量子力学の様々な構成方法 第10部 第1章 §10.1.2 ★★★ q,p の2次以下の多項式では要請 (Q1)〜(Q4) が厳密に成り立ち、しかも写像がただ1つに決まる(Weyl 順序)
2次以下の多項式は括弧で閉じている
q,p の2次以下の多項式全体を P≤2 と書く。基底は 1,q,p,q2,qp,p2 の6つである。Poisson 括弧は微分を1回ずつ取るので、m 次と n 次の多項式の括弧は m+n−2 次になる。2次と2次の括弧は2次なので、P≤2 は括弧について閉じている。基本の括弧を並べると
{q2,p2}=4qp,{qp,q2}=−2q2,{qp,p2}=2p2,{q,qp}=q,{p,qp}=−p(10.1.2)
である。2次の多項式 qp は相空間の伸縮(q↦eϵq, p↦e−ϵp)の生成子で、21(q2+p2) は回転の生成子である。2次の多項式の括弧の代数は、相空間の面積を保つ線形変換の群(シンプレクティック群 Sp(2,R))のLie 代数になっている。1次の q,p と定数 1 を加えると、並進も含めた「相空間のアフィンな正準変換」の生成子がそろう。
Weyl 順序
qp を演算子に直すとき、q^p^ はエルミートでない。実際 (q^p^)†=p^q^=q^p^−iℏ である。エルミートにするには対称化して
D^:=21(q^p^+p^q^)=q^p^−2iℏ=−iℏ(xdxd+21)(10.1.3)
とすればよい。一般に、単項式 qapb を「q^ と p^ のあらゆる並べ方の平均」で写す規則を Weyl 順序と呼び、QW[qapb] と書く(Weyl 順序の写像は第5部と同じく角括弧で書き、要請を課す一般の写像 Q(f) と区別する)。a 個の q^ を p^b の左右に二項分布で振り分けた形
QW[qapb]=2a1k=0∑a(ka)q^kp^bq^a−k(10.1.4)
に等しいことが知られている(N. H. McCoy の公式。p^ の側を振り分けた形とも一致する。a,b≤3 で検算した)。例えば QW[qp]=D^、QW[q2p]=21(q^2p^+p^q^2) である。Weyl 順序は第5部の Weyl 対応(第5部第2章)を多項式に制限したもので、この巻の補足の表で決めた Weyl 記号 AW(x,p) の逆向きの写像にあたる。
命題 10.1.2(2次以下では括弧が厳密に保たれる ★★★)
f,g∈P≤2 ならば
iℏ1[QW[f],QW[g]]=QW[{f,g}].(10.1.5)
したがって QW を P≤2 に制限したものは (Q1)〜(Q4) をすべて満たす。
証明
両辺とも f,g について双線形なので、基底 1,q,p,q2,qp,p2 の組について確かめればよい。1 を含む組は両辺とも 0 である。1次と1次は [q^,p^]/(iℏ)=1^=QW[{q,p}]。1次と2次は、[q^,p^2]=2iℏp^、[p^,q^2]=−2iℏq^、[q^,D^]=iℏq^、[p^,D^]=−iℏp^ から古典の {q,p2}=2p, {p,q2}=−2q, {q,qp}=q, {p,qp}=−p と一致する。2次と2次は、[q^2,p^2]=q^[q^,p^2]+[q^,p^2]q^=2iℏ(q^p^+p^q^)=4iℏD^ が{q2,p2}=4qp に対応し、[D^,q^2]=q^[D^,q^]+[D^,q^]q^=−2iℏq^2 が {qp,q2}=−2q2 に、同様に [D^,p^2]=2iℏp^2 が {qp,p2}=2p2 に対応する。残りの組は反対称性から従う。(Q2) は Weyl 順序が並べ方の平均なのでエルミート共役で不変であることから、(Q4) は QW[q]=q^, QW[p]=p^ から従う。
2次で破れが出ない理由は、交換子の計算で q^ と p^ を入れ替えるたびに出る iℏ の項が、2次以下では1回しか出ないことにある。交換子 [q^2,p^2] では入れ替えが2回起きるが、そのうち1回分は交換子そのものになって左辺の iℏ で割られ、残りの1回分は対称化 D^ の中に吸収される。ℏ2 の項が残るには、入れ替えが3回以上起きる必要がある。10.1.5節で、この数え方が Moyal 括弧の ℏ2 の項として正確に書けることを見る。
2次以下では写像がただ1つに決まる
命題 10.1.2 は「Weyl 順序なら要請を満たす」と言っている。逆に、要請を満たす写像は Weyl 順序しかない。
補題 10.1.3(2次以下での一意性 ★★★)
Q が P≤2 の上で (Q1)〜(Q4) を満たすなら、Q=QW である。すなわち
Q(q2)=q^2,Q(p2)=p^2,Q(qp)=D^.(10.1.6)
証明
{q2,q}=0 と {q2,p}=2q に (Q3) を当てると、[Q(q2),q^]=0 と [Q(q2),p^]=2iℏq^ を得る。q^2 も同じ2つの関係を満たすので、差 Q(q2)−q^2 は q^ とも p^ とも交換し、(Q4) から定数 α の倍になる。同じ議論を {p2,p}=0, {p2,q}=−2p に当てると Q(p2)=p^2+β、{qp,q}=−q, {qp,p}=p に当てると Q(qp)=D^+γ を得る。あとは定数 α,β,γ を決めればよい。
{q2,p2}=4qp に (Q3) を当てると、定数は交換子に入らないので左辺は [q^2,p^2]/(iℏ)=4D^、右辺は 4(D^+γ) となり、γ=0。次に {qp,q2}=−2q2 に当てると、左辺は [D^,q^2]/(iℏ)=−2q^2、右辺は −2(q^2+α) で、α=0。同様に {qp,p2}=2p2 から β=0 を得る。
定数のずれを伸縮の生成子 qp との括弧で消している点に注意する。{qp,q2}=−2q2 は「q2 は伸縮で2倍の重みを持つ」という意味で、定数は伸縮で重み 0 なので、重みの釣り合いから定数が 0 に決まる。10.1.3節でも同じ論法を使う。
例題 10.1.2 q^p^ を選ぶとどこで破れるか ★★
オリジナルqp の量子化として q^p^ を選んだ写像 Q′(Q′(q2)=q^2, Q′(p2)=p^2, Q′(qp)=q^p^)を考える。
- (1) Q′ が (Q2) を破ることを示せ。
- (2) [Q′(q2),Q′(p2)]/(iℏ) と Q′({q2,p2}) を比べ、(Q3) も破れることを示せ。
- (3) Q′(qp) に定数 c を足して (Q3) を回復できるか。回復できるなら c を求め、そのとき (Q2) がどうなるか述べよ。
解答
(1) (q^p^)†=p^†q^†=p^q^=q^p^−iℏ=q^p^ なので、実数値の qp がエルミートでない演算子に写る。
(2) 左辺は命題 10.1.2 の計算から 4D^=4q^p^−2iℏ。右辺は Q′(4qp)=4q^p^。差は −2iℏ1^ で、(Q3) が破れる。
(3) Q′(qp)=q^p^+c とすると、(2) の右辺は 4q^p^+4c になるので c=−iℏ/2 で一致する。このとき Q′(qp)=q^p^−iℏ/2=D^(式 (10.1.3))となり、エルミートになる。つまり (Q3) を回復させると、自動的に Weyl 順序に戻り (Q2) も回復する。補題 10.1.3 の一意性の具体例である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com