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比べる2つの分布:ミクロカノニカル分布の周辺とカノニカル分布

2026年10月15日14分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第3章 典型性と熱平衡化
目次
  1. 模型:2準位の粒子 個
  2. 全体どうしを比べる
  3. 部分系に制限して比べる
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第3章 §2.3.1 ★★★ 全体では 12ln⁡N\tfrac12\ln N の程度離れている2つの分布が、小さな部分系に制限すると D≈k(k−1)/(4N2)D\approx k(k-1)/(4N^2) まで近づく。量子の典型性の古典版

統計力学の教科書は、孤立系のエネルギー殻の上の状態に等しい確率を割り当てる等重率の仮定から出発し、そこから小さな部分系のカノニカル分布を導く。しかし、量子力学に従う孤立系はある時刻に1つの状態にあり、その状態は時間とともにユニタリに発展するだけである。全体が1つの純粋状態にあるのに、なぜ部分系の測定結果は温度 TT の Gibbs 状態で予言できるのか。この章はこの問いに相対エントロピーの言葉で答える。

比べる2つの状態は、全体の状態を部分系 AA に制限したものと、ミクロカノニカル状態を同じ AA に制限したものである。全体どうしを比べると、1つの純粋状態とエネルギー殻の上の一様な混合は D=ln⁡dRD=\ln d_R(dRd_R はエネルギー殻の次元)だけ離れていて、ほぼ最大に区別できる。ところが部分系 AA に制限すると、ほとんどすべての純粋状態について DD は dA/dBeffd_A/d_B^{\mathrm{eff}} の程度(dAd_A は AA の次元、dBeffd_B^{\mathrm{eff}} は残りの部分の実効的な次元)まで小さくなる。これが正準典型性(canonical typicality)で、等重率の仮定は「状態をエネルギー殻からでたらめに選べば、ほとんどどれを選んでも部分系は同じに見える」という主張に置き換わる。当てる DD の性質は、部分トレースで DD が増えないこと(データ処理不等式)、DD が2次の量 χ2\chi^2 で上から押さえられること、Pinsker の不等式で観測量の差に直せることの3つである。

章の前半は準備として、古典の場合(ミクロカノニカル分布の周辺とカノニカル分布)から始める。これは 第1部第2章 でBoltzmann のエントロピーと Gibbs のエントロピーが1粒子あたり一致することを示した計算の続きである。後半では、ランダムに選んだ状態でなく、決まった初期状態から時間発展した状態でも、部分系が長い時間のほとんどで平衡に落ち着くこと(平衡化)を示し、落ち着いた先がミクロカノニカル状態と一致するための条件(固有状態熱化仮説)を「授業で習った形との対応」の節で述べる。

記号の約束。この章では DD と von Neumann エントロピー S(ρ^)S(\hat\rho) を自然対数(nat)で書き、熱力学のエントロピーは kBk_{\mathrm B} を掛けて SmcS^{\mathrm{mc}}・ScanS^{\mathrm{can}} のように添字を付ける。部分系は量子情報の慣例どおり AA(小さい側)と BB(残り)で表し、dAd_A・dBd_B をそれぞれの Hilbert 空間の次元とする。密度行列と部分トレースは 第3部第1章 で整えるので、この章では使う所だけを最小限に定義する。

模型:2準位の粒子 NN 個

基底状態のエネルギー 00、励起状態のエネルギー ε\varepsilon の2準位の粒子を NN 個並べた孤立系を考える。粒子 ii が励起していれば ni=1n_i=1、基底状態なら ni=0n_i=0 とし、配置を s=(n1,…,nN)s=(n_1,\dots,n_N) で表す。全エネルギーは E(s)=ε∑iniE(s)=\varepsilon \sum_in_i である。粒子どうしの相互作用は、エネルギーをやりとりさせるだけの弱いものとして式には残さない。

全エネルギーを E=MεE=M\varepsilon に固定したミクロカノニカル分布は、励起がちょうど MM 個の配置に等しい確率を与える分布で、

pmc(s)={1/W(E)(∑ini=M)0(それ以外),W(E)=(NM)(2.3.1)p^{\mathrm{mc}}(s)=\begin{cases}1/W(E) & (\sum_in_i=M)\\ 0 & (\text{それ以外})\end{cases},\qquad W(E)=\binom NM\tag{2.3.1}

