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2次元で破れる理由と、効果による回復(Busch の定理)

2026年10月17日10分で読めますAI生成教科書『虎の巻』第9部 第2章 Gleason の定理:射影の上の確率は密度行列で決まる
目次
  1. 2次元の frame function は何でもよい
  2. 効果の上の確率
  3. 木下の層

AI 生成・木下が未勉強

量子力学の様々な構成方法 第9部 第2章 §9.2.5 ★★★ 量子ビットでは射影の上の確率が Tr⁡(ρ^P^)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P) の形に決まらない。確率を効果(POVM の要素)に割り当てれば2次元でも密度行列が出る

2次元の frame function は何でもよい

H=C2\mathcal{H}=\mathbb{C}^2 では、1次元の射影は Bloch 球の上の単位ベクトル n\bm{n} で P^n=12(1^+n⋅σ)\hat P_{\bm{n}}=\frac12(\hat 1+\bm{n}\cdot\bm{\sigma}) と表され、P^n\hat P_{\bm{n}} に直交する射影は P^−n\hat P_{-\bm{n}} ただ1つである。基底は {P^n,P^−n}\{\hat P_{\bm{n}},\hat P_{-\bm{n}}\} の2本組しかなく、frame の条件は

f(n)+f(−n)=1(9.2.10)f(\bm{n})+f(-\bm{n})=1\tag{9.2.10}

だけになる。この条件は、球面を「上半分」と「下半分」に分けて、上半分で [0,1][0,1] の値を勝手に決め、下半分を 1−f1-f で埋めれば満たすことができる。別々の基底の間に関係が無いからである。密度行列から作る状態は Tr⁡(ρ^P^n)=12(1+r⋅n)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P_{\bm{n}})=\frac12(1+\bm{r}\cdot\bm{n})(r\bm{r} は Bloch ベクトル)で、n\bm{n} の1次関数である。(9.2.10) を満たす関数の大部分はこの形をしていない。たとえば

f3(n)=12+12nz3,f01(n)={1(nz>0)0(nz<0)(9.2.11)f_3(\bm{n})=\frac12+\frac12n_z^3,\qquad f_{01}(\bm{n})=\begin{cases}1&(n_z>0)\\0&(n_z<0)\end{cases}\tag{9.2.11}

はどちらも (9.2.10) を満たし、値は [0,1][0,1] に入る(f01f_{01} は赤道の上で n\bm{n} と −n-\bm{n} の片方に 11 を割り当てる)。f3f_3 は nzn_z の3次式なので1次関数ではなく、f01f_{01} は分散のない状態である。図 9.2.3 に3つの割り当てを極角 θ\theta(nz=cos⁡θn_z=\cos\theta)の関数として描いた。

図

図 9.2.3 量子ビットの射影 P^n\hat P_{\bm{n}} への確率の割り当て3つ(n\bm{n} は極角 θ\theta、方位角によらないものを描いた)。点線は密度行列 ρ^=12(1^+σz)\hat\rho=\frac12(\hat 1+\sigma_z) が与える Tr⁡(ρ^P^n)\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat P_{\bm{n}})。実線と破線も f(θ)+f(π−θ)=1f(\theta)+f(\pi-\theta)=1 を満たすので、射影だけを見る限り状態として認められてしまう。

2次元で定理が破れる理由は、前の節の証明のどこで3次元を使ったかを見ればわかる。(9.2.7) は「nn を固定して、残りの2本を nn に直交する平面の中で回す」ことで得た。2次元では nn を固定すると残りの1本も決まってしまい、回す自由度が無い。frame の条件が値どうしを縛り合うには、1本のベクトルが少なくとも2つの異なる基底に入る必要があり、それには3次元が要る。

物理の量子ビットでは、射影だけでなく、それより一般の測定もできる。そこで確率を割り当てる対象を広げると、2次元でも絡み合いが戻ってくる。

効果の上の確率

測定の結果の確率を与える演算子として、射影より一般の効果(0≤E^≤1^0\le\hat E\le\hat 1 を満たす自己共役演算子)を考える。結果 kk の効果 E^k\hat E_k の組で ∑kE^k=1^\sum_k\hat E_k=\hat 1 を満たすものが POVM(正値作用素値測度)で、第4部(第4部第5章)で Kraus 表示とともに扱う一般の測定に当たる。射影は E^2=E^\hat E^2=\hat E を満たす特別な効果である。

定義 9.2.6(効果の上の確率測度)

有限次元の H\mathcal{H} の効果の全体 E(H)\mathcal E(\mathcal{H}) の上の関数 ν:E(H)→[0,1]\nu:\mathcal E(\mathcal{H})\to[0,1] で、ν(1^)=1\nu(\hat 1)=1 と、和が効果になる効果の有限の組について

