Dirac の夢:量子化の写像に何を求めるか
AI 生成・木下が未勉強
量子力学の様々な構成方法 第10部 第1章 §10.1.1 ★★★ 量子化を「関数から演算子への写像」と見て、線形性・括弧の保存・既約性などの要請を書き出す。この巻の第10部はこの要請から出発する
第2部第2章では、正準量子化を「古典の Poisson 括弧 を交換子 に置き換える処方」として導入し、 や のような積を演算子に直すときに順序の選び方が残ることを指摘した(第2部第2章)。P. A. M. Dirac は 1925 年の論文で、この置き換えを古典力学と量子力学をつなぐ原理として提案した1P. A. M. Dirac (1925), Proc. R. Soc. Lond. A 109, 642–653.下の脚注へ。もし古典の観測量すべてに演算子を一斉に対応させ、Poisson 括弧が交換子にそのまま写るような規則があれば、量子化は「古典力学に を入れる機械的な手続き」として完結し、順序の曖昧さも消える。この章ではこの期待を Dirac の夢と呼ぶ。
第10部はこの夢の検討から始める。第10部の部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値性 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は最初の「出発点の要請」を受け持つ。量子化の写像 に4つの要請を課し、そのうち3つを満たしながら の2次以下の多項式までなら要請がすべてかなうこと、しかし3次の多項式を含めると矛盾が出ることを証明する。後者が H. J. Groenewold(1946)と L. van Hove(1951)の定理である。定理は「夢はかなわない」と言うだけでなく、4つの要請のうちどれを緩めるかで量子化の流儀が分かれることを示している。既約性を捨てるのが前量子化(第10部第3章)、 以上の補正を許すのが変形量子化と Weyl 対応(第5部)、写せる関数の範囲を絞るのが偏極(第10部第4章)であり、この章の最後の2節でこの対応を式で並べる。
証明に使う道具は、交換子の計算と、位置表示 , だけである。微分形式やシンプレクティック形式は第10部第2章まで使わない。この章では1自由度(相空間 、座標 )に話を限る。Poisson 括弧は記法の正本どおり
とする。
量子化を写像として書く
基準(第1部)の量子力学では、観測量は Hilbert 空間 の上のエルミート演算子である。古典力学では、観測量は相空間の実数値関数 である。正準量子化は、古典の Hamiltonian から量子の を作る手続きなので、関数の集まりから演算子の集まりへの写像
を1つ決めることにあたる。写像として書くと、「どの関数を、どの演算子に、どういう性質を保って写すか」を条件として列挙できる。古典の観測量の集まりには、和と実数倍に加えて Poisson 括弧という積があり、これは反対称・双線形で Jacobi 恒等式を満たす(Lie 代数の構造)。量子の観測量の側では、交換子を で割った が同じ3つの性質を満たす。そこで Dirac の夢は、次の要請の組として書ける。
定義 10.1.1(量子化の写像への要請)
相空間の関数のある集まり (和と Poisson 括弧で閉じているとする)から、 の上の演算子への写像 に、次の4つを求める。
- (Q1) 線形性:()。定数関数 は恒等演算子 に写る。
- (Q2) 実はエルミートへ:実数値の はエルミートな演算子 に写る。
- (Q3) 括弧の保存:。
- (Q4) 既約性:, は の上の位置表示 , であり、 と の両方と交換する演算子は恒等演算子の定数倍に限る。
この (Q1)〜(Q4) は量子化の写像への要請で、第1部第2章の基準の公理 Q1〜Q6 とは別物である(文献と解析力学の巻の名前に合わせた)。
4つの要請の役割を順に述べる。(Q1) は、観測量を足し合わせたり定数倍したりする操作が古典と量子で同じ意味を持つことを求めている。定数関数 が に写ることは、実は (Q3) から出てくる。 に (Q3) を当てると となるからである。
(Q2) は、測定値が実数になることの要請である。基準の公理(第1部第2章)で観測量の固有値が測定値になるので、写した先はエルミートでなければならない。
(Q3) が夢の中身で、古典の時間発展 を量子の Heisenberg 方程式 に写す。 と のどちらに対しても (Q3) が成り立てば、古典の運動方程式と量子の運動方程式は、演算子の帽子を付けるだけで同じ形になる。
(Q4) は「 と だけで系が記述し尽くされる」ことの数学的な言い方である。 と の両方と交換する演算子が定数倍以外にあれば、その演算子の固有値で を分けることができ、 と ではその区別を測れない余分な自由度(スピンのような内部自由度)が残っていることになる。位置表示のこの性質は、Stone–von Neumann の定理(第2部第6章)で「正準交換関係を満たす既約な表現は本質的に位置表示1つ」としてまとめられている性質の一部である。(Q3) を に当てた の既約な表現はこれしかないので、(Q4) の前半では位置表示を指定した。
作用素の定義域について
と は非有界なので、厳密には「演算子」を共通の稠密な定義域(例えば急減少関数の空間)の上で考え、エルミートは対称の意味に読む(近似の数理 第3章)。この章で扱う演算子はすべて多項式係数の微分演算子なので、急減少関数の空間を保ち、交換子の計算はその上でそのまま行える。以下では定義域を断らずに書く。
夢がかなうとうれしいこと
要請 (Q1)〜(Q4) をすべての多項式(あるいはすべての滑らかな関数)について満たす写像があれば、正準量子化の曖昧さは消える。例えば の量子化は から と計算で決まり、順序を人間が選ぶ必要がなくなる。古典の保存量 は量子の保存量 に写り、古典の対称性がそのまま量子の対称性になる。Dirac 自身は教科書2P. A. M. Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (Oxford, 1930)。下の脚注へで、この対応を古典との類推として述べるにとどめ、すべての関数について成り立つとは主張していない。とはいえ、量子化を「古典力学の Lie 代数の表現を探す問題」として定式化した点で、この夢は以後の量子化の理論の出発点になった。
例題 10.1.1 と の両方と交換する演算子 ★★
オリジナル位置表示で、演算子 ( は滑らかな関数)を考える。
- (1) ならば は掛け算の演算子 であることを示せ。
- (2) さらに ならば は定数であることを示せ。
- (3) (Q1) と (Q3) から を導け。
解答
(1) Leibniz 則から なので、
これがすべての で になるには、 の係数 がすべて でなければならない( として に急減少の因子を掛けたものを順に入れると、係数を1つずつ取り出せる)。したがって で、 である。
(2) 。これが なので 、すなわち は定数である。
(3) に (Q3) を当てると 。定数 については (Q1) の線形性から である。
例題 10.1.1 は、(Q4) の後半を多項式係数の微分演算子の範囲で確かめたものである。10.1.3節の証明では、「 と の両方と交換するので定数倍」という推論を何度も使う。
1 P. A. M. Dirac (1925), Proc. R. Soc. Lond. A 109, 642–653.
2 P. A. M. Dirac, The Principles of Quantum Mechanics (Oxford, 1930)。
木下の勉強ステータス
木下はまだこの記事を勉強していません。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com
← AI生成教科書『虎の巻』の記事一覧へ