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比べる2つの分布:同じ通信路を通す前と後

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第4章 データ処理不等式と十分統計量
目次
  1. 通信路と確率行列
  2. Markov 連鎖
  3. 比べる2組の分布
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第4章 §1.4.1 ★★★ 確率的な処理を確率行列 WW で書き、比べる2組の分布 (p,q)↦(Wp,Wq)(p,q)\mapsto(Wp,Wq) と (pXY,pXpY)↦(pXZ,pXpZ)(p_{XY},p_Xp_Y)\mapsto(p_{XZ},p_Xp_Z) を用意する

前の章(第1部第3章)では、2つの分布 pp と qq の違いを測る量として相対エントロピーD(p ∥ q)=∑xp(x)ln⁡(p(x)/q(x))D(p\,\|\,q)=\sum_xp(x)\ln\bigl(p(x)/q(x)\bigr) を定義し、Jensen の不等式から D(p ∥ q)≥0D(p\,\|\,q)\ge0(等号は p=qp=q のときに限る)を示した。また、相互情報量を同時分布と周辺分布の積との相対エントロピー I(X;Y)=D(pXY ∥ pXpY)I(X;Y)=D(p_{XY}\,\|\,p_Xp_Y) として定義した。この章では、相対エントロピーのもう1つの基本的な性質を扱う。それは、2つの分布に同じ確率的な処理(通信路)を当てると、処理の後の相対エントロピーは処理の前より大きくならない、という性質である。式で書くと、確率行列 WW について

D(Wp ∥ Wq)≤D(p ∥ q)D(Wp\,\|\,Wq)\le D(p\,\|\,q)

が成り立つ。これを相対エントロピーのデータ処理不等式(単調性)と呼ぶ。

この章で比べる2つの分布は、同じ通信路に入れた2つの入力の分布と、その2つの出力の分布である。当てる性質は、相対エントロピーの連鎖律(同時分布の相対エントロピーを周辺と条件付きに分ける式)と、前の章の非負性の2つだけで足りる。そこから出てくるものは3つある。1つ目は、観測 YY をさらに加工した ZZ は XX について YY 以上の情報を持たないという、相互情報量のデータ処理不等式 I(X;Z)≤I(X;Y)I(X;Z)\le I(X;Y) である。2つ目は、データを統計量 T(X)T(X) にまとめても情報が減らないのはどういうときか、という問いへの答えで、それが統計学の十分統計量になる。3つ目は、Markov 連鎖の分布と定常分布との相対エントロピーが時間とともに増えないという H 定理で、この巻が繰り返し扱う「第二法則はデータ処理不等式の1つの姿である」という見方の最初の例になる。

この章の対数はすべて自然対数で、情報量の単位は nat とする。ビットで書く所だけ log⁡2\log_2 と書き、単位「ビット」を添える。確率変数は大文字 X,Y,ZX,Y,Z、その値は小文字 x,y,zx,y,z で書き、すべて有限集合に値をとるとする(1.4.6節で連続の場合に1度だけ触れる)。

通信路と確率行列

入力 xx を受け取って、出力 yy を確率 W(y ∣ x)W(y\,|\,x) で返す処理を通信路と呼ぶ。W(y ∣ x)≥0W(y\,|\,x)\ge0 であり、入力 xx を1つ決めると出力のどれかは必ず出るので

∑yW(y ∣ x)=1(すべての x)(1.4.1)\sum_yW(y\,|\,x)=1\qquad(\text{すべての }x)\tag{1.4.1}

が成り立つ。W(y ∣ x)W(y\,|\,x) を yy 行 xx 列の成分とする行列を確率行列と呼ぶ(各列の和が 11)。入力の分布が pp のとき、出力の分布は

(Wp)(y)=∑xW(y ∣ x) p(x)(1.4.2)(Wp)(y)=\sum_xW(y\,|\,x)\,p(x)\tag{1.4.2}

で、これは行列 WW と縦ベクトル pp の積である。式 (1.4.1) から ∑y(Wp)(y)=∑xp(x)=1\sum_y(Wp)(y)=\sum_xp(x)=1 なので、WpWp も確率分布になる。

