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拡散過程の前向きと後ろ向き

2026年10月17日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第7部 第5章 確率過程量子化:Nelson の拡散から Schrödinger 方程式へ
目次
  1. 前向きのドリフトと Fokker–Planck 方程式
  2. 後ろ向きのドリフト
  3. 浸透速度と流れの速度
  4. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第7部 第5章 §7.5.1 ★★ Nelson の構成に要る道具だけを最短でそろえる。後ろ向きのドリフトと浸透速度が、この章の新しい対象である

第7部第1章では、波動関数を極形式 ψ=ρ eiS/ℏ\psi=\sqrt\rho\,\mathrm{e}^{\mathrm{i} S/\hbar} に書き、Schrödinger 方程式を密度 ρ\rho と速度場 v=∇S/m\bm{v}=\nabla S/m の流体の方程式に書き直した(第7部第1章)。第7部第4章では、その流れの流線を粒子の軌道と読んだ(第7部第4章)。この章では同じ流体を、まったく別の向きから組み立てる。出発点に置くのは波動関数でなく、粒子の位置が拡散過程に従うという仮定である。I. Fényes(1952)が最初にこの方向を試み、E. Nelson(1966)が完成させた。Nelson は、拡散係数を ν=ℏ/(2m)\nu=\hbar/(2m) に取った Markov の拡散過程について、前向きと後ろ向きの2つの平均の加速度を対称に組み合わせたものが Newton の法則 ma=−∇Vm\bm{a}=-\nabla V に従うと要請すると、Schrödinger 方程式が出てくることを示した。この構成を確率過程量子化(stochastic mechanics、確率力学とも呼ぶ)という。

部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は第7部の中で「拡散過程」という対象についての一巡りを受け持つ。第1節で拡散過程の道具(前向きと後ろ向きのドリフト・浸透速度・流れの速度)を最小限そろえる。第2節で Nelson の要請を置き、平均の加速度の Newton の法則から第7部第1章の Madelung 方程式を導いて、基準との同値性を両向きに示す。第3節で共通例題①③を拡散で解く。調和振動子の基準状態は Ornstein–Uhlenbeck 過程になる。第4節では、第7部第1章から回ってきた問題、つまり熱平衡の状態を扱い、混合状態が1つの Nelson の過程に書けないことを証明する。第5節では、名前の似た Parisi–Wu の確率過程量子化がこの章の構成とは別物であることを、両方の式を並べてはっきりさせる。第6節の橋で、基準・流体・Bohm の軌道・虚時間の経路積分・古典の Brown 運動とのつながりを式で示す。多時刻の相関の食い違いと Feynman–Kac の公式は第7部第6章(第7部第6章)で扱う。

拡散過程と確率微分方程式の測度論的な基礎は、基礎理論の棚『確率論入門』第14章(確率過程とマルコフ連鎖)の先にある。この章では Brown 運動の増分の平均と分散だけを使い、確率積分の厳密な定義には立ち入らない。

前向きのドリフトと Fokker–Planck 方程式

1次元で書く(多次元は成分ごとに同じで、違いが出る所だけ第2節で断る)。粒子の位置 X(t)X(t) が、確率微分方程式

dX=b(X,t) dt+dW,⟨dW⟩=0,⟨dW2⟩=2ν dt(7.5.1)\mathrm{d} X=b(X,t)\,\mathrm{d} t+\mathrm{d} W,\qquad \langle \mathrm{d} W \rangle =0,\quad \langle \mathrm{d} W^2 \rangle =2\nu\,\mathrm{d} t\tag{7.5.1}

に従うとする。W(t)W(t) は分散が 2νt2\nu t で増える Brown 運動(Wiener 過程)で、異なる時間区間の増分は独立である。ν\nu を拡散係数、bb を前向きのドリフトという。(7.5.1) は「今の位置 X(t)=xX(t)=x を知ったとき、少し先の変位の平均は b(x,t)Δtb(x,t)\Delta t、分散は 2νΔt2\nu\Delta t」と読む。したがって

b(x,t)=lim⁡Δt→+01Δt E[X(t+Δt)−X(t)∣X(t)=x](7.5.2)b(x,t)=\lim_{\Delta t\to+0}\frac{1}{\Delta t}\,\mathrm E\bigl[X(t+\Delta t)-X(t)\bigm| X(t)=x\bigr]\tag{7.5.2}

である(E[ ⋅∣⋅ ]\mathrm E[\,\cdot\mid\cdot\,] は条件付き期待値)。

関数 f(x,t)f(x,t) を過程に沿って見る。ΔX=X(t+Δt)−X(t)\Delta X=X(t+\Delta t)-X(t) として Taylor 展開するとf(X+ΔX,t+Δt)−f(X,t)=∂tf Δt+f′ΔX+12f′′ΔX2+⋯f(X+\Delta X,t+\Delta t)-f(X,t)=\partial_tf\,\Delta t+f'\Delta X+\tfrac12f''\Delta X^2+\cdots で、条件付き期待値を取るとE[ΔX]=bΔt\mathrm E[\Delta X]=b\Delta t、E[ΔX2]=2νΔt+O(Δt2)\mathrm E[\Delta X^2]=2\nu\Delta t+\mathcal{O}(\Delta t^2) なので、前向きの平均微分

