量子力学の様々な構成方法 第1部 第2章 §1.2.4 ★★★ 確率を保つ連続な時間発展はユニタリ群に限られ、生成子がハミルトニアンになる
定義 1.2.8(公理 Q5(時間発展))
測定しない間、時刻 0 の状態 ∣ψ(0)⟩ は
∣ψ(t)⟩=U^(t)∣ψ(0)⟩,U^(t)=e−iH^t/ℏ(1.2.8)
に発展する。H^ は自己共役なハミルトニアンである。微分すると Schrödinger 方程式
iℏ∂t∂∣ψ(t)⟩=H^∣ψ(t)⟩(1.2.9)
になる。
この公理の形は、次の3つの要請から定まる。第一に、時間発展は状態から状態への写像で、遷移確率 ∣⟨ϕ∣ψ⟩∣2 を保つ(測定をしない間に、確実に区別できた2つの状態が区別できなくなったり、その逆が起きたりしない)。Wigner の定理によれば、射線の間の写像で遷移確率を保つものは、ユニタリ演算子かそれに複素共役を合成した反ユニタリ演算子のどちらかで実現される。第二に、時間発展は合成できる:U^(t+s)=U^(t)U^(s)、U^(0)=1^。U^(t)=U^(t/2)2 と書けるので、反ユニタリでも2回合成するとユニタリになり、U^(t) はユニタリに限られる。第三に、t について連続である。この3つを満たすユニタリの1径数群は、Stone の定理によって自己共役な生成子を1つ持ち、U^(t)=e−iH^t/ℏ と書ける1M. H. Stone, Ann. Math. 33, 643 (1932)。。生成子を ℏ で割った形に取ったものがハミルトニアンで、それが古典のハミルトニアンに対応することは第2部第3章と 解析力学から様々な理論分野を組み立てる 第4部第2章で示す。
H^ の固有状態 H^∣n⟩=En∣n⟩ で展開すると ∣ψ(t)⟩=∑ncne−iEnt/ℏ∣n⟩ で、各成分は位相だけが回る。固有状態1つだけの状態は全体の位相しか変わらないので、どの観測量の分布も時間によらない(定常状態)。異なる En の成分どうしの相対位相 e−i(En−Em)t/ℏ が回ると、分布は時間で変わる。
共通例題②:2準位系の Rabi 振動を基準の言葉で解く
2準位原子を、遷移周波数 ω0 に近い周波数 ωL のレーザーで駆動する。基底 ∣e⟩=(1,0)T、∣g⟩=(0,1)T(σz∣e⟩=+∣e⟩)を取り、レーザーとともに回る座標に移って回転波近似をすると、ハミルトニアンは時間によらない形
H^=−2ℏΔσz−2ℏΩσx(1.2.10)
になる。Δ=ωL−ω0 は離調、Ω は Rabi 周波数(実数に取る)である。導出は 光学と量子エレクトロニクス 第18章で行った。ここでは (1.2.10) をそのまま受け取り、公理 Q5 だけで ∣ψ(0)⟩=∣g⟩ からの時間発展を解く。
一般化 Rabi 周波数 Ω′:=Ω2+Δ2 と単位ベクトル n=(Ω,0,Δ)/Ω′ を使うと、(1.2.10) はH^=−2ℏΩ′n⋅σ と書ける。例題 1.2.2 の (n⋅σ)2=1^ を使って指数関数を級数で展開すると、偶数次と奇数次がそれぞれcos と sin にまとまり
U^(t)=exp(i2Ω′tn⋅σ)=cos2Ω′t1^+isin2Ω′tn⋅σ(1.2.11)
を得る。∣g⟩ から ∣e⟩ への振幅は、⟨e∣1^∣g⟩=0、⟨e∣σx∣g⟩=1、⟨e∣σz∣g⟩=0 より⟨e∣U^(t)∣g⟩=isin(Ω′t/2)nx=i(Ω/Ω′)sin(Ω′t/2)。Born の規則 (1.2.4) で2乗して
Pe(t)=(Ω′Ω)2sin22Ω′t,Ω′=Ω2+Δ2(1.2.12)
となる。これが共通例題②の正答(第1部第1章の表)と同じ形の答えである。共鳴(Δ=0)では Pe=sin2(Ωt/2) で、Ωt=π(π パルス)で確実に ∣e⟩ へ移る。離調があると振動は速く(Ω′)、振幅は小さく((Ω/Ω′)2)なる(図 1.2.2)。ほかの部では、同じ (1.2.12) を第2部第3章が Pauli 行列の Heisenberg 方程式で、第4部第5章が Bloch 方程式で、第6部第6章がスピンのコヒーレント状態の経路積分で出す。

図 1.2.2 式 (1.2.12) の Rabi 振動。離調 Δ を大きくすると周期 2π/Ω′ が短くなり、最大値 Ω2/(Ω2+Δ2) が下がる。(1.2.10) の中では厳密解なので実線1種類で描いた。
例題 1.2.4 Rabi 振動の数値 ★★★
オリジナルRabi 周波数を Ω/2π=1.00MHz とする。
- (1) 共鳴(Δ=0)で ∣g⟩ から ∣e⟩ へ確実に移すのに要る時間(π パルスの長さ)を求めよ。
- (2) 離調 Δ=3Ω のとき、Pe の最大値と、それに初めて達する時刻を求めよ。
- (3) (2) の時刻に ∣g⟩ の確率を測る代わりに、U^(t) がユニタリであることから Pe+Pg=1 を確かめよ。
解答
(1) Ωt=π なので t=π/Ω=π/(2π×1.00×106s−1)=0.500μs。
(2) Ω′=Ω2+3Ω2=2Ω なので最大値は (Ω/Ω′)2=1/4。sin2(Ω′t/2)=1 に初めてなるのは Ω′t=π のときでt=π/(2Ω)=0.500μs/2=0.250μs。
(3) (1.2.11) から ⟨g∣U^∣g⟩=cos(Ω′t/2)+isin(Ω′t/2)nz⟨g∣σz∣g⟩=cos(Ω′t/2)−i(Δ/Ω′)sin(Ω′t/2)。よって Pg=cos2(Ω′t/2)+(Δ/Ω′)2sin2(Ω′t/2) で、Pe+Pg=cos2+((Ω2+Δ2)/Ω′2)sin2=1。(2) の時刻では Pg=0+(Δ/Ω′)2=43 で、和は 1 である。
近似の裏付け
型 B(極限) | 小さいもの Ω/ω0→0 かつ ∣Δ∣/ω0→0(反回転の項を時間平均で捨てる) | 証明 条件付き(時間 1/Ω の桁の範囲で誤差 O(Ω/ω0)。周期的な係数の常微分方程式に対する平均化の定理による。判定は光学と量子エレクトロニクス 第18章に揃えた) | 行き先 近似の数理 第7章
1 M. H. Stone, Ann. Math. 33, 643 (1932)。
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