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出てくるもの(1):取り出せる仕事の上限

2026年10月15日9分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第2部 第2章 Gibbs の変分原理
目次
  1. 操作の模型
  2. 上限に達する操作
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第2章 §2.2.3 ★★★ 熱浴と接した系から取り出せる仕事は F[p]−F[pfin]F[p]-F[p_{\mathrm{fin}}] を超えない。平衡で終わるなら上限は kBT D(p ∥ peq)k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}}) で、急に変えてからゆっくり戻す操作で上限に達する

操作の模型

系のエネルギー EiE_i を外から変えられるとする(たとえば磁場を変えてスピンの準位を動かす)。熱浴の温度 TT は一定である。系の操作を、次の2種類の手順を交互に並べたものとして書く。

  1. (a) エネルギーを変える:分布 pp を変えずに、エネルギーを EiE_i から Ei′E_i' へ瞬時に変える。系がされる仕事は ∑ip(i)(Ei′−Ei)\sum_ip(i)(E_i'-E_i) で、熱のやりとりは無い。
  2. (b) 熱浴と接して緩和する:エネルギーを固定したまま、分布を確率行列 WW で p→Wpp\to Wp と変える。WW はその時点のエネルギーの Gibbs 分布を動かさない。仕事は 00 で、平均エネルギーの変化は熱浴からもらう熱である。

系がされる仕事を WonW_{\mathrm{on}}、もらう熱を QQ とすると、熱力学の第一法則 Δ⟨E⟩=Q+Won\Delta\langle E \rangle =Q+W_{\mathrm{on}} が両方の手順で成り立つ(記法の正本どおり、系がされる仕事・系がもらう熱を正とする。確率行列 WW と仕事を区別するため、仕事には添字を付ける)。

定理 2.2.4(非平衡の第二法則 ★★★)

手順 (a)・(b) をどう並べても、初めの分布 pp から終わりの分布 pfinp_{\mathrm{fin}} へ移る間に系がされる仕事は

Won≥F[pfin]−F[p](2.2.10)W_{\mathrm{on}}\ge F[p_{\mathrm{fin}}]-F[p]\tag{2.2.10}

を満たす。FF はそれぞれの時点のエネルギーで測った非平衡の自由エネルギー (2.2.2) である。

証明

手順 (a) では pp が変わらないので H(p)H(p) も変わらず、ΔF=∑ip(i)(Ei′−Ei)\Delta F=\sum_ip(i)(E_i'-E_i) が系のされた仕事に等しい。手順 (b) では仕事が 00 で、そのときのエネルギーの Gibbs 分布を peqp_{\mathrm{eq}} とすると、データ処理不等式(序章)から D(Wp ∥ peq)=D(Wp ∥ Wpeq)≤D(p ∥ peq)D(Wp\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=D(Wp\,\|\,Wp_{\mathrm{eq}})\le D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}}) である。式 (2.2.3) から ΔF=kBT ΔD≤0\Delta F= k_{\mathrm B} T\,\Delta D\le0 となる。手順ごとに ΔF≤Won\Delta F\le W_{\mathrm{on}} が成り立つので、足し合わせて式 (2.2.10) を得る。

系から取り出す仕事を Wext=−WonW_{\mathrm{ext}}=-W_{\mathrm{on}} と書くと Wext≤F[p]−F[pfin]W_{\mathrm{ext}}\le F[p]-F[p_{\mathrm{fin}}] である。終わりのエネルギーが初めと同じで、終わりの分布がその Gibbs 分布 peqp_{\mathrm{eq}} なら

Wext≤F[p]−Feq=kBT D(p ∥ peq)(2.2.11)W_{\mathrm{ext}}\le F[p]-F_{\mathrm{eq}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})\tag{2.2.11}

となる。熱力学では「等温で取り出せる仕事は自由エネルギーの減少を超えない」と習う。式 (2.2.11) は、その始状態を平衡でない分布に広げたもので、平衡からのずれ DD に kBTk_{\mathrm B} T を掛けたものが仕事の上限になる1M. Esposito and C. Van den Broeck (2011), EPL 95, 40004。初めと終わりの状態が非平衡の場合に、必要な仕事の下限を平衡の自由エネルギー差と kBTk_{\mathrm B} T 掛ける相対エントロピーで書いた。下の脚注へ。

