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比べる2つの分布:相対エントロピーの定義

2026年10月15日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第3章 相対エントロピーと相互情報量
目次
  1. 驚きの差の平均
  2. 符号の長さと尤度比で読む
  3. 非対称であること
  4. 連続な分布
  5. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第3章 §1.3.1 ★★★ D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) は「qq を信じたときの驚き」から「pp を知っているときの驚き」を引いて、実際の分布 pp で平均したもの

前の章(第1部第2章)では、1つの分布 pp について、値 xx が出たときの驚き −ln⁡p(x)-\ln p(x) と、その平均である Shannon エントロピーH(p)=−∑xp(x)ln⁡p(x)H(p)=-\sum_xp(x)\ln p(x) を定義した。この章では分布を2つ用意する。同じ確率変数について「実際の分布 pp」と「そうだと仮定した分布 qq」があるとき、qq を信じて驚く量と pp を知っていて驚く量の差を平均したものが相対エントロピー D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) である。この巻はこの1つの量を根っこに置き、情報理論・統計学・統計力学・量子情報・情報熱力学の結果を、どの2つの分布の DD を測っているかで読んでいく。

この章で DD について示す性質は、ほとんど1つに尽きる。D(p ∥ q)≥0D(p\,\|\,q)\ge0 で、等号は p=qp=q のときに限る(Gibbs の不等式)。証明は、対数関数が上に凸であることを確率の平均に当てはめた Jensen の不等式1本で済む。この1本から、次のものがすべて出てくる。比べる相手 qq を一様分布に選ぶと、エントロピーの上限 H(X)≤ln⁡∣X∣H(X)\le\ln\lvert \mathcal X\rvert が出る。2つの確率変数の結合分布 pXYp_{XY} を、周辺分布の積 pXpYp_Xp_Y(独立だと仮定した分布)と比べると、DD は相互情報量 I(X;Y)I(X;Y) になり、その非負性から「条件を付けると平均のエントロピーは減る」ことと「結合エントロピーは和を超えない」ことが出る。さらに DD の連鎖律と凸性から、次の章のデータ処理不等式と、第6章の通信路容量の計算に使う凹凸の性質が出てくる。

エントロピーの対数は、この巻の約束どおり自然対数で書き、単位は nat とする。ビットが欲しいときは ln⁡2\ln2 で割る(11 ビット =ln⁡2=\ln2 nat)。授業や情報理論の教科書は底 22 で書くことが多いので、その対応は 1.3.6 節でまとめる。この章では、記号 ≔\coloneqq を定義に使う。

驚きの差の平均

確率変数 XX が有限集合 X\mathcal X に値をとるとする。XX の実際の分布を pp とし、それとは別に、ある仮定のもとで想定した分布 qq があるとする。値 xx が出たとき、qq を信じていた人の驚きは −ln⁡q(x)-\ln q(x)、実際の分布を知っていた人の驚きは −ln⁡p(x)-\ln p(x) である。その差 ln⁡(p(x)/q(x))\ln\bigl(p(x)/q(x)\bigr) は、qq が xx を実際より起こりにくいと見積もっていれば正、起こりやすいと見積もっていれば負になる。1回ごとの差は正にも負にもなるが、実際の分布 pp で平均すると、いつでも 00 以上になる(次の節で示す)。

定義 1.3.1(相対エントロピー)

有限集合 X\mathcal X 上の2つの確率分布 p,qp,q について、

D(p ∥ q)≔∑x∈Xp(x)ln⁡p(x)q(x)=⟨ln⁡p(X)q(X)⟩p(1.3.1)D(p\,\|\,q)\coloneqq\sum_{x\in\mathcal X}p(x)\ln\frac{p(x)}{q(x)}=\langle \ln\frac{p(X)}{q(X)} \rangle _p\tag{1.3.1}

を pp の qq に対する相対エントロピーと呼ぶ。Kullback–Leibler ダイバージェンス(KL ダイバージェンス)とも呼ぶ。和の中の 0ln⁡(0/q)0\ln(0/q) は 00 と約束する。p(x)>0p(x)>0 かつ q(x)=0q(x)=0 となる xx があるときは D(p ∥ q)=+∞D(p\,\|\,q)=+\infty と約束する。

2つの約束は、どちらも ln⁡(p/q)\ln(p/q) の平均という意味から決まる。p(x)=0p(x)=0 の値は実際には出ないので、平均に寄与しない。tln⁡t→0t\ln t\to0(t→+0t\to+0)なので、0ln⁡0=00\ln0=0 は連続性とも合う。逆に、qq が「起こりえない」とした値が実際に確率 p(x)>0p(x)>0 で出ると、qq を信じる人の驚き −ln⁡q(x)-\ln q(x) は無限大で、その平均も無限大になる。相対エントロピーが有限であるためには、pp の台(p(x)>0p(x)>0 となる xx の集合)が qq の台に含まれていなければならない。

