量子力学の様々な構成方法 第10部 第1章 §10.1.3 ★★★ 要請 (Q1)〜(Q4) を3次の多項式まで課すと、q2p2 の量子化が2通りに決まって食い違う。この章の主定理とその完全な証明
定理の主張
定理 10.1.4(Groenewold の定理(多項式の版) ★★★)
q,p の多項式全体を P とする。P の上で (Q1)〜(Q4) をすべて満たす写像 Q は存在しない。より強く、P のうち4次以下の多項式に限っても、(Q3) を {q3,p3}, {q2p,qp2}, {q3,p2}, {q2,p3} と2次以下の組について要求するだけで矛盾が出る。
H. J. Groenewold は 1946 年の論文で、Weyl 対応の積の構造(第5部の⋆ 積)を調べる中でこの食い違いを示した1H. J. Groenewold (1946), Physica 12, 405–460.。証明は次の4段からなる。第1段で2次以下が Weyl 順序に決まること(補題 10.1.3)、第2段で qn と pn が q^n, p^n に決まること、第3段で q2p と qp2 が決まること、第4段で q2p2 を2通りに計算して食い違いを示す。決まっていく順を図 10.1.1 に示す。

図 10.1.1 Groenewold の定理の証明の流れ。要請 (Q3)・(Q4) によって、左上から順に各多項式の量子化がただ1つに決まる。最後の q2p2 には2本の道(青と赤)があり、行き着く演算子が定数 ℏ2/3 だけ食い違う。
証明
第1段は補題 10.1.3 で済んでいる。以下、Q(qp)=D^ を何度も使う。
補題 10.1.5(冪は冪に写る ★★)
(Q1)〜(Q4) を満たす Q について、すべての n≥1 で Q(qn)=q^n, Q(pn)=p^n。
証明
n についての帰納法で示す。n=1,2 は (Q4) と補題 10.1.3 で成り立つ。n−1 まで成り立つとする。{qn,q}=0 と {qn,p}=nqn−1 に (Q3) を当てると
[Q(qn),q^]=0,[Q(qn),p^]=iℏnQ(qn−1)=iℏnq^n−1.
q^n も [q^n,q^]=0, [q^n,p^]=iℏnq^n−1 を満たすので、差 Q(qn)−q^n はq^ と p^ の両方と交換し、(Q4) から定数 cn になる。次に {qn,qp}=nqn に (Q3) を当てる。左辺の交換子では定数 cn が落ちて[q^n,D^]/(iℏ)=nq^n([q^,D^]=iℏq^ を n 回使う)、右辺は n(q^n+cn) なので ncn=0、cn=0。pn についても、{pn,p}=0, {pn,q}=−npn−1, {pn,qp}=−npn を使って同じように示せる。
補題 10.1.6(混ざった3次の項 ★★)
(Q1)〜(Q4) を満たす Q について
Q(q2p)=21(q^2p^+p^q^2)=q^2p^−iℏq^,Q(qp2)=21(q^p^2+p^2q^)=q^p^2−iℏp^.(10.1.7)
証明
{q3,p2}=6q2p と (Q3)、補題 10.1.5 から Q(q2p)=[q^3,p^2]/(6iℏ) である。[q^3,p^]=3iℏq^2 を使うと[q^3,p^2]=p^[q^3,p^]+[q^3,p^]p^=3iℏ(p^q^2+q^2p^) なので、第1式の前半を得る。後半は p^q^2=q^2p^−2iℏq^ を代入したものである。{q2,p3}=6qp2 から同じように第2式を得る(p^2q^=q^p^2−2iℏp^)。
決まった Q(q2p), Q(qp2) は、どちらも Weyl 順序の式 (10.1.4) と一致している。ここまでは矛盾はない。
定理 10.1.4 の証明
q2p2 の量子化を2通りに計算する。
1つ目の道。{q3,p3}=9q2p2 に (Q3) を当て、補題 10.1.5 を使うと Q(q2p2)=[q^3,p^3]/(9iℏ)。[q^3,p^3]=p^2[q^3,p^]+p^[q^3,p^]p^+[q^3,p^]p^2=3iℏ(p^2q^2+p^q^2p^+q^2p^2) である。標準の順序(q^ を左にそろえる)に直すため
p^q^2p^=q^2p^2−2iℏq^p^,p^2q^2=q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2(10.1.8)
を使うと(第2式は [p^2,q^2]=−4iℏD^ と式 (10.1.3) から)、
Q(q2p2)=31(3q^2p^2−6iℏq^p^−2ℏ2)=q^2p^2−2iℏq^p^−32ℏ2.(10.1.9)
2つ目の道。{q2p,qp2}=3q2p2 に (Q3) を当て、補題 10.1.6 を使うとQ(q2p2)=[q^2p^−iℏq^,q^p^2−iℏp^]/(3iℏ)。交換子を4つに分ける。
[q^2p^,q^p^2]=3iℏq^2p^2+2ℏ2q^p^,[q^2p^,p^]=2iℏq^p^,[q^,q^p^2]=2iℏq^p^,[q^,p^]=iℏ.
