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出発点:束の上の状態と frame function

2026年10月17日11分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第9部 第2章 Gleason の定理:射影の上の確率は密度行列で決まる
目次
  1. 状態は1次元の射影の値で決まる
  2. 非文脈性:同じ命題は、どの基底に入れても同じ確率
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第9部 第2章 §9.2.1 ★★★ 束の上の状態を、単位ベクトルの上の関数で「どの正規直交基底でも和が一定」という条件に言い直す。Gleason の定理が答える問いの形

前の 第9部第1章 では、命題(yes–no の問い)の全体を閉部分空間の束 L(H)\mathcal L(\mathcal{H}) として組み、状態を「互いに直交する命題について加法的な、L(H)\mathcal L(\mathcal{H}) の上の確率の割り当て μ\mu」と定義した。密度行列 ρ^\hat\rho から作る μ(P^)=Tr⁡(ρ^P^)\mu(\hat P)=\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P) がその一例であることも確かめた。この章は逆向きを扱う。束の上の状態は、ほかにどんな形がありうるか。答えは Gleason の定理で与えられる(A. M. Gleason (1957), Journal of Mathematics and Mechanics 6, 885–893)。ヒルベルト空間の次元が3以上なら、束の上の状態はすべて Tr⁡(ρ^P^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P) の形をしている。第9部の型(出発点の要請 → 基本の対象 → 基準との同値 → 共通例題 → 得意な問題 → 限界)のうち、この章は「基準との同値」の前半、すなわち命題の確率から密度行列と Born の規則を導く部分を受け持つ。

この結果の意味を先に書いておく。第1部の基準(第1部第2章)は、確率を与える Born の規則 ∣⟨a∣ψ⟩∣2\lvert \langle a | \psi \rangle \rvert ^2 を公理 Q3 として置いた。第4部(第4部第1章)は状態を密度行列と決めた。Gleason の定理のもとでは、どちらも公理として置く必要がない。命題が閉部分空間で表されること(第9部第1章の出発点)と、「同時に測れる直交する命題の確率は足し算になる」という要請だけで、確率の形は Tr⁡(ρ^P^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P) に決まる。ただし、この要請の中には「命題 P^\hat P の確率は、P^\hat P をどの測定の一部として測っても同じ」という仮定(非文脈性)が入っている。この仮定の意味は次の 第9部第3章 で Kochen–Specker の定理として調べる。

章の組み立ては次のとおりである。9.2.1節で問題を frame function という関数の問題に言い直し、9.2.2節で定理を述べて帰結を3つ引き出す。9.2.3節と 9.2.4節が証明で、前者は「連続な frame function は2次形式である」ことを球面調和関数で完全に証明し、後者は「非負なら連続である」という Gleason の議論の中心と、複素の場合への持ち上げの筋道を述べる。9.2.5節で2次元で定理が破れる理由を見て、確率を射影でなく効果(POVM の要素)に割り当てれば2次元でも同じ結論が出ること(Busch の定理)を証明する。9.2.6節が橋の節で、共通例題②の Rabi 振動の状態を確率の割り当てから組み直す。

状態は1次元の射影の値で決まる

第9部第1章の定義を思い出す。L(H)\mathcal L(\mathcal{H}) の上の状態とは、関数 μ:L(H)→[0,1]\mu:\mathcal L(\mathcal{H})\to[0,1] で、μ(0)=0\mu(0)=0、μ(1^)=1\mu(\hat 1)=1、互いに直交する射影の列 P^1,P^2,…\hat P_1,\hat P_2,\dots について

μ(∑kP^k)=∑kμ(P^k)(9.2.1)\mu\Bigl(\sum_k\hat P_k\Bigr)=\sum_k\mu(\hat P_k)\tag{9.2.1}

を満たすものである(互いに直交する射影の結びは和 ∑kP^k\sum_k\hat P_k になる)。この章では H\mathcal{H} は可分とし、列は有限か可算とする。

状態 μ\mu は、1次元の射影の上の値で決まってしまう。閉部分空間 MM の正規直交基底 {∣xk⟩}\{| x_k \rangle \} をとると、MM への射影は P^M=∑k∣xk⟩⟨xk∣\hat P_M=\sum_k| x_k \rangle \langle x_k | と互いに直交する1次元の射影の和に分かれ、加法性 (9.2.1) から μ(P^M)=∑kμ(∣xk⟩⟨xk∣)\mu(\hat P_M)=\sum_k\mu(| x_k \rangle \langle x_k |) となるからである。そこで単位ベクトル ∣x⟩| x \rangle に

f(x)≔μ(∣x⟩⟨x∣)(9.2.2)f(x)\coloneqq\mu\bigl(| x \rangle \langle x |\bigr)\tag{9.2.2}

