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比べる2つの分布:相対エントロピー

2026年10月15日7分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第1章 序章:何と何を比べたのか
目次
  1. 定義
  2. 非対称であること
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第1章 §1.1.1 ★★★ 巻を通す量 D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) を定義し、「pp が正しいとき、qq と見分ける手がかりが1回の観測あたりどれだけあるか」と読む

情報理論は Shannon エントロピーから、統計学は尤度から、統計力学は分配関数から、熱力学は第二法則から、それぞれ別の出発点で始まる。この巻では、これらを1つの量の別々の使い方として読み直す。その量は2つの確率分布 pp, qq の相対エントロピー

D(p ∥ q)=∑xp(x)ln⁡p(x)q(x)D(p\,\|\,q)=\sum_xp(x)\ln\frac{p(x)}{q(x)}

である。分野ごとに違うのは、どの2つの分布を比べるかであり、使う性質は「DD は負にならない」と「同じ確率的な処理を両方に施すと DD は増えない」の2つでほぼ尽きる。相対エントロピーは Kullback–Leibler ダイバージェンス(KL ダイバージェンス)とも呼ぶ。

この章は巻全体の構成を示す。1.1.1節で DD を定義し、何を測る量なのかを硬貨の例で確かめる。1.1.2節では、巻を通して使う2つの性質、非負性とデータ処理不等式を証明する。どちらも証明は数行で済む。1.1.3節と1.1.4節では、比べる分布を選ぶと何が出てくるかを2つの方向で示す。1.1.3節は情報理論と統計学の方向で、Shannon エントロピー・相互情報量・Fisher 情報がどれも DD の特別な場合になることを確かめる。1.1.4節は統計力学と熱力学の方向で、自由エネルギーの余りが kBT Dk_{\mathrm B} T\,D に等しいこと、熱浴と接した系の緩和で DD が減ることが第二法則の1つの姿であることを示す。1.1.5節では巻の7部46章の並びと記号の約束を述べ、1.1.6節で授業や資格の勉強で習った形との対応を並べ、1.1.7節でまとめる。細かい導出は第1部の後の章で行うので、この章では結果を先に借りる所がある。借りた所には、どの章で示すかを書き添える。

定義

有限個の値をとる確率変数 XX を考え、その値の集合を X\mathcal X とする。X\mathcal X の上の2つの確率分布 pp, qq について、

D(p ∥ q)=∑x∈Xp(x)ln⁡p(x)q(x)(1.1.1)D(p\,\|\,q)=\sum_{x\in\mathcal X}p(x)\ln\frac{p(x)}{q(x)}\tag{1.1.1}

を pp の qq に対する相対エントロピーと呼ぶ1S. Kullback and R. A. Leibler (1951), Ann. Math. Statist. 22, 79–86。下の脚注へ。和は p(x)>0p(x)>0 の xx についてだけとる(0ln⁡0=00\ln0=0 と約束する)。p(x)>0p(x)>0 なのに q(x)=0q(x)=0 となる xx があれば D(p ∥ q)=+∞D(p\,\|\,q)=+\infty とする。対数は自然対数で、単位は nat である。ビットで述べたいときは ln⁡2\ln 2 で割る(1 ビット =ln⁡2=\ln2 nat)。

式 (1.1.1) は、対数尤度比 ln⁡(p(X)/q(X))\ln\bigl(p(X)/q(X)\bigr) を X∼pX\sim p で平均したもの

D(p ∥ q)=⟨ln⁡p(X)q(X)⟩p(1.1.2)D(p\,\|\,q)=\langle \ln\frac{p(X)}{q(X)} \rangle _p\tag{1.1.2}

と読むことができる。XX を1回観測したとき、その値が分布 pp から出たとする仮説と qq から出たとする仮説のどちらをどれだけ支持するかは、尤度の比 p(x)/q(x)p(x)/q(x) で測る。対数をとっておくと、独立な nn 回の観測の対数尤度比は1回ごとの和になる。したがって、本当の分布が pp のとき、nn 回の観測で積み上がる対数尤度比の平均は nD(p ∥ q)nD(p\,\|\,q) である。D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) は「pp が正しいとき、qq と見分ける手がかりが観測1回あたり平均でどれだけ得られるか」を表す量である。

