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比べる2つの分布:任意の分布と Gibbs 分布

2026年10月15日12分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第2章 Gibbs の変分原理
目次
  1. 非平衡の自由エネルギー
  2. 粒子数が出入りする系
  3. 量子系
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第2章 §2.2.1 ★★★ 比べる相手を Gibbs 分布に選ぶと、相対エントロピーに kBTk_{\mathrm B} T を掛けたものが自由エネルギーの余りになる。大正準・量子でも同じ形

前の章(第2部第1章)では、平均エネルギーだけが分かっているときに最も偏りの少ない分布として Gibbs 分布を選んだ。そこでは平均エネルギーを決めてエントロピーを最大にした。この章では向きを変え、温度を決めて自由エネルギーを最小にする。序章(第1部第1章)で示したとおり、任意の分布 pp について

F[p]−Feq=kBT D(p ∥ peq)≥0F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})\ge0

が成り立ち、自由エネルギーは Gibbs 分布でただ1つの最小値をとる。これが Gibbs の変分原理である。この章では、この1本の式から何が引き出せるかを順に確かめる。

2.2.1節では、比べる2つの分布を整理し、粒子数が出入りする系(大正準)と量子系へ式を広げる。2.2.2節では、相対エントロピーの凸性と、Gibbs 分布の族に対して成り立つ Pythagoras の分解を示す。この分解によって、前の章の最大エントロピー原理とこの章の自由エネルギー最小の原理が、1つの恒等式の2つの項として並ぶ。2.2.3節から2.2.5節は出てくるものである。2.2.3節では、自由エネルギーの余り kBT Dk_{\mathrm B} T\,D が熱浴と接した系から取り出せる仕事の上限であることを示し、上限に達する操作を具体的に作る。2.2.4節では、試す分布を独立な分布に限ると平均場近似になり、その誤差が kBTk_{\mathrm B} T と相対エントロピーの積で測れることを示す。2.2.5節では、温度の違う2つの Gibbs 分布の相対エントロピーを計算し、その2次の係数が熱容量であることを示す。2.2.6節で統計力学の授業で習う Gibbs–Bogoliubov の不等式・Weiss の平均場・Landau の展開との対応を並べ、2.2.7節でまとめる。この章ではエントロピーの対数を自然対数とし、kBH(p)k_{\mathrm B} H(p) を Gibbs のエントロピーとして使う。

非平衡の自由エネルギー

温度 TT の熱浴と接した系が、エネルギー EiE_i の状態 ii をとるとする。β=1/(kBT)\beta=1/( k_{\mathrm B} T) とおき、Gibbs 分布と平衡の自由エネルギーを

peq(i)=e−βEiZ,Z=∑ie−βEi,Feq=−kBTln⁡Z(2.2.1)p_{\mathrm{eq}}(i)=\frac{\mathrm{e}^{-\beta E_i}}{Z},\qquad Z=\sum_i\mathrm{e}^{-\beta E_i},\qquad F_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln Z\tag{2.2.1}

と書く。平衡でない任意の分布 pp についても、平均エネルギーと Gibbs のエントロピーから

F[p]=⟨E⟩p−kBT H(p),⟨E⟩p=∑ip(i)Ei,H(p)=−∑ip(i)ln⁡p(i)(2.2.2)F[p]=\langle E \rangle _p- k_{\mathrm B} T\,H(p),\qquad \langle E \rangle _p=\sum_ip(i)E_i,\qquad H(p)=-\sum_ip(i)\ln p(i)\tag{2.2.2}

と自由エネルギーを定める。F[p]F[p] は分布を入れて数を返すので、汎関数として角括弧で書く。これを非平衡の自由エネルギーと呼ぶ。ln⁡peq(i)=−βEi−ln⁡Z\ln p_{\mathrm{eq}}(i)=-\beta E_i-\ln Z を D(p ∥ peq)=∑ip(i)ln⁡p(i)−∑ip(i)ln⁡peq(i)D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=\sum_ip(i)\ln p(i)-\sum_ip(i)\ln p_{\mathrm{eq}}(i) に入れると

F[p]−Feq=kBT D(p ∥ peq)(2.2.3)F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})\tag{2.2.3}

を得る。この計算は序章で行ったものと同じである。

定理 2.2.1(Gibbs の変分原理 ★★★)

温度 TT を決めたとき、すべての分布 pp について F[p]≥FeqF[p]\ge F_{\mathrm{eq}} が成り立ち、等号は p=peqp=p_{\mathrm{eq}} のときだけ成り立つ。すなわち

Feq=−kBTln⁡Z=min⁡pF[p]F_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln Z=\min_p F[p]

で、最小を与える分布は Gibbs 分布 (2.2.1) ただ1つである。

証明

式 (2.2.3) の右辺は相対エントロピーの非負性(序章の定理)から 00 以上で、00 になるのは p=peqp=p_{\mathrm{eq}} のときだけである。

