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比べる2つの状態:チャネルを通す前と後

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第3部 第3章 強劣加法性と量子データ処理不等式
目次
  1. チャネルを通す前と後
  2. 部分トレースの前後と条件付き相互情報量
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第3部 第3章 §3.3.1 ★★★ 単調性が比べるのは「前の組」と「後の組」。部分トレースを通す前後で比べると、相互情報量の差として条件付き相互情報量が出てくる

前の章(第3部第2章)では、量子相対エントロピー D(ρ^ ∥ σ^)=Tr⁡ρ^(ln⁡ρ^−ln⁡σ^)D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)=\operatorname{Tr}\hat\rho(\ln\hat\rho-\ln\hat\sigma) を定義し、その非負性(Klein の不等式)1本から、von Neumann エントロピーの上限・凹性・劣加法性・Araki–Lieb の不等式・量子の Gibbs の変分原理を出した。そこで証明を残したのが単調性、すなわち任意の量子チャネル N\mathcal N について

D(N(ρ^) ∥ N(σ^))≤D(ρ^ ∥ σ^)D(\mathcal N(\hat\rho)\,\|\,\mathcal N(\hat\sigma))\le D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)

が成り立つこと(量子データ処理不等式)である。古典の第1部では、非負性(第3章)の次に単調性(第1部第4章)を示し、そこから X→Y→ZX\to Y\to Z の相互情報量の不等式と Markov 連鎖の H 定理を出した。この章は量子の側で同じ順番をたどる。

古典の単調性は、確率行列 WW を通した2つの分布の比を、条件付き分布の比の平均として書けば1行で出た。量子では2つの状態 ρ^\hat\rho、σ^\hat\sigma が交換しないので、この比を作ることができない。そのため証明には、行列のトレース関数の凹性という強い道具(Lieb の凹性定理)が要る。この章では Lieb の凹性定理を証明なしで認め、そこから単調性までの道筋(同時凸性 → 部分トレース → Stinespring 表示)を全部書く。単調性を部分トレースに当てると、3つの系の von Neumann エントロピーの間の強劣加法性 S(AB)+S(BC)≥S(ABC)+S(B)S(AB)+S(BC)\ge S(ABC)+S(B) が出る。これは量子情報理論のほぼすべてのエントロピー不等式の出発点になる不等式である。

この章で比べる2つの状態は、チャネルを通す前の組 (ρ^,σ^)(\hat\rho,\hat\sigma) と、通した後の組 (N(ρ^),N(σ^))(\mathcal N(\hat\rho),\mathcal N(\hat\sigma)) である。当てる性質は単調性で、出てくるものは強劣加法性・局所操作で相関が増えないこと・Holevo 限界・量子 H 定理と、単調性の等号が成り立つ条件(回復写像)である。対数はすべて自然対数(nat)、Pauli 行列は X,Y,ZX,Y,Z、恒等演算子は 1\mathbf 1 と書き、Hilbert 空間はすべて有限次元とする。部分系のエントロピーは前の章と同じく S(A)=S(ρ^A)S(A)=S(\hat\rho_A)、S(AB)=S(ρ^AB)S(AB)=S(\hat\rho_{AB}) と書き、状態を明示するときは S(A)ρS(A)_\rho と添字を付ける。

チャネルを通す前と後

第3部第1章(第3部第1章)で用意した量子チャネル N\mathcal N は、Kraus 表示

N(ρ^)=∑aK^aρ^K^a†,∑aK^a†K^a=1(3.3.1)\mathcal N(\hat\rho)=\sum_a\hat K_a\hat\rho\hat K_a^\dagger,\qquad \sum_a\hat K_a^\dagger\hat K_a=\mathbf 1\tag{3.3.1}

を持つ完全正値でトレースを保つ写像(CPTP 写像)である。ユニタリな時間発展・部分トレース・測定して結果を記録する操作・ノイズは、どれもこの形に書ける。同じ N\mathcal N を2つの状態 ρ^\hat\rho、σ^\hat\sigma に当て、前と後で相対エントロピーを比べる。単調性は「同じ操作を両方に当てると、2つの状態は見分けにくくなることはあっても見分けやすくなることはない」という主張である。前の章で DD が2つの状態の見分けやすさを測ることを見たので、この主張は「処理しても情報は増えない」という直観をそのまま数式にしたものになっている。