である。一方、温度 TT のカノニカル分布は、各粒子が独立に確率 x=1/(eβε+1)x=1/(\mathrm{e}^{\beta\varepsilon }+1) で励起する分布

pcan(s)=e−βE(s)Z=∏i=1Nxni(1−x)1−ni,Z=(1+e−βε)N(2.3.2)p^{\mathrm{can}}(s)=\frac{\mathrm{e}^{-\beta E(s)}}{Z}=\prod_{i=1}^Nx^{n_i}(1-x)^{1-n_i},\qquad Z=(1+\mathrm{e}^{-\beta\varepsilon })^N\tag{2.3.2}

である。2つを比べるために、平均のエネルギーがそろうように β\beta を選ぶ。⟨E⟩pcan=Nεx=Mε\langle E \rangle _{p^{\mathrm{can}}}=N\varepsilon x=M\varepsilon から x=M/Nx=M/N になる。

全体どうしを比べる

まず全体の分布どうしの相対エントロピーを計算する。pcanp^{\mathrm{can}} の対数 ln⁡pcan(s)=−βE(s)−ln⁡Z\ln p^{\mathrm{can}}(s)=-\beta E(s)-\ln Z はエネルギーだけの関数で、pmcp^{\mathrm{mc}} が確率を置く配置の上では一定値 −βE−ln⁡Z-\beta E-\ln Z をとる。したがって

D(pmc ∥ pcan)=∑spmc(s)ln⁡pmc(s)pcan(s)=−ln⁡W(E)+βE+ln⁡Z=Scan−SmckB(2.3.3)D(p^{\mathrm{mc}}\,\|\,p^{\mathrm{can}})=\sum_sp^{\mathrm{mc}}(s)\ln\frac{p^{\mathrm{mc}}(s)}{p^{\mathrm{can}}(s)} =-\ln W(E)+\beta E+\ln Z=\frac{S^{\mathrm{can}}-S^{\mathrm{mc}}}{ k_{\mathrm B}}\tag{2.3.3}

を得る。ここで Smc=kBln⁡W(E)S^{\mathrm{mc}}= k_{\mathrm B}\ln W(E) は Boltzmann のエントロピー、Scan=kB(βU+ln⁡Z)S^{\mathrm{can}}= k_{\mathrm B}(\beta U+\ln Z)(U=EU=E)はカノニカル分布の Gibbs のエントロピーである。この計算は2準位の模型に限らない。どんな系でも、エネルギー殻の上の一様分布と、平均エネルギーをそろえたカノニカル分布の相対エントロピーは、2つの熱力学エントロピーの差を kBk_{\mathrm B} で割ったものになる。D≥0D\ge0 から Smc≤ScanS^{\mathrm{mc}}\le S^{\mathrm{can}} がいつも成り立ち、これはカノニカル分布が「平均エネルギーだけを固定した中でエントロピー最大の分布」であること(第2部第1章)と同じ内容である。

2準位の模型では、第1部第2章 の二項係数の評価から

D(pmc ∥ pcan)=Nhb(x)−ln⁡(NM)≈12ln⁡(2πNx(1−x))(2.3.4)D(p^{\mathrm{mc}}\,\|\,p^{\mathrm{can}})=Nh_{\mathrm b}(x)-\ln\binom NM\approx\frac12\ln\bigl(2\pi Nx(1-x)\bigr)\tag{2.3.4}

になる。全体の DD は NN とともに ln⁡N\ln N の速さで増える。2つの分布は全体としては次第に見分けやすくなる。ただし1粒子あたりでは D/N→0D/N\to0 で、第1部第2章で「Boltzmann と Gibbs のエントロピーは1粒子あたり一致する」と述べたのは、式 (2.3.3) の左辺を NN で割ったものが 00 に行くことである。

部分系に制限して比べる

次に、最初の kk 個の粒子だけからなる部分系 AA を見る。部分系の配置 sA=(n1,…,nk)s_A=(n_1,\dots,n_k) の中で励起している数を mm とする。ミクロカノニカル分布の周辺は、残りの N−kN-k 個に励起を M−mM-m 個配る場合の数を数えて

pAmc(sA)=(N−kM−m)(NM)(2.3.5)p^{\mathrm{mc}}_A(s_A)=\frac{\binom{N-k}{M-m}}{\binom NM}\tag{2.3.5}

である。カノニカル分布の周辺は独立な粒子の積なので pAcan(sA)=xm(1−x)k−mp^{\mathrm{can}}_A(s_A)=x^m(1-x)^{k-m} のままである。

周辺を取る操作は確率行列を掛ける操作の1つなので、データ処理不等式(第1部第4章)からD(pAmc ∥ pAcan)≤D(pmc ∥ pcan)D(p^{\mathrm{mc}}_A\,\|\,p^{\mathrm{can}}_A)\le D(p^{\mathrm{mc}}\,\|\,p^{\mathrm{can}}) は分かる。実際の減り方はこの不等式よりはるかに大きい。