この定理には2つの読み方がある。1つは、分配関数を計算する代わりに F[p]F[p] を最小にすれば FeqF_{\mathrm{eq}} が求まる、という計算の方法としての読み方である。最小化を全部の分布の上で行えば答えは厳密に Gibbs 分布になる。最小化を扱いやすい分布の族に限れば、FeqF_{\mathrm{eq}} の上界が得られる。これが2.2.4節の平均場近似である。もう1つは、F[p]−FeqF[p]-F_{\mathrm{eq}} を「平衡から離れていることの量」と読む読み方である。2.2.3節では、この量がちょうど取り出せる仕事の上限になることを示す。

F[p]F[p] の定義 (2.2.2) は、熱力学の F=U−TSF=U-TS の UU を平均エネルギーに、SS を Gibbs のエントロピー kBH(p)k_{\mathrm B} H(p) に置き換えたものである。平衡でない分布に温度 TT を割り当てているわけではない。TT は熱浴の温度で、系の分布 pp とは別に決まっている。この区別は2.2.2節の Pythagoras の分解で、もう1つの温度 T∗T^* が出てくるときに大事になる。

粒子数が出入りする系

系が熱浴とエネルギーだけでなく粒子もやりとりし、熱浴の化学ポテンシャルが μ\mu のとき、状態 ii の粒子数を NiN_i として

peq(i)=e−β(Ei−μNi)Ξ,Ξ=∑ie−β(Ei−μNi),Ωeq=−kBTln⁡Ξ(2.2.4)p_{\mathrm{eq}}(i)=\frac{\mathrm{e}^{-\beta(E_i-\mu N_i)}}{\Xi},\qquad \Xi=\sum_i\mathrm{e}^{-\beta(E_i-\mu N_i)},\qquad \Omega_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln\Xi\tag{2.2.4}

が平衡の分布とグランドポテンシャルである。式 (2.2.2) の EE を E−μNE-\mu N に置き換えて Ω[p]=⟨E−μN⟩p−kBT H(p)\Omega[p]=\langle E-\mu N \rangle _p- k_{\mathrm B} T\,H(p) と定めると、同じ計算で

Ω[p]−Ωeq=kBT D(p ∥ peq)≥0(2.2.5)\Omega[p]-\Omega_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})\ge0\tag{2.2.5}

が出る。比べる相手が「その熱浴と釣り合う Gibbs 分布」であれば、熱浴が何をやりとりするかによらず同じ形になる。一般に、熱浴とやりとりする量が f1,…,fKf_1,\dots,f_K で、それぞれに β\beta を掛けた共役な量が λ1,…,λK\lambda_1,\dots,\lambda_K なら、比べる相手は e−∑kλkfk/Z(λ)\mathrm{e}^{-\sum_k\lambda_kf_k}/Z(\lambda) の形の分布になる。前の章の最大エントロピー原理で、平均を決めた量の数だけ未定乗数が現れたことと対応している。

例題 2.2.1 吸着サイトの占有率を変分で決める ★★

オリジナル表面の1つのサイトに分子が1個まで吸着できる。空のときのエネルギーを 00、吸着したときのエネルギーを −εad-\varepsilon _{\mathrm{ad}}(εad>0\varepsilon _{\mathrm{ad}}>0)とする。サイトは温度 TT・化学ポテンシャル μ\mu の気体と接している。サイトが占有されている確率を θ\theta とする。

  1. (1) Ω\Omega を θ\theta の関数として書き、最小にする θ\theta を求めよ。
  2. (2) β(εad+μ)=ln⁡3\beta(\varepsilon _{\mathrm{ad}}+\mu)=\ln3 のとき、最小の θ\theta と Ωeq\Omega_{\mathrm{eq}} を求めよ。占有率を θ=1/2\theta=1/2 に固定したときの Ω−Ωeq\Omega-\Omega_{\mathrm{eq}} を kBTk_{\mathrm B} T 単位で求め、相対エントロピーと一致することを確かめよ。
解答

(1) 占有のとき E−μN=−εad−μE-\mu N=-\varepsilon _{\mathrm{ad}}-\mu、空のとき 00 なので

Ω(θ)=−(εad+μ) θ+kBT[θln⁡θ+(1−θ)ln⁡(1−θ)].\Omega(\theta)=-(\varepsilon _{\mathrm{ad}}+\mu)\,\theta+ k_{\mathrm B} T\bigl[\theta\ln\theta+(1-\theta)\ln(1-\theta)\bigr].

θ\theta で微分して 00 とおくと −(εad+μ)+kBTln⁡θ1−θ=0-(\varepsilon _{\mathrm{ad}}+\mu)+ k_{\mathrm B} T\ln\frac{\theta}{1-\theta}=0 なので

θ=1e−β(εad+μ)+1.\theta=\frac{1}{\mathrm{e}^{-\beta(\varepsilon _{\mathrm{ad}}+\mu)}+1}.

