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当てる性質:非負性とデータ処理不等式

2026年10月15日6分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第1章 序章:何と何を比べたのか
目次
  1. 非負性
  2. データ処理不等式
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第1章 §1.1.2 ★★★ 巻で使う DD の性質は「負にならない」と「同じ処理を両方に施すと増えない」の2つで、証明は ln⁡x≤x−1\ln x\le x-1 の1本から出る

非負性

定理 1.1.1(非負性(Gibbs の不等式) ★★★)

任意の確率分布 pp, qq について D(p ∥ q)≥0D(p\,\|\,q)\ge0 である。等号は p=qp=q のときに限る。

証明

x>0x>0 で ln⁡x≤x−1\ln x\le x-1 が成り立ち、等号は x=1x=1 のときに限る(x−1−ln⁡xx-1-\ln x は x=1x=1 で最小値 00 をとる)。p(x)>0p(x)>0 の xx だけで和をとると

−D(p ∥ q)=∑x: p(x)>0p(x)ln⁡q(x)p(x)≤∑x: p(x)>0p(x)(q(x)p(x)−1)=∑x: p(x)>0q(x)−1≤0.-D(p\,\|\,q)=\sum_{x:\,p(x)>0}p(x)\ln\frac{q(x)}{p(x)}\le\sum_{x:\,p(x)>0}p(x)\Bigl(\frac{q(x)}{p(x)}-1\Bigr)=\sum_{x:\,p(x)>0}q(x)-1\le0 .

等号には、p(x)>0p(x)>0 のすべての xx で q(x)=p(x)q(x)=p(x) であることが要る。

この証明で使ったのは対数の凹性だけである。Jensen の不等式の形で書き直したものは 第1部第3章 で扱う。

データ処理不等式

次に、XX の値をそのまま見るのでなく、確率的な処理を通した結果 YY を見る場合を考える。処理は、入力 xx に対して出力 yy が出る条件付き確率 W(y ∣ x)W(y\,|\,x) で決まる。W(y ∣ x)≥0W(y\,|\,x)\ge0 と ∑yW(y ∣ x)=1\sum_yW(y\,|\,x)=1 を満たす行列 WW を確率行列(または通信路)と呼ぶ。分布 pp を入れたときの出力の分布は

(Wp)(y)=∑xW(y ∣ x) p(x)(1.1.3)(Wp)(y)=\sum_xW(y\,|\,x)\,p(x)\tag{1.1.3}

である。雑音のある通信路・測定の誤差・粗い目盛りで読むこと・熱浴と接して時間が経つことは、どれもこの形の処理として書くことができる。

定理 1.1.2(データ処理不等式 ★★★)

任意の確率行列 WW と確率分布 pp, qq について

D(Wp ∥ Wq)≤D(p ∥ q).(1.1.4)D(Wp\,\|\,Wq)\le D(p\,\|\,q).\tag{1.1.4}

証明

まず log-sum 不等式を示す。正の数 a1,…,aka_1,\dots,a_k, b1,…,bkb_1,\dots,b_k について A=∑iaiA=\sum_ia_i, B=∑ibiB=\sum_ib_i とおくと

∑iailn⁡aibi≥Aln⁡AB.\sum_ia_i\ln\frac{a_i}{b_i}\ge A\ln\frac AB .

左辺から右辺を引くと A∑iaiAln⁡ai/Abi/BA\sum_i\frac{a_i}{A}\ln\frac{a_i/A}{b_i/B} となり、これは確率分布 (ai/A)(a_i/A) の (bi/B)(b_i/B) に対する相対エントロピーの AA 倍なので、定理 1.1.1 から 00 以上である。

出力の値 yy を1つ固定し、ax=W(y ∣ x)p(x)a_x=W(y\,|\,x)p(x), bx=W(y ∣ x)q(x)b_x=W(y\,|\,x)q(x) として log-sum 不等式を当てると

