相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第1章 §1.1.6 ★★ ビットのエントロピー・自由エネルギー最小・Clausius の不等式・最尤推定が、それぞれどの2つの分布の D にあたるか
この節では、情報理論・熱力学・統計学の授業や資格の勉強で習う形と、この巻の形を式で並べる。
情報理論:底2のエントロピー
情報理論の授業では、エントロピーを −∑xp(x)log2p(x) と底2で書き、符号の平均の長さの下限として導入する。この巻の式 (1.1.5) は自然対数で、両者は ln2 倍だけ違う。相互情報量も同じ式で、I(X;Y)=H(X)−H(X∣Y) と「受け取ったあとに残る不確かさの減り方」として習うことが多い。この巻では、これを独立という仮説との D として式 (1.1.7) で読む。どちらの書き方でも同じ値になるのは、対数の中身を分けて和を並べ替えるだけの違いだからである。
熱力学:自由エネルギー最小と Clausius の不等式
熱力学の授業では、温度と体積を決めた系の平衡は Helmholtz の自由エネルギー F=U−TS の最小で決まる、と習い、第二法則を Clausius の不等式 ΔS≥Q/T の形で書く。この巻では、前者を式 (1.1.11) の非負性、後者の等温の場合を式 (1.1.12) のデータ処理不等式として読む。等温で外から仕事をしない系では、熱浴からもらう熱 Q は内部エネルギーの変化 ΔU に等しいので、Clausius の不等式は ΔS≥ΔU/T、すなわち ΔF=ΔU−TΔS≤0 と同じである。統計力学の授業では、カノニカル分布を「系と熱浴を合わせた全体の等重率」から導く。この巻では、平均エネルギーだけを知っているときにエントロピーを最大にする分布として導く(Jaynes の最大エントロピー原理1E. T. Jaynes (1957), Phys. Rev. 106, 620–630。、第2部第1章)。この最大化は、平均エネルギーを決めたときの D(p∥peq) の最小化と同じ問題である。
統計学:最尤推定と Fisher 情報
統計学の授業では、観測値 x1,…,xn から模型 qθ のパラメータを推定するとき、対数尤度 ∑klnqθ(xk) を最大にする θ^ を選ぶ(最尤推定)。観測値の経験分布 p^(x)=(値 x が出た回数)/n を使うと
n1k=1∑nlnqθ(xk)=x∑p^(x)lnqθ(x)=−H(p^)−D(p^∥qθ)(1.1.13)
と書け、H(p^) は θ に依らない。したがって、最尤推定は「観測の分布にいちばん近い模型を D(p^∥qθ) で選ぶ」ことと同じである。Fisher 情報は統計学では I(θ) と書き、Cramér–Rao の不等式 Var(θ^)≥1/(nI(θ)) で習う。この巻では J(θ) と書き、式 (1.1.8) の2次の係数として読む。
| 授業で習った形 | この巻での読み方 |
| −∑plog2p(ビット) | H(X)=ln∣X∣−D(p∥u) を ln2 で割ったもの |
| I(X;Y)=H(X)−H(X∣Y) | D(pXY∥pXpY):独立という仮説との違い |
| 平衡は F=U−TS の最小 | F[p]−Feq=kBTD(p∥peq)≥0 |
| Clausius の不等式(等温) | D(Wpt∥peq)≤D(pt∥peq) |
| カノニカル分布を等重率から | 平均エネルギーを決めた最大エントロピー |
| 最尤推定 maxθ∑lnqθ(xk) | minθD(p^∥qθ) |
| Fisher 情報 I(θ) | D(pθ∥pθ+δ) の2次の係数 J(θ) |
例題 1.1.6 硬貨の最尤推定を D の最小化として解く ★★
オリジナル硬貨を n=20 回投げたところ、表が k=14 回出た。
- (1) 経験分布 p^ を書き、D(p^∥Bern(θ)) を最小にする θ を求めよ。
- (2) 最尤推定の模型と公平な硬貨 Bern(0.5) の対数尤度の差を、式 (1.1.13) を使って D で表し、値を求めよ。
解答
(1) p^=Bern(0.7)。D(p^∥Bern(θ))=0.7lnθ0.7+0.3ln1−θ0.3 を θ で微分すると −θ0.7+1−θ0.3 で、これが 0 になるのは θ=0.7 のときである。θ=0.7 で D=0 となり、非負性からこれが最小である。最尤推定 θ^=k/n=0.7 と一致する。
(2) 式 (1.1.13) を θ=0.7 と θ=0.5 で引き算すると、H(p^) が消えて
k∑lnq0.7(xk)−k∑lnq0.5(xk)=n[D(p^∥q0.5)−D(p^∥q0.7)]=nD(p^∥q0.5).
D(p^∥q0.5)=0.7ln1.4+0.3ln0.6≈0.0823 なので、対数尤度の差は 20×0.0823≈1.65、尤度比は e1.65≈5.2 である。尤度比検定の統計量 2×1.65≈3.3 は、自由度1の χ2 分布の上側 5 % 点 3.84 より小さいので、この観測だけでは公平な硬貨という仮説を有意水準 5 % で棄却することはできない。例題 1.1.1 の 0.9 の硬貨と比べて、0.7 の硬貨は公平な硬貨との D が小さく、見分けるのに多くの回数が要る。
1 E. T. Jaynes (1957), Phys. Rev. 106, 620–630。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com