2階微分は kBT/(θ(1−θ))>0k_{\mathrm B} T/(\theta(1-\theta))>0 なので最小である。これは式 (2.2.4) の占有の確率そのもので、Fermi 分布と同じ形をしている(1つのサイトに2個入れないことが Pauli の原理と同じ役をする)。

(2) e−β(εad+μ)=1/3\mathrm{e}^{-\beta(\varepsilon _{\mathrm{ad}}+\mu)}=1/3 なので θ=3/4\theta=3/4。Ξ=1+3=4\Xi=1+3=4 から Ωeq=−kBTln⁡4≈−1.386 kBT\Omega_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln4\approx-1.386\, k_{\mathrm B} T。θ=1/2\theta=1/2 では Ω(1/2)=−12kBTln⁡3−kBTln⁡2\Omega(1/2)=-\frac12 k_{\mathrm B} T\ln3- k_{\mathrm B} T\ln2 なので

Ω(1/2)−Ωeq=kBT(ln⁡4−ln⁡2−12ln⁡3)=12kBTln⁡43≈0.1438 kBT.\Omega(1/2)-\Omega_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\Bigl(\ln4-\ln2-\tfrac12\ln3\Bigr)=\tfrac12 k_{\mathrm B} T\ln\tfrac43\approx0.1438\, k_{\mathrm B} T .

一方、D((12,12) ∥ (34,14))=12ln⁡1/23/4+12ln⁡1/21/4=12ln⁡43D\bigl((\tfrac12,\tfrac12)\,\|\,(\tfrac34,\tfrac14)\bigr)=\frac12\ln\frac{1/2}{3/4}+\frac12\ln\frac{1/2}{1/4}=\frac12\ln\frac43 で、式 (2.2.5) のとおり一致する。

量子系

量子系では、分布の代わりに密度行列 ρ^\hat\rho を使い、F[ρ^]=Tr⁡(ρ^H^)−kBT S(ρ^)F[\hat\rho]=\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat H)- k_{\mathrm B} T\,S(\hat\rho) と定める。S(ρ^)=−Tr⁡(ρ^ln⁡ρ^)S(\hat\rho)=-\operatorname{Tr}(\hat\rho\ln\hat\rho) は von Neumann エントロピーである。Gibbs 状態 ρ^eq=e−βH^/Z\hat\rho_{\mathrm{eq}}=\mathrm{e}^{-\beta\hat H}/Z について ln⁡ρ^eq=−βH^−ln⁡Z\ln\hat\rho_{\mathrm{eq}}=-\beta\hat H-\ln Z が演算子として成り立つので、古典と同じ計算で

F[ρ^]−Feq=kBT D(ρ^ ∥ ρ^eq),D(ρ^ ∥ σ^)=Tr⁡ρ^(ln⁡ρ^−ln⁡σ^)(2.2.6)F[\hat\rho]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(\hat\rho\,\|\,\hat\rho_{\mathrm{eq}}),\qquad D(\hat\rho\,\|\,\hat\sigma)=\operatorname{Tr}\hat\rho(\ln\hat\rho-\ln\hat\sigma)\tag{2.2.6}

を得る。右辺が負にならないこと(Klein の不等式)は 第3部第2章 で示す。

重ね合わせの持つ自由エネルギー

エネルギーの固有基底 B\mathcal B で ρ^\hat\rho の非対角成分を 00 にしたものを ΔB(ρ^)\Delta_{\mathcal B}(\hat\rho) と書く(第3部第2章の式 (3.2.15) で一般の基底について定義し、下の分解は式 (3.2.26) として証明する)。ρ^eq\hat\rho_{\mathrm{eq}} はこの基底で対角なので Tr⁡ρ^ln⁡ρ^eq=Tr⁡ΔB(ρ^)ln⁡ρ^eq\operatorname{Tr}\hat\rho\ln\hat\rho_{\mathrm{eq}}=\operatorname{Tr}\Delta_{\mathcal B}(\hat\rho)\ln\hat\rho_{\mathrm{eq}} となり、

D(ρ^ ∥ ρ^eq)=D(ΔB(ρ^) ∥ ρ^eq)+[S(ΔB(ρ^))−S(ρ^)]D(\hat\rho\,\|\,\hat\rho_{\mathrm{eq}})=D(\Delta_{\mathcal B}(\hat\rho)\,\|\,\hat\rho_{\mathrm{eq}})+\bigl[S(\Delta_{\mathcal B}(\hat\rho))-S(\hat\rho)\bigr]

と分かれる。第1項は占有確率だけで決まる古典の部分、第2項は重ね合わせ(コヒーレンス)の分である。例題 2.2.1 と同じ (3/4,1/4)(3/4,1/4) の Gibbs 状態に対し、占有確率 (1/2,1/2)(1/2,1/2) の混合状態では D=12ln⁡43≈0.144D=\frac12\ln\frac43\approx0.144、同じ占有確率を持つ純粋状態 (∣0⟩+∣1⟩)/2(| 0 \rangle +| 1 \rangle )/\sqrt2 では D=12ln⁡163≈0.837D=\frac12\ln\frac{16}{3}\approx0.837 で、差はちょうど ln⁡2\ln2 である。

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