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比べる2つの分布:知っていることを満たす分布と参照分布

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第1章 最大エントロピー原理
目次
  1. 部分的な知識を拘束として書く
  2. 参照分布との相対エントロピーで言い直す
  3. サイコロの例
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第1章 §2.1.1 ★★★ 部分的な知識を「期待値の拘束」として書き、拘束を満たす分布のうち参照分布に最も近いものを選ぶ、という問題を立てる

統計力学の教科書は、カノニカル分布 p(i)∝e−βEip(i)\propto\mathrm{e}^{-\beta E_i} を「系と熱浴を合わせた全体の等重率」から導く。この章では同じ分布を、まったく別の問いの答えとして導く。その問いは「系について平均エネルギーしか知らないとき、どの確率分布を使って予言するのが正しいか」である。E. T. Jaynes はこの問いに、知っていることを満たす分布のうち Shannon エントロピーが最大のものを使え、と答えた1E. T. Jaynes (1957), Phys. Rev. 106, 620–630。下の脚注へ。これが最大エントロピー原理である。

この巻の言葉では、Shannon エントロピーを最大にすることは一様分布に対する相対エントロピーを最小にすることと同じである(第1部第1章)。したがってこの章で比べる2つの分布は、「知っていることを満たす分布 pp」と「何も知らないときに使う参照分布 qq」であり、当てる性質は DD の非負性である。2.1.1節で問題を立て、2.1.2節で解が指数型の分布になり、しかも一意であることを、DD の Pythagoras の等式から示す。2.1.3節で拘束を平均エネルギーに選ぶとカノニカル分布と温度が出ることを、2.1.4節で粒子数・占有数・連続変数へ広げるとグランドカノニカル分布・Fermi 分布と Bose 分布・Maxwell 分布が出ることを示す。2.1.5節では、この推論がなぜ当たるのかを数え上げで確かめる。拘束を満たす標本の経験分布は、標本の数が大きいと最大エントロピーの分布に集中する。2.1.6節で統計力学の授業の導き方(系と熱浴・最も確からしい分布)と統計学の最尤推定に対応させ、2.1.7節でまとめる。

この章の対数はすべて自然対数で、Shannon エントロピー H(p)H(p) の単位は nat である。熱力学のエントロピーは S=kBH(p)S= k_{\mathrm B} H(p) とする。相空間の上の力学から同じ分布を導く読み方は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第3部第3章 にあり、この章はその情報の側の対である。

部分的な知識を拘束として書く

有限個の値をとる確率変数 XX(値の集合 X\mathcal X)について、いくつかの関数 g1(x),…,gm(x)g_1(x),\dots,g_m(x) の期待値だけが分かっているとする。

C≔{p ∣ ∑xp(x)=1,⟨gk⟩p≔∑xp(x) gk(x)=gˉk(k=1,…,m)}(2.1.1)\mathcal C\coloneqq\Bigl\{p\ \Big|\ \sum_{x}p(x)=1,\quad \langle g_k \rangle _p\coloneqq\sum_xp(x)\,g_k(x)=\bar g_k\quad(k=1,\dots,m)\Bigr\}\tag{2.1.1}

を拘束を満たす分布の集合と呼ぶ。サイコロなら g(x)=xg(x)=x で「出目の平均が gˉ\bar g」、熱浴と接した系なら g(i)=Eig(i)=E_i で「平均エネルギーが UU」である。C\mathcal C には普通、無数の分布が入っている。予言に使う分布を1つに決めるには、何か別の基準が要る。

Jaynes の答えは、C\mathcal C の中で Shannon エントロピー H(p)=−∑xp(x)ln⁡p(x)H(p)=-\sum_xp(x)\ln p(x) が最大の分布を選ぶことである。理由は次のとおりである。H(p)H(p) は、XX の値を知ったときの驚きの平均で、分布 pp を使う人がまだ知らないことの量である(第1部第2章)。C\mathcal C の中で HH が小さい分布を選ぶと、拘束からは出てこない何かを知っていると仮定したことになる。HH が最大の分布は、拘束に書いたこと以外は何も仮定しない分布である。