驚きの差の平均という読み方を式にすると、

−∑xp(x)ln⁡q(x)=H(p)+D(p ∥ q)(1.3.2)-\sum_xp(x)\ln q(x)=H(p)+D(p\,\|\,q)\tag{1.3.2}

となる。左辺は「実際には pp で出る値を、qq を信じて驚いた量」の平均で、交差エントロピーと呼ばれる。右辺の第1項は pp を知っていても避けられない驚き、第2項は分布を qq と取り違えたことによる上乗せである。

符号の長さと尤度比で読む

DD には、この巻で繰り返し使う2つの読み方がある。

1つ目は符号の長さである。確率 q(x)q(x) の値に長さおよそ −log⁡2q(x)-\log_2q(x) ビットの符号語を割り当てると、qq から出る記号列の1記号あたりの平均の符号長はqq の Shannon エントロピー(ビット)に近くなり、これが下限である(第1部第5章 で示す)。この符号を、実際には pp で出る記号列に使うと、1記号あたりの平均の長さは式 (1.3.2) を ln⁡2\ln2 で割った値 (H(p)+D(p ∥ q))/ln⁡2(H(p)+D(p\,\|\,q))/\ln2 ビットになる。pp に合わせて作った符号なら H(p)/ln⁡2H(p)/\ln2 ビットで済んだので、D(p ∥ q)/ln⁡2D(p\,\|\,q)/\ln2 ビットは「分布を取り違えて作った符号の、1記号あたりの無駄」である。符号長が整数であることや、符号が実際に作れることの条件(Kraft の不等式)も同じ章で扱う。

2つ目は仮説検定である。データ xx が「pp から出たのか、qq から出たのか」を判定したいとき、使う量は尤度比 p(x)/q(x)p(x)/q(x) の対数である。D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) は、データが本当に pp から出ているときの対数尤度比の平均にあたる。独立に nn 個のデータ x1,…,xnx_1,\dots,x_n をとると対数尤度比は ∑iln⁡(p(xi)/q(xi))\sum_i\ln\bigl(p(x_i)/q(x_i)\bigr) で、大数の法則によりおよそ nD(p ∥ q)nD(p\,\|\,q) の速さで伸びる。DD が大きいほど、少ないデータで qq を棄却できる。この見方を誤り確率の指数として正確に述べたものが Stein の補題で、第1部第8章 で示す。

非対称であること

D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) は pp と qq について対称でない。平均をとる分布が pp に固定されているからである。図 1.3.1 は、表の出る確率 aa のコイン(pa=(a,1−a)p_a=(a,1-a) と書く)と公平なコイン p1/2p_{1/2} の間の DD を両方の向きで描いたものである。D(pa ∥ p1/2)D(p_a\,\|\,p_{1/2}) は a→0a\to0 でも有限の ln⁡2\ln2 に留まるのに対し、D(p1/2 ∥ pa)D(p_{1/2}\,\|\,p_a) は a→0a\to0 で発散する。後者では、公平なコインから確率 1/21/2 で出る表を、pap_a がほとんど起こりえないと見積もっているので、驚きの上乗せが大きくなる。前者では、pap_a からほとんど表が出ず、公平なコインを信じる人の驚きは高々 ln⁡2\ln2 にしかならない。この非対称性があるので、DD は距離の公理を満たさない。それでも「2つの分布がどれだけ見分けやすいか」を測る量として使える理由は、次の節の非負性と、1.3.5 節の凸性にある。

図

図 1.3.1 表の出る確率 aa のコイン pap_a と公平なコイン p1/2p_{1/2} の相対エントロピー。点線は2つの向きの DD の厳密な値(青=D(pa ∥ p1/2)D(p_a\,\|\,p_{1/2})、赤=D(p1/2 ∥ pa)D(p_{1/2}\,\|\,p_a))、実線は a=1/2a=1/2 のまわりの2次の近似 2(a−1/2)22(a-1/2)^2。この2次式は 1.3.2 節の Pinsker の不等式の右辺とも一致する。

a=1/2a=1/2 の近くでは、2つの向きの DD はどちらも 2(a−1/2)22(a-1/2)^2 に近づき、差は3次以上の項にしか現れない。分布を少しだけずらしたときの DD が2次の量になり、その係数が Fisher 情報になることは 第1部第7章 で扱う。

連続な分布

確率変数が実数値をとり、分布が密度 p(x),q(x)p(x),q(x) を持つときは、和を積分に置き換えて

D(p ∥ q)≔∫p(x)ln⁡p(x)q(x) dx(1.3.3)D(p\,\|\,q)\coloneqq\int p(x)\ln\frac{p(x)}{q(x)}\,\mathrm{d} x\tag{1.3.3}