を対応させる。ff は ∣x⟩| x \rangle の全体の位相 eiα\mathrm{e}^{\mathrm{i}\alpha} によらない(射影 ∣x⟩⟨x∣| x \rangle \langle x | が変わらない)。1^\hat 1 を正規直交基底 {∣ei⟩}\{| e_i \rangle \} で分ければ ∑if(ei)=μ(1^)=1\sum_i f(e_i)=\mu(\hat 1)=1 がどの基底でも成り立つ。逆に、この性質を持つ非負の関数 ff があれば、μ(P^M)≔∑kf(xk)\mu(\hat P_M)\coloneqq\sum_kf(x_k) で状態が作れる(基底の取り方によらないことは、MM の基底 {xk}\{x_k\} を M⊥M^\perp の基底で補って H\mathcal{H} の基底にし、和が1になることを MM の2つの基底について比べればわかる)。この関数の性質に名前を付ける。

定義 9.2.1(frame function(Gleason 1957))

H\mathcal{H} の単位ベクトルの全体 S(H)S(\mathcal{H}) の上の実数値関数 ff が、ある定数 WW について、H\mathcal{H} のどの正規直交基底 {∣ei⟩}\{| e_i \rangle \} でも

∑if(ei)=W(9.2.3)\sum_if(e_i)=W\tag{9.2.3}

を満たすとき、ff を重み WW の frame function と呼ぶ(正規直交基底を frame と呼ぶことによる名前)。ある有界な自己共役演算子 T^\hat T で f(x)=⟨x∣T^∣x⟩f(x)=\langle x | \hat T | x \rangle と書けるとき、ff は正則であるという。

frame function は、基底のベクトルの位相を変えた基底にも (9.2.3) が成り立つので、f(eiαx)=f(x)f(\mathrm{e}^{\mathrm{i}\alpha}x)=f(x) を自動的に満たす。実ヒルベルト空間 Rn\mathbb{R}^n では、{e1,e2,… }\{e_1,e_2,\dots\} と {−e1,e2,… }\{-e_1,e_2,\dots\} がどちらも基底なので、2つの和の差から f(−e1)=f(e1)f(-e_1)=f(e_1) が出る。いずれの場合も、ff は単位ベクトルの関数というより、ベクトルの張る直線(射線)の関数である。ここまでの言い直しをまとめると、次のとおりである。

問題の言い直し

L(H)\mathcal L(\mathcal{H}) の上の状態 μ\mu と、重み 11 の非負の frame function ff は、f(x)=μ(∣x⟩⟨x∣)f(x)=\mu(| x \rangle \langle x |) で1対1に対応する。状態がすべて Tr⁡(ρ^P^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P) の形であることは、「重み 11 の非負の frame function はすべて f(x)=⟨x∣ρ^∣x⟩f(x)=\langle x | \hat\rho | x \rangle の形(正則)である」ことと同じである。

非文脈性:同じ命題は、どの基底に入れても同じ確率

条件 (9.2.3) の中に入っている物理の仮定を取り出しておく。C3\mathbb{C}^3 で、単位ベクトル ∣e3⟩| e_3 \rangle を含む2つの基底 {e1,e2,e3}\{e_1,e_2,e_3\} と {u,u′,e3}\{u,u',e_3\} を考える(図 9.2.1)。1つ目の基底は、ある物理量 A^=∑iai∣ei⟩⟨ei∣\hat A=\sum_ia_i| e_i \rangle \langle e_i | の固有基底で、2つ目は別の物理量 B^\hat B の固有基底である。A^\hat A と B^\hat B は一般に交換せず、同時に測ることはできない。それでも (9.2.2) は、「A^\hat A を測って e3e_3 の結果を得る確率」と「B^\hat B を測って e3e_3 の結果を得る確率」を同じ1つの値 f(e3)f(e_3) にしている。命題 ∣e3⟩⟨e3∣| e_3 \rangle \langle e_3 | の確率が、それと一緒に測るほかの命題(文脈)によらないというこの仮定を非文脈性と呼ぶ。基準の量子力学は Tr⁡(ρ^∣e3⟩⟨e3∣)\operatorname{Tr}(\hat\rho| e_3 \rangle \langle e_3 |) が基底によらないので非文脈性を満たす。Gleason の定理は、非文脈性と加法性だけで確率の形が決まってしまうことを言う。

