量子力学の様々な構成方法 第9部 第2章 §9.2.3 ★★★ 実3次元の球面の上で、frame の条件が球面調和関数の ℓ=0,2 以外の成分をすべて消すことを示す。確率が「2乗」になる理由の数学的な中身
大円平均の作用素
Gleason の証明は、実3次元 R3 の場合が中心になる(複素の場合や高次元の場合は 9.2.4節で R3 に帰着させる)。この節では、R3 の単位球面 S2 の上の連続な frame function がすべて2次形式であることを証明する。
単位ベクトル n に対し、n に直交する大円(n を極とする赤道)の上の平均をとる作用素を
(Cg)(n):=2π1∫02πg(cosφu+sinφv)dφ(9.2.6)
と定める。u,v は n に直交する正規直交の2本で、平均は u,v の選び方によらない。
frame function f(重み W)に対して、n を含む基底 {n, u(φ), u(φ+2π)}(u(φ)=cosφu+sinφv)を考えると、すべての φ で f(n)+f(u(φ))+f(u(φ+2π))=W である。これを φ について平均すると、第2項と第3項はどちらも (Cf)(n) になるので
f(n)+2(Cf)(n)=W(すべての n∈S2)(9.2.7)
を得る。frame function の条件のうち、この章の証明で使うのはこの1つの式だけである。
C は次の2つの性質を持つ。第一に、回転と交換する:回転 R で gR(x)=g(R−1x) とおくと C(gR)=(Cg)R。n に直交する大円を R で回すと Rn に直交する大円になるからである。第二に、L2(S2) の内積について対称である:
∫S2h(n)(Cg)(n)dΩn=∫S2(Ch)(x)g(x)dΩx.(9.2.8)
左辺は「直交する2本の単位ベクトルの組 (n,x) を一様に選んだときの h(n)g(x) の平均」に 4π を掛けたもので、この一様な分布は n と x を入れ替えても変わらないからである。
球面調和関数の上では Pℓ(0) 倍
S2 の上の2乗可積分な関数は、球面調和関数の空間 Yℓ(ℓ=0,1,2,…、次元 2ℓ+1、L^2 の固有値 ℏ2ℓ(ℓ+1) の固有空間)の直和に分かれる。
補題 9.2.4(大円平均は Yℓ の上で定数倍 ★★★)
Y∈Yℓ なら CY=Pℓ(0)Y。ここで Pℓ は Legendre 多項式で、Pℓ(0)=0(ℓ が奇数)、Pℓ(0)=(−1)ℓ/2ℓ!!(ℓ−1)!!(ℓ が偶数、P0(0)=1)である。
証明
C は多項式を同じ次数以下の多項式に移し、回転と交換するので、回転の生成子 L^ と交換し、L^2 の固有空間 Yℓ を自分自身に移す。Yℓ は回転群の既約表現なので、Schur の補題により、C は Yℓ の上で定数 λℓ 倍である。定数を求めるには、Yℓ の中の1つの関数で1点の値を比べればよい。Y(x)=Pℓ(x3)(z 軸のまわりに回転対称な関数)は Yℓ に入り、n=e3 での値は Y(e3)=Pℓ(1)=1 である。一方 e3 に直交する大円は赤道 x3=0 なので、(CY)(e3)=Pℓ(0)。よって λℓ=Pℓ(0)。
この補題は Funk–Hecke の公式の特別な場合である。Pℓ(0) の値は 1, 0, −21, 0, 83, 0, −165,… と続き、偶数の ℓ≥4 では ∣Pℓ(0)∣<21 である(∣Pℓ+2(0)∣=ℓ+2ℓ+1∣Pℓ(0)∣ で単調に減る)。
定理と証明
定理 9.2.5(連続な frame function は2次形式 ★★★)
S2 の上の連続な frame function f(重み W)は、ある実対称行列 A(TrA=W)で f(x)=xTAx と書ける。
証明
Y∈Yℓ を任意にとり、(9.2.7) の両辺に Y を掛けて球面で積分する。対称性 (9.2.8) と補題 9.2.4 から ∫YCf=∫(CY)f=Pℓ(0)∫Yf なので
(1+2Pℓ(0))∫S2YfdΩ=W∫S2YdΩ.(9.2.9)