E^1+E^2+⋯+E^m≤1^ ⟹ ν(∑kE^k)=∑kν(E^k)(9.2.12)\hat E_1+\hat E_2+\dots+\hat E_m\le\hat 1\ \Longrightarrow\ \nu\Bigl(\sum_k\hat E_k\Bigr)=\sum_k\nu(\hat E_k)\tag{9.2.12}

を満たすものを、効果の上の確率測度と呼ぶ。

(9.2.12) は、効果の和を「粗い測定」と読むことによる。2つの結果 E^1,E^2\hat E_1,\hat E_2 を区別せずにまとめた結果の効果は E^1+E^2\hat E_1+\hat E_2 で、その確率は2つの確率の和であるべきである。これは非文脈性の効果版でもある。同じ効果 E^\hat E がどの POVM の要素として現れても、確率は ν(E^)\nu(\hat E) の1つに決まる、と要請しているからである。

定理 9.2.7(Busch の定理(2003)★★★)

有限次元の H\mathcal{H}(dim⁡H=2\dim\mathcal{H}=2 を含む)の効果の上の確率測度 ν\nu は、ある密度行列 ρ^\hat\rho でただ1通りに ν(E^)=Tr⁡(ρ^E^)\nu(\hat E)=\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat E) と書ける。

(P. Busch (2003), Physical Review Letters 91, 120403。証明は短く、次のとおりである。)

証明

(i) 有理数倍:効果 E^\hat E と正の整数 nn について、E^=E^/n+⋯+E^/n\hat E=\hat E/n+\dots+\hat E/n(nn 個)なので ν(E^)=n ν(E^/n)\nu(\hat E)=n\,\nu(\hat E/n)。したがって 0≤m≤n0\le m\le n の整数で ν(mnE^)=mnν(E^)\nu(\frac mn\hat E)=\frac mn\nu(\hat E)。

(ii) 単調性:E^≤F^\hat E\le\hat F なら F^=E^+(F^−E^)\hat F=\hat E+(\hat F-\hat E) で F^−E^\hat F-\hat E も効果なので、ν(F^)=ν(E^)+ν(F^−E^)≥ν(E^)\nu(\hat F)=\nu(\hat E)+\nu(\hat F-\hat E)\ge\nu(\hat E)。

(iii) 実数倍:λ∈[0,1]\lambda\in[0,1] を有理数 a≤λ≤ba\le\lambda\le b で挟むと、(ii) と (i) から aν(E^)≤ν(λE^)≤bν(E^)a\nu(\hat E)\le\nu(\lambda\hat E)\le b\nu(\hat E)。a,b→λa,b\to\lambda として ν(λE^)=λν(E^)\nu(\lambda\hat E)=\lambda\nu(\hat E)。

(iv) 正の演算子へ:A^≥0\hat A\ge0 に対し、c≥∥A^∥c\ge\lVert \hat A\rVert を選んで ν~(A^)≔c ν(A^/c)\tilde\nu(\hat A)\coloneqq c\,\nu(\hat A/c) と定める。(iii) から値は cc の選び方によらず、ν~\tilde\nu は正の演算子の上で足し算と正の実数倍を保つ。

(v) 自己共役演算子へ:自己共役な A^\hat A を A^=B^−C^\hat A=\hat B-\hat C(B^,C^≥0\hat B,\hat C\ge0)と分け、ν~(A^)≔ν~(B^)−ν~(C^)\tilde\nu(\hat A)\coloneqq\tilde\nu(\hat B)-\tilde\nu(\hat C) と定める。別の分け方 B^′−C^′\hat B'-\hat C' をとっても B^+C^′=B^′+C^\hat B+\hat C'=\hat B'+\hat C と (iv) の加法性から値は同じである。こうして ν~\tilde\nu は、自己共役演算子のなす実ベクトル空間の上の実線型汎関数になる。

(vi) Riesz の表現:自己共役演算子の空間には実内積 ⟨A^, B^⟩=Tr⁡(A^B^)\langle \hat A,\,\hat B\rangle =\operatorname{Tr}(\hat A\hat B) が入るので、有限次元の線型汎関数はある自己共役な ρ^\hat\rho で ν~(A^)=Tr⁡(ρ^A^)\tilde\nu(\hat A)=\operatorname{Tr}(\hat\rho\hat A) と書ける。ρ^≥0\hat\rho\ge0 は ⟨ψ∣ρ^∣ψ⟩=ν(∣ψ⟩⟨ψ∣)≥0\langle \psi | \hat\rho | \psi \rangle =\nu(| \psi \rangle \langle \psi |)\ge0 から、Tr⁡ρ^=1\operatorname{Tr}\hat\rho=1 は ν(1^)=1\nu(\hat 1)=1 から出る。一意性は内積が非退化であることによる。

