量子力学の様々な構成方法 第1部 第2章 §1.2.3 ★★★ 確率を決める Q3 と測定の後の状態を決める Q4 は別の公理で、第4部と第9部で別々に導き直される
定義 1.2.5(公理 Q3(Born の規則))
状態 ∣ψ⟩ で観測量 A^=∑aaP^a を測ったとき、値 a を得る確率は
Pr(a)=⟨ψ∣P^a∣ψ⟩=∥P^a∣ψ⟩∥2(1.2.4)
である。固有値 a に縮退がなく固有ベクトルが ∣a⟩ なら Pr(a)=∣⟨a∣ψ⟩∣2。連続スペクトルでは確率密度になり、位置ならPr(x∈[x,x+dx])=∣⟨x∣ψ⟩∣2dx である。
射影の性質 (1.2.2) から Pr(a)≥0、∑aPr(a)=⟨ψ∣1^∣ψ⟩=1 なので、(1.2.4) は確かに確率分布である。平均値(期待値)は
⟨A^⟩=a∑aPr(a)=⟨ψ∣A^∣ψ⟩(1.2.5)
で、分散は (ΔA)2=⟨A^2⟩−⟨A^⟩2 である。Born の規則は M. Born が散乱の論文の脚注で、確率が振幅の2乗に比例すると述べたのが始まりである1M. Born, Z. Phys. 37, 863 (1926)。。
定義 1.2.6(公理 Q4(射影の公理))
値 a を得た直後の状態は
∣ψ⟩ ⟼ ∥P^a∣ψ⟩∥P^a∣ψ⟩(1.2.6)
である。
固有値 a が縮退しているとき、(1.2.6) は固有空間の中の成分の比と相対位相を保つ。この形を Lüders が定式化したので、Lüders の規則とも呼ぶ2G. Lüders, Ann. Phys. (Leipzig) (6) 8, 322 (1951)。。すぐにもう一度同じ観測量を測ると、P^a2=P^a なので確率 1 で同じ a が出る(再現性)。
Q4 は Q3 とは独立な公理である。Q3 は測定値の分布だけを決め、測った後の系がどうなるかについては何も言わない。実際、光子を検出器で吸収する測定のように、測った後の状態が (1.2.6) にならない測定も現実にある。第4部第5章の Kraus 表示は、Q4 を一般の測定へ広げた形で、射影の公理はその特別な場合として含まれる。

図 1.2.1 Born の規則と射影の公理を2次元で描いたもの。∣ψ⟩ を直交する固有空間に分け、Pr(a)=∥P^a∣ψ⟩∥2=cos2ϑ、Pr(b)=sin2ϑ。値 a が出たら、状態は横軸の向きの単位ベクトル(青の矢印を規格化したもの)に置き換わる。
不確定性関係
交換しない観測量の分散には下限がある。
定理 1.2.7(Robertson の不等式 ★★)
任意の状態 ∣ψ⟩(A^∣ψ⟩、B^∣ψ⟩ が定義される)について
ΔAΔB ≥ 21∣⟨[A^,B^]⟩∣.(1.2.7)
証明
A^′=A^−⟨A^⟩、B^′=B^−⟨B^⟩ とし、∣f⟩=A^′∣ψ⟩、∣g⟩=B^′∣ψ⟩ と置く。∥f∥2=(ΔA)2、∥g∥2=(ΔB)2 である。Cauchy–Schwarz の不等式から (ΔA)2(ΔB)2≥∣⟨f∣g⟩∣2≥(Im⟨f∣g⟩)2。ここで⟨f∣g⟩−⟨g∣f⟩=⟨ψ∣A^′B^′−B^′A^′∣ψ⟩=⟨[A^,B^]⟩ で、左辺は 2iIm⟨f∣g⟩ に等しい。よって (Im⟨f∣g⟩)2=41∣⟨[A^,B^]⟩∣2 となり、(1.2.7) を得る。
位置と運動量では (1.2.3) から ΔxΔp≥ℏ/2 である3H. P. Robertson, Phys. Rev. 34, 163 (1929)。。この不等式は「同じ状態を何度も用意して、半分で A^、残り半分で B^ を測った」ときの2つの分布の幅の積を押さえるもので、1回の測定の乱し方を述べたものではない。測定による乱れは Q4 から別に計算する。次の例題がその計算である。
例題 1.2.3 途中で測ると結果が変わる ★★★
オリジナルスピン ½ を ∣↑⟩ に用意し、まず n⋅σ(n は z 軸から角 θ だけ傾いた向き、例題 1.2.2)を測り、次に σz を測る。
- (1) 最後に σz=−1 が出る確率を θ で表せ。途中の測定の結果は記録しないものとする。
- (2) 途中の測定をしない場合と比べ、θ=π/2(σx を挟む)のときの値を求めよ。
解答
(1) 途中で ±1 が出る確率は、例題 1.2.2 から ⟨↑∣P^±∣↑⟩=21(1±cosθ)。+1 が出た後の状態は Q4 から n の向きの上向きの状態 ∣+n⟩ で、そこから σz=−1 が出る確率は ∣⟨↓∣+n⟩∣2=⟨+n∣P^z,↓∣+n⟩=21(1−cosθ)。−1 が出た後は ∣−n⟩ で、そこから σz=−1 が出る確率は 21(1+cosθ)。途中の結果で場合分けして足すと
Pr(↓)=21(1+cosθ)⋅21(1−cosθ)+21(1−cosθ)⋅21(1+cosθ)=21(1−cos2θ)=2sin2θ.
(2) 途中で測らなければ ∣↑⟩ のまま σz を測るので Pr(↓)=∣⟨↓∣↑⟩∣2=0。θ=π/2 では Pr(↓)=1/2 になる。θ=0 と θ=π では途中の測定が σz と両立する(±σz そのもの)ので 0 に戻る。途中の測定の結果を読まなくても、測定をしたという事実だけで状態が射影されて分布が変わる。この「読まない測定」は第4部で密度行列の変化 ρ^↦∑±P^±ρ^P^± として書き直される。
1 M. Born, Z. Phys. 37, 863 (1926)。
2 G. Lüders, Ann. Phys. (Leipzig) (6) 8, 322 (1951)。
3 H. P. Robertson, Phys. Rev. 34, 163 (1929)。
AI(Claude)が書いた教材を、木下が勉強しながら公開しています。式と数値は検算していますが、誤りが残っているかもしれません。誤りのご指摘・削除のご依頼をいただければ直します。 連絡先:support@tecktom.com