驚き:確率の対数
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第2章 §1.2.1 ★★★ 驚きを確率だけの関数とし、独立な出来事で足し算になることを要求すると、対数の形が1通りに決まる
情報理論は、起こったことがどれだけ意外だったかを数で表すことから始まる。確率 の出来事が起きても誰も驚かないが、確率 の出来事が起きれば驚く。この章では、この「驚き」を確率だけの関数として決め、その平均を Shannon エントロピー と呼ぶ。定義そのものは1行で済むが、なぜ対数なのか、平均を取った量が何を数えているのかは、定義を眺めるだけでは分からない。この章の後半では、同じ分布から独立に 個取った長い系列を考えると、ほとんどすべての確率が約 個の典型系列に集まり、その1つ1つがほぼ同じ確率 を持つことを示す(漸近等分配性、AEP)。 は「長い系列で実際に起こりうる場合の数の対数を で割ったもの」である。この読み方が、データ圧縮(第1部第5章)・通信路容量(第1部第6章)・統計力学のエントロピー のすべてに共通する。
この巻の背骨は相対エントロピー で、その定義と一般の非負性は次の章(第1部第3章)で扱う。この章で が現れるのは2つの場所だけである。1つ目は、エントロピーが「一様分布と比べたときの 」で書けること()で、これが の上限を与える。2つ目は、真の分布 から出た系列を間違った分布 で評価したときの平均の驚きが になることで、 は「分布を取り違えたことによる余分な驚き」として現れる。
対数の底について。この巻では自然対数 を既定にし、エントロピーの単位は nat とする。ビットで述べるときだけ と書き、単位「ビット」を添える( ビット nat nat)。符号の長さは2進数の桁数で数えるのでビットが自然だが、第2部で を熱力学の自由エネルギーにつなぐときには が要るので、記号の上では に揃えておく。
驚きに課す条件
離散的な値をとる確率変数 を考え、とりうる値の集合(アルファベット)を 、分布を と書く。値 が出たときの驚きを と書き、次の3つを要求する。
- (i) 驚きは確率だけで決まる。 となる関数 がある。
- (ii) 起こりにくいほど驚く。 は減少関数である。
- (iii) 独立な出来事の驚きは足し算になる。()。
(i) は、驚きが出来事の中身(どの面が出たか、何の文字か)でなく確率だけに依存するという約束で、情報理論が意味を扱わない理由もここにある。(iii) は、独立な2つのさいころを振って「1つ目が3、2つ目が5」と知ったときの驚きが、それぞれを別々に知ったときの驚きの和になるという要求である。独立なら同時確率は積 になるので、積を和に変える関数が求められている。
命題 1.2.1(驚きは対数に限る ★★★)
(i)〜(iii) を満たす は、正の定数 を用いて と書けるものに限る。
証明
()とおくと、(iii) は になり、(ii) から は増加関数である。 を入れると である。正の整数 について が帰納法で従い、 を入れれば 、したがって正の有理数 について が成り立つ。 とおく。 は増加関数なので で、 なら は定数 になり (ii) の「起こりにくいほど驚く」に反するので とする。任意の実数 について、 を満たす有理数で が成り立ち、 とすれば を得る。 に戻すと である。
定数 は単位の選び方にあたる。 とした
を値 の驚き(自己情報量)と呼ぶ。単位は nat で、 に取れば ビットになる。確率 の出来事の驚きがちょうど ビットで、これは「表か裏か」を1回知らされたときの驚きにあたる。確率 の出来事の驚きは 、確率が に近づくと驚きは限りなく大きくなる。
対数の考えは Shannon より前にもあった。Hartley は、 通りの等しく起こりうる記号から1つを選ぶ通信の情報量を、場合の数の対数(底は単位の選び方)とした(R. V. L. Hartley (1928), Bell System Technical Journal 7, 535–563)。式 (1.2.1) は、等確率でない場合に場合の数の対数 を へ置き換えたものと読める。
記号について
情報理論の教科書の多くは自己情報量を と書く。この巻では を相互情報量(第1部第3章)に使うので、驚きは と書く。
条件付きの驚き
驚きの足し算は、独立でない場合にも条件付き確率を通して成り立つ。同時確率は と分けられるので、
となる。「 と を一度に知った驚き」は、「まず を知った驚き」と「 を知った上で を知った驚き」の和である。(iii) は、 となる独立な場合にあたる。
例題 1.2.1 トランプ1枚の驚きを2段に分ける ★★
オリジナルよく切った52枚のトランプ(ジョーカーなし)から1枚引いたら、ハートのクイーンだった。
- (1) この驚きを nat とビットで求めよ。
- (2) 「マークはハート」と先に知らされ、次に「数はクイーン」と知らされたとする。2回の驚きをそれぞれビットで求め、和が (1) に一致することを確かめよ。
- (3) 「絵札(J・Q・K)である」と知らされたときの驚きをビットで求めよ。
解答
(1) 確率は なので、驚きは nat、 ビットである。
(2) ハートの確率は なので、1回目の驚きは ビットである。ハートと分かった上でクイーンである条件付き確率は なので、2回目の驚きは ビットである。和は ビットで (1) に一致する。式 (1.2.2) で=マーク、=数とした場合にあたる。マークと数は独立なので、2回目の条件付き確率 は数だけを知った確率 と同じである。
(3) 絵札は 枚あるので確率は 、驚きは ビットである。ハートのクイーンと知った驚き ビットより小さいのは、「絵札」が12通りの可能性を残したままの知らせだからである。
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