証明の中で、2次元で破れていた「基底の間の絡み合い」を担っているのは (i) と (v) である。効果 12(P^z++P^x+)\frac12(\hat P_{z+}+\hat P_{x+}) は、P^z+\hat P_{z+} と P^x+\hat P_{x+} という別々の基底に属する2つの射影を足したもので、その確率を2通りに計算できるので、異なる基底の値の間に関係が付く。次の例題で、この結び付きが3乗の割り当て f3f_3 を排除する様子を見る。

例題 9.2.5 3乗の割り当ては効果の加法性と両立しない ★★★

オリジナル量子ビットの効果 E^=12(P^z++P^x+)\hat E=\frac12(\hat P_{z+}+\hat P_{x+}) を考える(P^z+=12(1^+σz)\hat P_{z+}=\frac12(\hat 1+\sigma_z), P^x+=12(1^+σx)\hat P_{x+}=\frac12(\hat 1+\sigma_x))。

  1. (1) E^\hat E の固有値と固有射影を求め、E^=λ+P^m+λ−P^−m\hat E=\lambda_+\hat P_{\bm{m}}+\lambda_-\hat P_{-\bm{m}} の形に書け。
  2. (2) 射影の上の割り当て f3f_3(式 (9.2.11))を、Busch の定理の証明 (i)(iii) の実数倍の規則と加法性で効果へ広げようとすると、ν(E^)\nu(\hat E) が2通りに計算できる。両方を求め、食い違うことを示せ。
  3. (3) 1次の割り当て f(n)=12(1+r⋅n)f(\bm{n})=\frac12(1+\bm{r}\cdot\bm{n}) では2通りの値が一致することを示せ。
解答

(1) E^=12(1^+12(σz+σx))=121^+122 m⋅σ\hat E=\frac12\bigl(\hat 1+\frac12(\sigma_z+\sigma_x)\bigr)=\frac12\hat 1+\frac{1}{2\sqrt2}\,\bm{m}\cdot\bm{\sigma}、m=(1,0,1)/2\bm{m}=(1,0,1)/\sqrt2。m⋅σ\bm{m}\cdot\bm{\sigma} の固有値は ±1\pm1 なので

λ±=12(1±12),E^=λ+P^m+λ−P^−m.\lambda_\pm=\frac12\Bigl(1\pm\frac{1}{\sqrt2}\Bigr),\qquad \hat E=\lambda_+\hat P_{\bm{m}}+\lambda_-\hat P_{-\bm{m}}.

(2) 1つ目の分け方 E^=12P^z++12P^x+\hat E=\frac12\hat P_{z+}+\frac12\hat P_{x+} では ν(E^)=12f3(ez)+12f3(ex)=12⋅1+12⋅12=34\nu(\hat E)=\frac12f_3(\bm{e}_z)+\frac12f_3(\bm{e}_x)=\frac12\cdot1+\frac12\cdot\frac12=\frac34。2つ目の分け方(固有分解)では f3(±m)=12±12(12)3=12±142f_3(\pm\bm{m})=\frac12\pm\frac12\bigl(\frac{1}{\sqrt2}\bigr)^3=\frac12\pm\frac{1}{4\sqrt2} なので

ν(E^)=λ+f3(m)+λ−f3(−m)=12(λ++λ−)+142(λ+−λ−)=12+142⋅12=58.\nu(\hat E)=\lambda_+f_3(\bm{m})+\lambda_-f_3(-\bm{m})=\frac12(\lambda_++\lambda_-)+\frac{1}{4\sqrt2}(\lambda_+-\lambda_-)=\frac12+\frac{1}{4\sqrt2}\cdot\frac{1}{\sqrt2}=\frac58 .

34≠58\frac34\neq\frac58 なので、f3f_3 は効果の上の確率測度に広げることができない。射影だけを見れば矛盾の無かった割り当てが、別々の基底の射影を足した効果を通して排除される。

(3) 1つ目は 12⋅12(1+rz)+12⋅12(1+rx)=12+14(rx+rz)\frac12\cdot\frac12(1+r_z)+\frac12\cdot\frac12(1+r_x)=\frac12+\frac14(r_x+r_z)。2つ目は 12+12(λ+−λ−) r⋅m=12+122⋅rx+rz2=12+14(rx+rz)\frac12+\frac12(\lambda_+-\lambda_-)\,\bm{r}\cdot\bm{m}=\frac12+\frac{1}{2\sqrt2}\cdot\frac{r_x+r_z}{\sqrt2}=\frac12+\frac14(r_x+r_z)。一致するのは、ff が n\bm{n} の1次関数なので、効果の足し算と n\bm{n} の線型な組み合わせが両立するからである。

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