右辺は ℓ≥1 では 0(定数関数 1∈Y0 と直交する)。左辺の係数 1+2Pℓ(0) は、ℓ が奇数なら 1、ℓ=2 なら 0、偶数の ℓ≥4 なら 1−2∣Pℓ(0)∣>0 か 1+2∣Pℓ(0)∣>0 で、いずれも 0 でない。したがって ℓ=0,2 のすべての Y∈Yℓ について ∫Yf=0、すなわち f は Y0⊕Y2 の外の成分を持たない。ℓ=0 では 3∫f=4πW(Y=1)から f の平均は W/3 である。
Y0⊕Y2 は、実対称行列 A による2次形式 xTAx を球面に制限したものの全体と一致する(2次形式の空間は6次元で、xTx=1 が Y0、A のトレースのない部分が Y2 の5次元)。そこで f の Y0⊕Y2 成分を q(x)=xTAx と書くと、f−q は連続で、すべての球面調和関数と直交する。球面調和関数の全体は L2(S2) で完全なので f−q=0(L2 の意味で)で、連続関数が L2 で 0 ならすべての点で 0 である。最後に、q の基底の和は TrA で、これが W に等しい。
図 9.2.2 に係数 1+2Pℓ(0) を描いた。ℓ=2 でだけ 0 になるのは、P2(0)=−21 という値の偶然ではなく、2次形式 xTAx の基底の和が TrA という基底によらない量になることの裏返しである。トレースのない2次形式(Y2)はどの基底でも和が 0 なので、(9.2.7) の右辺に寄与しない。確率が振幅の2乗になることの数学的な中身は、「基底の和を一定に保つ連続関数は、球面の上では2次の成分しか持てない」というこの事実である。

図 9.2.2 frame の条件 (9.2.7) が球面調和関数の各成分に掛ける係数 1+2Pℓ(0)。0 になる ℓ=2 の成分だけが重み 0 のまま残り、ℓ=0 の成分が重み W を担う。ほかの成分はすべて消える。偶数の ℓ で係数は 1 のまわりを振動しながら 1 に近づく。
例題 9.2.3 x34 は frame function でない ★★
オリジナルS2 の上の関数 g(x)=x34 を考える。
- (1) 標準基底 {e1,e2,e3} と、3本とも z 成分が 1/3 の正規直交基底での和をそれぞれ求めよ。
- (2) z4=51+74P2(z)+358P4(z) を確かめ、g+2Cg を求めよ。
- (3) (2) の結果から、g が frame function でないこと、そして Y4 の成分を取り除いた 51+74P2(x3) が frame function であることを示せ。
解答
(1) 標準基底では 0+0+1=1。z 成分が 1/3 の基底(たとえば (2/3,0,1/3), (−1/6,±1/2,1/3))では 3⋅91=31。基底によって和が違うので、g は frame function でない。
(2) P2(z)=21(3z2−1), P4(z)=81(35z4−30z2+3) を代入すると51+72(3z2−1)+351(35z4−30z2+3)=z4+(76−76)z2+(51−72+353)=z4。補題 9.2.4 で各成分に 1+2Pℓ(0) が掛かるので、n3=n⋅e3 として
g(n)+2(Cg)(n)=3⋅51+0⋅74P2(n3)+47⋅358P4(n3)=53+52P4(n3).
n=e3 では 53+52=1、n=e1 では P4(0)=83 から 53+203=43。直接の計算でも、n=e1 に直交する大円の上で x3=cosφ なので Cg(e1)=⟨cos4φ⟩=83、g(e1)=0 から 0+43=43 と一致する。
(3) frame function なら (9.2.7) で g+2Cg は定数のはずだが、(2) の結果は n によって変わる。よって g は frame function でない。食い違いは Y4 の成分 358P4 だけから出ている。これを取り除いた q(x)=51+74P2(x3)=351+76x32 は2次形式 xTAx(A=diag(351,351,351+76))で、どの基底でも和は TrA=353+3530=53。重み 53 の frame function である。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com