単調性の特別な場合のうち、前の章ですでに示したものが2つある。1つはユニタリ U^\hat U による変換で、このとき D(U^ρ^U^† ∥ U^σ^U^†)=D(ρ^ ∥ σ^)D(\hat U\hat\rho\hat U^\dagger\,\|\,\hat U\hat\sigma\hat U^\dagger)=D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma) と等号が成り立つ。もう1つは状態を付け足す操作 ρ^↦ρ^⊗τ^\hat\rho\mapsto\hat\rho\otimes\hat\tau で、加法性から D(ρ^⊗τ^ ∥ σ^⊗τ^)=D(ρ^ ∥ σ^)D(\hat\rho\otimes\hat\tau\,\|\,\hat\sigma\otimes\hat\tau)=D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma) となる。どちらも可逆な操作なので DD は変わらない。残る非自明な操作は部分トレース Tr⁡B\operatorname{Tr}_B で、これは情報を捨てる操作である。3.3.2節で見るように、任意のチャネルは「付け足す・ユニタリ・捨てる」の3つの組み合わせで書けるので、部分トレースについて単調性を示せば全部のチャネルについて示したことになる。

部分トレースの前後と条件付き相互情報量

3つの系 AA、BB、CC の状態 ρ^ABC\hat\rho_{ABC} を考える。AA と BCBC の間の相互情報量は、前の章の式でI(A;BC)=D(ρ^ABC ∥ ρ^A⊗ρ^BC)I(A;BC)=D(\hat\rho_{ABC}\,\|\,\hat\rho_A\otimes\hat\rho_{BC}) である。この2つの状態に同じ部分トレース Tr⁡C\operatorname{Tr}_C を当てると、Tr⁡Cρ^ABC=ρ^AB\operatorname{Tr}_C\hat\rho_{ABC}=\hat\rho_{AB}、Tr⁡C(ρ^A⊗ρ^BC)=ρ^A⊗ρ^B\operatorname{Tr}_C(\hat\rho_A\otimes\hat\rho_{BC})=\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B となるので、後の組の相対エントロピーは I(A;B)=D(ρ^AB ∥ ρ^A⊗ρ^B)I(A;B)=D(\hat\rho_{AB}\,\|\,\hat\rho_A\otimes\hat\rho_B) である。前と後の差に名前を付ける。

定義 3.3.1(量子の条件付き相互情報量)

3つの系の状態 ρ^ABC\hat\rho_{ABC} について

I(A;C ∣ B)≔I(A;BC)−I(A;B)=S(AB)+S(BC)−S(B)−S(ABC)(3.3.2)I(A;C\,|\,B)\coloneqq I(A;BC)-I(A;B)=S(AB)+S(BC)-S(B)-S(ABC)\tag{3.3.2}

を BB のもとでの AA と CC の条件付き相互情報量と呼ぶ。条件付きエントロピー S(A ∣ B)=S(AB)−S(B)S(A\,|\,B)=S(AB)-S(B) を使えば I(A;C ∣ B)=S(A ∣ B)−S(A ∣ BC)I(A;C\,|\,B)=S(A\,|\,B)-S(A\,|\,BC) とも書ける。

2つ目の等号は、I(A;BC)=S(A)+S(BC)−S(ABC)I(A;BC)=S(A)+S(BC)-S(ABC) と I(A;B)=S(A)+S(B)−S(AB)I(A;B)=S(A)+S(B)-S(AB) を引けば出る。古典の条件付き相互情報量 I(X;Z ∣ Y)I(X;Z\,|\,Y) は第1部第3章で「YY の値ごとの XX と ZZ の相互情報量の平均」として定義したが、量子の系 BB には「値」がないので、そのような平均を作ることはできない。そこで式 (3.3.2) の右辺の形を定義に使う。古典の場合は右辺がそのまま H(X,Y)+H(Y,Z)−H(Y)−H(X,Y,Z)H(X,Y)+H(Y,Z)-H(Y)-H(X,Y,Z) になり、第1部の定義と一致する。

式 (3.3.2) から、単調性を部分トレース Tr⁡C\operatorname{Tr}_C に当てた結果 I(A;BC)≥I(A;B)I(A;BC)\ge I(A;B) は、I(A;C ∣ B)≥0I(A;C\,|\,B)\ge0 と同じことである。これが 3.3.3節で扱う強劣加法性になる。

相互情報量の連鎖律

式 (3.3.2) を書き直した I(A;BC)=I(A;B)+I(A;C ∣ B)I(A;BC)=I(A;B)+I(A;C\,|\,B) は連鎖律と呼ばれ、古典と同じ形をしている。AA と BCBC の相関を、まず BB との相関と、BB を知ったうえで CC が加える分に分けている。CC を捨てると後者が失われる。

例題 3.3.1 片側の位相を消すと失われる相関の行き先 ★★★

オリジナル2つの量子ビット AA、BB が Bell 状態 ∣Φ+⟩=(∣00⟩+∣11⟩)/2| \Phi^+ \rangle =(| 00 \rangle +| 11 \rangle )/\sqrt2 にある。BB だけに位相緩和のチャネルNB(ρ^)=12(ρ^+Zρ^Z)\mathcal N_B(\hat\rho)=\frac12(\hat\rho+Z\hat\rho Z) を当てる(AA には何もしない)。

