量子力学の様々な構成方法 第6部 第2章 §6.2.1 ★★★ 基準の公理 Q6 に「同種粒子の状態は入れ替えで不変か符号を変える」を1つ足すと、N 粒子空間は H⊗N の対称な部分か反対称な部分になる
第6部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は「基準との同値」を受け持つ。前の第1章では、振動子の代数 [a^,a^†]=1 をモードごとに並べて Fock 空間を作り、粒子が1個の部分が基準(第1部)の1粒子の量子力学とユニタリに同値であることまで示した。この章ではそれを任意の粒子数 N に広げる。
基準の側の出発点は、第1部第2章の公理 Q6(合成系はテンソル積)に、同種粒子についての対称化の要請を1つ足したものである。N 個の同じ種類の粒子の状態は、1粒子のヒルベルト空間 H の N 個のテンソル積 H⊗N のうち、粒子の入れ替えで不変な部分(ボース粒子)か符号を変える部分(フェルミ粒子)に限られる。第二量子化の側の出発点は、生成消滅演算子の交換関係(フェルミ粒子では反交換関係)と、すべての消滅演算子で消える真空 ∣0⟩ である。この章の結論は、この2つの出発点から作ったヒルベルト空間と演算子が、粒子数ごとにユニタリ変換で1対1に移り合うということである。証明は両向きに書く。基準から出発して生成消滅演算子を作る向き(6.2.2 節の定理 6.2.2)と、代数と真空から出発して対称化した波動関数を作り直す向き(同じ節の定理 6.2.3)である。
章の筋は次のとおりである。6.2.1 節で対称化の要請を置き、なぜ対称か反対称の2通りしか無いのかを群の言葉で確かめる。6.2.2 節で同値の2つの定理を証明する。6.2.3 節で場の演算子 ψ^(x) から N 粒子の波動関数を読み出す公式を作り、密度と対密度を Fock 空間の期待値として書く。6.2.4 節で1体と2体の演算子の書き換え規則を証明する。6.2.5 節で共通例題①(調和振動子)を2粒子と3粒子の熱平衡として両方の言葉で解き、6.2.6 節で橋を表と図にまとめる。フェルミ粒子の代数そのもの(Pauli の排他律が代数の式になること)の詳しい話は次の第3章に回し、この章ではボース粒子とフェルミ粒子を符号 ± で並べて同時に扱う。式の中の複号は上の符号がボース粒子、下の符号がフェルミ粒子を表す。
入れ替えの演算子
1粒子のヒルベルト空間を H とする(たとえば1次元の粒子なら H=L2(R))。粒子が N 個あるとき、第1部第2章の公理 Q6 により、区別できる粒子の系の状態空間はテンソル積 H⊗N で、位置表示では N 変数の波動関数 Ψ(x1,…,xN) である(第1部第2章)。
N 文字の置換 σ({1,…,N} の並べ替え)に対して、入れ替えの演算子 P^σ を
(P^σΨ)(x1,…,xN)=Ψ(xσ(1),…,xσ(N))(6.2.1)
で定める。P^σ は積分の変数の名前を付け替えるだけなので内積を保ち、ユニタリである。定義から P^σP^τ=P^σ∘τ(σ∘τ は先に τ、次に σ を当てた置換)が成り立つ。2番目と5番目の粒子だけを入れ替える互換を P^25 のように書く。互換は2回続けると元に戻るので P^ij2=1 である。
粒子が同種であるとは、どの観測量も粒子の番号の付け方によらないことである。式で書くと、物理的な観測量 A^ はすべての P^σ と交換する。ハミルトニアン
H^=k=1∑Nh(k)+k<l∑v(xk,xl),v(x,y)=v(y,x)
はこの性質を持つ(h(k) は k 番目の粒子にだけ当たる1粒子のハミルトニアン)。一方、「1番目の粒子の位置」x^1 は P^12 と交換しないので、同種粒子の観測量ではない。測れるのは「どこかの粒子が x にいる密度」∑kδ(x−x^k) のような対称な組み合わせだけである。
対称か反対称の2通りしか無い理由
状態 Ψ と P^σΨ では、すべての観測量の期待値が等しい(⟨P^σΨ∣A^∣P^σΨ⟩=⟨Ψ∣P^σ†A^P^σ∣Ψ⟩=⟨Ψ∣A^∣Ψ⟩)。予言が等しいものは同じ状態であるとみなす、というのが次の要請である。
定義 6.2.1(対称化の要請 ★★★)
同種の粒子 N 個の状態ベクトル Ψ∈H⊗N は、すべての置換 σ について P^σΨ と同じ射線にある。すなわち複素数 c(σ) があってP^σΨ=c(σ)Ψ が成り立つ。
この要請から c(σ) は2通りしか無いことが出る。まず互換について、P^ij2=1 から c(ij)2=1、つまり c(ij)=±1 である。
