量子力学の様々な構成方法 第9部 第2章 §9.2.4 ★★ Gleason の議論の中心(非負性から連続性を出す)と、実3次元の結果を一般のヒルベルト空間へ広げる筋道。証明は概略
非負性と大円の関係
定理 9.2.5 は連続性を仮定した。Gleason の定理の仮定は非負性だけで、連続性はそこから導かなければならない。導く道具は次の2つの関係で、どちらも frame の条件からすぐに出る。
- (a) 大円の上の関係:n を極とする大円の上の直交する2点 u,u⊥ では f(u)+f(u⊥)=W−f(n)。大円の上では f は「2次元の frame function」で、その重みは極の値で決まる。
- (b) 有界性:f≥0 なら、直交する2点で f(u)+f(v)≤W(3本目の値が非負)、とくに 0≤f≤W。
(a) だけなら、大円の上の値はかなり自由に選べる(9.2.5節で見るとおり、2次元の frame function は何の規則性も持たなくてよい)。しかし R3 の1点 x は、x を通る大円すべて(極が x に直交する大円の上を動く)に属するので、(a) の関係が無数の大円の間で絡み合う。Gleason は、北極 e3 で f がほぼ最大になるように球面を回し、(a) と (b) を有限回つないで、北極のまわりの小さな冠の中の f の振れ幅 supf−inff が、冠を小さくすると 0 に近づくことを示した。冠の中心を球面上のどこに置いても同じ議論ができるので、f は連続になり、定理 9.2.5 が使える。
Gleason の元の証明は、連続性を示した後に回転群の表現論(この章の 9.2.3節に当たる部分)を使う。表現論を使わずに初等的な幾何だけで同じ結論を出した証明は R. Cooke, M. Keane and W. Moran (1985), Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society 98, 117–128 にある。どちらの証明でも、非負性が使われるのは (b) の所だけである。非負性も有界性も外すと定理は成り立たない。R を Q 上のベクトル空間とみなして作る、加法的(ϕ(s+t)=ϕ(s)+ϕ(t))だが連続でない関数 ϕ を2次形式に合成した ϕ(xTAx) は、基底の和が ϕ(TrA) で一定なので frame function だが、有界でなく正則でもない。この場合でも、frame function が有界なら正則である(有界性は (b) の代わりに使える)。
複素ヒルベルト空間と高次元への持ち上げ
一般の H(dimH≥3)の非負の frame function f を考える。互いに直交する単位ベクトル e1,e2,e3 を選び、それらの実係数の結合
VR={a1e1+a2e2+a3e3:ai∈R}
を考える。VR は実3次元のヒルベルト空間で、その中で直交する2本のベクトルは H でも直交する(内積 ∑iaibi が実数で一致する)。VR の正規直交基底に、{e1,e2,e3} の張る複素部分空間の直交補空間の基底(固定)を足すと H の基底になるので、f を VR の単位球面に制限した関数は frame function で、重みは W から固定した部分の和を引いた値である。したがって VR の上で f は実の2次形式になる。
残る仕事は、こうして得られた無数の実の2次形式(e1,e2,e3 の選び方ごとに1つ)が、1つの自己共役演算子 T^ の ⟨x∣T^∣x⟩ にまとまることを示すことである。Gleason は、2次元の複素部分空間 spanC{e1,e2} の上で、e1 と eiαe2 の実係数の結合ごとに得られる2次形式が、複素のエルミート形式の制限として整合することを示し、これを全体に広げた。有限次元ではこれで T^ が得られる。無限次元(可分)では、T^ が有界でトレース族であることを、f≥0 と基底の和が W であることから示す。dimH=3 の実の場合が議論の出発点で、ほかの場合はすべてこれに帰着する。仮定 dimH≥3 は、VR を作るのに互いに直交する3本が要ることとして使われている。
例題 9.2.4 北極のまわりの冠の中での振れ幅 ★★
オリジナルR3 で f(x)=xTρ^x、ρ^=diag(21,31,61) とする(例題 9.2.1 と同じ状態)。
- (1) e3 を極とする大円の上で、関係 (a) f(u)+f(u⊥)=W−f(e3) を確かめよ。
- (2) e1 から角 δ だけ離れた単位ベクトル x=cosδe1+sinδv(v⊥e1 は単位ベクトル)について、f(e1)−f(x) の範囲を求めよ。
- (3) (2) から、e1 を中心とする角半径 δ の冠の中での振れ幅が O(δ2) であることを示し、関係 (b) の不等式 f(u)+f(v)≤1 で等号になる直交の組があるかを調べよ。
解答
(1) u=(cosφ,sinφ,0), u⊥=(−sinφ,cosφ,0) なら f(u)+f(u⊥)=21+31=65=1−61。φ によらない。
(2) v=(0,v2,v3) とすると f(x)=21cos2δ+sin2δ(31v22+61v32)。括弧の中は v22+v32=1 のもとで 61 以上 31 以下なので
6sin2δ≤f(e1)−f(x)≤3sin2δ.
(3) 冠の中で 0≤f(e1)−f(x)≤31sin2δ≤3δ2 なので、振れ幅は O(δ2) で 0 に近づく。e1 は f の最大点で、最大点のまわりで f が2次でしか減らないことが Gleason の議論で使う形である。(b) で等号になるのは、直交の組 u,v を補う3本目 w で f(w)=0 のときだけである。ρ^ は正定値(最小固有値 61)なので f≥61 で、等号になる組は無い。
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