出てくるもの(3):なぜ最大エントロピーなのか
AI 生成・木下が未勉強
相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第2部 第1章 §2.1.5 ★★★ 独立な試行を数え上げると、拘束を満たす標本の経験分布は最大エントロピーの分布に集中する。Pythagoras の等式の が集中の速さを決める
推論か、頻度か
ここまでの議論は、最大エントロピーの分布を「知らないことを仮定しない分布」として選んだ。これは推論の規則で、それが実験と合う理由はまだ示していない。この節では、同じ分布が「拘束を満たすほとんどすべての場合に実際に観測される頻度」でもあることを、数え上げで示す。
参照分布 から独立に 回値を引き、値 が出た回数を 、経験分布を とする。ある経験分布 が出る確率は多項分布で、第1部第8章の定理 1.8.2(型のクラスの確率)を Stirling の公式で書き直すと
となる。 が一様分布のときは、並びの数 を数えることと同じで、Boltzmann が気体の状態の数え方に使った式である1L. Boltzmann (1877), Sitzungsber. Akad. Wiss. Wien 76, 373–435。下の脚注へ。式 (2.1.15) から、経験分布の集合 に入る確率が で減ることを示したものが Sanov の定理である(第1部第8章。ここでは結果だけを使う)。
拘束のもとでの集中
試行の結果について、「 回の の値の平均が だった」ことだけを知ったとする。経験分布の言葉では である。 に入る2つの経験分布 と の確率の比は、式 (2.1.15) と Pythagoras の等式 (2.1.6) から
となる。 が大きいと、 が より大きい経験分布はほとんど出てこない。拘束を満たす標本の経験分布は に集中する。集中の指数がちょうど になる理由は、Pythagoras の等式により、 の中では からの の差が からの に等しいことにある。
経験分布が に集中するので、 回のうち1回目の値の条件付き分布も に近づく。次の定理は、第1部第8章の定理 1.8.7 を、拘束が期待値で与えられる場合に書き直したものである。この章が新しく足すのは有限の でのずれの大きさで、条件付き分布と の差は 、 では である(図 2.1.3)。
定理 2.1.2(条件付き極限定理 ★★★)
を に従う独立な確率変数とし、 は のとる値の最小値と最大値の間(端を含まない)にあるとする。 が に等しい(またはその近くにある)という条件のもとで、 の条件付き分布は で (式 (2.1.4))に収束する。さらに、固定した個数 について の条件付き分布は独立な の積に収束する。
の主張の証明は第1部第8章の定理の証明(Sanov の定理と Pythagoras の不等式)と同じ流れで、ここでは繰り返さない2J. M. Van Campenhout and T. M. Cover (1981), IEEE Trans. Inf. Theory 27, 483–489。I. Csiszár (1984), Ann. Probab. 12, 768–793。下の脚注へ。
この定理から、最大エントロピー原理が頻度としても正しいことが分かる。 個のサイコロの目の合計が だと分かったとき、そのうち1個の目の分布は で例題 2.1.1 の になる。これを熱浴の言葉に読み替えると、1個のサイコロが注目する系で、残りの 個が熱浴、合計の目が全体のエネルギーである。合計が値として決まっているのは全体のミクロカノニカル分布で、1個の系の分布がカノニカル分布に近づくことは、統計力学の授業で「系と熱浴」からカノニカル分布を導くことと同じである(2.1.6節)。推論としての最大エントロピーと、全体の等重率から出る頻度は、 で同じ分布になる。
図 2.1.3 個の公平なサイコロの目の合計が のときの、1個目の出目の条件付き分布(点線、厳密)と、平均 の最大エントロピーの分布 (実線、 の極限)。 で 。 は で , , と、およそ で減る。
例題 2.1.6 3個のサイコロの合計が ★★★
オリジナル公平なサイコロを3個振り、目の合計が だったとだけ知らされた。
- (1) 1個目の目が である条件付き確率を、残り2個の目の和が になる場合の数を数えて求めよ。
- (2) 例題 2.1.1 の と比べよ。 だけが の傾向から外れる理由を述べよ。
解答
(1) 2個のサイコロの和が になる場合の数は、 でそれぞれ である。1個目が なら残りの和は なので、 の場合の数は 、合計 。条件付き確率は
(2) と比べると、 では「目が大きいほど確率が高い」という傾向が同じで、値も近い。 nat である。 のとき残り2個の和は で、その場合の数 が和 の場合の数 より少ないので、 だけ確率が下がる。残りの個数が少ないと「熱浴」の場合の数が の関数として指数関数で近似できない。残りの個数 を増やすと、和が になる場合の数の対数が についてほぼ1次式になり(2.1.6節の の展開)、条件付き分布は に近づく。図 2.1.3 の ではすでに も単調な並びに入っている。
この節の極限で捨てたもの、すなわち定理の前に述べた有限の のずれ(条件付き分布で 、 で )を札にしておく。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの (拘束を共有する独立な試行の数 。熱浴の言葉では熱浴の大きさ) | 証明 証明済み(値が有限個で独立同分布、拘束の値が値の範囲の内部にあるとき。Van Campenhout–Cover 1981・Csiszár 1984) | 行き先 近似の数理 第6章
ほかの巻では
- 近似の数理 第13章:有限の のずれを越えて、熱力学極限そのものが存在する条件(物質の安定性)が読める
1 L. Boltzmann (1877), Sitzungsber. Akad. Wiss. Wien 76, 373–435。
2 J. M. Van Campenhout and T. M. Cover (1981), IEEE Trans. Inf. Theory 27, 483–489。I. Csiszár (1984), Ann. Probab. 12, 768–793。
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