量子力学の様々な構成方法 第6部 第1章 §6.1.1 ★★★ 第2部第4章の代数を、エネルギー ℏω の量子が何個あるかという読み方に切り替える
第6部は、量子力学を Fock 空間と生成消滅演算子で組み立てる構成(第二量子化)を扱う。この部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は最初の2つを受け持つ。出発点には、第2部第4章で交換関係 [x^,p^]=iℏ だけから組み立てた1つの調和振動子の代数
[a^,a^†]=1,H^=ℏω(a^†a^+21)
を置く。新しい公理は1つも足さない。この代数を、互いに独立な振動子がたくさん並んだ系に1つずつ当てはめると、状態は「どのモードに何個の量子が入っているか」という数の組 {nk} で指定され、その全体が Fock 空間になる。これがこの部の基本の対象である。
章の筋は次のとおりである。6.1.1 節で1つの振動子の代数を「量子の個数を数える」言葉で読み直す。6.1.2 節でばねでつながった原子の列を基準振動に分け、独立な振動子の集まりにする。6.1.3 節で間隔を 0 にして弦(場)にし、場の演算子と Fock 空間を導入する。6.1.4 節では同じ手続きを Schrödinger 方程式に従う古典の場 ψ(x,t) に当て、「第二量子化」という名前の由来になった形を出す。そこでは1粒子の量子力学(基準)が、Fock 空間の「粒子1個の部分」としてそのまま戻ってくる。6.1.5 節で共通例題①(調和振動子)と③(自由粒子の伝播)を場の言葉で解き、6.1.6 節で行列力学(第2部)から第二量子化への橋を式で並べる。N 粒子の波動関数の対称化と Fock 空間の同値は次の第2章で、フェルミ粒子は第3章で扱う。
第2部第4章から借りる代数
質量 m、角振動数 ω の1次元の調和振動子 H^=p^2/(2m)+mω2x^2/2 を考える。第2部第4章では、
a^=2ℏmω(x^+mωip^),a^†=2ℏmω(x^−mωip^)(6.1.1)
とおくと、[x^,p^]=iℏ から [a^,a^†]=1 が従い、ハミルトニアンが
H^=ℏω(a^†a^+21)(6.1.2)
と書けることを示した。数演算子 n^=a^†a^ の固有値は 0,1,2,… に限られ、固有状態 ∣n⟩ は
a^∣n⟩=n∣n−1⟩,a^†∣n⟩=n+1∣n+1⟩,∣n⟩=n!(a^†)n∣0⟩(6.1.3)
を満たす。エネルギーは En=ℏω(n+21) である。この章ではこれらを結果として使い、導き直さない。
逆に解くと、位置と運動量は
x^=2mωℏ(a^+a^†),p^=i2mℏω(a^†−a^)(6.1.4)
になる。古典力学でも、同じ組み合わせ a=mω/(2ℏ)(x+ip/(mω)) を複素振幅と呼ぶ。これを使うとエネルギーは H=ℏω∣a∣2、Hamilton 方程式は a˙=−iωa になり、解は a(t)=a(0)e−iωt の1行で済む。Poisson 括弧は
{a,a∗}=2ℏmω({x,−ip/(mω)}+{ip/(mω),x})=−ℏi(6.1.5)
で、正準量子化の規則 {⋅,⋅}→[⋅,⋅]/(iℏ) を当てると [a^,a^†]=iℏ⋅(−i/ℏ)=1 になる(複素振幅と a^ の対応は 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第4章にも同じ形で出ている)。式 (6.1.5) は 6.1.4 節で Schrödinger 場の各モードを振動子とみなすときにもう一度使う。
励起を「量子の個数」と読む
En−E0=nℏω なので、状態 ∣n⟩ のエネルギーは「基底状態の上に ℏω の塊が n 個載っている」と読める。a^† は塊を1個足し、a^ は1個取り去り、n^ は個数を数える。振動子が1つだけなら、この読み方は言葉の上の言い換えにすぎない。しかし振動子がたくさんあるとき、各振動子の個数 nk の組で状態を指定すると、この「塊」はエネルギーと運動量を持ち、生成されたり消えたりする粒子として振る舞う(6.1.3 節)。第二量子化の考え方の中心は、この読み替えだけである。
なぜ「個数」と読めるのか
個数と読むために必要なのは、(i) スペクトルが等間隔で、(ii) 間隔 ℏω が状態によらない、の2点である。非調和振動子では準位の間隔が n とともに変わるので、「2個目の塊」と「1個目の塊」のエネルギーが違い、塊を同じ種類の粒子とみなせない。準位が等間隔になる理由は、ハミルトニアンが x^,p^ について2次であることによる。実際の結晶や液体のハミルトニアンは2次の部分(調和の部分)とそれ以外に分かれ、厳密に等間隔の準位を持つのは2次の部分だけである。物性で使う「準粒子」が近似的な概念であるのはこのためである。
この代数は有限次元では表せない
a^ を有限の D 次元の行列で表そうとすると、交換関係が必ず破れる。行列の積のトレースは順序によらない(Tr(AB)=Tr(BA))ので Tr[a^,a^†]=0 だが、右辺の単位行列のトレースは D である。したがって[a^,a^†]=1 を満たす表現は無限次元のヒルベルト空間にしか無い。同じ議論で [x^,p^]=iℏ も有限次元では表せない。したがって、モードが1つでも、第二量子化で使うヒルベルト空間は無限次元である。さらにモードが無限個になると、交換関係を満たす表現が1つに定まらなくなる(6.1.6 節の終わり)。
例題 6.1.1 打ち切った行列で見る1つのモード ★★
オリジナル
- (1) 式 (6.1.4) と (6.1.3) を使い、⟨n∣x^∣n⟩ と ⟨n∣x^2∣n⟩ を求めよ。
- (2) a^ を ∣0⟩,…,∣D−1⟩ の D 次元に打ち切った行列 A(An−1,n=n、ほかは 0)で表す。[A,A†] を求め、そのトレースが 0 になることを確かめよ。D=3 の場合を具体的に書け。
解答
(1) a^∣n⟩ は ∣n−1⟩ に、a^†∣n⟩ は ∣n+1⟩ に比例するので、⟨n∣a^∣n⟩=⟨n∣a^†∣n⟩=0、したがって ⟨n∣x^∣n⟩=0 である。2乗は
x^2=2mωℏ(a^2+a^†2+a^a^†+a^†a^)
で、対角成分に残るのは後ろの2項だけである。⟨n∣a^a^†∣n⟩=n+1、⟨n∣a^†a^∣n⟩=n なので
⟨n∣x^2∣n⟩=2mωℏ(2n+1)
となる。量子の個数 n が増えるほど振幅の揺らぎは大きくなるが、平均の位置は 0 のままである。
(2) (AA†)nn=∑l∣Anl∣2 は n<D−1 で n+1、n=D−1 で 0(A の最後の行は全部 0)である。(A†A)nn=∑l∣Aln∣2=n である。非対角成分はどちらも 0 なので
[A,A†]=diag(1,1,…,1,−(D−1))
で、トレースは (D−1)−(D−1)=0 になる。D=3 なら
A=000100020,[A,A†]=10001000−2
である。交換関係は打ち切りの縁の1行だけで破れ、そこに全体のトレースを 0 にする分 −(D−1) が集まる。個数の小さい状態だけを扱う計算では打ち切った行列で十分だが、交換関係そのものは有限次元では成り立たない。
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