命題 2.3.1(部分系の DD の主要項 ★★★)

kk と x=M/Nx=M/N(0<x<10<x<1)を固定して N→∞N\to\infty とすると

D(pAmc ∥ pAcan)=k(k−1)4N2+o(N−2).(2.3.6)D(p^{\mathrm{mc}}_A\,\|\,p^{\mathrm{can}}_A)=\frac{k(k-1)}{4N^2}+ o(N^{-2}).\tag{2.3.6}

主要項は xx によらない。

証明の筋

比の対数を δ(sA)=ln⁡(pAmc/pAcan)\delta(s_A)=\ln\bigl(p^{\mathrm{mc}}_A/p^{\mathrm{can}}_A\bigr) とおく。式 (2.3.5) を階乗で書き、M=NxM=Nx を使うと

δ=∑i=0m−1ln⁡(1−iNx)+∑j=0k−m−1ln⁡(1−jN(1−x))−∑l=0k−1ln⁡(1−lN)=−f(m)2N+O(N−2),\delta=\sum_{i=0}^{m-1}\ln\Bigl(1-\frac{i}{Nx}\Bigr)+\sum_{j=0}^{k-m-1}\ln\Bigl(1-\frac{j}{N(1-x)}\Bigr)-\sum_{l=0}^{k-1}\ln\Bigl(1-\frac lN\Bigr) =-\frac{f(m)}{2N}+\mathcal{O}(N^{-2}),

f(m)=m(m−1)x+(k−m)(k−m−1)1−x−k(k−1)f(m)=\frac{m(m-1)}{x}+\frac{(k-m)(k-m-1)}{1-x}-k(k-1)

となる。pAmc=pAcaneδp^{\mathrm{mc}}_A=p^{\mathrm{can}}_A\mathrm{e}^{\delta} で δ\delta が小さいとき、∑sApAcaneδ=1\sum_{s_A}p^{\mathrm{can}}_A\mathrm{e}^\delta=1 を使って D=⟨δ eδ⟩pAcanD=\langle \delta\,\mathrm{e}^\delta \rangle _{p^{\mathrm{can}}_A} を δ\delta の2次まで展開するとD=12VarpAcan(δ)+O(δ3)D=\frac12\mathrm{Var}_{p^{\mathrm{can}}_A}(\delta)+\mathcal{O}(\delta^3) になる(第1部第3章の「DD はずれの2乗のように振る舞う」の具体形)。残りは ff の分散の計算である。m(m−1)=∑i≠jninjm(m-1)=\sum_{i\neq j}n_in_j と書けるので、i≠ji\ne j の組ごとに

gij=ninjx+(1−ni)(1−nj)1−x−1g_{ij}=\frac{n_in_j}{x}+\frac{(1-n_i)(1-n_j)}{1-x}-1

とおけば f=∑i≠jgij=2∑i<jgijf=\sum_{i\neq j}g_{ij}=2\sum_{i<j}g_{ij} になる。カノニカル分布のもとで gijg_{ij} は、ni=nj=1n_i=n_j=1(確率 x2x^2)で (1−x)/x(1-x)/x、ni=nj=0n_i=n_j=0(確率 (1−x)2(1-x)^2)で x/(1−x)x/(1-x)、それ以外(確率 2x(1−x)2x(1-x))で −1-1 をとるので、平均 00、2乗の平均 (1−x)2+x2+2x(1−x)=1(1-x)^2+x^2+2x(1-x)=1 である。さらに nin_i を固定して njn_j について平均すると gijg_{ij} は 00 になるので、添字を1つでも共有しない組はもちろん、1つ共有する組どうしも無相関である。したがって ⟨f2⟩=4(k2)=2k(k−1)\langle f^2 \rangle =4\binom k2=2k(k-1)、Var(δ)=2k(k−1)/(4N2)\mathrm{Var}(\delta)=2k(k-1)/(4N^2)、D≈k(k−1)/(4N2)D\approx k(k-1)/(4N^2) となる。

全体では 12ln⁡N\frac12\ln N の程度離れていた2つの分布が、kk 個の粒子に制限すると N−2N^{-2} の速さで区別できなくなる。k=1k=1 では周辺がちょうど一致する(D=0D=0)。1粒子の励起確率は、ミクロカノニカル分布でも M/N=xM/N=x で、カノニカル分布と同じだからである。DD の主要項に k(k−1)k(k-1) が付くのは、ずれが「粒子の組の相関」から生じることを表している。ミクロカノニカル分布では励起の総数が決まっているので、1つの粒子が励起していると、ほかの粒子が励起している確率はわずかに下がる。この負の相関が組ごとに 1/N1/N の大きさで残り、DD にはその2乗が組の数 (k2)\binom k2 だけ足し合わされる。