通信路という名前は電話線や無線の雑音を念頭に置いたものだが、この章では「確率的な処理」全般をこの形で書く。次の2つは確率的でない処理だが、確率行列の特別な場合として同じ形に入る。

  • 関数で変換する:y=f(x)y=f(x) と決まった値を返す処理は W(y ∣ x)=δy,f(x)W(y\,|\,x)=\delta_{y,f(x)}(Kronecker のデルタ)。データから統計量 T(x)T(x) を計算する操作はこの形である。
  • 一部を忘れる:組 (x,y)(x,y) から xx だけを残す処理は W(x′ ∣ x,y)=δx′,xW(x'\,|\,x,y)=\delta_{x',x}。同時分布 pXYp_{XY} はこれで周辺分布 pXp_X に移る。

Markov 連鎖 X→Y→ZX\to Y\to Z

XX を通信路 W1W_1 に通して YY を得、その YY を通信路 W2W_2 に通して ZZ を得る。ZZ を作るときに XX を見ないので、同時分布は

p(x,y,z)=p(x) W1(y ∣ x) W2(z ∣ y)(1.4.3)p(x,y,z)=p(x)\,W_1(y\,|\,x)\,W_2(z\,|\,y)\tag{1.4.3}

となる。この形の同時分布を持つ3つの確率変数の組を Markov 連鎖と呼び、X→Y→ZX\to Y\to Z と書く。式 (1.4.3) を p(x,y)=p(x)W1(y ∣ x)p(x,y)=p(x)W_1(y\,|\,x) で割ると p(z ∣ x,y)=W2(z ∣ y)p(z\,|\,x,y)=W_2(z\,|\,y) が xx によらないので、X→Y→ZX\to Y\to Z は「YY を知れば XX は ZZ について何も付け加えない」こと、すなわち

p(x,z ∣ y)=p(x ∣ y) p(z ∣ y)(p(y)>0)(1.4.4)p(x,z\,|\,y)=p(x\,|\,y)\,p(z\,|\,y)\qquad(p(y)>0)\tag{1.4.4}

と同じである(YY を与えたとき XX と ZZ が条件付き独立)。式 (1.4.4) は XX と ZZ について対称なので、X→Y→ZX\to Y\to Z なら逆向きの Z→Y→XZ\to Y\to X も Markov 連鎖になる。この対称性は1.4.3節で使う。

図

図 1.4.1 Markov 連鎖 X→Y→ZX\to Y\to Z。2つの入力の分布 p,qp,q を同じ通信路に通すと、各段の下に書いた出力の分布の組ができる。1.4.2節で示すとおり、段を進むごとに2つの分布の相対エントロピーは増えない

比べる2組の分布

この章で比べる分布の組は2種類ある。

1つ目は、2つの入力の分布 p,qp,q と、それを同じ通信路 WW に通した出力の分布 Wp,WqWp,Wq である(図 1.4.1)。たとえば pp と qq は「コインに偏りがある」「偏りがない」という2つの仮説のもとでのデータの分布で、WW はデータの記録や要約の手続きである。処理の前の D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) と処理の後の D(Wp ∥ Wq)D(Wp\,\|\,Wq) を比べる。

2つ目は、相互情報量で比べる組である。I(X;Y)=D(pXY ∥ pXpY)I(X;Y)=D(p_{XY}\,\|\,p_Xp_Y) は、実際の同時分布 pXYp_{XY} と、XX と YY が独立だとした分布 pXpYp_Xp_Y を比べている。Markov 連鎖 X→Y→ZX\to Y\to Z では、YY を W2W_2 で ZZ に変える処理を、組 (x,y)(x,y) の xx はそのまま残して yy だけを zz に変える通信路とみなすことができる。この通信路を id⊗W2\mathrm{id}\otimes W_2 と書き、その成分を δx′,xW2(z ∣ y)\delta_{x',x}W_2(z\,|\,y) とする。式 (1.4.3) から

pXZ(x,z)=∑yW2(z ∣ y) pXY(x,y),pX(x) pZ(z)=∑yW2(z ∣ y) pX(x) pY(y)(1.4.5)p_{XZ}(x,z)=\sum_yW_2(z\,|\,y)\,p_{XY}(x,y),\qquad p_X(x)\,p_Z(z)=\sum_yW_2(z\,|\,y)\,p_X(x)\,p_Y(y)\tag{1.4.5}