次に、互換どうしは互いに共役である。たとえば P^13=P^12P^23P^12(1と2を入れ替え、2と3を入れ替え、もう一度1と2を入れ替えると、結果は1と3の入れ替え)なので、c(13)=c(12)c(23)c(12)=c(23) である。同じ議論をすべての組に当てると、どの互換の c も同じ値になる。最後に、どの置換も互換の積で書けるので、c(σ) は互換の値で決まる。したがって
c(σ)=1 (すべての σ)またはc(σ)=sgnσ(6.2.2)
の2通りに限られる(sgnσ は偶置換で +1、奇置換で −1)。前者の粒子をボース粒子、後者をフェルミ粒子と呼ぶ。以下では (±1)σ を、ボース粒子なら常に 1、フェルミ粒子なら sgnσ を表す記号として使う。
どちらになるかは粒子の種類で決まり、スピンが整数の粒子はボース粒子、半整数の粒子はフェルミ粒子である。この対応(スピンと統計の定理)は相対論的な場の量子論で証明されるもので、非相対論の量子力学の公理からは出てこない。この巻では実験で確かめられた事実として受け入れる。
要請に含まれている仮定
上の議論は「P^σΨ が Ψ と同じ射線にある」という仮定を使った。これを弱めて、入れ替えで張られる多次元の部分空間全体を1つの状態とみなす理論(パラ統計)も考えられたが、自然界の粒子はボースかフェルミのどちらかに収まっている。また、粒子が2次元の平面に閉じ込められているときは、粒子の配置の空間の位相(同じ点を回る回り方の区別)が3次元と違い、入れ替えで任意の位相因子 eiθ がかかるエニオンが許される。これは J. M. Leinaas and J. Myrheim (1977), Il Nuovo Cimento B 37, 1 が配置空間の大域的な構造から示したもので、分数量子 Hall 効果の準粒子がその例である。この章では3次元(と、その特別な場合としての1次元の模型)のボースとフェルミだけを扱う。
対称化の射影と、空間の次元
対称化の要請を満たすベクトルだけを取り出す演算子を作る。
S^±=N!1σ∑(±1)σP^σ(6.2.3)
とおく(和は N! 個の置換全体)。S^± は直交射影である。実際、任意の τ について P^τS^±=(±1)τS^±(和の中で σ を τ との合成に付け替えても全体は同じで、符号は (±1)τσ=(±1)τ(±1)σ から出る)なので、S^±2=N!1∑τ(±1)τP^τS^±=N!1∑τ(±1)2τS^±=S^± である。P^σ†=P^σ−1 と (±1)σ−1=(±1)σ から S^±†=S^± もわかる。像を
HN±=S^±H⊗N(6.2.4)
と書き、ボース粒子 N 個・フェルミ粒子 N 個の状態空間と呼ぶ。H0±=C(粒子が無い状態だけ)、H1±=H とする。
1粒子の空間が有限次元 d のとき(d 個の軌道 φ1,…,φd だけを考えるとき)、次元は
dimHN+=(Nd+N−1),dimHN−=(Nd)(6.2.5)
である。ボース粒子の状態は「どの軌道に何個入っているか」(合計 N 個、重複を許す)で、フェルミ粒子の状態は「どの N 個の軌道が埋まっているか」(重複を許さない)で決まるからである。これは次節で証明する同値の、数え方の上での最初の現れになっている。
例題 6.2.1 区別できる粒子・ボース粒子・フェルミ粒子の状態の数 ★★
オリジナル1粒子の軌道が d 個ある。
- (1) d=3、N=2 のとき、H⊗2・H2+・H2− の次元を求め、H⊗2=H2+⊕H2− を確かめよ。
- (2) d=4、N=3 のとき、同じ3つの次元を求めよ。H⊗3 は H3+⊕H3− に等しいか。
- (3) dimHN±=TrS^± であることを使って、(1) の答えを S^± のトレースからも出せ。
解答
(1) dimH⊗2=32=9、dimH2+=(24)=6、dimH2−=(23)=3 で、6+3=9 である。N=2 では置換は恒等と互換 P^12 の2つだけなので S^++S^−=21(1+P^12)+21(1−P^12)=1 で、2つの射影の和が恒等になる。したがって H⊗2=H2+⊕H2− である。
(2) dimH⊗3=43=64、dimH3+=(36)=20、dimH3−=(34)=4 で、20+4=24<64 である。残りの40次元は、入れ替えで対称でも反対称でもない部分(3文字の置換群の2次元の表現に属する部分)で、同種粒子の状態としては使わない。N≥3 では対称化の要請が状態を大きく減らす。
(3) TrP^σ は、テンソル積の基底 φi1⊗φi2 のうち P^σ で動かないものの数である。恒等置換では 9 個すべて、P^12 では i1=i2 の 3 個である。よって TrS^±=21(9±3) で、6 と 3 を得る。一般に TrP^σ=d(σ の巡回の数) で、この形は 6.2.5 節で分配関数を計算するときにもう一度現れる。
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