図

図 2.3.1 ミクロカノニカル分布の周辺とカノニカル分布の相対エントロピー。点線(印つき)は式 (2.3.5) から計算した厳密な値、実線は主要項 k(k−1)/(4N2)k(k-1)/(4N^2)。傾きは両対数で −2-2 で、NN が大きいほど主要項に近づく。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの k/N→0k/N\to0(部分系が全体に比べて小さい) | 証明 証明済み(有限個の交換可能な確率変数の周辺は独立な積に近い。Diaconis–Freedman(1980)、Ann. Probab. 8、745) | 行き先 近似の数理 第6章

例題 2.3.1 全体と部分で DD を比べる ★★

オリジナルN=16N=16 個の2準位の粒子で、励起の数を M=4M=4 に固定する(x=1/4x=1/4)。

  1. (1) 全体の D(pmc ∥ pcan)D(p^{\mathrm{mc}}\,\|\,p^{\mathrm{can}}) を式 (2.3.3) から求め、近似 (2.3.4) と比べよ。
  2. (2) 最初の2個(k=2k=2)の周辺 pAmcp^{\mathrm{mc}}_A を求め、D(pAmc ∥ pAcan)D(p^{\mathrm{mc}}_A\,\|\,p^{\mathrm{can}}_A) を計算して主要項 (2.3.6) と比べよ。
解答

(1) W(E)=(164)=1820W(E)=\binom{16}{4}=1820 なので ln⁡W(E)=7.507\ln W(E)=7.507。Nhb(1/4)=16(14ln⁡4+34ln⁡43)=8.997Nh_{\mathrm b}(1/4)=16\bigl(\frac14\ln4+\frac34\ln\frac43\bigr)=8.997 だからD(pmc ∥ pcan)=8.997−7.507=1.491D(p^{\mathrm{mc}}\,\|\,p^{\mathrm{can}})=8.997-7.507=1.491 nat である。近似は 12ln⁡(2π⋅16⋅14⋅34)=12ln⁡(6π)=1.468\frac12\ln(2\pi\cdot16\cdot\frac14\cdot\frac34)=\frac12\ln(6\pi)=1.468 で、差は 2%2\% に満たない。1粒子あたりでは 1.491/16=0.0931.491/16=0.093 nat である。

(2) 式 (2.3.5) で (NM)=1820\binom NM=1820、(144)=1001\binom{14}{4}=1001、(143)=364\binom{14}{3}=364、(142)=91\binom{14}{2}=91 を使うと、2個とも基底状態の配置が 1001/1820=11/201001/1820=11/20、片方だけ励起した2つの配置がそれぞれ 364/1820=1/5364/1820=1/5、2個とも励起した配置が 91/1820=1/2091/1820=1/20 である(合計 11/20+2/5+1/20=111/20+2/5+1/20=1)。カノニカル分布の周辺はそれぞれ 9/169/16、3/163/16、1/161/16 なので

D=1120ln⁡11/209/16+2⋅15ln⁡1/53/16+120ln⁡1/201/16=2.30×10−3 nat.D=\frac{11}{20}\ln\frac{11/20}{9/16}+2\cdot\frac15\ln\frac{1/5}{3/16}+\frac1{20}\ln\frac{1/20}{1/16}=2.30\times10^{-3}\ \text{nat}.

主要項は 2⋅1/(4⋅162)=1.95×10−32\cdot1/(4\cdot16^2)=1.95\times10^{-3} で、N=16N=16 でも主要項が値の 85% を占める。全体の 1.4911.491 nat と比べて約 650650 分の1で、2粒子だけを見ていては、ミクロカノニカル分布とカノニカル分布はほとんど区別できない。ずれの向きは、2個とも励起する確率が 1/161/16 から 1/201/20 へ下がる向きで、励起の総数が決まっていることによる負の相関を表している。

この節の比較は、分布どうし(アンサンブルどうし)の比較である。古典の系では1つの微視状態 ss を決めると部分系の配置 sAs_A も1つに決まるので、「1つの微視状態の部分系がカノニカル分布に従う」という言い方はできない。部分系の分布を語るには、全体の分布(等重率の仮定)を持ち込む必要がある。量子の系ではこの事情が変わる。全体が1つの純粋状態にあっても、部分系の状態は一般に混合状態で、それ自体が確率分布を持つ。次の節からはこの点を使う。

ほかの巻では

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