上限に達する操作

上限 (2.2.11) に届く操作は、次の2段で作れる。

  1. (i) 急に変える:分布 pp を変えずに、エネルギーを Ei′=−kBTln⁡p(i)E_i'=- k_{\mathrm B} T\ln p(i) に瞬時に変える。新しいエネルギーでは Z′=∑ip(i)=1Z'=\sum_i p(i)=1、Feq′=0F_{\mathrm{eq}}'=0 で、pp はちょうど新しいエネルギーの Gibbs 分布になっている。
  2. (ii) ゆっくり戻す:エネルギーを Ei′E_i' から元の EiE_i へ細かい刻みで戻し、刻みごとに緩和させてその時点の Gibbs 分布にする。

(i) で系がされる仕事は ∑ip(i)(Ei′−Ei)=kBT H(p)−⟨E⟩p=−F[p]\sum_ip(i)(E_i'-E_i)= k_{\mathrm B} T\,H(p)-\langle E \rangle _p=-F[p] である。(ii) では刻みを細かくした極限で分布がいつも Gibbs 分布にあり、手順 (b) の緩和で自由エネルギーが減らないので、系がされる仕事は平衡の自由エネルギーの差 Feq−Feq′=FeqF_{\mathrm{eq}}-F_{\mathrm{eq}}'=F_{\mathrm{eq}} に近づく。合わせて Won=Feq−F[p]W_{\mathrm{on}}=F_{\mathrm{eq}}-F[p]、すなわち Wext=kBT D(p ∥ peq)W_{\mathrm{ext}}= k_{\mathrm B} T\,D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}}) で、上限に等号で達する。p(i)=0p(i)=0 の状態があると Ei′=+∞E_i'=+\infty となるが、その状態のエネルギーを十分高くすればよく、上限にいくらでも近づける。

(i) の急な変化で上限が失われないのは、分布を変えない操作では DD が減らない(緩和が起きない)からである。熱浴との熱のやりとりは (ii) だけで起き、そこでは分布がいつも平衡にあるので、手順 (b) の不等号が等号に近づく。有限の刻みでは、刻みごとの緩和で DD の一部が失われる。図 2.2.2 は刻みの数 KK と取り出せる仕事の関係である。

図

図 2.2.2 例題 2.2.3 の2準位系(ε=kBTln⁡3\varepsilon = k_{\mathrm B} T\ln3、p=(1/2,1/2)p=(1/2,1/2))で、(i) の後にエネルギーを KK 回の等しい刻みで元へ戻し、刻みごとに完全に緩和させたときに取り出せる仕事。K=1K=1 では急に変えてすぐ急に戻すことになり、仕事は 00 である。KK を増やすと上限(点線)に近づき、差はおよそ 1/K1/K に比例して小さくなる。実線は有限の刻みで上限を近似したもの。

例題 2.2.3 2準位系から仕事を取り出す ★★

オリジナルエネルギー 00 の状態 g とエネルギー ε=kBTln⁡3\varepsilon = k_{\mathrm B} T\ln3 の状態 e をとる系が、温度 TT の熱浴と接している。系の分布は p=(p(g),p(e))=(1/2,1/2)p=(p(\mathrm g),p(\mathrm e))=(1/2,1/2) である。

  1. (1) 取り出せる仕事の上限を kBTk_{\mathrm B} T 単位で求めよ。
  2. (2) (i)・(ii) の操作で、(i) の後のエネルギー Eg′E_{\mathrm g}', Ee′E_{\mathrm e}' と、(i)・(ii) それぞれで系がされる仕事を求め、合計が (1) に一致することを確かめよ。
  3. (3) (i) を行わず、初めから (ii) だけを元のエネルギーのまま行うと(すなわち何もせずに緩和させると)、取り出せる仕事と熱浴へ流れる熱はいくらか。
解答