が成り立つ。左の式は式 (1.4.3) を yy について和をとったもの、右の式は pZ=W2pYp_Z=W_2p_Y に pX(x)p_X(x) を掛けたものである。つまり id⊗W2\mathrm{id}\otimes W_2 は、組 (pXY, pXpY)(p_{XY},\,p_Xp_Y) を組 (pXZ, pXpZ)(p_{XZ},\,p_Xp_Z) へ、両方とも同じ通信路で移す。相互情報量の比較 I(X;Y)I(X;Y) と I(X;Z)I(X;Z) は、1つ目の比較の特別な場合になっている。左の式で Markov 性を使った点に注意する。ZZ が YY だけでなく XX も見て作られるなら、pXZp_{XZ} は pXYp_{XY} に1つの通信路を当てた形に書けない。

例題 1.4.1 2段の2値対称通信路 ★★

オリジナル誤り確率 ε\varepsilon の2値対称通信路は、入力 x∈{0,1}x\in\{0,1\} を確率 1−ε1-\varepsilon でそのまま、確率 ε\varepsilon で反転して出力する通信路で、確率行列は

Wε=(1−εεε1−ε)W_{\varepsilon }=\begin{pmatrix}1-\varepsilon &\varepsilon \\ \varepsilon &1-\varepsilon \end{pmatrix}

である。

  1. 誤り確率 ε1\varepsilon _1 の通信路のあとに誤り確率 ε2\varepsilon _2 の通信路をつないだもの Wε2Wε1W_{\varepsilon _2}W_{\varepsilon _1} が、誤り確率 ε1+ε2−2ε1ε2\varepsilon _1+\varepsilon _2-2\varepsilon _1\varepsilon _2 の2値対称通信路になることを示せ。
  2. ε1=0.1\varepsilon _1=0.1, ε2=0.2\varepsilon _2=0.2 のときの全体の誤り確率を求めよ。
  3. 1−2ε1-2\varepsilon が段をつなぐごとに掛け算になることを示し、誤り確率 0.10.1 の通信路を nn 段つないだものの誤り確率 ε(n)\varepsilon ^{(n)} を求めよ。
解答
  1. 行列の積を計算すると、対角成分は (1−ε2)(1−ε1)+ε2ε1=1−ε1−ε2+2ε1ε2(1-\varepsilon _2)(1-\varepsilon _1)+\varepsilon _2\varepsilon _1=1-\varepsilon _1-\varepsilon _2+2\varepsilon _1\varepsilon _2、非対角成分は (1−ε2)ε1+ε2(1−ε1)=ε1+ε2−2ε1ε2(1-\varepsilon _2)\varepsilon _1+\varepsilon _2(1-\varepsilon _1)=\varepsilon _1+\varepsilon _2-2\varepsilon _1\varepsilon _2 である。非対角成分が2つとも同じなので、全体は誤り確率 ε1+ε2−2ε1ε2\varepsilon _1+\varepsilon _2-2\varepsilon _1\varepsilon _2 の2値対称通信路である。2回とも反転するとまた元に戻るので、誤りは「ちょうど片方だけが反転した」場合に限られる、と読むこともできる。
  2. 0.1+0.2−2×0.1×0.2=0.260.1+0.2-2\times0.1\times0.2=0.26。
  3. 全体の誤り確率を ε\varepsilon とすると 1−2ε=1−2ε1−2ε2+4ε1ε2=(1−2ε1)(1−2ε2)1-2\varepsilon =1-2\varepsilon _1-2\varepsilon _2+4\varepsilon _1\varepsilon _2=(1-2\varepsilon _1)(1-2\varepsilon _2)。よって nn 段では 1−2ε(n)=(1−2×0.1)n=0.8n1-2\varepsilon ^{(n)}=(1-2\times0.1)^n=0.8^n、すなわち ε(n)=(1−0.8n)/2\varepsilon ^{(n)}=\bigl(1-0.8^n\bigr)/2。n→∞n\to\infty で ε(n)→1/2\varepsilon ^{(n)}\to1/2 となり、出力は入力と無関係な公平なコインに近づく。

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