退 |
| 2次の H | ξ(t)=M(t)ξ(0) | ξ^(t)=M(t)ξ^(0)(同じ M) |
位相空間へ:Moyal 方程式
Weyl 対応(第5部第2章)で演算子 A^ を位相空間の関数(Weyl 記号)AW(q,p) に移すと、交換子 /(iℏ) はMoyal 括弧 {{AW,HW}} に移り、(E2) は
∂t∂AW={{AW,HW}}={AW,HW}−24ℏ2AW(∂q∂p−∂p∂q)3HW+O(ℏ4)(2.3.20)
になる(第2項は AW と HW の間に3階の微分を挟んだもので、矢印は微分が左右どちらの関数に掛かるかを表す。展開の導出は 第5部第3章)。H が2次以下なら、ℏ2 以降の項は3階以上の微分を含むので消え、Moyal 方程式は古典の A˙={A,H} に一致する。これが 2.3.3 節の「古典の解が厳密解」の位相空間での理由である。3次以上では ℏ2 の項が残る(例題 2.3.6)。
密度行列へ:Liouville 方程式
基準の側で状態を混合状態の密度行列 ρ^ に広げると(第4部第1章)、Schrödinger 描像の ρ^(t)=U^ρ^U^† は
dtdρ^=iℏ1[H^,ρ^]
に従い、(E2) と符号が逆になる。古典でも、物理量を運ぶ A˙={A,H} と分布を運ぶ Liouville 方程式 ∂tρ={H,ρ} は符号が逆で(解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第1章)、どちらでも Tr(ρ^(t)A^)=Tr(ρ^A^(t))、∫ρtAdΓ=∫ρ0AtdΓ が成り立つ。行列力学は「物理量を運ぶ」側の構成で、密度行列の構成(第4部)は「分布を運ぶ」側の構成である。

図 2.3.3 この章の運動方程式から出る橋。矢印の脇の式が、両側を同じものと読むための対応。
例題 2.3.6 古典に無い ℏ2 の項 ★★
オリジナルH^=p^2/2+λq^4(m=1)とする。
- (1) dtdp^2 を計算し、その Weyl 記号が古典の {p2,H}=−8λq3p に一致することを示せ。
- (2) dtdp^3 を計算し、その Weyl 記号が古典の {p3,H}=−12λp2q3 と 6ℏ2λq だけ違うことを、式 (2.3.20) の第2項から確かめよ。
解答
(1) [p^2,q^4]=p^[p^,q^4]+[p^,q^4]p^=−4iℏ(p^q^3+q^3p^) なのでdtdp^2=λ[p^2,q^4]/(iℏ)=−4λ(p^q^3+q^3p^)。p^q^3+q^3p^ は、4つの並べ方 p^q^3、q^p^q^2、q^2p^q^、q^3p^ の平均(Weyl の順序)の2倍に等しい(q^p^q^2+q^2p^q^=p^q^3+q^3p^ が p^q^=q^p^−iℏ を使って確かめられる)。したがって Weyl 記号は −8λq3p で、古典と一致する。式 (2.3.20) では p2 の3階微分が0なので ℏ2 の項は無い。
(2) 補題 2.3.3 を3回使う代わりに、位置表示で p^=−iℏ∂q を当てて直接計算すると
iℏ1[p^3,q^4]=−12W(p2q3)+6ℏ2q^
となる。W(p2q3) は p^ 2つと q^ 3つの10通りの並べ方の平均である(この式は検算スクリプトで試験関数に当てて確かめた)。Weyl 記号は λ(−12p2q3+6ℏ2q) である。式 (2.3.20) の第2項では、AW=p3 と HW⊃λq4 の間に入る3階の微分のうち(−∂p∂q)3 だけが残り、−∂p3(p3)∂q3(λq4)=−6⋅24λq=−144λq だから、第2項は −24ℏ2(−144λq)=6ℏ2λq で一致する。⟨p^3⟩ の時間変化には古典に無い 6ℏ2λ⟨q^⟩ が加わる。正準変数の方程式は古典と同じ形でも、その積で作った物理量の方程式には ℏ2 の項が入る、という 2.3.1 節のキーボックスの具体例である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com