平均場スケーリングと問いの立て方
AI 生成・木下が未勉強
近似の数理 第6章 §6.1 ★★★ 「何を小さいパラメータとみなすか」を決めないと、近似が厳密になる極限そのものが定義できない
第5章では、Hartree–Fock 近似を「多体の波動関数を探す空間を Slater 行列式の集合へ狭めた変分問題」として扱った。この見方(A 型=射影)で数学が保証するものは、Hartree–Fock のエネルギーが真の基底エネルギーの上界であることに限られる。上界がどれほど真値に近いのかは、変分の枠組みからは出てこない。
同じ「平均場近似」には、もう一つの顔がある。粒子数 を大きくし、それに合わせて一対の相互作用を 倍に弱めると、多体の解そのものが一体方程式(Vlasov 方程式、Hartree 方程式、Thomas–Fermi 方程式)の解に近づく。この見方では、平均場近似は「ある極限で厳密になる有効方程式」であり、第1章の分類では B 型(極限)に属する。B 型の近似について数学が言えることは、極限がどの意味で存在するか、どれだけの速さで近づくか、どこで破綻するか、の三つである。この章では、古典系でこれを完全に証明し(Dobrushin の定理)、量子系では有界な相互作用の場合に証明を書き切り(Pickl の方法)、原子については結果を正確に述べる(Lieb–Simon の定理と Scott・Schwinger 補正)。
なぜ相互作用を 1/N 倍するのか
次元空間の 個の同種粒子を考える。古典力学なら運動方程式、量子力学ならハミルトニアン
が出発点になる。 は 番目の粒子に働く一体の作用素(運動エネルギーと外場)、 は二体の相互作用、 は結合の強さである。各項の大きさを数えると、一体の部分は 個の項の和なので 、相互作用の部分は粒子の対の数 に比例するので になる。 を によらない定数にしておくと、 で相互作用が運動エネルギーを圧倒し、エネルギーは粒子1個あたりで見ても発散する(系はつぶれるか飛び散る)。逆に を より速く小さくすると、相互作用は極限で消えて自由粒子しか残らない。両者が同じ で釣り合うのは
のときだけである。これを平均場スケーリングと呼ぶ。このとき粒子 に働く力は
となり、小さな力 個の平均の形をとる。平均は大数の法則によって揺らぎが消えるので、 では「他の粒子全体がつくる滑らかな平均の力」で置き換えてよいはずだ、というのが平均場近似の直観である。
平均場スケーリングの物理的な意味
倍は人為的な操作に見えるが、物理の系には同じ構造が自然に現れる。重い原子では原子核の電荷 と電子数 が一緒に大きくなり、長さを 倍に縮めると電子間反発の係数が になる(第6.7節)。銀河の星の運動やプラズマでも、粒子1個の寄与は全体のつくる場に比べて小さい。「多数の弱い相互作用の平均」が成り立つ状況を数学の言葉で言い表したものが平均場スケーリングである。
問いの形
平均場スケーリングの下で、次の問いを立てる。
体の解(古典なら 個の粒子の軌道、量子なら 体の波動関数)は、 で一体方程式の解の「積」に近づくか。近づくなら、それはどういう意味で、どれだけの速さか。
「近づく」の意味をきちんと決めることがこの章の中心的な仕事になる。 体の波動関数 と積 の 距離は、後で見るとおり一般には で小さくならない(例題 6.6 の調和結合ボソンで確かめる)。近づく対象は、少数の粒子だけを見たときの統計(周辺分布・縮約密度行列)や、1粒子あたりのエネルギーである。物理の直観「平均場近似は良い」は、この意味において数学的に正しい。
例題 6.1 平均場スケーリングの次元解析 ★★
オリジナル[標準的な題材を自作] 1次元の 粒子系 を考える。 は有界とする。
- 積状態 ( は規格化された1粒子の波動関数)でのエネルギー期待値を、 と を使って書け。
- を によらない定数とすると、1粒子あたりのエネルギーが で発散することを示せ( とする)。
- とすると、1粒子あたりのエネルギーが によらない汎関数になることを示し、その汎関数を書け。
解答
(1) 一体の項は各粒子について同じ値 を与えるので合計 。相互作用の項は対 ごとに を与え、対は 個あるので
(2) 1粒子あたりでは となり、第2項は に比例して へ発散する。(反発的)なら を広げて を小さくしようとし、(引力的)なら最小値が に向かって系がつぶれる。いずれにせよ の極限は意味を持たない。
(3) なら 1粒子あたり となり、 が消える。これがHartree 汎関数
である。 としても差は で、極限は同じになる。
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