図

図 9.2.1 e3e_3 を共有する2つの基底。e3e_3 の確率 f(e3)f(e_3) は、どちらの基底の測定で問うても同じ値とする(非文脈性)。e3e_3 に直交する大円(楕円で描いた赤道)の上で f(u)+f(u′)=f(e1)+f(e2)=W−f(e3)f(u)+f(u')=f(e_1)+f(e_2)=W-f(e_3) が成り立つ。3次元以上ではどのベクトルも無数の基底に入り、これらの関係が互いに絡み合う。

図 9.2.1 の状況から、frame function の値の間には「e3e_3 に直交する平面の中の2本の直交するベクトルの値の和は、平面の取り方によらず W−f(e3)W-f(e_3)」という関係が出る。3次元以上では、1本のベクトル uu は無数の基底に属する(uu に直交する平面の中で残りのベクトルを回せる)。だから (9.2.3) は、たくさんの基底の間で値を互いに縛り合う連立の条件になる。2次元ではこの絡み合いが無い。C2\mathbb{C}^2 の単位ベクトル xx に直交する射線は1本しかなく、基底は互いに交わらない2本組に分かれるからである。この違いが 9.2.5節の主題になる。

例題 9.2.1 3準位系の frame function を2つの基底で比べる ★★

オリジナル3準位系の状態を ρ^=diag⁡(12,13,16)\hat\rho=\operatorname{diag}(\frac12,\frac13,\frac16)(基底 e1,e2,e3e_1,e_2,e_3)とし、f(x)=⟨x∣ρ^∣x⟩f(x)=\langle x | \hat\rho | x \rangle とする。

  1. (1) f(e1),f(e2),f(e3)f(e_1),f(e_2),f(e_3) を求め、和を確かめよ。
  2. (2) u=(e1+e2)/2u=(e_1+e_2)/\sqrt2, u′=(e1−e2)/2u'=(e_1-e_2)/\sqrt2 について f(u),f(u′)f(u),f(u') を求め、{u,u′,e3}\{u,u',e_3\} でも和が 11 になることを確かめよ。
  3. (3) w=(e1+e2+e3)/3w=(e_1+e_2+e_3)/\sqrt3 での値を求め、ww を含む基底でも和が 11 になる理由を述べよ。
解答

(1) 対角成分を読んで f(e1)=12f(e_1)=\frac12, f(e2)=13f(e_2)=\frac13, f(e3)=16f(e_3)=\frac16。和は 11。

(2) f(u)=12(ρ11+ρ22+ρ12+ρ21)=12(12+13)=512f(u)=\frac12\bigl(\rho_{11}+\rho_{22}+\rho_{12}+\rho_{21}\bigr)=\frac12\bigl(\frac12+\frac13\bigr)=\frac{5}{12}、f(u′)=12(ρ11+ρ22−ρ12−ρ21)=512f(u')=\frac12\bigl(\rho_{11}+\rho_{22}-\rho_{12}-\rho_{21}\bigr)=\frac{5}{12}。和は 56\frac56 で f(e1)+f(e2)f(e_1)+f(e_2) に等しく、e3e_3 を足せば 11 になる。e3e_3 に直交する平面の中で基底を回しても、平面の中の2つの値の和は 1−f(e3)=561-f(e_3)=\frac56 のまま変わらない。

(3) f(w)=13∑i,jρij=13(12+13+16)=13f(w)=\frac13\sum_{i,j}\rho_{ij}=\frac13\bigl(\frac12+\frac13+\frac16\bigr)=\frac13。ww を含む任意の基底 {w,w′,w′′}\{w,w',w''\} で和が 11 になるのは、∑k⟨xk∣ρ^∣xk⟩=Tr⁡ρ^\sum_k\langle x_k | \hat\rho | x_k \rangle =\operatorname{Tr}\hat\rho がトレースの基底によらない値だからである。2次形式 ⟨x∣ρ^∣x⟩\langle x | \hat\rho | x \rangle はどの基底でも和が Tr⁡ρ^\operatorname{Tr}\hat\rho になるので、自動的に frame function である。Gleason の定理は、この逆がほぼ成り立つことを言う。

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