量子力学の様々な構成方法 第7部 第1章 §7.1.3 ★★★ 量子 HJ 方程式の勾配を取って流体の運動方程式にし、量子ポテンシャルを応力テンソルとして読む
Euler 方程式
量子 HJ 方程式 (7.1.7) の勾配を取り、m で割る。∇S=mv と、渦なしの場で成り立つ恒等式∇(∣v∣2/2)=(v⋅∇)v+v×(∇×v)=(v⋅∇)v を使うと
m(∂t∂v+(v⋅∇)v)=−∇(V+Q)(7.1.9)
となる。左辺は流体の1つの部分について追いかけた加速度(Lagrange 微分)に質量を掛けたもので、右辺は外の力 −∇V と量子の力 −∇Q の和である。これを量子 Euler 方程式と呼ぶ。連続の式 (7.1.6) と合わせた (ρ,v) の方程式系を、この章では Madelung の流体方程式と呼ぶ。
古典の完全流体の Euler 方程式は m(∂tv+(v⋅∇)v)=−∇V−∇Pcl/n(n は数密度、Pcl は圧力)の形をしている。量子ポテンシャルの力 −∇Q も、密度で割った応力の発散として書けるかを次に確かめる。
量子圧力は応力テンソル
命題 7.1.3(量子応力 ★★★)
ρ>0 の領域で、
ρ∂iQ=∂jPij,Pij:=−4mℏ2ρ∂i∂jlnρ(7.1.10)
が成り立つ(j について和を取る)。Pij を量子応力テンソルと呼ぶ。
証明
lnρ の微分を ℓi=∂ilnρ=∂iρ/ρ と書く。∂i∂jlnρ=∂jℓi なので
∂jPij=−4mℏ2(∂jρ∂jℓi+ρ∂j∂jℓi)=−4mℏ2ρ(ℓj∂iℓj+∂i∂jℓj).
ここで ∂jℓi=∂iℓj(どちらも ∂i∂jlnρ)を使った。一方 (7.1.8) は∇2ρ/ρ=∂jℓj+ℓjℓj、∣∇ρ∣2/ρ2=ℓjℓj よりQ=−4mℏ2(∂jℓj+21ℓjℓj) と書けるので、ρ∂iQ=−4mℏ2ρ(∂i∂jℓj+ℓj∂iℓj) となり、上と一致する。
この命題を使うと、量子 Euler 方程式に ρ を掛けたものは
∂t∂(mρvi)+∂j(mρvivj+Pij)=−ρ∂iV(7.1.11)
と書ける(左辺の ∂t(mρvi) と ∂j(mρvivj) を展開し、連続の式で ∂tρ を消せば (7.1.9) の ρ 倍に戻る)。これは運動量密度 mρv の保存則で、運動量の流れが「流れに乗って運ばれる分 mρvivj」と「量子応力 Pij」の和になっている。全空間で積分すると、表面の項が消えて dtd∫mρvd3r=−∫ρ∇Vd3r が残る。量子の力 −∇Q は、密度で重みをつけて平均すると 0 になる。これは Ehrenfest の定理 dtd⟨p^⟩=−⟨∇V⟩ の流体の形で、第6節で基準の言葉と並べる。
エネルギーと Fisher 情報
運動エネルギーの期待値を極形式で書くと、∣∇ψ∣2=∣∇R∣2+R2∣∇S∣2/ℏ2 より
⟨2mp^2⟩=∫2mℏ2∣∇ψ∣2d3r=∫ρ2m∣v∣2d3r+∫ρQd3r(7.1.12)
となる。最後の項は、∫ρQ=−2mℏ2∫ρ∇2ρ=2mℏ2∫∣∇ρ∣2(部分積分。遠方で ρ→0)を使って書き直した。さらに ∣∇ρ∣2=∣∇ρ∣2/(4ρ) より
∫ρQd3r=8mℏ2J[ρ],J[ρ]:=∫ρ∣∇ρ∣2d3r(7.1.13)
となる。J[ρ] は、分布 ρ(r−a) を平行移動の量 a で微分したときの Fisher 情報(位置の Fisher 情報)である(相対エントロピーから情報と物理を組み立てる 第1部第7章)。運動エネルギーは、流れの運動エネルギーと、密度の形が尖っているほど大きくなる「形のエネルギー」の和に分かれ、後者が位置の Fisher 情報に比例する。
例題 7.1.3 ガウス分布の量子圧力とエネルギーの分け方 ★★★
オリジナル1次元で考える。
- 密度が標準偏差 σ のガウス分布のとき、量子応力(1次元では P=Pxx)を求め、P=ρkBTeff の形に書いたときの kBTeff を答えよ。
- 波動関数 ψ=(2πσ2)−1/4exp(−x2/(4σ2)+icx2+ikx)(c,k は実数)について、⟨p^2⟩/(2m) を流れの運動エネルギーと ∫ρQdx に分けよ。
解答
(1) lnρ=−x2/(2σ2)+定数 より ∂x2lnρ=−1/σ2。したがって
P=−4mℏ2ρ⋅(−σ21)=4mσ2ℏ2ρ.
等温の理想気体の状態方程式(数密度 × kBT)と同じ形で、kBTeff=ℏ2/(4mσ2) である。運動量の標準偏差 σp=ℏ/(2σ) を使うとkBTeff=σp2/m と書け、Maxwell 分布の ⟨p2⟩=mkBT と同じ関係になっている。確かめとして ∂xP=−4mσ4ℏ2xρ と、例題 7.1.2 の ρ∂xQ=−4mσ4ℏ2xρ が一致する。
(2) 位相は S=ℏ(cx2+kx) なので v=∂xS/m=ℏ(2cx+k)/m。流れの運動エネルギーは
∫ρ2mv2dx=2mℏ2∫ρ(4c2x2+4ckx+k2)dx=2mℏ2(4c2σ2+k2)
(⟨x⟩=0、⟨x2⟩=σ2)。形のエネルギーは (7.1.13) で、ガウス分布の Fisher 情報が J=∫(ρ′)2/ρdx=⟨x2⟩/σ4=1/σ2 なので∫ρQdx=ℏ2/(8mσ2) である。合わせて
2m⟨p^2⟩=2mℏ2k2+m2ℏ2c2σ2+8mσ2ℏ2
となり、∫2mℏ2∣ψ′∣2dx を直接計算した値と一致する(検算)。c=k=0 でも最後の項が残ることが、静止したガウス波束も運動エネルギーを持つことの流体での表し方である。
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