と定める。この定義は変数の取り替えで変わらない。滑らかな1対1の写像 y=g(x)y=g(x) で変数を取り替えると、密度はp~(y)=p(x)/∣g′(x)∣\tilde p(y)=p(x)/\lvert g'(x)\rvert、q~(y)=q(x)/∣g′(x)∣\tilde q(y)=q(x)/\lvert g'(x)\rvert と同じ因子で変わり、比 p/qp/q は変わらない。dy\mathrm{d} y と 1/∣g′(x)∣1/\lvert g'(x)\rvert の因子は p~(y) dy=p(x) dx\tilde p(y)\,\mathrm{d} y=p(x)\,\mathrm{d} x の形で打ち消し合うので、DD はそのまま保たれる。これに対して、−∫pln⁡p dx-\int p\ln p\,\mathrm{d} x(微分エントロピー)は、ln⁡∣g′∣\ln\lvert g'\rvert の平均だけ値が変わる。微分エントロピーは座標の取り方によるので、連続な分布の情報量は DD を通して扱うほうが安全である。

例として、2つの正規分布 p=N(μ1,σ12)p=\mathcal N(\mu_1,\sigma_1^2) と q=N(μ2,σ22)q=\mathcal N(\mu_2,\sigma_2^2) の間の DD を求める。

ln⁡p(x)q(x)=ln⁡σ2σ1−(x−μ1)22σ12+(x−μ2)22σ22\ln\frac{p(x)}{q(x)}=\ln\frac{\sigma_2}{\sigma_1}-\frac{(x-\mu_1)^2}{2\sigma_1^2}+\frac{(x-\mu_2)^2}{2\sigma_2^2}

を pp で平均すると、⟨(X−μ1)2⟩p=σ12\langle (X-\mu_1)^2 \rangle _p=\sigma_1^2、⟨(X−μ2)2⟩p=σ12+(μ1−μ2)2\langle (X-\mu_2)^2 \rangle _p=\sigma_1^2+(\mu_1-\mu_2)^2 なので、

D(N(μ1,σ12) ∥ N(μ2,σ22))=ln⁡σ2σ1+σ12+(μ1−μ2)22σ22−12(1.3.4)D\bigl(\mathcal N(\mu_1,\sigma_1^2)\,\|\,\mathcal N(\mu_2,\sigma_2^2)\bigr)=\ln\frac{\sigma_2}{\sigma_1}+\frac{\sigma_1^2+(\mu_1-\mu_2)^2}{2\sigma_2^2}-\frac12\tag{1.3.4}

を得る。分散が等しい(σ1=σ2=σ\sigma_1=\sigma_2=\sigma)ときは (μ1−μ2)2/(2σ2)(\mu_1-\mu_2)^2/(2\sigma^2) になり、平均の差を標準偏差で測った量の2乗の半分である。

例題 1.3.1 偏ったコインと公平なコイン ★★

オリジナル表の出る確率が 3/43/4 のコイン p=(3/4,1/4)p=(3/4,1/4) と、公平なコイン q=(1/2,1/2)q=(1/2,1/2) がある。

  1. (1) D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) と D(q ∥ p)D(q\,\|\,p) を nat で求め、等しくないことを確かめよ。
  2. (2) pp のコインの投げた結果を、公平なコイン用の符号(表も裏も1ビット)で記録する。pp に合わせた符号と比べて、1回あたり平均何ビット余分に使うか。
解答

(1) 定義 (1.3.1) に代入する。

D(p ∥ q)=34ln⁡3/41/2+14ln⁡1/41/2=34ln⁡32−14ln⁡2=34ln⁡3−ln⁡2≈0.1308.D(p\,\|\,q)=\frac34\ln\frac{3/4}{1/2}+\frac14\ln\frac{1/4}{1/2}=\frac34\ln\frac32-\frac14\ln2=\frac34\ln3-\ln2\approx0.1308 .

逆向きは

D(q ∥ p)=12ln⁡1/23/4+12ln⁡1/21/4=12ln⁡23+12ln⁡2=12ln⁡43≈0.1438D(q\,\|\,p)=\frac12\ln\frac{1/2}{3/4}+\frac12\ln\frac{1/2}{1/4}=\frac12\ln\frac23+\frac12\ln2=\frac12\ln\frac43\approx0.1438

で、D(p ∥ q)≠D(q ∥ p)D(p\,\|\,q)\ne D(q\,\|\,p) である。

(2) 公平なコイン用の符号は1回につき1ビット =−log⁡2(1/2)=-\log_2(1/2) を使う。式 (1.3.2) より、その平均の長さは (H(p)+D(p ∥ q))/ln⁡2(H(p)+D(p\,\|\,q))/\ln2 ビットで、pp に合わせた符号の下限は H(p)/ln⁡2H(p)/\ln2 ビットである。差は

D(p ∥ q)ln⁡2=34ln⁡3−ln⁡2ln⁡2≈0.189 ビット\frac{D(p\,\|\,q)}{\ln2}=\frac{\frac34\ln3-\ln2}{\ln2}\approx0.189\ \text{ビット}

である。実際、H(p)=hb(1/4)≈0.5623H(p)=h_{\mathrm b}(1/4)\approx0.5623 nat ≈0.811\approx0.811 ビットで、1−0.811=0.1891-0.811=0.189 ビットと一致する。

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