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Sanov の定理:めったに起きない型の確率

2026年10月15日8分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第1部 第8章 大偏差・Sanov・Stein の補題
目次
  1. 型の集合へ広げる
  2. I 射影
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部 第8章 §1.8.2 ★★★ 経験分布が集合 EE に入る確率の指数は、EE の中での D(p∥q)D(p\|q) の最小値

型の集合へ広げる

前節は型を1つに決めた。実際に問いたいのは「表の割合が 0.70.7 以上」のように、型がある集合 EE に入る確率である。EE に入る型は多くても (n+1)∣X∣(n+1)^{\lvert \mathcal X\rvert } 個しかないので、確率は EE の中で最も起こりやすい型1つの確率と指数の係数で一致する。

定理 1.8.3(Sanov の定理 ★★★)

EE を X\mathcal X 上の確率分布の集合とする。X1,…,XnX_1,\dots,X_n が独立に qq に従うとき、

qn(pXn∈E)≤(n+1)∣X∣ e−nD(p∗∥q),D(p∗∥q)=inf⁡p∈ED(p∥q)(1.8.6)q^n\bigl(p_{X^n}\in E\bigr)\le(n+1)^{\lvert \mathcal X\rvert }\,\mathrm{e}^{-nD(p^*\|q)},\qquad D(p^*\|q)=\inf_{p\in E}D(p\|q)\tag{1.8.6}

が成り立つ。さらに EE がその内部の閉包に等しい(境界だけの細い部分を持たない)なら、

lim⁡n→∞1nln⁡qn(pXn∈E)=−min⁡p∈ED(p∥q).(1.8.7)\lim_{n\to\infty}\frac1n\ln q^n\bigl(p_{X^n}\in E\bigr)=-\min_{p\in E}D(p\|q).\tag{1.8.7}

証明

上界:qn(pXn∈E)=∑p∈E∩Pnqn(Tn(p))≤∑p∈E∩Pne−nD(p∥q)q^n(p_{X^n}\in E)=\sum_{p\in E\cap\mathcal P_n}q^n(T_n(p))\le\sum_{p\in E\cap\mathcal P_n}\mathrm{e}^{-nD(p\|q)} で、各項は e−nD(p∗∥q)\mathrm{e}^{-nD(p^*\|q)} 以下、項の数は式 (1.8.2) で (n+1)∣X∣(n+1)^{\lvert \mathcal X\rvert } 以下である。

下界:EE の内部の点 pp を1つとる。Pn\mathcal P_n の点は分布の集合の中に間隔 1/n1/n で並ぶので、nn が十分大きければ pp のすぐ近くに EE に入る型 pn∈Pnp_n\in\mathcal P_n があり、pn→pp_n\to p とすることができる。式 (1.8.5) から qn(pXn∈E)≥qn(Tn(pn))≥(n+1)−∣X∣e−nD(pn∥q)q^n(p_{X^n}\in E)\ge q^n(T_n(p_n))\ge(n+1)^{-\lvert \mathcal X\rvert }\mathrm{e}^{-nD(p_n\|q)} で、D(⋅∥q)D(\cdot\|q) の連続性から lim inf⁡1nln⁡qn(pXn∈E)≥−D(p∥q)\liminf\frac1n\ln q^n(p_{X^n}\in E)\ge-D(p\|q) を得る。これが EE の内部のすべての pp で成り立ち、EE は内部の閉包なので、右辺の上限は −min⁡p∈ED(p∥q)-\min_{p\in E}D(p\|q) になる。上界と合わせて式 (1.8.7) を得る。

この定理の名前は I. N. Sanov に由来する1I. N. Sanov (1957), Mat. Sbornik 42(84), 11–44。下の脚注へ。証明の中身は「型は多項式個しかない」と「1つの型の確率は e−nD\mathrm{e}^{-nD}」の2つだけで、和が最大の項で決まるという Laplace の方法の離散版になっている。

Sanov の定理の読み方

めったに起きないことが起きるとき、それは「最もありそうな起こり方」1つでほぼ起きる。その起こり方は、EE の中で真の分布 qq に DD の意味で最も近い分布 p∗p^* である。起きる確率は e−nD(p∗∥q)\mathrm{e}^{-nD(p^*\|q)} で、p∗p^* 以外の起こり方は指数の係数で負けるので、条件をつけた世界では型が p∗p^* の近くに集まる(1.8.4節で示す)。

I 射影

EE が凸な閉集合なら、D(p∥q)D(p\|q) は pp について狭義凸(第1部第3章)なので、最小を与える p∗p^* はただ1つに決まる。これを qq の EE への I 射影(information projection)と呼ぶ。名前は、ユークリッド空間で点から凸集合へ最短距離の点をとる射影に対応させたものである。射影との対応は名前だけでなく、次の不等式も成り立つ。

命題 1.8.4(Pythagoras の不等式 ★★)

EE が凸な閉集合で、p∗p^* が qq の EE への I 射影(D(p∗∥q)<∞D(p^*\|q)<\infty)なら、すべての p∈Ep\in E について