Df(x,t)≔lim⁡Δt→+0E[f(X(t+Δt),t+Δt)−f(X(t),t)∣X(t)=x]Δt=(∂t+b ∂x+ν ∂x2)f(7.5.3)\mathrm Df(x,t)\coloneqq\lim_{\Delta t\to+0}\frac{\mathrm E[f(X(t+\Delta t),t+\Delta t)-f(X(t),t)\mid X(t)=x]}{\Delta t}=\Bigl(\partial_t+b\,\partial_x+\nu\,\partial_x^2\Bigr)f\tag{7.5.3}

を得る。2階微分の項は、変位の2乗の平均が Δt\Delta t の1次であること(Brown 運動の道筋が微分できないこと)の表れで、通常の微分の連鎖律には無い項である。

X(t)X(t) の確率密度を ρ(x,t)\rho(x,t) とする。ff が tt によらないとき ddtE[f(X)]=E[Df]=∫ρ (bf′+νf′′) dx\frac{\mathrm{d} }{\mathrm{d} t}\mathrm E[f(X)]=\mathrm E[\mathrm Df]=\int\rho\,(bf'+\nu f'')\,\mathrm{d} x で、部分積分して左辺 ∫∂tρ f dx\int\partial_t\rho\,f\,\mathrm{d} x と比べると、すべての ff について等しいことから

∂tρ=−∂x(bρ)+ν ∂x2ρ(7.5.4)\partial_t\rho=-\partial_x(b\rho)+\nu\,\partial_x^2\rho\tag{7.5.4}

が出る。これが Fokker–Planck 方程式である。第1項はドリフトによる運搬、第2項は拡散による広がりを表す。

後ろ向きのドリフト

(7.5.2) は「今を知って未来を平均する」量だった。時間を逆に見て「今を知って過去を平均する」と、別のドリフトが定まる。

b∗(x,t)≔lim⁡Δt→+01Δt E[X(t)−X(t−Δt)∣X(t)=x](7.5.5)b_*(x,t)\coloneqq\lim_{\Delta t\to+0}\frac{1}{\Delta t}\,\mathrm E\bigl[X(t)-X(t-\Delta t)\bigm| X(t)=x\bigr]\tag{7.5.5}

を後ろ向きのドリフトという。Brown 運動そのもの(b=0b=0)でも b∗b_* は 00 でない。原点から出た粒子が今 x>0x>0 にいると分かれば、少し前には原点の側にいた見込みが高く、過去から今への変位の平均は正になる。次の命題がこの差を定量化する。

命題 7.5.1(後ろ向きのドリフトの公式 ★★★)

ρ\rho が正で滑らかなら

b∗=b−2ν ∂xln⁡ρ.(7.5.6)b_*=b-2\nu\,\partial_x\ln\rho .\tag{7.5.6}

証明

滑らかで台が有界な任意の関数 g(x)g(x) について、E[(X(t)−X(t−Δt)) g(X(t))]\mathrm E[(X(t)-X(t-\Delta t))\,g(X(t))] を2通りに計算する。定義 (7.5.5) から、これは Δt E[b∗(X(t),t) g(X(t))]+o(Δt)\Delta t\,\mathrm E[b_*(X(t),t)\,g(X(t))]+ o(\Delta t) である。一方、X′=X(t−Δt)X'=X(t-\Delta t)、ΔX=X(t)−X′\Delta X=X(t)-X' と書いて g(X(t))=g(X′)+g′(X′)ΔX+O(ΔX2)g(X(t))=g(X')+g'(X')\Delta X+\mathcal{O}(\Delta X^2) と展開すると

E[ΔX g(X(t))]=E[ΔX g(X′)]+E[g′(X′)ΔX2]+o(Δt)=Δt E[b g]+2νΔt E[g′]+o(Δt).\mathrm E[\Delta X\,g(X(t))]=\mathrm E[\Delta X\,g(X')]+\mathrm E[g'(X')\Delta X^2]+ o(\Delta t) =\Delta t\,\mathrm E[b\,g]+2\nu\Delta t\,\mathrm E[g']+ o(\Delta t).