(1) Gibbs 分布は peq=(3/4,1/4)p_{\mathrm{eq}}=(3/4,1/4) で、例題 2.2.1 と同じ計算により D(p ∥ peq)=12ln⁡43≈0.1438D(p\,\|\,p_{\mathrm{eq}})=\frac12\ln\frac43\approx0.1438。上限は 0.1438 kBT0.1438\, k_{\mathrm B} T である。

(2) Eg′=Ee′=−kBTln⁡12=kBTln⁡2E_{\mathrm g}'=E_{\mathrm e}'=- k_{\mathrm B} T\ln\frac12= k_{\mathrm B} T\ln2。2つの状態のエネルギーが等しくなり、p=(1/2,1/2)p=(1/2,1/2) がその Gibbs 分布になる。(i) で系がされる仕事は 12(ln⁡2−0)kBT+12(ln⁡2−ln⁡3)kBT=(ln⁡2−12ln⁡3)kBT≈0.1438 kBT\frac12(\ln2-0) k_{\mathrm B} T+\frac12(\ln2-\ln3) k_{\mathrm B} T=\bigl(\ln2-\frac12\ln3\bigr) k_{\mathrm B} T\approx0.1438\, k_{\mathrm B} T。(ii) では平衡の自由エネルギーが Feq′=−kBTln⁡(2⋅12)=0F_{\mathrm{eq}}'=- k_{\mathrm B} T\ln(2\cdot\frac12)=0 から Feq=−kBTln⁡43≈−0.2877 kBTF_{\mathrm{eq}}=- k_{\mathrm B} T\ln\frac43\approx-0.2877\, k_{\mathrm B} T へ変わるので、系がされる仕事は −0.2877 kBT-0.2877\, k_{\mathrm B} T。合計 Won=0.1438−0.2877=−0.1438W_{\mathrm{on}}=0.1438-0.2877=-0.1438(kBTk_{\mathrm B} T 単位)で、Wext=0.1438 kBTW_{\mathrm{ext}}=0.1438\, k_{\mathrm B} T が上限に一致する。(i) では仕事を系に入れ、(ii) ではそれより多くの仕事を取り出している。

(3) 仕事は 00 である。平均エネルギーは 12ε\frac12\varepsilon から 14ε\frac14\varepsilon へ下がるので、熱浴へ 14ε=14ln⁡3 kBT≈0.275 kBT\frac14\varepsilon =\frac14\ln3\, k_{\mathrm B} T\approx0.275\, k_{\mathrm B} T の熱が流れる。取り出せたはずの 0.1438 kBT0.1438\, k_{\mathrm B} T の仕事は失われ、系と熱浴を合わせたエントロピーが kB×0.1438k_{\mathrm B}\times0.1438 だけ増える。系のエントロピーの変化 kB(H(peq)−ln⁡2)≈−0.131 kBk_{\mathrm B}(H(p_{\mathrm{eq}})-\ln2)\approx-0.131\, k_{\mathrm B} と熱浴の増加 0.275 kB0.275\, k_{\mathrm B} の和が 0.144 kB0.144\, k_{\mathrm B} になることから確かめられる。

手順 (b) で緩和を確率行列で書いたところには、序章で述べたのと同じ近似が入っている。系と熱浴を合わせた全体は力学に従って動くが、系の分布の変化をその時点の分布だけで決まる形に書けるのは、結合が弱く熱浴の相関が速く消える極限である。

近似の裏付け

型 B(極限) | 小さいもの 系と熱浴の結合の強さ λ\lambda(λ→0\lambda\to0 で λ2t\lambda^2t を固定する van Hove の極限) | 証明 条件付き(有限次元の系・熱浴の相関が速く減衰。量子系で Davies 1974。刻みごとに完全に緩和させるのはさらに緩和時間より長く待つ仮定) | 行き先 近似の数理 第14章

1 M. Esposito and C. Van den Broeck (2011), EPL 95, 40004。初めと終わりの状態が非平衡の場合に、必要な仕事の下限を平衡の自由エネルギー差と kBTk_{\mathrm B} T 掛ける相対エントロピーで書いた。

木下の勉強ステータス

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