参照分布との相対エントロピーで言い直す

値が ∣X∣\lvert \mathcal X\rvert 個のとき、一様分布 u(x)=1/∣X∣u(x)=1/\lvert \mathcal X\rvert に対する相対エントロピーは

D(p ∥ u)=∑xp(x)ln⁡(∣X∣ p(x))=ln⁡∣X∣−H(p)(2.1.2)D(p\,\|\,u)=\sum_xp(x)\ln\bigl(\lvert \mathcal X\rvert \,p(x)\bigr)=\ln\lvert \mathcal X\rvert -H(p)\tag{2.1.2}

である(第1部第1章)。ln⁡∣X∣\ln\lvert \mathcal X\rvert は pp によらないので、H(p)H(p) を最大にすることと D(p ∥ u)D(p\,\|\,u) を最小にすることは同じである。一様分布は「拘束を知る前に使っていた分布」とみなせる。最大エントロピー原理は、拘束を知る前の分布から、拘束を満たす範囲でできるだけ動かない分布を選ぶ規則と読める。

この読み方をすると、一様分布でない参照分布 qq を使う一般化がすぐに書ける。

pME≔arg min⁡p∈CD(p ∥ q)(2.1.3)p_{\mathrm{ME}}\coloneqq\operatorname*{arg\,min}_{p\in\mathcal C}D(p\,\|\,q)\tag{2.1.3}

を最小相対エントロピー原理と呼ぶ2S. Kullback (1959), Information Theory and Statistics (Wiley) が「最小判別情報」の名で導入した。J. E. Shore and R. W. Johnson (1980), IEEE Trans. Inf. Theory 26, 26–37 は、推論の一貫性についてのいくつかの公理から、拘束を取り入れる規則がこの形に限られることを示した。下の脚注へ。qq が一様分布のとき最大エントロピー原理に戻る。比べる2つの分布は、拘束を満たす pp と、拘束を知る前の qq である。qq は「何も知らないときに、どの値を同じ重みで数えるか」を決める分布で、連続変数ではこの選び方が物理の中身になる(2.1.4節)。

DD の向き

式 (2.1.3) では、動かす分布 pp が左の引数にある。D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) は「pp が正しいとき、qq と見分ける手がかり」の量なので、これを最小にすることは「拘束を満たす分布のうち、参照分布と最も見分けにくいもの」を選ぶことになる。逆向きの D(q ∥ p)D(q\,\|\,p) を最小にすると、拘束を満たす指数型の分布でなく、別の分布が出る(例題 2.1.1 の後の注意)。2.1.5節で示すように、標本の数え上げから自然に出てくるのは左に pp を置く向きである。

サイコロの例

出目 1,…,61,\dots,6 のサイコロについて、「多数回振ったときの出目の平均が 44 だった」とだけ聞いたとする。C\mathcal C には、44 だけが出るサイコロ、33 と 55 が半々のサイコロなど、無数の分布が入る。最大エントロピーの分布は次の節の一般論で p(x)∝e−λxp(x)\propto\mathrm{e}^{-\lambda x} の形になり、λ\lambda は平均が 44 になるように決まる。図 2.1.1 に、平均を 22, 3.53.5, 44, 55 と変えたときの最大エントロピーの分布を示す。平均が 3.53.5 のときは拘束から何も分からないのと同じで、一様分布に戻る。平均が 3.53.5 より大きいと λ<0\lambda<0 となり、大きい目ほど確率が高い。平均 22 と平均 55 の分布は互いに左右を裏返したもので、λ\lambda の符号だけが違う。

図

図 2.1.1 サイコロの出目の平均だけが分かっているときの最大エントロピーの分布 pME(x)∝e−λxp_{\mathrm{ME}}(x)\propto\mathrm{e}^{-\lambda x}。平均 22, 3.53.5, 44, 55 のとき λ=0.6296\lambda=0.6296, 00, −0.1746-0.1746, −0.6296-0.6296。どれも厳密な値で、点は verify_ch2-01.py で計算した。

