総合問題 2準位原子の集まりで温度を見分ける ★★★
オリジナルエネルギー 0 と ε0 の2つの状態をとる原子 n 個が互いに独立にふるまう。温度 β のカノニカル分布では、1個の原子が励起状態にある確率はa(β)=1/(1+eβε0) である。以下、βε0 を無次元の数として扱う。
- (1) 状態を一様に重みづけた(β=0 の)原子 n 個で、励起している原子の割合がおよそ x(0<x<21)になる確率の指数 Λ∗(x) を求めよ。また1原子あたりのエントロピー s(x)=ln2−Λ∗(x) が hb(x) になることを示せ。(使う道具:1.8.3節・1.8.6節)
- (2) 励起している割合が x=0.2 だと分かったとき、1個の原子の状態の分布はどうなるか。それを温度 β のカノニカル分布とみなしたときの βε0 を求めよ。(使う道具:1.8.4節)
- (3) 温度が β0 か β1 かを、n 個の原子の状態を測って見分ける。Stein の補題の指数 D(pβ0∥pβ1) が
D(pβ0∥pβ1)=(β1−β0)U(β0)+lnZ1(β1)−lnZ1(β0)
と書けることを示せ。U(β)=ε0a(β) は1原子の平均エネルギー、Z1(β)=1+e−βε0 である。β0ε0=1、β1ε0=1.2 で値を求めよ。(使う道具:1.8.5節・第1部第3章)4. (4) β1=β0+δ として (3) の指数を δ の2次まで展開し、第1部第7章 の Fisher 情報 J(β0) がエネルギーの分散 ε02a(1−a) に等しいことを確かめよ。(3) の数値と比べよ。(使う道具:第1部第7章)5. (5) αn を小さく固定し、βn≈10−3 で見分けるのに要る原子の数を、(3) の厳密な指数と (4) の2次の近似の両方で見積もれ。(使う道具:1.8.5節)
解答
(1) f を「励起なら 1、基底なら 0」とすると、β=0 の分布は q=(21,21) で Λ(λ)=ln21+eλ。Λ′(λ∗)=x から eλ∗=1−xx で、Λ∗(x)=xln1−xx−ln2(1−x)1=xlnx+(1−x)ln(1−x)+ln2=ln2−hb(x)。したがって s(x)=ln2−Λ∗(x)=hb(x)。これは n 個中 nx 個が励起する状態数 (nxn) の対数を n で割った極限で、Stirling の公式から出る結果と一致する。
(2) 条件付き極限定理から、1個の原子は I 射影 qλ∗=(1−x,x)=(0.8,0.2) に従う。カノニカル分布とみなすと1−aa=e−βε0=0.80.2 なので βε0=ln4=1.386。これは 1.8.6節の β=∂u∂s を (1) の s=hb(x)(u=ε0x)で計算したε0β=hb′(x)=lnx1−x と同じである。
(3) 原子の状態を x∈{0,1}、エネルギーを ε(x)=ε0x と書くと、pβ(x)=e−βε(x)/Z1(β) なので lnpβ1(x)pβ0(x)=(β1−β0)ε(x)+lnZ1(β1)−lnZ1(β0)。これを pβ0 で平均すると ⟨ε⟩pβ0=U(β0) なので、示すべき式を得る。数値は a(β0)=1/(1+e)=0.269、lnZ1(1.2)−lnZ1(1)=ln1+e−11+e−1.2=−0.0500 で、D=0.2×0.269−0.0500=0.00381。この式は第2部で示す自由エネルギーの差と D の関係(第2部第2章)の、2つの温度の間の版になっている。
(4) ϕ(β)=lnZ1(β) とおくと ϕ′(β)=−U(β)、ϕ′′(β)=Varβ(ε)=ε02a(1−a)。ϕ(β0+δ)=ϕ(β0)−Uδ+21ϕ′′δ2+O(δ3) を (3) に入れると、1次の項は打ち消し合いD=21ε02a(1−a)δ2+O(δ3)。Fisher 情報は J(β)=⟨(∂βlnpβ)2⟩=⟨(U−ε)2⟩pβ=Varβ(ε) なので、展開は 21J(β0)δ2 の形をしている。数値は J=0.269×0.731=0.197(ε02 単位)、δε0=0.2 で 21Jδ2=0.00393。厳密な 0.00381 より 3% 大きく、差は δ3 の項に由来する。
(5) n≈ln1000/D で、厳密な指数からは 6.91/0.00381=1.81×103 個、2次の近似からは 6.91/0.00393=1.76×103 個。温度が 20% 違うだけでも、見分けるのに約 1800 個の原子を測る必要がある。図 1.8.4 のとおり有限の n では指数が D より小さいので、実際にはこれより多く要る。