量子力学の様々な構成方法 第6部 第2章 §6.2.5 ★★★ 分配関数を基準では Tr(S^±e−βH^) として置換の和で、Fock 空間では占有数の和で計算し、同じ答えを出す
基準の言葉:置換の和
共通例題①の1粒子の分配関数は Z1(β)=1/(2sinh(βℏω/2)) である(第4部第4章。第1章でも場のモード1つとして使った)。相互作用しない同種粒子 N 個の分配関数を、基準の言葉で計算する。N 粒子の状態空間は HN±=S^±H⊗N なので、トレースは射影 S^± を挟んで
ZN±(β)=TrH⊗N(S^±e−βH^)=N!1σ∑(±1)σTr(P^σe−βh⊗⋯⊗e−βh)(6.2.25)
と書ける。H^=∑kh(k) なので e−βH^ は e−βh の N 個のテンソル積で、置換と交換する。
補題 6.2.5(巡回のトレース)
ℓ 文字の巡回置換 γ(1→2→⋯→ℓ→1)について、Tr(P^γA⊗⋯⊗A)=Tr(Aℓ) である(A は ℓ 個)。
証明
基底で書くと Tr(P^γA⊗ℓ)=∑i1,…,iℓAi2i1Ai3i2⋯Ai1iℓ で、添字が輪になってつながっているので Tr(Aℓ) である。
置換は互いに交わらない巡回の積に一意に分かれ、トレースは巡回ごとの積になる。N=2 では恒等置換(長さ1の巡回が2つ)と互換(長さ2の巡回が1つ)なので、Tre−2βh=Z1(2β) を使って
Z2±(β)=21[Z1(β)2±Z1(2β)](6.2.26)
を得る。第1項は区別できる粒子の分配関数を 2! で割ったもの(古典統計で Gibbs が入れた 1/N! と同じ因子)で、第2項が交換の効果である。互換の項は「2つの粒子が同じ状態を同時にたどる」寄与を数え、Z1(2β) は温度が半分の1粒子の分配関数になる。
Fock 空間の言葉:占有数の和
Fock 空間では、状態は占有数の組 {nk} で指定され((6.2.11))、H^=∑kεka^k†a^k(εk=ℏω(k+21))はこの基底で対角なので、トレースは ∑knk=N を満たす組の和である。2粒子では、ボース粒子は準位 k1≤k2 の組、フェルミ粒子は k1<k2 の組を数える。q=e−βℏω とおくと e−βεk=qk+1/2 なので
Z2+Z2−=0≤k1≤k2∑qk1+k2+1=(1−q)2(1+q)q,=0≤k1<k2∑qk1+k2+1=(1−q)2(1+q)q2
である(k2=k1+j とおいて j と k1 について等比級数を足す)。一方 (6.2.26) に Z1(β)=q1/2/(1−q)、Z1(2β)=q/(1−q2) を入れると
21[(1−q)2q±(1−q)(1+q)q]=2q⋅(1−q)2(1+q)(1+q)±(1−q)
で、上の2つの式と一致する。基準では「置換の和」、Fock 空間では「占有数の組の和」と、数え方はまったく違うが、同じ数になった。これは定理 6.2.3 のユニタリ U のもとで H^ が移り合うこと(定理 6.2.4)の、トレースという1つの数での現れである。
ボースとフェルミの差がちょうど ℏω であること
閉じた形を並べると Z2−=qZ2+ である。対数をとって β で微分すると、平均エネルギー ⟨E⟩=−∂βlnZ について
⟨E⟩−=⟨E⟩++ℏω(6.2.27)
がどの温度でも成り立つ。理由は占有数の側から見るとわかる。ボース粒子の組 (k1,k2)(k1≤k2)を (k1,k2+1) に移すと、フェルミ粒子の組(k1<k2+1)とちょうど1対1に対応し、エネルギーは ℏω だけ上がる。等間隔の準位を持つ1次元の調和振動子だけで成り立つ特別な関係で、2個のフェルミ粒子は「片方を1段上に持ち上げた2個のボース粒子」と同じスペクトルを持つ。
高温 kBT≫ℏω では、x=βℏω として ⟨E⟩+/ℏω=1+2q/(1−q)−q/(1+q)=2/x−21+125x+⋯ なので、
⟨E⟩±≈2kBT∓2ℏω,⟨E⟩Boltzmann≈2kBT
である(Boltzmann は Z12/2、つまり交換の項を落としたもの)。2つの自由度がそれぞれ等分配の kBT を持つ古典の値に、交換の効果が温度によらない大きさ ∓ℏω/2 で残る。kBT に比べた相対的な大きさは ℏω/kBT の程度で0に近づく。

図 6.2.2 調和ポテンシャルの中の同種粒子2個の平均エネルギー。青がボース粒子、赤がフェルミ粒子、点線が交換の項を落とした Boltzmann の計算 Z12/2、灰色の破線が古典の 2kBT。赤と青の差はどの温度でもちょうど ℏω で、低温では基底状態の ℏω(ボース)と 2ℏω(フェルミ)に近づく。座標は verify_ch6-02.py で計算した。
例題 6.2.5 2粒子の熱平衡を数で比べる ★★
オリジナル調和ポテンシャルの中の同種粒子2個(相互作用なし)について次に答えよ。
- (1) 基底状態のエネルギーを、ボース粒子とフェルミ粒子(スピンを考えない)について求めよ。N 個ではどうなるか。
- (2) kBT=ℏω での平均エネルギーを、ボース粒子・フェルミ粒子・Boltzmann の計算で求めよ。
- (3) (2) の Boltzmann の値が、ボースとフェルミの値の平均にならない理由を述べよ。
解答
(1) ボース粒子は2個とも最低の準位に入れるので 2⋅21ℏω=ℏω、フェルミ粒子は k=0,1 に1個ずつで 21ℏω+23ℏω=2ℏω である。Z2± の展開の最低次の項 q と q2 がこれに当たる。N 個ではボース粒子 Nℏω/2、フェルミ粒子は下から N 個の準位を埋めて∑k=0N−1ℏω(k+21)=N2ℏω/2 になる。
(2) q=e−1 で、ボース粒子は ⟨E⟩+/ℏω=1+2q/(1−q)−q/(1+q) に値を入れて
⟨E⟩+=1.895ℏω,⟨E⟩−=⟨E⟩++ℏω=2.895ℏω
である。Boltzmann の計算では ln(Z12/2) を微分して ⟨E⟩=2⋅2ℏωcoth2βℏω=ℏωcoth21=2.164ℏω になる。
(3) Z2±=ZB(1±r)(ZB=Z12/2、r=Z1(2β)/Z1(β)2)と書くと、lnZ2±=lnZB+ln(1±r) で、ボースとフェルミの平均エネルギーの平均は ⟨E⟩B−21∂βln(1−r2) で、ln(1+r)+ln(1−r)=ln(1−r2) が0でない分だけ Boltzmann の値からずれる。Z1(2β)=q/(1−q2)、Z1(β)2=q/(1−q)2 から r=(1−q)/(1+q)=tanh(βℏω/2) で、kBT=ℏω では r=0.462 と大きく、r2 の項が無視できない。実際、2つの値の平均は 2.395ℏω で、Boltzmann の 2.164ℏω と違う。交換の補正は r が小さい高温でだけ ± について対称になり、そのとき平均が Boltzmann の値に近づく。
この節の Fock 空間の側の計算は、粒子数を決めた(カノニカルな)和である。粒子数を固定しない和にすると占有数がモードごとに独立になり、Bose 分布と Fermi 分布が出る。それは 第6部第5章で扱う。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com