例題 2.1.1 平均が 44 のサイコロ ★★★

オリジナル出目の平均が 44 であることだけが分かっているサイコロを考える。

  1. (1) p(x)=x0 x/∑y=16x0 yp(x)=x_0^{\,x}/\sum_{y=1}^6x_0^{\,y}(x0=e−λx_0=\mathrm{e}^{-\lambda})とおいて、平均が 44 になる x0x_0 を求める方程式を書け。数値で解いて x0x_0, λ\lambda と分布を求めよ。
  2. (2) この分布の HH を求め、一様分布の ln⁡6\ln6 と比べよ。44 だけが出る分布、33 と 55 が半々の分布の HH とも比べよ。
解答

(1) 平均は ∑x=16x x0 x/∑x=16x0 x=4\sum_{x=1}^6x\,x_0^{\,x}\big/\sum_{x=1}^6x_0^{\,x}=4 で、分母を払うと

∑x=16(x−4) x0 x=0⟺−3x0−2x02−x03+x05+2x06=0.\sum_{x=1}^6(x-4)\,x_0^{\,x}=0\quad\Longleftrightarrow\quad -3x_0-2x_0^2-x_0^3+x_0^5+2x_0^6=0 .

x04x_0^4 の項は係数 00 で消えた。x0>0x_0>0 で割ると 2x05+x04−x02−2x0−3=02x_0^5+x_0^4-x_0^2-2x_0-3=0 で、左辺は x0=1x_0=1 で −3-3、x0=1.2x_0=1.2 で 0.210.21 と符号を変える。二分法で x0=1.1908x_0=1.1908、λ=−ln⁡x0=−0.1746\lambda=-\ln x_0=-0.1746 を得る。分布は

pME=(0.1031, 0.1227, 0.1461, 0.1740, 0.2072, 0.2468)p_{\mathrm{ME}}=(0.1031,\ 0.1227,\ 0.1461,\ 0.1740,\ 0.2072,\ 0.2468)

で、目が1つ増えるごとに確率が x0=1.19x_0=1.19 倍になる。

(2) H(pME)=1.7485H(p_{\mathrm{ME}})=1.7485 nat で、一様分布の ln⁡6=1.7918\ln6=1.7918 nat より 0.04330.0433 nat だけ小さい。この差が、平均が 44 と知ったことで減った「知らないことの量」である。44 だけが出る分布は H=0H=0、33 と 55 が半々の分布は H=ln⁡2=0.693H=\ln2=0.693 で、どちらも平均 44 を満たすが、拘束にない「44 しか出ない」「33 と 55 しか出ない」という知識を仮定している。

逆向きの DD を最小にすると

C\mathcal C の中で D(q ∥ p)D(q\,\|\,p)(qq は一様分布)を最小にすると、未定乗数の条件は −q(x)/p(x)+α+λx=0-q(x)/p(x)+\alpha+\lambda x=0、すなわち p(x)=q(x)/(α+λx)p(x)=q(x)/(\alpha+\lambda x) になり、指数型にならない。2つの独立な系を並べたとき、最大エントロピーの分布は積 pA(x)pB(y)p_A(x)p_B(y) になる(指数関数の積は指数関数)が、この形は積に分かれない。物理の予言として使うには、独立な系の分布が積に分かれることが要る。Shore と Johnson の公理にもこの要請が入っている。

1 E. T. Jaynes (1957), Phys. Rev. 106, 620–630。

2 S. Kullback (1959), Information Theory and Statistics (Wiley) が「最小判別情報」の名で導入した。J. E. Shore and R. W. Johnson (1980), IEEE Trans. Inf. Theory 26, 26–37 は、推論の一貫性についてのいくつかの公理から、拘束を取り入れる規則がこの形に限られることを示した。

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