  1. 前の組 (∣Φ+⟩⟨Φ+∣, ρ^A⊗ρ^B)(| \Phi^+ \rangle \langle \Phi^+ |,\ \hat\rho_A\otimes\hat\rho_B) と後の組の相対エントロピーを計算し、I(A;B)I(A;B) が 2ln⁡22\ln2 から ln⁡2\ln2 に下がることを確かめよ。
  2. 位相緩和は、補助の量子ビット EE を ∣0⟩| 0 \rangle に用意して BB を制御ビットとする CNOT を BB と EE に当て、EE を捨てる操作と同じであることを示せ。
  3. (2) の操作の直後(EE を捨てる前)の3量子ビットの状態について、I(A;BE)I(A;BE) と I(A;E ∣ B)I(A;E\,|\,B) を求め、(1) で失われた相互情報量の行き先を説明せよ。
解答

(1) ρ^A=ρ^B=1/2\hat\rho_A=\hat\rho_B=\mathbf 1/2 なので、前の組の相対エントロピーは D(∣Φ+⟩⟨Φ+∣ ∥ 1/4)=ln⁡4−S(AB)=2ln⁡2=1.3863D(| \Phi^+ \rangle \langle \Phi^+ |\,\|\,\mathbf 1/4)=\ln4-S(AB)=2\ln2=1.3863 nat。NB\mathcal N_B は ∣00⟩⟨11∣| 00 \rangle \langle 11 | のような BB の非対角成分の符号を反転したものとの平均なので、(1⊗NB)(∣Φ+⟩⟨Φ+∣)=12(∣00⟩⟨00∣+∣11⟩⟨11∣)(\mathbf 1\otimes\mathcal N_B)(| \Phi^+ \rangle \langle \Phi^+ |)=\frac12(| 00 \rangle \langle 00 |+| 11 \rangle \langle 11 |)。一方 1/4\mathbf 1/4 は ZZ と交換するので変わらない。後の組の相対エントロピーは ln⁡4−S(AB)=ln⁡4−ln⁡2=ln⁡2=0.6931\ln4-S(AB)=\ln4-\ln2=\ln2=0.6931 nat。ρ^A\hat\rho_A、ρ^B\hat\rho_B も変わらないので、これは位相緩和後の I(A;B)I(A;B) に等しい。

(2) CNOT は ∣b⟩∣0⟩E↦∣b⟩∣b⟩E| b \rangle | 0 \rangle _E\mapsto| b \rangle | b \rangle _E(b=0,1b=0,1)。BB の状態 ρ^=∑bb′ρbb′∣b⟩⟨b′∣\hat\rho=\sum_{bb'}\rho_{bb'}| b \rangle \langle b' | は ∑bb′ρbb′∣b⟩⟨b′∣⊗∣b⟩⟨b′∣E\sum_{bb'}\rho_{bb'}| b \rangle \langle b' |\otimes| b \rangle \langle b' |_E に写り、EE を捨てると ⟨b′∣b⟩=δbb′\langle b' | b \rangle =\delta_{bb'} から ∑bρbb∣b⟩⟨b∣\sum_b\rho_{bb}| b \rangle \langle b | が残る。これは 12(ρ^+Zρ^Z)\frac12(\hat\rho+Z\hat\rho Z) と同じく、対角成分だけを残した状態である。

(3) AA も含めると、∣Φ+⟩∣0⟩E| \Phi^+ \rangle | 0 \rangle _E は CNOT で (∣000⟩+∣111⟩)/2(| 000 \rangle +| 111 \rangle )/\sqrt2(GHZ 状態)に写る。CNOT は BEBE の上のユニタリなので、I(A;BE)I(A;BE) は CNOT を当てる前の値 I(A;B)+0=2ln⁡2I(A;B)+0=2\ln2 のままである。GHZ 状態では1つの系の状態も2つの系の状態も対角で、S(A)=S(B)=ln⁡2S(A)=S(B)=\ln2、S(AB)=S(BE)=ln⁡2S(AB)=S(BE)=\ln2、S(ABE)=0S(ABE)=0 なので

I(A;E ∣ B)=S(AB)+S(BE)−S(B)−S(ABE)=ln⁡2.I(A;E\,|\,B)=S(AB)+S(BE)-S(B)-S(ABE)=\ln2.

連鎖律 I(A;BE)=I(A;B)+I(A;E ∣ B)I(A;BE)=I(A;B)+I(A;E\,|\,B) は 2ln⁡2=ln⁡2+ln⁡22\ln2=\ln2+\ln2 となる。位相緩和で失われた ln⁡2\ln2 は消えたのではなく、捨てた補助系 EE が持ち去った分 I(A;E ∣ B)I(A;E\,|\,B) である。

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