非対称であること

式 (1.1.1) は pp と qq について対称でなく、一般に D(p ∥ q)≠D(q ∥ p)D(p\,\|\,q)\neq D(q\,\|\,p) である。平均をとる分布が左の引数なので、「本当はどちらなのか」という前提が入れ替わると値が変わる。図 1.1.1 は、表の出る確率が xx の硬貨 Bern(x)\mathrm{Bern}(x) と公平な硬貨 Bern(1/2)\mathrm{Bern}(1/2) について、2つの向きの DD を比べたものである。公平な硬貨が本当のときは、xx が 00 や 11 に近い硬貨とは、一方の面が出た瞬間にほぼ見分けがつくので DD が大きくなり、x→0x\to0 で発散する。逆に、偏った硬貨が本当のときは、ほとんど同じ面ばかり出て、公平な硬貨でも同じ面が続くことはあるので、見分ける手がかりは1回あたり ln⁡2\ln 2 を超えない。

図

図 1.1.1 相対エントロピーの2つの向き。青(丸)は偏った硬貨が本当のときに公平な硬貨と見分ける手がかりで、ln⁡2−hb(x)\ln2-h_{\mathrm b}(x) に等しく ln⁡2\ln2 を超えない。赤(四角)は公平な硬貨が本当のときに偏った硬貨と見分ける手がかりで、12ln⁡14x(1−x)\frac12\ln\frac{1}{4x(1-x)} に等しく x→0,1x\to0,1 で発散する。どちらも厳密な値で、点は verify_ch1-01.py で計算した。

この非対称性のため、DD は距離の公理(対称性と三角不等式)を満たさない。それでも「2つの分布の違いを測る量」として巻の全部の章で使うのは、次の節で示す2つの性質から、物理と情報の法則の多くがそのまま導かれるからである。

例題 1.1.1 偏った硬貨と公平な硬貨を見分ける ★★★

オリジナル表の出る確率が 0.90.9 の硬貨を p=Bern(0.9)p=\mathrm{Bern}(0.9)、公平な硬貨を q=Bern(0.5)q=\mathrm{Bern}(0.5) とする。

  1. (1) D(p ∥ q)D(p\,\|\,q) と D(q ∥ p)D(q\,\|\,p) を nat とビットで求め、等しくないことを確かめよ。
  2. (2) 本当の硬貨が pp のとき、20 回投げて得られる対数尤度比 ∑k=120ln⁡(p(Xk)/q(Xk))\sum_{k=1}^{20}\ln\bigl(p(X_k)/q(X_k)\bigr) の平均を求め、尤度比に直すとおよそいくらかを述べよ。
解答

(1) 式 (1.1.1) から

D(p ∥ q)=0.9ln⁡0.90.5+0.1ln⁡0.10.5=0.9×0.5878−0.1×1.6094≈0.368 nat,D(p\,\|\,q)=0.9\ln\frac{0.9}{0.5}+0.1\ln\frac{0.1}{0.5}=0.9\times0.5878-0.1\times1.6094\approx0.368\ \mathrm{nat},

D(q ∥ p)=0.5ln⁡0.50.9+0.5ln⁡0.50.1=−0.5×0.5878+0.5×1.6094≈0.511 nat.D(q\,\|\,p)=0.5\ln\frac{0.5}{0.9}+0.5\ln\frac{0.5}{0.1}=-0.5\times0.5878+0.5\times1.6094\approx0.511\ \mathrm{nat}.

ln⁡2≈0.693\ln2\approx0.693 で割ると、それぞれ 0.5310.531 ビットと 0.7370.737 ビットである。2つは等しくない。D(q ∥ p)D(q\,\|\,p) の方が大きいのは、公平な硬貨が本当のときに裏が出ると(確率 0.50.5)、偏った硬貨では確率 0.10.1 しかない出来事が起きたことになり、1回で大きな手がかりになるからである。

(2) 投げる回は独立なので、対数尤度比は1回ごとの和で、その平均は 20 D(p ∥ q)≈20×0.368=7.3620\,D(p\,\|\,q)\approx20\times0.368=7.36 である。尤度比に直すと e7.36≈1.57×103\mathrm{e}^{7.36}\approx1.57\times10^{3} で、20 回の観測で「偏った硬貨である」という仮説が平均でおよそ千倍以上支持される。平均の対数尤度比が回数に比例して伸びる、という性質を確率の言葉で精密に述べたものが 第1部第8章 の Stein の補題である。

1 S. Kullback and R. A. Leibler (1951), Ann. Math. Statist. 22, 79–86。

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