(Wp)(y)ln⁡(Wp)(y)(Wq)(y)≤∑xW(y ∣ x)p(x)ln⁡W(y ∣ x)p(x)W(y ∣ x)q(x)=∑xW(y ∣ x)p(x)ln⁡p(x)q(x).(Wp)(y)\ln\frac{(Wp)(y)}{(Wq)(y)}\le\sum_xW(y\,|\,x)p(x)\ln\frac{W(y\,|\,x)p(x)}{W(y\,|\,x)q(x)}=\sum_xW(y\,|\,x)p(x)\ln\frac{p(x)}{q(x)} .

yy について和をとり、∑yW(y ∣ x)=1\sum_yW(y\,|\,x)=1 を使うと式 (1.1.4) が出る。

式 (1.1.4) の意味は、1.1.1節の読み方でそのまま言い表すことができる。2つの仮説を見分ける手がかりは、データに確率的な処理を施しても増えない。雑音を足しても、目盛りを粗くしても、時間を経たせても、元のデータに無かった手がかりは出てこない。等号は、処理を元に戻せる場合(たとえば値の並べ替え)に成り立つ。どういうときに等号になるかは十分統計量の話になり、第1部第4章 で扱う。

2つの性質だけで何が言えるか

非負性は「比べる相手を正しく選べば、ある量が最小になる」という変分原理の形で使う。統計力学では、比べる相手を Gibbs 分布に選ぶと、自由エネルギーが平衡で最小になることが出る(1.1.4節)。データ処理不等式は「ある量が時間とともに減る」という単調性の形で使う。熱浴と接した系の時間発展を確率行列 WW で書き、Gibbs 分布が WW で動かないことを使うと、第二法則が出る(同じ節)。この巻の大部分は、この2つの使い方の組み合わせである。量子系では、確率行列を量子チャネルに、和をトレースに置き換えて同じ2つの性質が成り立ち(第3部第3章)、経路の確率に置き換えると情報熱力学の第二法則になる(第4部第3章)。

例題 1.1.2 雑音のある通信路を通すと見分けにくくなる ★★

オリジナル入力の 00, 11 をそれぞれ確率 r=0.1r=0.1 で反転させる通信路(2元対称通信路)WW を考える。例題 1.1.1 の p=Bern(0.9)p=\mathrm{Bern}(0.9), q=Bern(0.5)q=\mathrm{Bern}(0.5) をこの通信路に通す。

  1. (1) 出力の分布 WpWp, WqWq を求めよ。
  2. (2) D(Wp ∥ Wq)D(Wp\,\|\,Wq) を求め、式 (1.1.4) を確かめよ。
  3. (3) 同じ通信路をもう一度通すと DD はいくらになるか。
解答

(1) 出力が 11(表)になる確率は、入力が 11 のまま残るか 00 が反転するかで、pp については 0.9×0.9+0.1×0.1=0.820.9\times0.9+0.1\times0.1=0.82 である。よって Wp=Bern(0.82)Wp=\mathrm{Bern}(0.82)。qq は 0.5×0.9+0.5×0.1=0.50.5\times0.9+0.5\times0.1=0.5 で、Wq=Bern(0.5)Wq=\mathrm{Bern}(0.5) のまま変わらない。

(2) D(Wp ∥ Wq)=0.82ln⁡0.820.5+0.18ln⁡0.180.5=0.82×0.4947−0.18×1.0217≈0.222 natD(Wp\,\|\,Wq)=0.82\ln\frac{0.82}{0.5}+0.18\ln\frac{0.18}{0.5}=0.82\times0.4947-0.18\times1.0217\approx0.222\ \mathrm{nat} で、通す前の 0.3680.368 nat より小さい。

(3) もう一度通すと表の確率は 0.82×0.9+0.18×0.1=0.7560.82\times0.9+0.18\times0.1=0.756 になり、D(W2p ∥ W2q)=0.756ln⁡0.7560.5+0.244ln⁡0.2440.5≈0.137 natD(W^2p\,\|\,W^2q)=0.756\ln\frac{0.756}{0.5}+0.244\ln\frac{0.244}{0.5}\approx0.137\ \mathrm{nat} とさらに減る。通すたびに出力の分布は公平な硬貨に近づき、見分ける手がかりは減り続ける。公平な硬貨 qq は通信路で動かない分布になっていて、この「動かない分布との DD が減り続ける」形が、1.1.4節で熱浴と接した系に当てはめる形である。

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