D(p∥q)≥D(p∥p∗)+D(p∗∥q).(1.8.8)D(p\|q)\ge D(p\|p^*)+D(p^*\|q).\tag{1.8.8}

証明

pt=(1−t)p∗+tp∈Ep_t=(1-t)p^*+tp\in E(0≤t≤10\le t\le1)とおく。p∗p^* が最小なので ddtD(pt∥q)∣t=0+≥0\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}D(p_t\|q)\big|_{t=0^+}\ge0 である。ddtD(pt∥q)=∑x(p(x)−p∗(x))(ln⁡pt(x)q(x)+1)\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}D(p_t\|q)=\sum_x(p(x)-p^*(x))\bigl(\ln\frac{p_t(x)}{q(x)}+1\bigr) で、∑x(p−p∗)=0\sum_x(p-p^*)=0 なので t=0t=0 では∑x(p(x)−p∗(x))ln⁡p∗(x)q(x)≥0\sum_x(p(x)-p^*(x))\ln\frac{p^*(x)}{q(x)}\ge0 となる。これを書き直すと∑xp(x)ln⁡p∗(x)q(x)≥D(p∗∥q)\sum_xp(x)\ln\frac{p^*(x)}{q(x)}\ge D(p^*\|q)。一方 D(p∥q)−D(p∥p∗)=∑xp(x)ln⁡p∗(x)q(x)D(p\|q)-D(p\|p^*)=\sum_xp(x)\ln\frac{p^*(x)}{q(x)} なので、式 (1.8.8) が従う。

不等式 (1.8.8) は、qq から EE の点 pp へ行く「DD の意味の距離の2乗」が、qq から p∗p^* への分と p∗p^* から pp への分の和以上になる、と読む。ユークリッド空間で凸集合への射影を考えたとき、射影点での角が鈍角以上になることの対応物である。EE が 1.8.3節の線形の集合(平均を決めた集合)のときは等号が成り立つ。

例題 1.8.2 表の割合が0.7以上になる確率 ★★

オリジナル公平な硬貨を nn 回投げて、表の割合が 0.70.7 以上になる確率を PnP_n とする。

  1. Sanov の定理から lim⁡n→∞−1nln⁡Pn\lim_{n\to\infty}-\frac1n\ln P_n を求めよ。どの型がこの確率を決めているか。
  2. n=100n=100 と n=1000n=1000 で PnP_n を二項分布から正確に計算すると、P100=3.93×10−5P_{100}=3.93\times10^{-5}、P1000=8.83×10−38P_{1000}=8.83\times10^{-38} である。−1nln⁡Pn-\frac1n\ln P_n を求め、(1) の値と比べよ。
解答

(1) E={p:p(表)≥0.7}E=\{p:p(\text{表})\ge0.7\} は凸な閉集合で、q=(0.5,0.5)q=(0.5,0.5) は EE の外にある。D(p∥q)=ln⁡2−hb(p(表))D(p\|q)=\ln2-h_{\mathrm b}(p(\text{表})) はp(表)>0.5p(\text{表})>0.5 で増加するので、EE の中の最小は境界の p∗=(0.7,0.3)p^*=(0.7,0.3) でとり、lim⁡−1nln⁡Pn=D(p∗∥q)=0.0823\lim-\frac1n\ln P_n=D(p^*\|q)=0.0823 である。表の割合が 0.80.8 や 0.90.9 になる起こり方も EE に含まれるが、それらは指数の係数が大きいので PnP_n にほとんど寄与しない。

(2) −1100ln⁡(3.93×10−5)=0.101-\frac1{100}\ln(3.93\times10^{-5})=0.101、−11000ln⁡(8.83×10−38)=0.0853-\frac1{1000}\ln(8.83\times10^{-38})=0.0853。どちらも 0.08230.0823 より大きく、nn を増やすと近づく。差は多項式の因子 (n+1)∣X∣(n+1)^{\lvert \mathcal X\rvert } などに由来し、O(ln⁡n/n)\mathcal{O}(\ln n/n) で小さくなる。

例題 1.8.3 3つの記号での I 射影 ★

オリジナルX={a,b,c}\mathcal X=\{a,b,c\} 上の一様分布 q=(13,13,13)q=(\tfrac13,\tfrac13,\tfrac13) を考え、E={p:p(a)≥12}E=\{p:p(a)\ge\tfrac12\} とする。qq の EE への I 射影 p∗p^* と指数 D(p∗∥q)D(p^*\|q) を求めよ。

解答

q∉Eq\notin E なので最小は境界 p(a)=12p(a)=\tfrac12 の上にある。残りの 12\tfrac12 を bb, cc に ss, 12−s\tfrac12-s と配るとD=12ln⁡32+sln⁡(3s)+(12−s)ln⁡(3(12−s))D=\tfrac12\ln\tfrac32+s\ln(3s)+(\tfrac12-s)\ln(3(\tfrac12-s)) で、ss で微分して 00 とおくと ln⁡s=ln⁡(12−s)\ln s=\ln(\tfrac12-s)、すなわち s=14s=\tfrac14。したがって p∗=(12,14,14)p^*=(\tfrac12,\tfrac14,\tfrac14)、D(p∗∥q)=12ln⁡32+12ln⁡34=0.0589D(p^*\|q)=\tfrac12\ln\tfrac32+\tfrac12\ln\tfrac34=0.0589。条件に関係しない bb と cc の比は qq での比 1:11:1 のまま残る。条件が直接触れない部分は元の分布の形を保つという性質は、1.8.3節の指数型の傾きの特別な場合(ff を aa の指示関数に選んだもの)になっている。

1 I. N. Sanov (1957), Mat. Sbornik 42(84), 11–44。

木下の勉強ステータス

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