第1項は時刻 t−Δtt-\Delta t から前向きに見た変位なので (7.5.2) が使え、第2項は E[ΔX2∣X′]=2νΔt\mathrm E[\Delta X^2\mid X']=2\nu\Delta t を使った。E[g′]=∫ρg′ dx=−∫g ∂xρ dx=−E[g ∂xln⁡ρ]\mathrm E[g']=\int\rho g'\,\mathrm{d} x=-\int g\,\partial_x\rho\,\mathrm{d} x=-\mathrm E[g\,\partial_x\ln\rho] なので、2つを比べてE[(b∗−b+2ν∂xln⁡ρ) g]=0\mathrm E[(b_*-b+2\nu\partial_x\ln\rho)\,g]=0 がすべての gg で成り立ち、(7.5.6) が従う。

浸透速度と流れの速度

前向きと後ろ向きのドリフトの半差と半和に名前を付ける。

u≔b−b∗2=ν ∂xln⁡ρ,v≔b+b∗2,b=v+u,b∗=v−u.(7.5.7)u\coloneqq\frac{b-b_*}{2}=\nu\,\partial_x\ln\rho,\qquad v\coloneqq\frac{b+b_*}{2},\qquad b=v+u,\quad b_*=v-u .\tag{7.5.7}

uu を浸透速度(osmotic velocity)、vv を流れの速度(current velocity)という。uu は密度の対数の勾配だけで決まり、密度の高い方を向く。拡散は粒子を密度の低い方へ押し出すが、前向きのドリフトにはその分を打ち消す成分 uu が含まれていて、差し引きの正味の流れが vv である。実際、(7.5.4) に b=v+ub=v+u を入れると uρ=ν∂xρu\rho=\nu\partial_x\rho により拡散項がちょうど消え、

∂tρ+∂x(ρv)=0(7.5.8)\partial_t\rho+\partial_x(\rho v)=0\tag{7.5.8}

という連続の式になる。vv は確率の流れを密度で割った速度で、第7部第1章の速度場と同じ役を持つ。uu の記号は第7部第4章の弱値の虚部(第7部第4章)と同じで、ν=ℏ/(2m)\nu=\hbar/(2m) のとき両者は一致する(第6節)。

例題 7.5.1 原点から出た Brown 運動の後ろ向きのドリフト ★★

オリジナルb=0b=0、X(0)=0X(0)=0 の Brown 運動(拡散係数 ν\nu)について、次を求めよ。

  1. 時刻 t>0t>0 の密度 ρ(x,t)\rho(x,t) と、後ろ向きのドリフト b∗b_*・浸透速度 uu・流れの速度 vv。
  2. 定義 (7.5.5) の条件付き期待値を直接計算し、(1) の b∗b_* と一致することを確かめよ。
  3. 電子の質量で ν=ℏ/(2me)\nu=\hbar/(2m_{\mathrm e}) と、水中の半径 1 μm1\,\mu\mathrm m のコロイド粒子の拡散係数(Einstein–Stokes、298 K298\,\mathrm K、粘度 0.89 mPa s0.89\,\mathrm{mPa\,s})を比べよ。
解答

(1) ρ=e−x2/(4νt)/4πνt\rho=\mathrm{e}^{-x^2/(4\nu t)}/\sqrt{4\pi\nu t}(分散 2νt2\nu t)。∂xln⁡ρ=−x/(2νt)\partial_x\ln\rho=-x/(2\nu t) なので (7.5.6) から

b∗=0−2ν⋅(−x2νt)=xt,u=−x2t,v=x2t.b_*=0-2\nu\cdot\Bigl(-\frac{x}{2\nu t}\Bigr)=\frac{x}{t},\qquad u=-\frac{x}{2t},\qquad v=\frac{x}{2t}.

流れの速度は外向きで、v=x ∂tln⁡2νtv=x\,\partial_t\ln\sqrt{2\nu t} と書けるので、ガウス分布の幅 2νt\sqrt{2\nu t} の膨らみに合わせて各点が相似に運ばれる流れである。連続の式 (7.5.8) も直接確かめられる。

(2) X(t−Δt)X(t-\Delta t) と X(t)X(t) は平均 00 の2変数ガウス分布で、共分散は 2ν(t−Δt)2\nu(t-\Delta t)、X(t)X(t) の分散は 2νt2\nu t なのでE[X(t−Δt)∣X(t)=x]=x(t−Δt)/t\mathrm E[X(t-\Delta t)\mid X(t)=x]=x(t-\Delta t)/t。よって E[X(t)−X(t−Δt)∣X(t)=x]=xΔt/t\mathrm E[X(t)-X(t-\Delta t)\mid X(t)=x]=x\Delta t/t で、b∗=x/tb_*=x/t が (1) と一致する。

(3) νe=ℏ/(2me)=5.79×10−5 m2/s\nu_{\mathrm e}=\hbar/(2m_{\mathrm e})=5.79\times10^{-5}\,\mathrm{m^2/s}。コロイドは D=kBT/(6πηa)=2.45×10−13 m2/sD= k_{\mathrm B} T/(6\pi\eta a)=2.45\times10^{-13}\,\mathrm{m^2/s} で、電子の ν\nu はおよそ 2.4×1082.4\times10^8 倍大きい。ℏ/(2m)\hbar/(2m) は質量に反比例するので、Nelson の拡散は軽い粒子ほど激しい。

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