第1式は q^2p^q^p^2=q^2(q^p^−iℏ)p^2 と q^p^2q^2p^=q^(q^2p^2−4iℏq^p^−2ℏ2)p^ の差である。まとめると
[Q(q2p),Q(qp2)]=3iℏq^2p^2+2ℏ2q^p^−iℏ(2iℏq^p^)−iℏ(2iℏq^p^)+(−iℏ)2iℏ=3iℏq^2p^2+6ℏ2q^p^−iℏ3
で、3iℏ で割って
Q(q2p2)=q^2p^2−2iℏq^p^−31ℏ2.(10.1.10)
式 (10.1.9) と (10.1.10) は定数 ℏ2/3 だけ食い違う。Q は写像なので Q(q2p2) は1つでなければならず、矛盾である。
2つの候補の真ん中が Weyl 順序である。McCoy の公式 (10.1.4) から QW[q2p2]=q^2p^2−2iℏq^p^−21ℏ2 で、1つ目の道はこれより ℏ2/6 小さく、2つ目の道は ℏ2/6 大きい。食い違いの大きさは ℏ2 に比例し、ℏ→0 で消える。この ℏ2 がどこから出るかは 10.1.5節で Moyal 括弧の言葉で説明する。
落とし穴
証明で使った要請を確認しておく。(Q2) は一度も使っていない。(Q4) は「q^,p^ の両方と交換するなら定数」という形で、補題 10.1.3 と補題 10.1.5 の中で使った。もし (Q4) が無ければ、Q(q2) と q^2 の差は「q^,p^ と交換する定数でない演算子」であってよく、補題が成り立たない。10.1.4節で見る前量子化は、まさにこの抜け道を使って (Q1)〜(Q3) をすべての関数で満たす。
例題 10.1.3 証明の2本の道を交換子で確かめる ★★
オリジナル
- (1) [q^3,p^]=3iℏq^2 を示し、[q^3,p^3]/(9iℏ)=31(p^2q^2+p^q^2p^+q^2p^2) を導け。
- (2) (1) の右辺は Weyl 順序の QW[q2p2] と一致するか。一致しないなら差を求めよ。
- (3) 同じ演算子を Hermite 性の観点から見よ。(1) の右辺はエルミートか。
解答
(1) [q^3,p^]=q^2[q^,p^]+q^[q^,p^]q^+[q^,p^]q^2=3iℏq^2。[A^,B^C^]=B^[A^,C^]+[A^,B^]C^ を2回使うと[q^3,p^3]=p^2[q^3,p^]+p^[q^3,p^]p^+[q^3,p^]p^2=3iℏ(p^2q^2+p^q^2p^+q^2p^2)。9iℏ で割れば与式。
(2) 式 (10.1.8) から (1) の右辺は q^2p^2−2iℏq^p^−32ℏ2。Weyl 順序は式 (10.1.4) で a=b=2 として41(p^2q^2+2q^p^2q^+q^2p^2) で、q^p^2q^=q^2p^2−2iℏq^p^ も使うと q^2p^2−2iℏq^p^−21ℏ2。差は ((1))−QW[q2p2]=−ℏ2/6 で、一致しない。
(3) p^2q^2 と q^2p^2 は互いにエルミート共役で、p^q^2p^ はそれ自身エルミートなので、(1) の右辺はエルミートである。したがって1つ目の道は (Q2) を満たしたまま Weyl 順序と食い違う。Hermite 性を課しても順序は1つに決まらない。
1 H. J. Groenewold (1946), Physica 12, 405–460.
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com